NOVEL REVIEW
<2002年07月[後半]>
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07/31 『ホーリィの手記2 アポカリプスの魔剣』 著者:加藤ヒロノリ/富士見ファンタジア文庫
07/30 『ブラッドフレイム2 朱き戦士の猛る時』 著者:神代創/富士見ファンタジア文庫
07/30 『ワイルドアームズ アドヴァンスドサード1』 著者:細江ひろみ/ファミ通文庫
07/30 『弾丸ワイルド・ボーイズ 危険がライジング、ついでにハッチング』 著者:富永浩史/ファミ通文庫
07/28 『風姫 天を継ぐ者』 著者:七尾あきら/ファミ通文庫
07/28 『那須高原卓球場純情えれじ〜』 著者:野村美月/ファミ通文庫
07/23 『悪魔のミカタ4 パーフェクトワールド・休日編』 著者:うえお久光/電撃文庫
07/22 『悪魔のミカタ3 パーフェクトワールド・平日編』 著者:うえお久光/電撃文庫
07/21 『灰色のアイリス』 著者:岩田洋季/電撃文庫


2002/07/31(水)ホーリィの手記2 アポカリプスの魔剣

(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:加藤ヒロノリ(原案:安田均)/イラスト:桜瀬琥姫/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  前半のホーリィの揺れ動きまくる乙女心にもうどきどきわくわくでした。そりゃもうそ の後のボルカノとの旅なんてどーでもいいくらいに(酷笑)。というのは多少誇張入りで はありますが、ホーリィみたいな性格の女の子の一人称文章はこれくらい自分の中の世界 で妄想入り乱れた思考の暴走っぷりを見せてもらえた方が、個人的には断然面白く感じら れるんですよね。特に恋愛感情を乗せると相当な威力が発揮される。  もっともこの辺は文体で好みが分かれる所だと思うのですが、結局は話の内容や展開に 不満を感じたとしても、強烈に突出したものが足りない部分を補って面白く読ませてくれ ると。元々『ホーリィが手記で綴った物語』という設定のせいか、前回は旅先で起こるイ ベントや山場を見せる戦いなどはわりと淡々と進む為に盛り上がりが弱いって印象だった のですが、今回は全体的にホーリィの気持ちや想いが突出してたので不満点を補う以上の 感触を掴めて良かったです。  どうやら巻が進むごとにホーリィが年齢を重ねてゆくような展開のようで(1巻:15 歳、2巻:16歳、でその後に17歳が続く……らしい)、彼女の成長物語として見れば 『手記』という設定で読ませる手法は実によく合っていてうまく考えられてるなと。  気になってた過去の事については、今回ボルカノの口から彼とホーリィの姉ティアラと 彼女の一族が辿った運命が語られてたのですが想像してた以上に重い内容。ボルカノへの 言いようのない複雑な気持ちも含めて、今後揺ら揺ら動き続けそうなホーリィの想いがど んな選択を辿って先へ進むのか……『心と身体の成長記録』としてどんな風に綴られるの か楽しみな所。あ、それから素性が謎で終盤別れてしまった変態牧師カオスの事も一応気 になってます(と取って付けたように言ってみる(笑))。  既刊感想:
2002/07/30(火)ブラッドフレイム2 朱き戦士の猛る時
(刊行年月 H14.07)★★☆ [著者:神代創/イラスト:中村龍徳/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  シリーズ完結編……って全3巻じゃなかったのか〜? 相変わらず他所で全然感想見掛 けないのは前巻同様(やっぱしあまり読まれてないんだろか)。  とそれはさておき、3冊が2冊に縮まったという事で嫌な予感はしてたんですが「何と か無理矢理全部詰め込んでみました」な内容ともろに打ち切りっぽい結末という、あれだ け1巻で伏線張り巡らせといてあと1冊で全部消化するなんて無理だよと想像してた通り の内容にがっくし。抱えられてた謎が大きかっただけに刊行遅くとも結構気になってたん だけど……それでも「EVIL」についての事とシルジアの過去については、急ぎ足で描 写が少々不足してたかなと思いつつも、謎とされていた部分はほぼ全て今回で明かされた とも思えたので良かったというかホッとしました。  しかしメインの部分が、町に辿り着いては「選ばれし者」を探し出して戦うの繰り返し では見せ場が逆に単調さを浮き彫りにしてるようでイマイチ。これ前回も感じてた事なの でもうちょっと何とか楽しめるよう見せて欲しかったのですが、1冊削られた分の皺寄せ がこういう所で表れてるかと思うと勿体無い気がします。3巻分で徐々に徐々に種明かし をしてゆくのが本来やりたかった展開だったんじゃないだろうかと。  1巻感想でも書いたように、このシリーズは「セルス騒乱記」(徳間デュアル文庫)、 「JAC・ザ・ソーサラー」(ファミ通文庫)の各シリーズと【封鎖銀河】という一つの 舞台で繋がっていて、過去・現在・未来のそれぞれの時代から物語を描くという部分に非 常に興味を引かれまてす。が、今回一番納得いかなかったのが打ち切りの如くバッサリ切 り捨てられた「ブラッドフレイム」と「JAC・ザ・ソーサラー」の橋渡しが描かれる筈 だった結末。本来3巻のメインがこの橋渡しの部分だったそうですが、シリーズの枠を越 えた物語の交わりを見せる事こそ【封鎖銀河】という壮大な世界を読み解く醍醐味なんじ ゃないのか!? と思うと削られたのが残念でならないです。   あとがきでの「諸般の事情」つー便利な言葉が一体何なのか気になる所ですが、平静を 装っていながら著者の無念さが滲み出てて少々イタタな所から、きっと3シリーズ全3巻 ずつで綺麗にまとめたかったんだろうなぁとついつい邪推が働いてしまいます。  結局別シリーズも読んでみようかと意欲が湧いたのがせめてもの救いなのかも(^^;)。  既刊感想:
2002/07/30(火)ワイルドアームズ アドヴァンスドサード1
(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:細江ひろみ/カバーイラスト:大峡和歌子          /本文イラスト:笛吹りな/エンターブレイン ファミ通文庫]    同名ゲームの小説版。ゲームの内容を忠実に辿るような展開で、余分なシーンを削り重 点だけを書いてゆくという典型的なゲームノベライズ。なので主要キャラやミーディアム などの要素に説明的描写が薄いのも含めて思いきりプレイした人向けな内容。  もっとも話の展開はゲームに忠実過ぎて小説ならではというのも少ないので、しっかり 要所を押さえた丁寧な作りなんだけど、ゲームをプレイした人が面白さを感じられるかと 言えばちょっと物足りないかもしれない。  あとがきにも書かれてたのですが、やっぱりゲームのノベライズというのはストーリー を大幅に削らなければならないそうな。シリーズは全3巻予定という事で、確かにこのゲ ームの内容を詳細まで小説で詰めようとするなら5巻あっても全然足らない気がします。  本当は序章である4人が出会うまでの個々の話と、出会ってから俄か結束ながら列車上 でジェイナスと戦うシーンが特に読みたかったのに、いきなり端折られていてかなりしょ んぼりでしたが(^^;)。小説としての利点や良さを見出せるとしたら、特にRPGなど ではあまり見る事の出来ないキャラクター同士のコミュニケーションが、文章では感情表 現として描けるのでしっかりと感じられる事かな? とりわけヴァージニアの非常に分か り易い喜怒哀楽表現や、彼女とジェットのやり取りなんかは読んでて面白かった。  それと冗長かつ無駄になりがちな戦闘シーンの描写をなるべく意識的に削って避けてる 辺りは、テンポの良さに繋がっていて好感触でした。そりゃゲームじゃ飽きる程戦いまく ってるってのに、小説の中までそんなの見せられたら堪らないよなと(笑)。
2002/07/30(火)弾丸ワイルド・ボーイズ 危険がライジング、ついでにハッチング
(刊行年月 H14.07)★★☆ [著者:富永浩史/イラスト:てんまみさお/エンターブレイン ファミ通文庫]  学校の部活で騒動繰り広げるってのは結構興味をそそられる題材と読む前は思ってた筈 なのに、何故かあまり面白さを感じられなかった物語。昇の行動に節操の無さばかりが目 立ってしまったせいか、それとも昇&紳一コンビと園芸・生物部で災難続きの香住の行動 とが話の中でうまくかみ合ってないと感じたせいだろか。  物語を通して読み手に「これを見せたい」と思わせる部分が入り乱れててきちっと纏ま り切れてないという印象。勧誘に追っ掛け回される昇と紳一の騒動を見せたいのか、それ とも非公認活動の「冒険部」として二人が依頼を遂行する活躍を見せたいのか、はてまた 香住の受難続きで彼らに振り回される所を見せたいのか、もしくはラブコメを見せたいの か……もしもそれ全部ひっくるめてが見せたいものだとすれば、結局どっち付かずでどの 展開にしても描写不足な上にどうしても纏まりに欠けているとなってしまう。  もしこれがどれかひとつを特に重点的に見せるような展開だったならば? と考えると、 たとえ他の要素が弱くとも「これは良い!」と感じられる大きな一点から惹かれる要素も 得られたんではないかなぁ(個人的には依頼を昇&紳一がどんな手段でこなすのかって所 を重点的に丁寧に描いて欲しかったんだけど……)。  実はこの作品で一番いいなと思えたのはキャラクターなのですが、だからこそ誰も彼も 個性的な奴らがイマイチ活かされてないかもと思ってしまったのが惜しい所。
2002/07/28(日)風姫 天を継ぐ者
(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:七尾あきら/イラスト:川島旅順/エンターブレイン ファミ通文庫]  主人公・鳳ちはやの魅力がそのまま物語の面白さへ直結してるなぁという感じで、何と 言ってもそういうキャラクターの魅力を引き出す描写がうまい。ちはやは結構億面なく涙 を見せる女の子(と言うには野性味溢れまくっていてちょっと似合わないけど(笑))で、 それは弱いんじゃなくて根本的に擦れてない純粋な部分の容量が大きいから。流す涙の種 類は場面によって様々だけど、喜びにしても悲しみにしても痛みにしても感情がストレー トに表れるから今その時の気持ちが読んでいて凄くよく伝わって来る。  作中で涙を流すシーンは精々片指で数えて収まるかどうかの程度ですが、そのどれもが 思わず感情移入してしまいそうになるものばかりです。喜怒哀楽もハッキリしてるから、 ちはやの起こす行動が何をどう思ってのものなのか……その辺りが非常に分かり易く感じ られるんじゃないかな。  作中で多くはちはやと敵対する人間やもののけと戦うシーンで埋められているけど、そ ういう描写も、たとえもののけであっても(もののけだからこそ)単純に無意味な殺しは しないちはやの様子もしっかり書けていると思います。  もうひとつ大きな見所を言えばちはやと妖弧との関係。なんで妖弧が幼女の姿になるな のかそれは一部読者サービスだというのか深い所までは考えないけど(笑)。ちはやにと って妖弧は自らの命を握ぎられている存在であり、妖弧にとってちはやは報復及び命を喰 らうべき存在という危険なバランス上で成り立っていながら、どこかお互いの事をよく分 かり合ってるような……妖弧の方が段々僅かずつだけどちはやに感化されてしまってゆく ような奇妙な関係が面白い。これはまだ続きがあるようで今後どうなるのか――渋々妥協 し合うのかそれとも本気で殺り合ったりするような事になるのか気になる所。
2002/07/28(日)那須高原卓球場純情えれじ〜
(刊行年月 H14.07)★★★ [著者:野村美月/イラスト:依澄れい/エンターブレイン ファミ通文庫]  デビュー作である前作をざっくり酷評下しといてこんな事言うのも何ですが、基本的に はすっかりあの『赤城山』での野村さんの文章に魅了されたクチでファンなんですけれど も(いや冗談でなしに)。前作は“最優秀賞”と肩書きがあったのに対して「なんじゃこ りゃ〜」な印象だったもんでがくりと落ちてしまったのですが、それを差っ引いて急ぎ過 ぎた展開に目を瞑るとしても、それでもどーしても今回も引き摺ってしまったのは「何で 攻撃手段が卓球なの?」って部分。  確か前回からしてかなり唐突だったような気がして、それなら別に卓球でなくても代替 が利くんじゃないかと。極端な例で化粧の神の巫女の救世主として化粧で闇に染まった心 を潤し改心させる(byフォーマイダーリン)とか、野球の神の巫女の救世主として地獄の 千本ノックでぶち倒す(by天使のベースボール)とかでもいいんじゃないの? 成り立つ んじゃないの? ……な〜んて思ってたのですが、そもそもこの物語に『卓球で敵を倒す』 という展開が大前提で居座ってる以上、んなもんいくらごちゃごちゃ言っても無意味だと いう事にようやく気付きました(笑)。  一発ネタと信じてたのにまた同じ事やってくれたので、新鮮味とか鮮烈さなど前回と比 べてパワーダウンなのは否めず。なのですが、やっぱり多数のキャラクターをしっかり書 き分けて尚且つ活き活き描けてるなぁというのは毎回凄く惹き付けられる要素です。最初 は口絵と比較しないとこんがらがるってのもあるんだけど、読み進める内に自然とそれぞ れのキャラ名と個性・容姿の描写とが頭の中で理解出来てしまう所が持ち味なのかなと。  まあこの分だと各都道府県に1人“卓球の神の声を人々に伝える卓球の巫女”が存在す るんじゃなかろうかと思ってしまったり、口絵はニックネームで紹介してるのに苗字で言 われても分かんないよ葛城先生〜とか突っ込み入れたくなったりしましたが(笑)、話の 構成は断然今回の方が良かった。夜とまゆきの純情えれじ〜なシーンの数々にもRHSV Oのメンバーも多少偏りあれど万遍なく登場してたのにも満足でした。   ……で、次あるのかな?  確実に新鮮味が薄れてゆくと思うとちと微妙。読みたいですけど。  既刊感想:
赤城山卓球場に歌声は響く 2002/07/23(火)悪魔のミカタ4 パーフェクトワールド・休日編
(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]  サクラとデート本番の後編。口絵のハエ田さんが意外にも可愛い〜だとか、遊園地のア トラクション面白そ〜だとか、コウがいきなり×××てしまった〜だとか、小鳥遊がなん かかっこいいぞ〜だとか……印象に残った部分の羅列ではありますが、一番書きたかった のはキスのオンパレードだったんじゃないのかな? もう何度披露されたんだかって感じ のキスシーンの連続だけれど、その描写から知恵の実《パーフェクトワールド》の能力を しつこいほど(誉め言葉)見せる事へ繋がってる所が面白い。まあ一部――サクラとの観 覧車と事態収束してからのイハナのキスシーンは、このまま18禁へ突入してもおかしく ない描写だったけど。その危うさがそれはそれでいい(笑)。  遊園地のアトラクションは現実にあったら面白いかもと思わせてくれる設定が非常に良 くて純粋に読んでいて楽しかったです。あの『螺旋空間ドラゴンスクリュー』はさすがに “普通”以上の設定では乗りたくないけど(^^;)。  どうもこのシリーズ、何が何でも『謎解き要素』を取り入れたい著者の気概をひしひし 感じてしまうのですが。しかし今回もそういう部分は健在でも、大抵が小鳥遊の推理観点 から語られてるけど《パーフェクトワールド》の実態を暴くという謎解き部分の展開が良 く描けている。見せ方としてうまいなと感じられたのがこれまでと違う所で、そんな風に 思えたのが何かしら不満感あっただけに嬉しかったです。     舞の意味にもイハナがコウにデートを強要した理由にも納得。なんだけど、あの3巻で のカウンセラーの二人は一体何だったんだ? ってとこが納得してないです(笑)。ま、 その片割れは前巻で正体も能力も見せてるわけだし今後絶対関わってくるだろうけど、あ れだけ思わせ振りな登場してんだから、もっと後編で絡ませて欲しかったなと。  ↓で書いた「コウが誰かに惹かれてしまう」要素が見え始めてきたんじゃないの? そ の辺どうなの? というのが血の味を感じなかったイハナとのキスで、ああこれでコウの 気持ちとか周囲を取り巻く環境とかどうなって行くのかな〜と、期待値が増えたような感 じで続きが楽しみです。  既刊感想:
2002/07/22(月)悪魔のミカタ3 パーフェクトワールド・平日編
(刊行年月 H14.06)★★★☆ [著者:うえお久光/イラスト:藤田香/メディアワークス 電撃文庫]  表層ではわりとドタバタやっていながら、根底にあるのは思惑とか欲望とかが垂れ流れ る真っ黒なもの……ってのは多少誇張あるかも知れないけれど、これは物語の性質という より堂島コウの存在そのものから強く感じられる事かな? 彼が時折ちらつかせる本性と も取れる黒い部分に比喩でなしにぞくぞくっと怖気がきてしまう。  こういう感覚が堪らなく良くて、この辺り今回特に見せ方がうまいなと思わせてくれた 一番の要因はやっぱりコウが抱えてる目的『どんな事をして何が犠牲になろうとも、それ を踏み台にしても必ず冬月日奈を生き返らせる』が、物語の方向として進むべき所なんだ ぞとしっかりコウの観点から強調して描かれていたから。  実は前巻はそこらが蔑ろにされてるような印象で結構不満でした(苦笑)。個人的に1 巻時点で“彼女”を気に入ってしまった為、コウに強く目的意識を持って欲しいってのが あって、今回それを感じられた点が凄く嬉しくて満足だったわけです。  「もてすぎて困ってるんです」とコウが大真面目に言ってる辺り、事実なだけに思わず 笑ってしまいましたが、万一コウの方が彼女らの誰かに惹かれてしまった場合……まだ目 的の為に利用するだけで兆候は出てないようだけど、もしそうなったら悪魔のミカタとし て貫こうとしてる信念とか執念とか怨念とかのないまぜに揺らぎが生じてくるのでは?  ……なんて想像もあるのですが(イハナに対してはやばそうだよなぁ……とか)、そう なったらなったで違う面白さが出てくるかなという気持ちもあったりします(笑)。  前編部分って事で序章感覚で謎の提示のみ。なんだけど、後編に期待を抱かせてくれる ような展開がうまいと感じました。大きくは冒頭の舞の意味、イハナがコウにサクラとの デートを強要した理由、カウンセラーの二人の謎など。あとは大きく関わっていてその中 でも色々ありそな舞原家の動向が続きの次巻も気になる所。  既刊感想:
2002/07/21(日)灰色のアイリス
(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:岩田洋季/イラスト:東都せいろ/メディアワークス 電撃文庫]  全体的な文章表現力の高さが感じられ、特にキャラクターの住まう世界を読み手へ伝え る為の重要な部分である情景描写は非常に丁寧でうまいなという印象でした。  物語の設定に関しては、異空眼という能力を宿し召喚術的な感じで異界の『武器』を使 役し戦う……という結構既存の要素を含み匂わせながら、それを練り込んでこの作品なら ではと言えるアレンジをいい具合に効かせている好例ではないでしょうか。  感覚として『蒼種』は直接攻撃的能力、『使貴』は魔術攻撃的能力、『隠愚』は遠近両 用攻撃能力と見てますが、異空眼者=特殊な能力を使える者としてごく当り前のように描 かれてはいても“何故異空眼者はそういう能力を有してるのか”という部分の理由付けが ちょっと弱かったかなと。  あまり説明調になるのもどうかという気もするので難しい所だけれども、血筋だからと いう以外で異空眼と朝霧・矢志奈・美木の種族関係のルーツなんかを詳しく見せてくれた らもっと面白かったのに……ってのはまあ個人的欲求。そこまで過去へ遡るにはこの内容 量だと確実に超過してたと思うのでこの辺は今後に期待。  んでこの物語、何と言っても終盤の展開――悠理によって真意が語られる辺りからがも う凄く良かったです。想像巡らせていたのと違ってたのは結末もそうなんだけどそれ以上 に悠理の想い。奏の「姉さん大好き」な気持ちにすっかり感化されてしまってたせいか、 「えぇ〜!?」という声上げながらちょっとショックでした(笑)。奏にしても悠理にし てもその想いは胸に込み上げるような痛みを伴ってましたが、未来の存在と想いこそが二 人にとっての共通する救いだったんじゃないかなと思いました。  時空狂いというのが具体的には世界にどういった危機をもたらすものなのか、それから 未来の灰色の瞳の事など、謎を持ち越しつつ今後どう展開してゆくのか……既に続刊は予 定されているので楽しみにしてみたいです。  ……最後にひとつ気になった事。口絵じゃ「悠里」となってたけど本文だと「悠理」と なっているのはどっちが正しいんだろ(口絵の方が誤植っぽい気もするけど……)。


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