NOVEL REVIEW
<2002年08月[前半]>
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08/09 『ほしのこえ The voices of a distant star』 原作:新海誠/著者:大場惑/MF文庫J
08/06 『EME BLUE1 アシュラハンド』 著者:瀧川武司/富士見ファンタジア文庫
08/04 『A君(17)の戦争3 たたかいのさだめ』 著者:豪屋大介/富士見ファンタジア文庫
08/04 『風の聖痕2 ―魂の値段―』 著者:山門敬弘/富士見ファンタジア文庫
08/02 『ジェスターズ・ギャラクシー1 天のほとりの愚神ども』 著者:新城カズマ/富士見ファンタジア文庫


2002/08/09(金)ほしのこえ The voices of a distant star

(刊行年月 H14.07)★★★★ [原作:新海誠/著者:大場惑/カバー・口絵イラスト:新海誠        /口絵・本文イラスト:柳沼行/メディアファクトリー MF文庫J]  ノボルとミカコの携帯メールのやり取りってのは、元々が文字のコミュニケーションな だけに文章媒体だと非常に良く映える。逆に動きの激しいタルシアンとの戦闘シーンは、 思わず驚嘆してしまった映像の素晴らしさを見せ付けられてしまうと、小説も丁寧な描写 なんだけれど却って丁寧さで物語のテンポが悪くなってるかなと。  どうしても先に見てるだけ映像を引き合いに出してしまうのですが、お互いに一長一短 があって、映像は視覚から入って一瞬で脳天を突き抜けるようなインパクトがあり、一方 で文章はじっくり内容を噛み砕く事でじわりじわりと浸透してゆく所が、それぞれ相手に は決して負けない良さだろうと。  その良さが発揮されてるのは、映像だと戦艦やトレーサーの動きと宇宙空間でのタルシ アンとの戦闘で、小説だとノボルとミカコの触れ合いや心情、それから上記の通りでメー ルのやり取りなのではないだろうかという辺りが個人的な感想。  小説版での期待・希望としては、トレーサーでの訓練とかタルシアンとの交戦などの描 写は簡潔に、その分ノボルとミカコかあるいは他の誰かとか――人と人とが触れ合う様を より深く見せて欲しい……でした。もっとも、訓練や戦闘を通じてミカコの姿をメールに 乗せてノボルのもとへ届けようとしてるのだから、その辺の描写もあまり疎かには出来な いだろうなぁと思うとちと複雑なのですが。  映像では見れなかったかそれともあえて見せなかったか、ともあれそういう部分を補完 する意味で小説版は非常にうまく描けてると思います。特に映像を見て説明を求めたかっ たり理由付けが欲しかったりと感じてた所は納得のゆく描写でスッキリしました。  映像で描かれなくて一番欲してたものと言えば、やっぱり小説版の終盤からエピローグ にかけて。結局二人はどうなってしまったのか? って疑問がずーっと頭の中で引っ掛か っていて想像をめぐらすばかりだったのですね。それが望むべく形で描かれていたので満 足だったし嬉しかったし。ふと来るかどうか当てのないメールを「8年間待つ」ってのを 現実に重ねて考えてみた時、どれだけ相手を想う強さを抱えればそういう事が出来るのか なと思って頭がくら〜っとして気が遠くなりかけましたが(笑)。だから再会のシーンは 思わず震えが駆け巡るほどに堪らなかった。  ――わたしたちは、まるで宇宙と地上に引き裂かれた恋人みたい。    この言葉が忘れられないです。
2002/08/06(火)EME BLUE1 アシュラハンド
(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:瀧川武司/イラスト:尾崎弘宜/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  え〜とこれはハイ・エッジ・アクションという名の皮を被った紛れもないギャグストー リーです、はい(笑)。訳の分からない笑い担当は道成寺で、天然な笑い担当はアオママ 事蒼のお母様である葵さん。紅の言葉どころか彼の存在そのものすらそっちのけで語りた がる、超が付くほどのマイペースさは共通していて手に負えず。  なんか自分内でアクションシーンやクライマックスシーンよりも余程これらの方が盛り 上って印象に残ってしまったのもどうかなーと思うのですが、初めから意図的に笑かそう かと狙ってるのじゃなくて、真面目な素振りで話が入って行って油断してると「ぷっ」と 思わず吹き出だしてしまうような誘い方が絶妙で面白かった。  2人とも色んな意味で紅より遥か上にいってるあたり更に質が悪いというか、きっと実 力的に見ても紅は敵わないんじゃないかなぁと思わされてしまう隙の無さに関わってしま う彼にとってはご愁傷様という感じ(道成寺にもアオママにも完全に遊ばれてるしさ)。  まあ敵わないと言うなら、多分紅は精々三木也に勝てるくらいで蒼にも茜にも勝てない んじゃないかなって気もしますが……これもまた色んな意味で。だからと言って弱いわけ じゃ全然なくて、むしろEME内でも凄腕エージェントとして名を馳せてるだけに、この 極めて限定的な相手に対してたじろぐ紅の姿がまた読んでて楽しいのかも。  他にも某週刊少年雑誌の10週打ち切りネタなんか使っちゃっていいのか〜? なんて 思いながら、アクションシーンに乗せながら決めるべき所はビシッと決める紅の格好良さ もしっかり感じられた。ただ、暗殺者側はそれぞれどこか「おおっ!?」と思わせる存在 感を持っていたものの、6人もいるわりにアッサリやられてしまい「こいつはギャグ要員 か?」と突っ込みたくなる奴も結構いたので、集まり過ぎた個性が打ち消しあって印象弱 くなってしまってるのが少々惜しかったかなと。  このシリーズで一番の見所は、やはり「BLUE」の3年前という設定で明確に線引き が為されている「BLACK」と比較しながら読める事。もっともっとぶっきらぼうだっ た3年前の「BLACK1」の紅と今回の紅とでは性格も雰囲気も全然違うし、彼の過去 からの成長過程を断片的ながら辿れるのも醍醐味のひとつ。過去と現在にまたがって、今 後どういう風に関わりや繋がりを見せてくれるのか楽しみな所。  既刊感想:EME BLACK 
2002/08/04(日)A君(17)の戦争3 たたかいのさだめ
(刊行年月 H14.07)★★★★☆ [著者:豪屋大介/口絵イラスト:伊東岳彦         /本文イラスト:北野玲&モーニングスター/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  何でこう物語の核とあまり関係無いところで限定的でかなり著者の趣味的ヲタクネタが 多いくせに戦争を描くうまさも際立ってしまうんだろうか? だって田中さん&心身を削 ったメイドさん達の同人誌制作なんて事柄は、魔王領とランバルトの戦争には微かにかす ってる程度で直接的には全然関わってないじゃないかよーとなるわけで、そう思ってしま うと別に要らないような気もするんですよね。  これが同人誌の売上でランバルトに経済的な効果をもたらすとか(うあ〜有り得ねぇ)、 娯楽として定着し国民の心の潤滑油となり全体の士気が上がるとか(更に有り得ない……)。  書いてて自己ツッコミ入れたくなっても、もしこんな風に戦争や国政に関わるような理 由付けで同人誌制作ってのを見せてもらえたら思わず拍手を送ってしまいたくなっていた かも。しかしまあ……ヲタネタを見せられるのは好きなので別に絡まなくてもいいっての が結局の所だけれども(笑)。  戦争時の作戦遂行の見せ方もさる事ながら、それ以前の戦略の立て方を見せる部分によ り引き込まれるものがあってやっぱりうまさを感じさせてくれるなぁと。最初ハッキリ明 かさない剛士の考えにアーシュラじゃないけど多少苛立ったりもしてたのですが、策が明 かされてからの魔王領の迅速な行動からランバルトのお株を奪う奇襲へ繋ぐシーンがあま りに気持ち良くて、苛々はスッキリ吹き飛んでしまいました。  今回は戦争の重さと、それに加えて前巻までと違うと感じたのでドロっとした感覚の血 生臭さが色濃く表れていた事。剛士が本当の意味で初めて自らの手を血に染めたってのと、 スフィアの鳥肌立ちそうな本質を垣間見れた事が大きいのかなと。  どうやら単純に魔王領対ランバルトという図式ではなくなってゆきそうな今後の展開に 興味をそそられるのですが、混沌の最中へ一歩足を踏み入れてしまった感じの剛士が、こ のまま修羅の道を進むが如く精神を削っていずれは追い詰められて壊れやしないかと心配 でもあります(キレると恐いけど本質は弱いってのが明確に描かれてるだけに)。  既刊感想:
2002/08/04(日)風の聖痕2 ―魂の値段―
(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:山門敬弘/イラスト:納都花丸/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  ベタはベタでも楽しめりゃそれでいいってやつです。綾乃の和麻に対する反応なんかは 特に……和麻自身におちょくられても、七瀬と由香里にからかわれても、さらには煉にま で命懸けで突っ込まれても「アンタ和麻に思いっきり惚れてるじゃないのさ」とあからさ まにこれでもかと分かってしまい、しかもお約束のように綾乃自身は頑なにそうじゃない のよ違うのよと逸らして言い訳並べ立てる辺り。ベタだありがちだ使い古されてゴミ箱ポ イだと思ってしまうんですが、それでもこういうの好きだから「あ、何かいいな」と思わ された時点で負けというか、どうしようもないじゃないかよと。  本当に綾乃が和麻を何とも思ってないってのは彼女の多くの態度失言その他色々から察 するに100%有り得ないだろうけど、何処に惹かれてるのかとなると再会してから見せ 続けられてる圧倒的な力の差……かな? ただ好きな気持ち以上に、素直じゃなかったり 嫉妬深かったり普段和麻に軽くあしらわれる癖に稀に本心を見せられたり本気の強さに畏 怖を覚える事があったり、と複雑混迷な乙女心が真っ直ぐ行かずにねじくれてしまうのも 納得出来るよなぁと頷けてしまう感情の見せ方が良い感じでした。  やっぱり個人的に好きな要素があるせいか、キャラクターの心情にのめり込んでしまう 所が多い(その分話の展開が読み易いのとイマイチ印象に残らないってのもあるのですが)。  今回綾乃が断然印象に残ってしまったが故にこういう書き方になってしまったけど、正 直あまり気に入らねーなーこいつと思ってた和麻も、珍しく見逃せない本音を戦いの最中 にぶちまけたり(具体的には276頁〜277頁にまたがってる台詞)、過去の姿が剥が され始めてきた事でちょいと心象持ち直しで見るべきシーンは多かったです。  だだ前巻から続くだろうというのは「断片的な和麻の過去」があったからで、それが今 回持ってくるだろうと思ってたのに前巻以上に謎を含ませた描写だったからなぁ……その 辺が少々不満でしたが、次で描かれる(らしい)ので想像しつつ待ってみたいです。  既刊感想:
2002/08/02(金)ジェスターズ・ギャラクシー1 天のほとりの愚神ども
(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:新城カズマ/イラスト:純珪一/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  ツボを押さえた性格、容姿さまざまな美男子・美少年がよりどりみどりな物語……と言 ってもあっち系の内容じゃありませんが(笑)。絵的に見ても非常に美形度が高いんだけ れど、颯爽と活躍するのかと思えばそういう訳でもなくて、基本的に騒ぎ立ててスマート に物事を進められない辺りカッコイイよりオモシロイという印象が先に来るような奴等。  個人的には粗野で口汚く直情傾向なべレズが一番気に入ってるのですが、それでも皆が 決める所はキッチリ実行して見せてくれるし、そういうカッコイイ容姿とオモシロイ行動 のギャップが魅力とも取れるのかもしれない。  大雑把には彼ら<鮮血の天使>が皇種の姫君探索から帝都へ届けるまでを描いた話。それ が帝国と共和派革命家達の争いであったり、また銀河帝国末期から崩壊への引き金となっ た事件としても絡んでいる。そう言った舞台背景や銀河大樹・航宙航路などの設定は、今 回あまり触れられなかった部分も含めてかなり詳細まで練られてるなぁと感じながら楽し めました。途中途中で“……記録によれば”というような記述が結構あったのには「なん だろな?」と首を傾げてたのですが本編とエピローグを繋ぐ構成を知って、ああなるほど こういう展開だから本編で『記録』なんて記述があったのかと納得。ただそうなるとシリ ーズ作品としてはどう続くんだろうかとも思ったり。多分エピローグ前の帝国末期時代の 続きとなるんだろうけど、帝国崩壊ってのは歴史の中で決定付けられてる事柄だから、帝 国側に存在している彼ら<鮮血の天使>がどう影響を及ぼすのか気になる所。    今回お姫さま探索&救出&守備&送迎という野郎どもにとってはおいしいシチュエーシ ョンだったにもかかわらず、彼ら――主にアルロンか?――と姫君アルトワインとのイベ ントは少なく関係がどうにも稀薄でそこら辺がハッキリ不満だったぞと(笑)。  もっともアルトワインとの恋愛よりも、彼ら<鮮血の天使>の活躍を描く所に重きを置い ているようなので仕方ないのかなと(そういう部分はしっかり描けているし)。


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