NOVEL REVIEW
<2002年08月[中盤]>
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08/20 『B−EDGE AGE 獅子たちはアリスの庭で』 著者:桜庭一樹/富士見ミステリー文庫
08/18 『流血女神伝 砂の覇王8』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
08/15 『高天原なリアル』 著者:霜越かほる/スーパーダッシュ文庫


2002/08/20(火)B−EDGE AGE 獅子たちはアリスの庭で

(刊行年月 H14.07)★★★ [著者:桜庭一樹/イラスト:日峨和雅/富士見書房 富士見ミステリー文庫]  法廷バトルにプラスして、被告人の冤罪を晴らす為に怪奇連続殺人事件の謎解きまでを も主人公達が担っているせいか、あちこちいいとこ取り過ぎで弁護士役か探偵役かどっち つかずな所で結局両方とも物足りなさを感じてしまったのが惜しい。ちゃんと弁護士役の 美弥古と探偵役の悠とがいるんだけど、もし片方だけを重点的に見せてくれていたならも っと楽しめたかも(好みとしては弁護士と検事の対決が良かったかなぁ)。  弁護士役の美弥古が主人公という事で、殺人事件を追うよりは法廷バトルの方がメイン となっていて、弁護側が殆ど勝ち目のない状況を見事に覆すという逆転裁判的要素も含ま れとります。この大逆転が非常に燃えるシチュエーションではあるのですが、当然そこま で持ってゆく過程に展開の面白さと覆るだけの納得出来る証拠が要るかなと。  この物語がどうだったかと言えば、まず被告人である和哉の性格が軽過ぎて法廷での緊 張感が台無しになっていたような。いくら何でもお笑い芸人を目指すボケ役だからって冤 罪で死刑になりかけてるのにあの軽薄さはないだろうよ(彼の性格としてはよく表れてい たけれど……)。無実の証明する為の証拠もあれだけ駆けずり回ったわりに最大のヒント は他者《ゴッド》から得たものだったし。推理も弁護もあとひとつ足らないかなと感じた のはこの辺から。それ以外で物語に絡んでる美弥古の過去に負った精神的な痛みや琴里と の回想シーンなどはなかなか良かったのですが。    しかしそれより何より、最初からこいつらデキてるだろうと思ってしまった美弥古と悠 (注:どっちもオトコ)の関係の方が余程印象に残ってしまったよ〜。美弥古はそうでも ないんだけど、過去の事件のせいなのか過保護にも程があるぞってくらい彼を守ろうとす る悠のホ○臭さが堪らないというか。美弥古が精神的に病んでる時に一々身体に手を這わ して慰めようとする悠の動きが妖しくイヤラシイデス。  んでこの二人のモデルとなったのが、新宿二丁目近くのモスバーガー内の男性二人組カ ップルっていう妙に具体的な説明をあとがきで見て激しく納得。そして著者の桜庭さんが 女性だというのを知って(ずっと男性の方だと思ってた)何故か更に納得(笑)。
2002/08/18(日)流血女神伝 砂の覇王8
(刊行年月 H14.08)★★★★ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]  確かに読了した時点で「本当に次で終わるの?」と漏らしてしまった(^^;)。  砂の覇王編も終わりが近いせいか、今回は毎度ながらの息をつかせぬ内容と先の見えな い展開に一層拍車が掛かってたような。過去の数々の出来事を見ても、カリエ自身が進み べき道をこうと決めてすんなり行った例はあまりなような気がするので、このまま彼女が 大人しくシャイハンの元へ向かうかどうか非常に怪しい所ではありますが。むしろそう簡 単に素直に運ばない波乱含みな展開を希望……カリエには悪いけど(笑)。  そういった部分からどう締めるのか期待あり不安ありで結局全然予想もつかず。ごく個 人的な希望では元の鞘にと言うべきか、やっぱりバルアンと再会して欲しいかなぁと(し っかりバルアンを愛してると言葉にしたわけだし)。   ただそれもある意味予想範疇ですんなり行く道のひとつなのかな〜? と思うと混乱の 最中で運命的にばったりエドと再会……なんて事がこの物語じゃ「まさか!」とは言えな くてなさそうでありそうな所が油断ならない。まあ彼は砂の覇王編では完全に脇役といつ かのあとがきで須賀さんが言われていたし(でも4巻くらいまでは目立ってたんだよなぁ)、 これは単に私がエドの復帰を切に願って言ってるだけの事ですが。  で、カリエにとって大問題だったアレはまるで夢か幻かの曖昧な意識の中での出来事の ようで、覚めてみたら物的証拠だけが残されて既成事実が作られてしまったと。この事が カリエの中で尾を引くようなら「をのれさるべぇ〜ん!」となってたわけですが、無理矢 理払拭しながらでも他に為すべき事を前向きに考えて行動しようとする辺りは彼女らしい というか。それともそんな風に振舞えたのは相手がサルベーンだからなのかどうか。  曖昧さがスッキリしなくても「そういう事なら……」と納得出来たのは、サルベーンの 「リシクの大祭」絡みでのザカリア女神やザカール人の話に説得力を感じたから……かな?   カリエがサルベーンにうまく言い包められたと取れなくもないけど、女神とカリエの関 わりやラクリゼの役割なんかが明確に語られたのは初めてだった気がするので、やはり物 語の根幹でザカリア女神の存在が大きな意味を持つのだろうかと改めて思わせてくれた点 は良かったです。と同時に秘めた黒さがどうにも気に入らなかったサルベーンは、抱える 脆さ弱さを見せてくれた事でちょっと心象が良くなりました(笑)。  あとは廃帝宮での事。かつてのカデーレ皇子宮の懐かしさに浸れたのはカリエやミュカ だけじゃなくて読んでいる方も同じようなもの。ああその頃のミュカは好きな子を苛めた くなるような捻くれた奴だったんだよな〜と改めて思わされたり。そんな過去から見違え るほどの成長を遂げたミュカだけど、決して報われない想いと女神に捧げた「命の次に大 切なもの」の事を思うとやっぱり辛いなぁ……。  それからルトヴィアの事。エティカヤへ向かう事を告げ、トルハーン裁判で弁護側に立 ったカリエが見たのは想像以上に病んでいた現実。そこからはもう老衰してゆくように滅 びの道を辿りつつあるルトヴィアは救えないのかと。そう思いつつもドーンとグラーシカ の行動・心力は何とか報われて欲しいって気持ちが大きいんですよね。  どこもかしこも厳しい現状の中で、唯一最後までどうなるか分からくて気になってたの がトルハーン奪還を匂わせるバルアンの発言。最近あまり目立ってないから最後くらいは 活躍の場が欲しいもんです。まあバルアンは特に好きなキャラなので贔屓目って事で(笑)。  既刊感想:帝国の娘 
前編後編       砂の覇王  2002/08/15(木)高天原なリアル
(刊行年月 H14.07)★★★★ [著者:霜越かほる/イラスト:木場智士/集英社 スーパーダッシュ文庫]  と○メモを筆頭とした学園恋愛ゲームが好きだったり恋愛系エロゲ―が好きだったり声 優さん(のラジオ)が好きだったりすれば間違いなく楽しめる……と思う(笑)。  この作品は1999年のスーパーファンタジー文庫が初出でこの度再刊されたとの事だ そうですが、なんだかまるで3年後を予測して書かれたんじゃないかと錯覚してしまうく らいに驚いてしまいました。それが作中で何かと言うと、学園恋愛ゲームのヒロイン(を 演じてる声優=本編主人公・毒島かれん)がインターネットラジオのパーソナリティを務 め、リスナーと電話でコミュニケーションを取る……という部分。  ネット普及も通信環境もまだそう整ってはいなかった3年前より、現在の方が余程身近 でフィクションってのを思わず忘れてしまうくらいリアルに感じられる内容で、この物語 が初めて世に出たのが3年前というのを考えると驚嘆せずにはいられなかったです。  気になったのは一人称を担うかれんの感情表現がどうも乏しくて、自分自身を客観的に 冷めた視線で語ってるような感覚だったから、大人しいとか冷静な性格でもないんだし、 もっと感情を露にしてもいいんじゃないかなと思ってました……最初のうちは。  でも学園恋愛ゲームから生まれたバーチャルアイドル『高天原かほり』の声をかれんが 演じるようになってから、膨れ上がるかほりのアイドル性にかれん自身が徐々に飲み込ま れてしまうので、自分(かれん)でありながら他人(かほり)を見るようなどこか冷めた 視線になってるんだなと思うと客観的な一人称表現がしっくりハマってしまうから面白い。  まあ「たかが学園恋愛ゲームのいちキャラクターにそこまで社会現象が起こせるわきゃ ない」と思えてしまうあたりがフィクションで、ゲーム制作やキャラと声優さんの現実の 姿のギャップだとかの裏事情はフィクションであって欲しいけど妙にリアルでちょっと怖 かったりしますが(笑)。見所は現実(かれん)の意思を越えて虚像(かほり)の作り物 の意思のみが社会現象に発展するまで肥大化してゆき、ある時パンパンに膨れた風船を針 でひと突きするように崩壊してしまうまでの過程かな? 想像出来てしまう展開ではあっ たけど、いつ破れるとも知れない危うさと緊張感、それから虚構が壊れた後に一連の真相 が一気に明かされたエピローグなどは特に良かったです。


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