NOVEL REVIEW
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09/29 『マリア様がみてる パラソルをさして』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
09/28 『マリア様がみてる レイニーブルー』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
09/26 『マリア様がみてる チェリーブロッサム』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
09/25 『マリア様がみてる いとしき歳月(後編)』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
09/24 『マリア様がみてる いとしき歳月(前編)』 著者:今野緒雪/コバルト文庫
09/22 『マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(後編)』 著者:今野緒雪/コバルト文庫


2002/09/29(日)マリア様がみてる パラソルをさして

(刊行年月 H14.07)★★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第11巻。前巻『レイニーブルー』の続きで解決編。  祥子にも祐巳の約束をキャンセルするに値する事情というのがあって、知ってしまえば 予想してただけに「ああやっぱりそうかぁ」という感じ。祐巳の方も精神状態どん底だっ たのはどうやら前巻ラストから今回初っ端にかけてだったようで、徐々に快方に向かって 行くというのも実に分かり易い展開……なんだけれど、余計な小細工や無駄な伏線がない からこそ祐巳の中に光が射すまでの心の揺れ動く様がくっきりと見えたし、そういう部分 を描くうまさというのが非常に際立っていたかなと思います。  祐巳の青傘消失の顛末は「偶然にしてもちょっと都合良すぎるんじゃないのかなぁ」と 頭に浮かんだ所で、「素直に感じ入る事が出来ないなんて心の貧しい奴だなお前」なんて 別の声が響いて衝突してしまったりもしたのですが(笑)。   でも、それもこれもあれもどれも感想書くに至って思い浮かべていた事全てがラストシ ーンでぶっ飛んでしまいました。それは祐巳に対しての心からの祥子の告白……もう今ま での事はどうでもいいや〜って感じで感化されてしまってホントに泣きそうでした。  同じように祐巳も返してますが、全てはこの言葉を紡ぐ為の寄り道であり、結局当人同 士だけで複雑難解な迷路にしてたんじゃないかよと溜息が漏れてしまいましたとさ(笑)。  端からは祥子の事情が分かった時点ですれ違いが一層明確になって単純明快なんだけど、 今回の祐巳と祥子のように慣れ親しんだ自分と愛しむべき近い存在ってのは、案外近過ぎ るが故に見落としたり見失ったりする事が多いものなのかも。依存してると更に周りにフ ィルターが掛かってしまうだけ余計に。  今回祐巳は浮上して祥子の居場所に導かれるまで、かけがえのない人達に何度何度も手 を差し延べてもらってます。最初の一押しは聖さまと加東景さん、それから由乃に弓子さ んに青田先生に志摩子に乃梨子に真美に蓉子さまに清子小母さま。  その人達に手を引かれ、暗がりに中の階段を踏み締めるように、足元を確かめながらゆ っくり一段一段目指すべき場所へ上ってゆくような展開が、立ち直ろうとする祐巳の心の 歩調にぴたりと合っていて見事という他にないくらい良かったです。  そして忘れちゃならない縦ロール娘こと瞳子の存在。上記の誰か一人でも欠けてたら果 たして祐巳は浮上できてたかどうか……と思ってしまうのですが、瞳子こそ良くも悪くも 祐巳の浮上に多大な影響を与えてるなと感じたので、あとがき見て「瞳子ってそんなにブ ーイング受けてたのか?」と結構意外だったんですよね。  ま、双方共に祥子お姉さまを起点にしたやきもちってのもあるだろうけど、個人的には 中庭での一件から「結構いいコンビだよなぁ」と感じてしまったので姉妹になるのは賛成 派なのですが(笑)、どうなるでしょうね〜。続きが待ち遠しいです。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編)       チェリーブロッサム          レイニーブルー 2002/09/28(土)マリア様がみてる レイニーブルー
(刊行年月 H14.04)★★★★☆ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第10巻。『ロザリオの滴』で志摩子、『黄薔薇注意報』で由乃、表題作『レイ ニーブルー』で祐巳、と2年生組のそれぞれ大切な存在に対しての想い、悩み、葛藤など が雨音と溜息に乗せて描かれてます。同じ時間軸なので他の話と微妙にリンクしてるシー ンがあるのも見所のひとつ。 ・ロザリオの滴  おーおーあの祥子さまに面と向かって盾突いてるよ乃梨子ちゃん、などと妙に感心して しまいましたが、二条乃梨子ってキャラクターの性格をこれでもかとばかりに表してる部 分でもあったかな。祥子がけしかけた真意は祐巳編の『レイニーブルー』でさりげな〜く 語られてたりします。こういう同時間軸で違った視点から見れるのが今回の面白い所。  一見山百合会の中がギクシャクしてるような感じがするけれど、実際は自分の気持ちを 持て余して迷路にはまってしまった志摩子の視点がそう思わせているだけで。それでも焦 燥に駆られて、皆との顔合わせで乃梨子の言動に首を突っ込み自爆する彼女の姿は「あ、 なんかいいな〜」と思えてしまう。特定の人(この場合は乃梨子)の事で、内面からの感 情のたかぶりを表に見せるというのも含めてね。二人だけだと乃梨子の方が全然しっかり していて、逆に志摩子が安心して身を委ねてるというのも微笑ましいです。 ・黄薔薇注意報  なんか由乃の押し通そうとしてる自我とか、令に対する欲求とか結構無茶な放り方して るよなぁと。由乃はそういうの自覚してて、それでも令があたふたするもんだから余計苛 立ってしまう。こうなるともう性格的にブレーキの利かない自転車よろしく、前だけしか 見えず突っ走るだけで振り返れない止まれないってな具合。  でも結局、喧嘩でかち合ってみてもイラついてみてもぐちゃぐちゃに悩んでみても、向 ける対象は常に令ちゃん令ちゃんだし。あなたがいると強く見せかけてる自分の心が乱れ てしまう、と切り出した令に思う気持ちは常に変わらないと告げられると、棘が抜けたよ うに令ちゃんの為なら何だって出来ると返す由乃。  ……なんだかノロケ話を聞かされているような気がしたのは私だけだろか? もうあな たら一生くっ付いててくださいって感じですかね(笑)。現時点で介入する隙がないから、 もし由乃に妹が出来たらどうなるんだろと、気になると言えば気になる所。 ・レイニーブルー  祐巳は「お姉さまの事だからきっと何か事情があってデートの断りの理由を言わないで いるんだそうに違いないだって私のお姉さまだもの」で、祥子は「事情を言わなくも祐巳 は聞き分けがいいから理解してくれるわよねきっとそうだわだって私の妹の祐巳だもの」 という感じ。これは言葉はなくても意思疎通が為されてる……ではなくて、お互い自分の 都合のいい解釈で納得してるに過ぎないという事。どうしてこう相手の領域に踏み込むだ けの言葉が足りないのかとやきもきですよ(笑)。結局似たもん同士なんだよなぁ。  これまでは保たれていたから良かったものの瞳子という存在の介入で均衡が崩れてしま い、祐巳の方がぐらぐら揺れながらぽてっと倒れてしまう。ただ、瞳子はお邪魔虫に思え るけど別に故意でもなけりゃ祐巳を陥れようとしてるわけでもなく、むしろ祥子のみを見 ているが故に祐巳の事はあまり眼中にないだけなのかも。  祥子が断り続ける事情を話そうとした時もこの縦ロール娘は介入してきたけれど“一緒 に歩きながら話しませんか?”ってちゃんと言っているし。それを切ったのは、祥子と瞳 子の関係を聞きもせず確かめもせず捻じ曲げて思い込んでる祐巳の方。  お姉さまに依存するまま深い溝にはまってゆく祐巳は果たして立ち直れるだろうか?  切っ掛けを与えてくれるのは祥子から祐巳を託された聖さまか、それとも明かされてない 祥子の事情というやつか……てな感じで他の二人と違って祐巳の中に降る雨だけは今回の ラストでもまだ止みません。というよりどしゃ降りの真っ只中で終わってるのは祐巳にも 読者にも酷な仕打ちだよ(笑)。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編)       チェリーブロッサム 2002/09/26(木)マリア様がみてる チェリーブロッサム
(刊行年月 H13.08)★★★★☆ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第9巻。マリみての起点……新入生の乃梨子と白薔薇さまになった志摩子の出 会いと触れ合い、そして志摩子の抱える秘密を描いた『銀杏の中の桜』と、同じ内容を祐 巳と山百合会側から見せてくれる『BGN』の2編。 ・銀杏の中の桜  以前より祐巳が志摩子に対して、卒業する前に何処かへ消えてしまいそうな危惧を漠然 と抱いていた理由はこれだったのかと、ようやくハッキリしました。しかし事実を何も知 らなかったってのに、無意識ながら志摩子のどこか危うげな部分を感じ取れていた祐巳っ て凄いのかも。普段が普段だけに時々鋭い所を見せられると思わずハッとしてしまいます。  と語った所でこっちに祐巳の登場はないけれど。新入生の二条乃梨子が主役となってま す。この娘もなかなか良い感じのキャラで既に惹かれ気味なのですが、高校からがリリア ン始めって事で全然リリアンの風習に染まってないのが新鮮だなぁと。周囲は当り前とい うものでも「え? 何それ?」と返す乃梨子の反応が面白い。  シリーズ原点と言われる1巻以前に雑誌「cobalt」にて掲載されたものだそうで、薔薇 さま方の卒業までがこのエピソードに至る長い序章と思うと、なかなか感慨深いものがあ ります。マリみて出発の時点で既に志摩子の内の秘密が描かれてたんだなーとか、それを 面前で曝け出した事と乃梨子の存在が彼女を変えてゆくだろうか? 何かが変わってゆく んだろうか? など。今まで志摩子の中で抱えてるものが不明瞭だっただけに、今後どん な感じで描かれてゆくのか非常に楽しみです。   ・BGN  乃梨子と志摩子の裏に響く雑音といった感じで、祐巳及び新生山百合会側の計略を描い た『銀杏の中の桜』の対となるエピソード。『銀杏の中の桜』でまんまと引っ掛かってす っかりしてやられた風だった私は、裏でこういう事をやってたのかーとちょっと悔しさ混 じりに読んでましたが(笑)。瞳子だけは、乃梨子に仕掛けた苛めとまではいかない悪戯 程度の事全てが素のままでやってると信じてたからなぁ。さすが演劇部と言うべきか。  瞳子にしても乃梨子にしても、祐巳・由乃・志摩子にとって初めての下級生で妹的存在 でもあり、性格や考える事や趣味や行動など今までの山百合会メンバーには居なかったタ イプなんじゃないかなと。もろにトラブルメーカーって感じで、祐巳にとって天敵になり そうな雰囲気の瞳子も嫌いではないです今の所は。むしろ活性化を図る意味で、良い方向 に山百合会の中を引っ掻き回して欲しい存在。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編)         いとしき歳月(後編) 2002/09/25(水)マリア様がみてる いとしき歳月(後編)
(刊行年月 H13.04)★★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第8巻。卒業直前……思い残す事なく去れる様、紅薔薇さまが孫=祐巳に遺言 めいた言葉を伝えようとする『will』、遂にとうとう薔薇さま方の回想シーンを盛り込ん での卒業式模様『いつしか年も』、そして過去へ遡って聖と志摩子の出会いからロザリオ 授受までを描いた『片手だけつないで』の3編。 ・will  個人的には最近登場頻度が高くて嬉しい紅薔薇さま。でも卒業すると思うと寂しく悲し い気持になるのは祐巳と同様。祐巳に不気味と言わしめたお茶目な一面も、あるいは最後 の餞別として見せてくれたものかもしれない。  別れの直前も相変わらずオモシロイのは祐巳と白薔薇さまのコンビ。姉妹とはならない けれど、ちょっとだけ年の離れた親友同士と言うのにピタリと当てはまりそうな雰囲気。  で、白薔薇さま曰く『祐巳ちゃんのチュー』の見せ場こそ、踏み込んだ“百合の世界” なんじゃないだろかと。最初はこういうシーン(よりもっと深いシーンも)が日常茶飯事 に繰り広げられてるもんだと思ってましたよ。だから祐巳の抑えの効かない行為にもどき どきわくわくしましたよ。騙された〜にしみじみモードもぶち壊しだったけど(笑)、凄 くらしいな〜と思わされました。 ・いつしか年も  ああ多分3人の回想エピソードはこの時の為に温存してたんだな……と、挿入があまり に見事で順番に巡って描かれる聖、江利子、蓉子のバランスも絶妙。まだ終わらせたくな い未練で何度も読み返してしまいました。寂しさはあったけど、卒業する3人の方が結構 普段通りの様子だったので悲しさはほとんど無かったかな。   ぐっときたのは祥子の送辞。令の助けを借りながら二人して手を取り合った時、まるで 世代交代の引継ぎが全て為されて、新しい手の中に山百合会の未来が委ねられたという感 じで。それを受けての蓉子の答辞にも魅せらてしまいました。  ラストも三者三様、同じ書き出しなのは心憎いまでの演出。最後に、選挙を競ったあの 人が登場したのは嬉しかった。ラストシーンは不思議と感極まるという風じゃなくて、で もそれは卒業する薔薇さま方の去り行く姿があまりに潔く格好良かったから。  そしていつもの放課後みたく、普段通り明日になればまた会えると思わず錯覚してしま いそうな別れだったから。“この学校で、あなたたちと出会えてよかった”という言葉っ て妹達だけじゃなく読み手に対しても向けられてる……というのは些か都合が良過ぎるか?  でも勝手でも何でもそう思いたかったんですよね。また会えると確信していた薔薇さま 方の背中が、しばらくは頭に焼き付いて離れそうにないです。 ・片手だけつないで  実は一番知りたいと望んでた聖と志摩子の出会いの話。先に続刊を読んでみて、後に作 中で志摩子の占める割合が大きくなってゆくから、卒業後のこの場所にようやくこのエピ ソードが語られる事となったのかなと思いました。満を持してという感じで。  時間的には1巻のちょっと前で、祐巳が白薔薇さまとしての聖と出会う僅かな過去には 周りに心を開かなかった頃の彼女がいたんだなーと。その後の聖の心をほぐし続けたのは 祐巳の存在が大きいだろうけど、最初の切っ掛けは紛れもなく志摩子。与えられる影響力 の大きさに戸惑う聖が印象的でした。  1巻で聖と祥子で志摩子を取り合った……みたいな構図で語られてたけど、想像してた のとちがーう! と、かなり誤解してたのもよく分かりました(笑)。聡明な祥子の事だ から志摩子が誰の妹に相応しいかってのは最初から分かってただろうし、結局彼女は聖を 焚きつける役だったんだろうなと。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編)       いとしき歳月(前編) 2002/09/24(火)マリア様がみてる いとしき歳月(前編)
(刊行年月 H13.02)★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第7巻。卒業間近のひと騒動、いよいよ黄薔薇さまの本質に迫る?『黄薔薇ま っしぐら』、お別れ会の準備に祐巳が大奮戦『いと忙し日日』、黄薔薇さまがまっしぐら に突っ走る事となる発端もしくは出会いを描いた短編『一寸一服』の3編。 ・黄薔薇まっしぐら  私はマリみてキャラの中でずっと“隠れお笑い要員”と思い続けた黄薔薇さまメインの お話(笑)。今回は笑えたというよりは、三奈子さんや祐巳や由乃などが勝手に想像して、 理解不能な黄薔薇さまの行動に翻弄されてしまったのと同じ感覚で読んでました。  1人のキャラに見知らぬ男が絡む(それも複数)展開ってのは、このシリーズでは滅多 にお目にかかれないものだけれど、蓋を開けてみればいつぞやの祥子と王子様と似たよう なパターンで「ああやっぱり当人の関係者か〜」と。そりゃあれだけの過保護っぷりを見 せられたら黄薔薇さまでなくてもウンザリもするわい(笑)。  ただ4人目の男だけは唯一の例外だったわけですが、皆が揃ってる前で即決してああい う事言っちゃう黄薔薇さまの姿こそがまさにまっしぐら。人生退屈だらけな彼女だからこ そ面白いものに飛びついてしまうという性質の面白さ。それこそが魅力と言えるのかも。  黄薔薇さまのイベントとは別に三奈子さんの暴走っぷりもなかなか楽しかったですが、 やっぱり祐巳と猫と白薔薇さまのシーン。飄々としてて、さり気なく心を掴んだまま離さ ない多くの言葉を残す白薔薇さま。どうしても惹かれずにはいられなくて祐巳が無意識に 頼りたくなる存在ってのが凄くよく分かる。でももう卒業なんだよなぁ……。 ・いと忙し日日  祐巳が一杯一杯、でも健気に一生懸命。根底にはいつも必ず「お姉さまの為に」がある けれど、今回それとは別に祐巳自身の中で山百合会の一員としての使命感が芽生えて、そ れに駆られ過ぎてしまったのかなという感じがしました。  一般の仕事と重ねてみたわけじゃないんだけど、何もする事がない立場というのは忙し い役割を与えられて疲れ果てるよりもずっと酷なんじゃないかなと。そう思うと、手伝い に駆られて張り切ってしまう祐巳の気持ちが何となく理解出来たような気がしました。  まあ違う所で白薔薇さまにハメられて余分な労力を割いてしまったというのもあったけ ど、おまけの隠し芸は唖然としながらも笑わせて頂きました。冷静沈着な紅薔薇さま視点 ってのも周りがよく見えて良かったし。欲を言えば祐巳の安来節の挿絵が見たかった(笑)。 ・一寸一服  『黄薔薇まっしぐら』で描かれなかった、とある出会いのシーン。思わず『江利子は新 たなおもちゃを手に入れた!』なんて言葉が浮かんでしまいました。彼女が何かに興味を 持つ時とはどんな風なのか? 短いながらその辺をじっくり堪能出来るかと思います。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)  ウァレンティーヌスの贈り物(後編) 2002/09/22(日)マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物(後編)
(刊行年月 H12.05)★★★★ [著者:今野緒雪/イラスト:ひびき玲音/集英社 コバルト文庫]  シリーズ第6巻。前編のバレンタインイベントで、お宝の景品として付いてきた半日デ ートの模様を描いた『ファースト デート トライアングル』、祥子が隠したカードにか けられた“聖ウァレンティーヌスの悪戯”の真相を綴った『紅いカード』、珍しく紅薔薇 さま視点でバレンタイン当日の様子を描いた『紅薔薇さま、人生最良の日』の3編。 ・ファースト デート トライアングル  3ペアそれぞれのデート模様が視点切り替わりで中継されているような感覚で楽しめま した。そういえばふとデート騒動の中、山百合会の1年生コンビで泣かなかったのは祐巳 だけだったなと。改めて組んだペア状況を見れば由乃も志摩子も姉と一緒じゃなかったわ けだから、不安・焦燥・嫉妬など負に傾く感情を抱いてしまっても無理はないかな? む しろそういう崩れそうな気持ちの見え隠れがうまく描けてたんではないかと思いました。  最初由乃の行動は面白がって眺めてたんだけど、最後にちさととの対峙でああいう話を 持ってくるとは……令に対しての嬉しさはあったろうけど、それ以上に悲しさや辛さが勝 ってしまったと。覗き見して気持ちがごちゃごちゃになってただけに、家に押しかけてま で吐露するちさとに感化されてしまった由乃の姿が堪らなかったです。  志摩子の方は不安一色。何が狙いかよく分からない静とのデートシーンがあって、一人 ぼっちになって曝け出す孤独への恐怖感が活きてくる。狙ったようなタイミングで現れる 白薔薇さまは流石としか言いようがないけど、少しずつ少しずつ見た目で覆われた志摩子 の本質が表に出て来ては何とはなしに嬉しくなってしまいます。  祐巳? たっぷりお姉さまといい思い出来たろうから別にいいや(笑)。祥子の一般人 との行動のズレが読んでて非常に楽しかったです。普段の教える立場が祐巳と逆転してい て、その姿が一々とっても可愛く見えてしまいました。 ・紅いカード  常に“もし〜だったら”という言葉が脳裏を過ぎったエピソード。もしカードの事を祐 巳に話してたら。もし掘り出したカードを直ぐ元に戻していたら。もし祥子に対してもっ と積極的に自分をアピール出来ていたら。もし祥子に思い出してもらおうと過去の出来事 を話せていたら。もし引越しせずにリリアンで学園生活を送れていたならば……。  果たして彼女は祐巳の代わりになれていただろうか? それは既に済んでしまった事だ から分からないけれど、少なくともカードの一件から彼女の姿勢が前向きになった事で凄 く救われた気持ちになりました。祐巳にはなれなくても、きっと今より近付ける筈。 ・紅薔薇さま、人生最良の日  そうか、あの時あそこに紅薔薇さまがいたのか……と前編を読んでりゃ間違いなくにや りとさせられるエピソード。こういう裏話も面白くて良いですが、存在感あるようで最近 あまり姿が見られないなーと思ってた紅薔薇さま視点ってのもポイント。最悪な状態が一 変して最良になってしまう演出がじわりと伝わってきます。それは手を伸ばして望んだ景 色が、妹の代で日常の姿となって欲しいなと願う紅薔薇さまの想いだろうなと。  既刊感想:
マリア様がみてる           黄薔薇革命       いばらの森              ロサ・カニーナ       ウァレンティーヌスの贈り物(前編)


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