NOVEL REVIEW
<2003年03月[後半]>
] [戻る] [
03/30 『願望達成本舗 ライコにおまかせ!』 著者:あらいりゅうじ/電撃文庫
03/29 『クッキング・オン!』 著者:栗府二郎/電撃文庫
03/23 『放課後のストレンジ ユージュアル・デイズ』 著者:大崎皇一/電撃文庫


2003/03/30(日)願望達成本舗 ライコにおまかせ!

(刊行年月 H15.01)★★★★ [著者:あらいりゅうじ/イラスト:マーシーラビット/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ヒロインが人外で出身が地球外で自立する為に地球を目差して降り立ってパートナーの 男を助手に従えて客商売を営み徐々に現地人達と心を通わせながら成長を見せて行くけれ ども常に一番近くに存在するパートナーの男とは多少ラブコメ展開になりつつもなかなか 関係が進展しない短編連作形式の物語……と、設定やら組み立て方などがやけに『宙の湯 へいらっしゃ〜い』にそっくりだったかなぁと。もっとも、似てるから内容がイマイチだ ったというわけでもなくて読んでいて楽しめた部分は結構ありました。両方同じ作者さん という点を最大限に活用した、ライコ・助六と『宙の湯』のルカ・三助との競演特別編は なかなかに心憎い演出で面白かったです。    どのエピソードも大体話の流れは一緒で、福の神であるライコがあの手この手で悪戦苦 闘しながら小さくささやかな奇跡を悩める人間に与えて救おうとするもの。単純明快で分 かり易いのは良いけれど、ともすればそれがストレート過ぎてちと面白味に欠けるという 印象にもなったりしたのですが。  じゃあどういうのが良かったのかと言えば、他人に構う事の他にライコ自身の事や助六 との関係について。一見ラブコメ風だけど意外とあっさり流されてる感じだったり……と まあ結局そういうお約束的展開が見たかっただけなんですけど。『宙の湯』でも感じた事 ですが、特にヒロインの描写から「この作者さんは本当にライコやルカが好きで楽しんで 書いてるんだな」ってのが凄くよく伝わってくる。だから話の内容がどうであっても、キ ャラクターの動きを追うだけで楽しいと感じられるんですよね。  知らぬはライコばかりなり、という助六との状況がどう変化してゆくのか楽しみなので すが……続き出るかは相当微妙だろうなぁ。定期預金のようにこつこつ溜めて時間掛かっ てもいいから続きを見せて欲しいです。 2003/03/29(土)クッキング・オン!
(刊行年月 H15.01)★★★ [著者:栗府二郎/イラスト:珠梨やすゆき/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  この物語において主に『料理する』行為とは“食材を用いて料理する”事ではなくて、 敵に止めを刺す時“どうやって料理するか?”という事。大よそ煮ても焼いても茹でても 蒸しても食べられそうにない存在を、どうにかこうにか解体処理してゆく作業のようなも ので、例えば作業改造宇宙艇だとか食虫植物だとか野心を持った人間とか。なるほどそう いう意味での料理ってのもありなのかと、発想の面白さを感じました。  舞台は調理師専門学校という名の宇宙船。てっきり美味○んぼとかミスター○っ子など の料理知識やら料理勝負やらがてんこもりなストーリーなのかと思いきや、あまり食材を 使った方の『料理』はネタとしての見せ場も控え目で少々残念。考えてみれば主要キャラ 達は料理人ではなくて料理人の卵であって、料理対決なんかする以前に他にやるべき(学 ぶべき)事は色々あるわけだから、そういうネタを盛り込めなかったのも仕方ないか(も っとも風とか一石はやるべき事さえさっぱり出来てないけど)。  しかし個性的な面々がドタバタ騒がしく事件を起こしてくれるのは楽しいのだけれど、 ページのわりには中身の密度が薄かったような気も。外見でこれくらいのボリュームなら、 びっしりとぎゅうぎゅうにとは言わないけど、もっともっと詰め込める要素があったんじ ゃないかなぁと思いました。とりわけ個人的に足りないと感じて欲しかったのが風、紬、 央儀、一石、蕨の身辺描写。要するにキャラの肉付けって事ですが、分かり易い部分で風 に関してだけは描かれてたけど専門学校に来ようと思った理由とか。  風の失敗に一石が同調して央儀が蔑んで紬がキレて蕨がボケる……きっちり役所が決ま っていると同じパターンを辿っても面白いものですが、その行動を追うだけで心情まで追 い切れていないかもと感じてしまったのが惜しい所。 2003/03/23(日)放課後のストレンジ ユージュアル・デイズ
(刊行年月 H15.01)★★★☆ [著者:大崎皇一/イラスト:山本京/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  様々な異能力を有した少年少女達が、同じ異能力によって害意をもたらす存在と戦う物 語。まず舞台である中学高校一体の学院内の極めて閉塞的な独特の雰囲気や、すぐ側に迫 っても気付く事が出来ない異存在のまとう空気など、全体的に流れる息苦しさを覚えそう な陰湿さが特徴となってよく表れているなという感じ。  高校生に異能力はネタとしても他の所で結構見掛けていそうなもの。それぞれの能力自 体も読んだ感じでは同じ。ただ物語の中、その異能力は皇莉や胡桃や継也と同じ能力を持 った者達との間にあって、一体どのように解釈されているか? ここが《異質な誘導体》 という言葉を使い独自の発想で練られていて、面白いと感じさせられた所。  とは言っても異能力そのものに関しては、とりわけ新鮮味があったわけでも目を引くよ うなものがあったわけでもなく、どこかで似たようなの見た事が……なんて気持ちは少な からず抱いていたようで。なので皇莉+胡桃のようなやつをあともうひと捻りふた捻り工 夫して盛り込んで見せてくれてたら良かったかも。  キャラクター描写は皇莉・胡桃・継也に加えて鞘香と、それぞれの際立った個性がお互 いに絡む事で更に引き立て合ってるのがいいなーと思いました。個人的には継也の性格心 情その他諸々が凄く好きなのですが、胡桃に抱く気持ちと皇莉へ向ける気持ちが重なって るこいつは、酷く心中複雑でぐるぐると渦巻いてるんだろうなぁ。  黒幕はまあ分かり切っていたけど、明かすタイミングとしては絶妙だったのではないか なと。おそらくどう見てもこれで終わりとは思えないので(むしろ始まったばかりか)、 能力を駆使した戦いもそうだけど、仲間内の心情なんかもじっくり絡めて見せてくれる事 を期待したいです。それと今回は最初から《異質な誘導体》の能力を持っている事が前提 として描かれていたので、何時・何処で・何故(何が原因で)覚醒したのか……ここら辺 にも更に深く突っ込んで見せて欲しい。


戻る