NOVEL REVIEW
<2003年04月[中盤]>
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04/19 『シルフィ・ナイト』 著者:神野淳一/電撃文庫
04/17 『アリソンII 真昼の夜の夢』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
04/15 『灰色のアイリスIV』 著者:岩田洋季/電撃文庫
04/14 『頭蓋骨のホーリーグレイルIV』 著者:杉原智則/電撃文庫
04/12 『ヴァルキュリアの機甲IV 〜乙女達の楽園〜』 著者:ゆうきりん/電撃文庫


2003/04/19(土)シルフィ・ナイト

(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:神野淳一/カバーイラスト:成瀬裕司         /本文イラスト:タ・カーナ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第9回電撃ゲーム小説大賞『選考委員奨励賞』受賞作。  背景に流れているのは圧倒的優位に侵略を進める側の帝国空軍と、劣勢で必死に食い下 がろうとする王立空軍との戦争。けれども戦争そのものを見せる事が目的ではなく、戦闘 機の格闘戦を見せる事が目的でもなく、主に複座型の戦闘機を駆るライムとジーンの触れ 合いを描く事に重きを置いている物語。戦争も戦闘機乗りとしての戦いも、あくまで二人 の関係を盛り上げる為あるいは引き立てる為の手段に過ぎないと言った所。  ライムとジーンは所属する部隊が一緒なら搭乗する機体も一緒、部屋も仕切りを立てた ようなものでほぼ同室同然。そんな環境だから顔を合わせて隣りに存在する機会も数知れ ないわけで、お互い自分のパートナーを意識して惹かれて好きになってゆくのもお約束。  とは言え、一番見せたいものが“二人の関係”としっかり定められているので、戦闘機 での出撃から休日のプライベートまで何度も何度も二人で居るシーンを重ね、絆を深めて ゆく過程が丁寧に描かれていて心地良く感じられました。  何度も冷やかしを受けては赤くなり、何度もジーンを想っては頬を染めるライムが可愛 らしいです。ジーンの方も真面目だけど堅物だったり奥手でハッキリしない性格というわ けではなく、ライムを気遣い大切に想い絶対守ってみせるという信念を見せる姿が好感触 でした。ただ、ジーンがもう少し復讐に固執する質の方が、彼を想うライムの心に複雑さ が出て良かったかな? と感じる所もありましたが。  ほとんどが夜間飛行の迎撃任務なので、空中で格闘戦を繰り広げるような派手さは少な くどうしても地味に感じたりも。しかし夜間飛行を中心に描く部分そのものに新鮮味があ って、ライムの特性を活かした所が面白さのポイントと言えるのかもしれない。加えて登 場する戦闘機の種類がかなり豊富で、どれにも搭載エンジン数と座席数を表記する事によ って大きさや性能が想像し易いというのも特徴的。  毎回の出撃がやや繰り返しな作業的に感じてしまったのは、向かう先(帝国側)と戦い の場に興味を惹かれるものが存在しなかったからかな? つまり魅力的な敵役が欲しかっ たのと、魔法という設定が戦闘機の戦いにもっと活かされて欲しかったのと。  なんでもかんでも受賞作に続編を想定して考えるのはどうだろうかとも思うけれど、戦 争自体は終結したわけじゃないので、もしあれば足りなかった所は次に期待してみたい。 2003/04/17(木)アリソンII 真昼の夜の夢
(刊行年月 H15.03)★★★★ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前回学校の授業と称して東西戦争情勢を作中で解説していたように、今回も聞いてなか った友人に対してヴィルがイクス王国を語って読み手に説明する手法が取られていたり、 久々に再会したアリソンとヴィルも前回同様ドライブしていたり……と、何となく以前と 似通った展開に感じられて前半は少々退屈気味でした。  が、中盤以降は心地良い加速と共にぐいっと惹き込まれてしまい、そこから一気に突っ 走って最後まで止まらなかったです。戦闘機乗りの話はやっぱり陸を走るより空を舞う方 が一層躍動感溢れていて良いなと。正確にはアリソンとヴィルが飛行機で離陸する時に騒 動を起こした辺りからですが、街中を戦闘機で駆け抜けたり断崖絶壁から楽しげに離陸を やってのけたり、他にも地下牢の鉄格子をぶっ壊して脱走を図ったりと無茶苦茶で大胆な 行動力を発揮してる所にアリソンらしさが目一杯描かれていて面白かったです。  ヴィルの方も一見振り回されているように見えるけれど、実はアリソンのどんな突飛な 行為に対しても全く動じてないのは彼女の事を誰よりも知っているから。この二人は一緒 に居る事に何の違和感も無い自然体で、もう好きとか嫌いとか感情を一々言葉にしなくて も常に意識しなくてもお互いの心を理解し合える関係なんだと思います。性格上アリソン は行動力で、ヴィルは思考力で気持ちを表す事が多いけれど。前回よりもずっといい雰囲 気でこの二人の関係が描けてたなという印象。「一緒に部屋に一緒に……」と文法乱した 台詞を言ったり(P113)とかベネディクトとフィオナに見せ付けられて「理不尽よ!」 と滅茶苦茶に戦闘機を操縦したりとか、特にアリソンの行動には随所に可愛らしさが感じ られて非常に良かったです。  最終的にはアリソンとヴィルが脇で助力してベネディクト&フィオナを主役へ押し上げ たような感じで、結局階級落すどころか益々知名度を上げる事になってしまったベネディ クトはどう転んでも英雄の道しか選べない存在なんだろうなぁと。まあ益々気苦労が絶え なくなりそうなのはご愁傷様だけど、それに見合った役得も充分あったんだからいいじゃ ないのよ……とアリソン辺りが言ってそうな気もします。  前巻で戦争が終わり一度完結を見た後に位置付けされた続編としてどうかと思ってたの ですが、前半ちょっと飽きそうになったのを差し引いてもなかなかに楽しめました。この シリーズは年1冊くらいのペースでもいいので是非続けて書いて欲しいです。  あとはあとがき&裏折り返しの著者近影……毎回色々やってくれますねホントに。とり あえずこの人のあとがきは、最初に読みたいのをぐっと堪えて我慢して最後に回すのが良 いだろうかと個人的には思うのですが。読後の一服としては間違いなく最高だろうなと。  既刊感想: 2003/04/15(火)灰色のアイリスIV
(刊行年月 H15.03)★★★★ [著者:岩田洋季/イラスト:佐藤利幸/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  駄々をこねる子供の児戯に等しい美木響紀の思想に基づいた計画と、身を焦がしそうな 怒りの激情を伴った奏との対立も一応今回で決着。とりあえず危惧してたような悲惨な展 開には進まなかったのでホッと一息。けれども奏の怒りの全てが殺戮を尽くした異空眼者 達へ向けて放たれたかどうか、と考えると少々不完全燃焼だったような気も。そういうの は読んでいてスッキリしなくても、話の展開上で納得のゆく理由が描かれているので仕方 ないかなという感じではあるのですが。  奏の激怒を放つのに、イリスの圧倒的な能力とただ奏だけを想う異常なまでの恋慕と未 来に向ける嫉妬の念が大きく立ちはだかっている。奏にとって殺したい程憎い相手なのに 異空眼者の能力では遠く及ばず、そして何故こんなにも自分に想いを押し付けてくるのか 分からない……この辺のどうにもならないジレンマを抱く奏の心情がよく描けてるなと思 いました。何故ここまで精神の均衡が異常なのか――少なくともイリスの奏に依存する理 由がハッキリしてきた事で、奏の感じ方に微妙な変化が見えていたかなと。  イリスの想いに惹かれるとか可哀相に感じたりとかは決して無いんだけど、自分と未来 にとって一層無視出来ない存在となり、気持ちだけ乗せても力じゃどうしても敵わない奏 の姿に完全燃焼し切れない歯痒さを感じてしまったのかも知れないです。  敵側の心情もそれぞれ複雑に絡んでいて、中でも礼と光奈の関係なんかはいいなーと思 ってただけに、決して許されない行為だったとしても何とかしてやりたかったという思い で、無性にやるせなさを感じてしまいました。  今回絶望と孤独に立たされた奏がどうやって復讐して見せるのか? ここが興味深い所 でもありました。思えば翠朧はこの為の温存だったのかぁ、という感じで展開上どうして も鮮やかにとはいかなかったけど手応えはそれなりにで面白かったです。  ただ、奏と未来の再会があまりにあっさり果たされてしまったのが個人的に引っ掛かっ た点。こうお互いに押さえ切れない想いを溜めて溜めて溜め込んで、ラストで一気に爆発 させてくれた方が良かったになという不満感がどうしても拭えなかったです。  あとは前巻あれだけ事を大きく広げた敵役達が、潰える時はやけに呆気なかった感じも あったのですが、美木響紀の思想の幕切れなんて所詮こんなもんだろうと妙に納得出来る 部分もありました。    未来の異空眼の秘密とかイリスの存在とか、それにずっとほったらかし気味だった時空 狂いについても大体今回で明かされた事によって、最終巻へ向けて良い具合に加速が掛か ったような感じ。果たしてどういう結末を見せてくれるのか楽しみに待ちたいです。  既刊感想:IIIII 2003/04/14(月)頭蓋骨のホーリーグレイルIV
(刊行年月 H15.03)★★★☆ [著者:杉原智則/イラスト:瑚澄遊智/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前巻までで、遼馬・咲夜・弘人にとって敵対しなければならない相手や為すべき事へ向 かう道みたいなものが大分明確になって来たので、ようやく話の展開が大きな転換期に突 入するかと思いきや、まだ今回も寄り道に逸れてるような内容でした。そもそも当面の敵 である陽馬が本編に全然絡んでなくて、彼の『使い魔』であるシスター・リリィがちょっ とだけ関与した程度だったので、何となく意気込みを削がれてしまったような気分。  しかしながら、シリーズと言っても1巻毎に別々のエピソードを描くスタイルを取って いる中で毎回なかなかの見所を持っているのですが、今回はこれまでで一番読み応えあっ て良かったように感じられました。大きな要素としては弘人の潜在能力が徐々に開花して ゆく所にあるのかなと。やっぱりこの物語は彼が成長を見せて、ひとまわりもふたまわり も強くなった姿を見せてくれると俄然盛り上がりが出て来て面白い。相変わらず危機の連 続だったりするんだけれど、遼馬が関わらずに自力で強敵を退けたのって初めてだったん じゃないかなぁ。最初単なるチンピラ風情だった青年が、巻き込まれて成り行き任せなが らも遼馬の背を追ってよくここまで成長したもんだと嬉しくなってしまいました。  あとは咲夜がヒロインの立場として活躍してくれたら言う事なしだったのですが、こち らはまたしても微妙な扱い(しかも今回は敵に利用されるっていう散々な役回りだった)。 少なからず意識はしてるんだから、せめてもうちょいと弘人と近付いてくれると読む楽し みが増えていいんだけど。それは新キャラの美雪に丸ごと持っていかれてしまったし。  いや、美雪も咲夜に劣らず印象的で凄く良いキャラなので、今後是非レギュラーとして 弘人に好意を抱いて接し、咲夜をやきもきさせる存在になって欲しいものです。  もっとも、今回のエンディングから今度こそ本当に物語が大きく動くだろうと感じさせ られたので、そんな甘い展開にはなり難いような気もしますが……。ともあれ、遼馬と咲 夜の行動に対して弘人がどんな風に動いてゆくのかが楽しみな所。  既刊感想:IIIII 2003/04/12(土)ヴァルキュリアの機甲IV 〜乙女達の楽園〜
(刊行年月 H15.03)★★★★ [著者:ゆうきりん/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  シリーズ最終巻。この物語は一貫してG・O(ジャイアント・オーガニック)と人類の 切り札であるヴァルキュリアと、その中で入り乱れる各国や組織の思惑が複雑に絡めなが ら世界存亡を賭けた戦争を描いたものだったな、と読了した改めて感じさせられました。  そういうのを抱いたのは、巨人族とは言え5人の娘に囲まれた隊長が主人公という設定 なら少なからず日常的な中での心の触れ合いを意識した作り方をしてもおかしくなかった だろうけど、それよりも常に戦争の中に身を置く彼女達と竜一郎の行動と心情を重視した 展開だったから。正直最初は設定でありきたりに隊長取り合っていちゃつくコメディなノ リをメインでやるのかなーそんなのダラダラやられても嫌だなーとか、いきなり先行き不 安でした。その点であくまで途中の息抜きとして竜一郎とヴァルキュリア達の日常風景を 織り交ぜ、G・O殲滅を目的とした戦いを軸にハッキリと方向性を定めて短期決戦(4巻 完結)できちっと描き切った所が凄く好感持てて良かったです。  ただ、ヴァルキリア達には恋愛と失恋を経験して新しい恋に目覚める要素があったので、 戦い以外で竜一郎との交流が多い程、ひとつひとつのシチュエーションがもっと際立って 印象的なものになってたかなと。シビアな展開続きたっだヴァルキリア達に、普通の女の 娘みたく振舞えるようなエピソードを持たせて欲しかったとも思ってしまいました。  今回は前巻であんななってどうなるの? とやきもきしてた所やっぱりこうなったかと。 しかしよく描いてくれたなぁと思った例のシーンは、作中で直視してた男達の気持ちがよ く分かったというか……流石に蛇はつい想像してちょっとキましたが……。  もしロキが本当に愛していて本当に彼女達の子供だったとしたら、更に泥沼で救いよう が無くてぞっとしない展開に……なんてあって欲しくないけどありえるんじゃないかとい う可能性も危惧してたけれど、とりあえず意外と無難かなと思いつつもホッとしました。  ラストに関しては、なんだかもの凄く寂寥感を覚えてしまって素直に喜べない所もあっ たのですが、それでもヴァルキュリア達も竜一郎も互いが共に生きる道を選んでくれたの は良かったという思いでした。G・Oとの戦いの合間でもエピローグ後でもいいから、今 後外伝で竜一郎とヴァルキュリア達のエピソードを描いて欲しいなぁ。    既刊感想:IIIII


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