NOVEL REVIEW
<2003年06月[後半]>
] [戻る] [
06/30 『エレメント・マスター セルフィス様は馬耳東風!』 著者:弐宮環/富士見ファンタジア文庫
06/29 『ラキスにおまかせ2 明るい未来の探しかた』 著者:桑田淳/富士見ファンタジア文庫
06/28 『ディヴァイン・ハート2 冷静と情熱のジルバ』 著者:あおしまたかし/富士見ファンタジア文庫
06/27 『竜皇の凱歌 アーヴィン英雄伝2』 著者:北沢慶/富士見ファンタジア文庫
06/26 『ジェスターズ・ギャラクシー2 翠の星の愚神ども』 著者:新城カズマ/富士見ファンタジア文庫
06/25 『トリシア先生、大手術!』 著者:南房秀久/富士見ファンタジア文庫
06/24 『スプラッシュ! 紅の水巫女、疾る』 著者:三田誠/富士見ファンタジア文庫
06/23 『VarofessI』 著者:和田賢一/富士見ファンタジア文庫
06/22 『ジオメトリックシェイパー 百鬼夜行にカミは笑う』 著者:紙谷龍生/富士見ファンタジア文庫
06/21 『攻撃天使2 〜ブラックダイヤモンド〜』 著者:高瀬ユウヤ/富士見ファンタジア文庫


2003/06/30(月)エレメント・マスター セルフィス様は馬耳東

(刊行年月 H15.05)★★★ [著者:弐宮環/イラスト:森井しづき/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第14回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  精霊召喚の話で、風精霊セルフィスが彼女を使役する召術師の結を平然とオモチャ代わ りに扱き使い苛め抜いて好き勝手やってるというもの。けれども普段からぶっきらぼうな 性格で結をぞんざいに扱ってるセルフィス、相手に好意的な感情を向けるのが面倒臭いの か苦手なのか照れ臭いのか、心の奥底に捻じ伏せてるが実は結を随分気に掛けてる所も存 在し、それが結の危機的局面に反応して激情を伴い表に浮かび上がってくる。  と、主人が下で従者が上という主従関係なわけですが、セルフィスの結に対する気持ち も含め、読んだ印象からしてきっぱり割とよくありそなパターンに展開と思いながらも、 日常でのセルフィスと結の関係は(主に力関係が)単純明快に面白可笑しく描かれていた のではないかなという感じでした。  作中では、何かあるなとちらつかせていおいて焦らしながら徐々に明らかにさせてゆく 所がちらほらと。途中である程度予想は出来るし意外性のある展開でもないけれど、都笠 の事が語られるのと澪との関係を描いているシーンは結構な見所で良かった。セルフィス と結の過去の見せ方もそんな感じだったけれど、こちらはもっと詳しく知りたかったので、 どちらも佳境に入った辺りでもうちょっと詳しく見せてくれていたらなと。  気になったのはこの物語の題材でもある精霊と召喚術師について。ファンタジーな内容 には本当によく扱われているものなので、余程うまく料理しないと類似的・ありきたり・ 二番煎じその他色々が付きまとう羽目になってしまう恐れもあると思う。  で、この物語について感じた事。精霊召喚の事や精霊同士の戦いなどそれなりにしっか り描けてはいるけれど、それ以上の手応えは掴めなかった。この物語ならではの味付けが あまり見れなかったのはちと残念。もしもっと精霊召喚に特化して徹底的に深く描き込ん だ内容だったなら、手応えはまた違ったものになっていた……かも知れない。 2003/06/29(日)ラキスにおまかせ2 明るい未来の探しかた
(刊行年月 H15.05)★★★☆ [著者:桑田淳/イラスト:秕帷苓/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  前巻からの持ち越しで、皇帝の我侭引き摺って勅命を果たすべく知恵を絞って作戦考え 苦労に苦労を重ねて頑張ってみれば、待っていたのはお偉いさん方の嫌悪に満ちた言葉に 冷たい視線の数々。それらをぶつけられ突き刺されられ、なのに反抗反論噛み付く事さえ 許されないラキスは不憫と言えばあまりに不憫。  普段の状況があまり不遇に感じられないのは、持ち前の明るさとへこたれない前向きな 姿勢があればこそ。しかし一度お偉いさん方の前に立たされるとラキスの前傾姿勢もしお しおで、発言どころか存在意義すら許されないような雰囲気は彼女ならずとも悔しさが滲 んでしまう。こういう所で思いっきり感情移入してるような私は当然ラキスみたいなキャ ラは大好きです。話の内容の良し悪しがどうであれ、毎回ラキスの魅力を引き出して描い てみせてくれるなら、充分この物語を楽しめるよう導けるのではないかなと。とりあえず いつかはラキスを見下してる高位の連中を、ぐうの音も出ないくらい徹底的にへこませて 欲しいものです(既にラキスの行動で頭を痛めさせるのには成功してるけれど)。  今回はまた皇帝の決定一つでラキスが置かれる状況も忙しなく動き回り、雪山苦行で龍 と対面したかと思えば今度はドワーフの王に会う為に地底世界へ落ちてしまったり。  ラキスが為すべき事も“皇帝に龍を食べさせる”から“皇帝と龍の同化を防ぐ”へ移行 したり……と話の流れに退屈させない面白さがあって、前に感じられたイマイチなバラン ス具合も断然良くなってたかなと。ただ、前巻でがちがちに説明調だった舞台背景の描写 は結構気に入ってたので、それが今回形を潜めてたのは少々寂しい気持ちでしたが。  欲を言えばラキス以外の仲間キャラがもう一つ。ラキスが作戦の要だからてきぱき指示 出すのは頷けるけど、彼女の存在感に飲まれてる気がするのでもうちょい負けないくらい の目立った自己主張が欲しいかも。役割分担で地味になるのは仕方ないかも知れないけれ ど、個性は強いのでうまく描けばラキスとの相乗効果で更に面白く成り得ると思う。  既刊感想: 2003/06/28(土)ディヴァイン・ハート2 冷静と情熱のジルバ
(刊行年月 H15.05)★★★☆ [著者:あおしまたかし/イラスト:こやま基夫/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  前回、同じ天嵐高校の竜舞闘部と竜舞闘同好会が竜舞闘大会代表出場を賭けて戦い、見 事陣&キリアが所属する同好会が勝利し出場権を獲得。さあこれから地区予選が始まり、 全国大会へ向けての第一歩を踏み出すのかー……と読む前から意気込んでたのに、冒頭が いきなり予選決勝であっさり全国大会出場を果たしてました。予選とは言え、正式な大会 ではどういうルールで陣とキリアの相手はどんな奴で戦いはどうなるのか? なんて想像 も巡らせてたのにそりゃないよ〜な展開にかくりと来ました。  まあ陣の目標はもっとずっと遠い空の高みにあるので、予選の中継をタラタラやってた らなかなか話が先へは進まない。それに陣とキリアの新人ペアがまだまが発展途上中でも、 他のメンバーである遊子さんといおりんが恐ろしく強いので予選如き楽勝の余裕綽々だっ たんだろうというのもよく分かる。だけどそれでもこうも簡単に進んでしまっては、全国 大会への切符を得た時の苦労が報われた喜びも感慨もそれに浸る余韻も何もあったもんじ ゃないだろ〜、となってしまったわけです。  もっとも、そういう楽勝で余裕ムードに浸り切ってる陣とキリアの状況があって今回の 話への繋がりを描いて見せてるのかな、とも思いましたが。無意識の内にいい気になって 増長して、痛い目見て指摘されて初めて己の不甲斐なさ情けなさに気付かされる――これ だけ王道で分かり易くお約束で先読みし易い内容だと、潔さが却って気持ち良く感じられ ます。ただ挫折を味わった分だけ戦う度に成長を見せてゆくパターンは前巻と似たり寄っ たりだったので、もうちょっと捻って欲しい気持ちも大いにあったけれど。  キャラクターは前巻同様に楽しく賑やかで面白い。それにしても遊子さん、出番縮小気 味なのに相変わらずな存在感。面白いんだか厳しいんだか恐いんだか心の内が全然掴めな いし、かなり顔が広くてあちこちにコネ持ってるし。あまり本音を見せず底が知れない彼 女の“本気の強さ”は一体どれだけのものなのか、今後の展開で見てみたいかも。  既刊感想: 2003/06/27(金)竜皇の凱歌 アーヴィン英雄伝2
(刊行年月 H15.05)★★★★ [著者:北沢慶(原案:安田均)/イラスト:堤利一郎/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  前巻の続きで六門世界・六王国時代の救世主アーヴィンの英雄伝……ではなくて、時は 流れ40年後の世界、前巻のアーヴィンの孫で同じ名を受け継ぐアーヴィン・クロゼイル ・ジュニアが主人公の物語。前巻のアーヴィンの物語が非常に面白かったので、そのまま 続くだろうと全く疑わず楽しみにしていた身としては、読む前にあらすじに目を通した時 点でいきなり肩透かしを食らってしまったというのが正直な所。  続けようと思えば何の問題もなく続けられただろうに、何で孫のエピソードに変わった のかと疑問に思ったのですが、それは安田均氏のあとがきを読んでほぼ納得。現在のモン コレで『アーヴィン英雄伝』とシンクロする最新セット、40年後の設定である『竜皇の 凱歌』と合わせて描いた物語の為、孫のジュニアのエピソードになったそうです。  中身に関して、前巻の面白さまでにはちょっと届かなかったかなぁという印象でしたが、 アーヴィン・ジュニア(本編で本人は未熟な身で英雄アーヴィンの名を呼ばれるのが嫌で グレイと名乗ってます)のキャラクターが凄く良いなと思いました。  特徴と言えば逃げ足の速さ(脚力)があったり、弱いくせに格好つけでハッタリかまし まくった結果自業自得で危機に晒されたり。そのくせ気概だけはいっちょまえ、運の強さ も味方につけてヘッポコ騎士から守りたいものの為に成り上がろうと足掻く姿は、グレイ が紛れもなく英雄アーヴィンの血を受け継いでいる事の証明で、性格や気質があまりに祖 父のアーヴィンとそっくりなので思わず苦笑してしまいました。弱いグレイが戦わざるを 得ない難所で発揮した召喚術の力が、本当の実力ではない所なども実に彼らしいです。  アーヴィン英雄伝の真実を知って嫌悪を抱いてしまったグレイが、これからどう成長を 遂げて祖父とは違う英雄伝を作り上げてゆくのか? 戦争が勃発しそうな人間族とリザー ドマン族の情勢やグレイと離れ離れになってしまったハサエルの状況、それからグレイと 敵対関係になりそうなガリアーノの正体とリューナの不思議な力の秘密……など色々な謎 や問題が残ってるけれど、グレイの物語は次巻以降も続くそうなので期待したい。  既刊感想: 2003/06/26(木)ジェスターズ・ギャラクシー2 翠の星の愚神ども
(刊行年月 H15.05)★★★★ [著者:新城カズマ/イラスト:おもて空良/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  やはりこの帝国銀河騎兵<鮮血の天使>達には“面白い奴等”という言葉が色んな意味で 非常によく合っており、また賞賛に値するのではないだろうか……とは彼らが立ち回る姿 を読んで勝手に思い込んだ事ではありますが。  頭を使い計算ずくで行動する奴もいれば、考えなしの行き当たりばったりで事を起こし 常にトラブルに見舞われる奴もいるし、それに引き摺られてとばっちりを食う奴もいれば、 他人の隙を突いては遠慮なくずばずば物言う奴もいる。個性的過ぎる奴等は個々の能力に おいて非常に高レベルなものを持ちながら、一度行動してみるとどこか格好がつかず見よ うによっては滑稽に映ってしまうのが、実は最も面白く彼等に愛着が湧いてしまう所。  もっとも、普段のそういうバカやってる姿があるからこそ、命を賭ける正念場では何が 何でもやるべき事をキッチリ決めようとする姿に格好良さを見出せるのだと思います。  今回の中身に関しては、途中で引っ掛かりを覚える事もなく引き込まれるように一気に 読めて面白かった。特にアルロンが深く触れたクナーヤは、行動的な面からも真っ直ぐに 主義主張や強い意思を貫き通そうとする感情的な面からも、退屈するのを忘れさせてくれ るような魅力溢れるキャラクター性が好印象でした(冒頭とラストに登場してる少女って ……どうなのかなぁ。わざとハッキリ見せてくれないんだろうけど凄く気になる)。  終盤のザウルムーナ脱出劇から無茶苦茶で派手で命懸けな救出計画までは、クナーヤと ユンガル公爵との会話、ユスタンの艦でのユンナの罵声、氷点下八十度下でアルロンが呟 いた想い人の名、革命家の若者の演説と脱出の時の一言……など様々な言葉が想いとなっ て凝縮されていて非常に読み応えがあり良かったです。  どうやら物語は現在の共和国暦から遡って銀河騎兵の歴史を紐解くかのように回想し、 帝国暦末期に活躍した彼等の様々なエピソードを綴りながら、既に決定付けられた帝国滅 亡まで進めてゆく形になりそう。だから帝国側に付いてる彼等に良い結末が与えられるか どうか? というのは容易に想像できてしまうわけですが、それでもこればかりは今後を 待ってみなければ分からない。願わくば重苦しくしんみりとはならず、彼等らしい明るさ と潔さを抱いた結末であって欲しい。  既刊感想: 2003/06/25(水)トリシア先生、大手術!
(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:南房秀久/イラスト:小笠原智史/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  シリーズ第4巻。休暇を終えてレンと暫しのお別れでアムリオン王都に戻ったトリシア を待ち受けていたのは怒涛の試練と運命の転換点。前半はいつものようにドタバタやって いるけれど、終盤へ向かうに連れてシリアスに展開しています。  今回はとりわけトリシアの素性について、色々憶測が飛び交いながら新しい事実が明ら かにされている所が興味深い。何かトリシアを知っている風でありながら当人は全く得体 が知れない存在の夕闇や、トリシア自身に隠された秘密を繋ぐ“癒しの御子”“仙境”の 言葉の意味など、気になる要素がてんこもり。物語が転換点を迎え大きく動き出したとい うのがひしひしと伝わってきて、今後の期待感と面白さが感じられて良かったです。  ただ、今回もまた話の組み立て方にう〜んと唸ってしまった所が幾つか。最初に助けた 患者が、後の展開の伏線としてトリシアの心に多大な影響を与えるよう描かれているのは いいなと思ったけれど、彼女の挫折から立ち直りまでの過程を短編の2、3エピソードで 終わらせるには少々勿体無い気がしました。急ぎ足とまではいかなくても、やけにあっさ り済まされてしまったような……。初めての挫折から命を賭けた壮絶なアムとのやり取り を経て立ち直る姿というのは、トリシアの心の成長をストレートに見せている部分ではな いかと思えたので、極端に言えば1冊丸々費やすくらい丁寧に描いて欲しかったです。  この物語は短編同士を繋げて1つの大きなストーリーを構築しているので、うまく前後 のエピソードが噛み合ってないと全体的に見てイマイチとなってしまう。結構この構成で 損をしてるかなぁと思う事もあるのですが、今回は比較的うまくまとまっていたかな?  やっぱり長編より連作短編向きではないかなぁという気持ちは変わらず。でも話がこれ だけ動いてしまってはそうも言っていられない。成長著しく男っぷりが上がったレンとの 微妙な関係、夕闇の素性、思い掛けない行動に出たアンリの行方に戦争の危機にある五大 国家間の動向、そして何よりトリシア自身に隠された多くの秘密。これだけ一気に噴き出 した要素を今後どう料理して描いてみせてくれるのか楽しみです。    既刊感想:トリシア先生、急患です!       トリシア先生、奮闘中!       トリシア先生、休暇中 2003/06/24(火)スプラッシュ! 紅の水巫女、疾る
(刊行年月 H15.04)★★★★ [著者:三田誠/イラスト:PEACH-PIT/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  太陽の光に溢れた水の国クレーネーの気候・気質の清涼感、水上を隅々までウォーター バイクで疾り抜ける爽快感、そして落ちこぼれ水巫女見習として運び屋としてへこんでも めげずに一生懸命で常に前向きな元気少女エリシャの開放感など、とにかく物語の中で実 に気持ち良く心地良く描かれているなぁという印象が強かったです。  基本的には運び屋エリシャと、彼女の相棒で味覚が狂ってるとしか思えないキャンデー を開発・なめなめするのが趣味&トリガーハッピーな変人記録官ドクターが騒動を繰り広 げるコメディ色。けれども笑える事ばかりではなく、かつて戦争を起こし休戦中の今でも 緊張が続く隣国ヴァイツハイトとのごたごたに巻き込まれ、陰謀により窮地に立たされて しまったりと冗談で笑っては済ませられないシーンも結構盛り込まれている。  それから謎として伏線を張り今の所はまだ隠しておこうとしてる事柄も適度に盛り込ま れていたりで、全体的に面白いなと思える部分や伏せられている事が気になりつつも興味 を引かれる所が多く、読んでいて楽しく感じらたのは良かったです。  物語の面白さに影響しているのはキャラクターの個性と存在感が大きいようで、主要キ ャラは皆好感持てる要素を抱えてたのですが、私は一番はエリシャよりもモニカでした。  硬質な性格がエリシャに関わる事で徐々に徐々にほぐれてしまい、自分のペースを乱し っ放しな姿が微笑ましくていいなぁと思えます。彼女の終盤の使い方も意表を突かれるも ので(それまで気付かなかったのは単に読解力不足なだけかも知れないけれど)、そんな 中でエリシャとの触れ合いから心を揺さぶられ葛藤する想いがよく伝わってきました。  一番印象に残ったのはエリシャ対モニカのウォーターバイク競走。燃えました。 2003/06/23(月)VarofessI
(刊行年月 H15.04)★★★ [著者:和田賢一/イラスト:人丸/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  第13回ファンタジア長編小説大賞『努力賞』受賞作。  一国の王子として生まれながらその顔は忌まわしき鴉の仮面のように覆われ、呪われた 姿のせいで国と母と大切な人を失い、そんな悲劇を演出し自らを陥れた魔術師に復讐を誓 い旅を続ける黒衣のヴァロフェスの物語。  ホラー&ダークファンタジーな世界観、主人公は過去の傷痕から深い闇を背負い仇敵を 追い続ける復讐者、その一向に掴めぬ敵対者は人間の心の闇に付け込み魔物に変えてしま う能力を持つ魔術師、旅の途中で出会った少女は過去の記憶を揺さぶり安らぎを与えてく れる存在……などなど、ストーリーからキャラクターから世界背景から言ってしまえば類 型的であり何時か何処かで見た事あるようなであり、という印象が強かったかも。ただ、 作中に流れる雰囲気なんかは、終始暗闇を背負ったような血生臭い陰鬱さ加減が割と良い 感じで表れていたんじゃないかなと思いました。  しかし色々と不足してるのは否めなくて、あちこち手を出したはいいがどれもこれも中 途半端で浅い描写のまま終わってしまっている……と読んでみて感じた事。ヴァロフェス の復讐劇から『叫ぶ者』との戦いやマクバとの確執を見せるのであれば、彼自身について や過去の出来事をもっと描いて欲しかったし、リリスの中にかつて心を許した存在を感じ ているなら彼女とヴァロフェスの触れ合いをじっくり見せて欲しかった。  ラストのマクバとの戦いにしても、イマイチ盛り上がらなくて良く分からない内に終わ ってしまったように思えたのは、結局そこに至るまでの物語の構築が足りなさ過ぎている のが原因だったのではないかなという気がします。せめてあともう100頁増で描いてく れてたら感じ方が少しは違ってたかも知れず。このラストからどういう風に続けて行くの か? よりも、果たして続編が刊行されるのだろうか? の方が大いに心配です。 2003/06/22(日)ジオメトリックシェイパー 百鬼夜行にカミは笑う
(刊行年月 H15.04)★★★☆ [著者:紙谷龍生/イラスト:篁龍士/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  シリーズ第2巻。御子神の関係者が“わらわら”とまではいかなくても少しずつ出始め て来て、その中で詩織と貴大の叔母であり後見人でもある涼音が、どうやら匠にとって黒 幕のような存在となりそう。まだ涼音自身が大っぴらには動いてない為、今の所匠との直 接的な接触もないですが、同じ御子神側の詩織や貴大にとっても味方にはなり得そうにな い様子なので、彼女の動向次第で今後どう展開してゆくのか気になる所。  前巻でこれがあればもっと面白くなってたかも、と少々惜しい思いをしていた部分が今 回はしっかり描かれていたので、ぐぐっと引き込まれる要素が多くて面白かったです。  まず匠を戦いへと駆り立てるようになった動機や戦い続ける理由、それから御子神との 確執や詩織、貴大との関係、更に匠と母・涼世の過去の事など。  余り多くは語られなかったこれらの事実が大分明確にされていたので、匠がどれ程の意 思と信念を抱いて戦っているのか、何故貴大が執拗に匠に絡み戦いを仕掛けようとするの か、この二人に対して詩織はどのような位置付けなのか……この辺りが物語の中で実にう まく噛み合っていたので良かったのではないかな思いました。  未だハッキリしないのは奈々の中にある能力の事。一応発現を見せてはいるけれど“何 故奈々がこういう能力を秘めていたのか”が結局の所よく分かっていない。終盤で和泉の 能力に触れているのも「どうして奈々にこんな事が出来るのか?」というものだったので、 奈々の事に関しては次巻以降に詳しく描いて見せて欲しい。  ただ今回で言えば、ちっちゃな和泉が涙を浮かべながら大切なペンギンのぬいぐるみを 依頼料として匠に差し出すシーンに撃沈されてしまったので、他はもうどうでもよかった ってのが正直な所。丁度挿絵付きな所が影響大きかったかも知れないし、その時の和泉の 状況も影響してただろうけど、訴えかけるように匠をじっと見詰める和泉の行為に凄く胸 に込み上げてくるものがあって強く印象に残りました。  既刊感想:桜に下にカミは眠る 2003/06/21(土)攻撃天使2 〜ブラックダイヤモンド〜
(刊行年月 H15.04)★★★ [著者:高瀬ユウヤ/イラスト:森田柚花/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】  世界観にしてもキャラクターにしても天使と人間が対立する背景にしても、決して悪い わけではないんだけれど、やはり全体的にはまだまだ軽く浅く弱く感じられてしまう。そ れは物語の展開であったりキャラクターの描写(特に感情の見せ方)であったり。  それでも表面だけは丁寧に形作っていても中身がサッパリ、という下手な小細工で急落 してしまった前巻よりは格段に分かり易く掴み易く入り込み易い内容(それだと今度は練 り込みが足らないとも取れてしまう微妙さはあるけれど)。2巻目でキャラクター達の個 性も少しずつ掘り下げて見せてくれるようになったかなという印象でした。  これまで気に入らない人間の殺戮を全く躊躇しなかった百川が、彩と出会って何かしら 影響を受けたせいか僅かずつ心境の変化を見せているのは良いかなと思えた所。なんだけ ど、前巻の印象から変わり方が唐突過ぎる気がしたので、そういう変化の過程なんかも百 川と彩の触れ合いを絡めてもう少しじっくり見せてくれてたらなぁと。実際二人がじゃれ 合ってるシーンもあるんだけど、そこからは百川の心変わりを余り掴めなかったので。  しかし彩がブラックダイヤを手にした時、すぐ側に居ながらその胡散臭さに何の疑問も 不信感も抱かない百川のどうしようもない鈍さと頭の悪さはどうにかならないものか……。  一方、彩の「皆の役に立ちたい、足手まといにはなりたくない」という焦燥・葛藤を含 んだ必死さや一生懸命さなどは、なかなか良い感じで描けていたかなと思いました。当面 百川達が敵対すべきキャラも出揃った所で、彩の心の闇から生み出されたモノが敵の手に 落ちて今後どう絡んでくるのか……良くも悪くも気になる所が多いので継続してみます。  既刊感想:


戻る