NOVEL REVIEW
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08/10 『第61魔法分隊4』 著者:伊都工平/電撃文庫
08/09 『ダーク・バイオレッツ4 死者の果実』 著者:三上延/電撃文庫
08/08 『シャープ・エッジ2 sink in the starless night』 著者:坂入慎一/電撃文庫
08/07 『シルバー・ウィング』 著者:神野淳一/電撃文庫
08/06 『鬼神新選 京都篇』 著者:出海まこと/電撃文庫
08/05 『クッキング・オン!II』 著者:栗府二郎/電撃文庫
08/04 『緑のアルダ 千年の隠者』 著者:榎木洋子/コバルト文庫
08/02 『流血女神伝 女神の花嫁(中編)』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
08/01 『フラクタル・チャイルド ストロボの赤』 著者:竹岡葉月/コバルト文庫


2003/08/10(日)第61魔法分隊4

(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:伊都工平/イラスト:水上カオリ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  61魔法分隊メンバーの一人一人が1巻ずつ主役を張り、リレーのようにバトンを渡し 続けてきた5巻完結予定の物語も佳境に入り、今回はキキノの番で全ての事象が集約され つつある王都ギースニデル編。かなり刊行ペースがゆったりだったので1、2巻辺りの頃 は「本当にちゃんと終わるんだろか?」と心配してたのも、完結が近いせいか何だか妙に 感慨深く懐かしさを覚えたり……という感じでしょうか。  これまでそれぞれ散り散りになり各方面の状況を主役入れ替によって描いて来た事は、 全部のエピソードが王都で繋がった今回により、その意図が効果として明確に表れ実を結 んだのではないかと思います。ただ、1巻ずつバラバラのものがお互い密接に絡み合い、 しかも関連する登場キャラクターが進む度に増え続けて来たので、間が開き過ぎると「こ れは何だったか?」と、この作品の中では記憶が薄れてしまう事も珍しくなかったり。だ から本音を言えば、もうちょい刊行ペースを早めて欲しかったかも知れない。  かなりの急転直下な今回の展開。登場人数が多くて端役までは追い切れないとか、魔導 兵器の発想ついては毎度の如くきらりと光るものがありながら少々複雑な設定で把握し辛 いとか、あれやこれやと突っ込みたい部分もありました。が、目まぐるしい変化を見せる 状況は決して退屈させる事の無いもので、様々な事柄が王都で一つに収束される過程や観 察庁舎内での陽動作戦とも言える攻防戦、そして魔導兵器による王都崩壊の凄まじさを描 いたシーンなど、実に読み応えある部分が多く面白かったです。  キキノが敵方の黒幕ウェル・マーカスト相手に、ここまでの立ち回りを演じて見せたの に驚いてしまったのは彼女の実力を見くびっていたという事(魔法杖を使って戦うなんて 事は普段じゃあまり見ないからなぁ)。大丈夫とは思うけど残った心配は大きいです。  ベルマリオン計画を実行させる真の目的も、ザイザスの思惑もウィルの目論みも大体の 事実は明かされ、それは理想の実現に向けて大層な意思を掲げているようで、実は私情・ 私怨が強く絡んだものに過ぎなかった。しかしザイザスとウィルの片方が残るものと思い きや、多少の謎を残しつつもわりと綺麗に片付いたような気もするので、ふと考えたのは じゃあ最後は一体どうなるのか? というもの。おそらくはまだベルマリオン計画の事が 残ってるので、謎にされたままの箇所と一緒に決着を付けるのかなと予想してますが、最 後にどう締めて見せてくれるのか楽しみです。  既刊感想: 2003/08/09(土)ダーク・バイオレッツ4 死者の果実
(刊行年月 H15.07)★★★★ [著者:三上延/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前々から、こんなに明良と近い場所に居るのに好きだとか気になるだとかの感情を全く 見せないのはおかしいだろう? 勿体無いだろう? と愚痴り続けていたのは明良の従妹 である岬の事。キャラとしての存在感はかなり印象に残るわりに作中で活躍するシーンが 余りに少なくて、明良や柊美みたく特殊な能力を持つ者が主力となるのは分かるけれど、 それにしても一般人で絡ませ難いのか岬の扱いが不遇過ぎると不満たらたらでした。  しかし今回、ようやく訴えてきた願いが報われたのか岬が目立ってます。印象に残るシ ーンが多いです。そして何より明良を好きかも知れないという感情が徐々に形を伴って表 面に浮上し、明良と柊美と岬で三角関係を確立させた点は「これをずっと待っていたんだ よ」という感じで一杯に嬉しかったです。  もっとも、柊美と岬の間でお互いに明良を想う気持ちが交わされただけで、当の明良は 柊美の感情は理解していても岬の感情は分かってないようですが。嬉しくても満足出来な かった最も大きな理由は、今回だけであっさり三角関係が片付いてしまったから。だから 前々から岬が明良と柊美に対して抱く微妙な感情の変化を積み重ね、溜めを作った状態で 徐々に盛り上げて行って欲しかったのに……面白味も増していたかも知れないと思うとや っぱり色々惜しい気持ちが残ってしまいます。  結果はおそらく予想するまでもなく、元々結び付きの強い明良と柊美の関係がここまで 深まってしまっては、誰が泣く事になるかは言わずもがな。命を削りながらも確固たる意 思で明良を好きと岬に告げる柊美の想いも辛いし、柊美に告げられて自分にはもう介入す る余地はないと悟ってしまう岬の気持ちも切ない。今回は特に柊美と岬の気持ちを描く部 分がうまいなと感じさせられたのですが、この二人のシーンは特に良かったです。  こんな具合でついつい本編の重要な所を置いてけぼりにしてますが、今回で物語の展開 は大きく動き、紫の能力の後継者・明良と柊美が為すべきは“神岡町を飲み込もうと迫る 『常世の闇』の存在を阻止し滅ぼす事”と結末へ向けての指標もしっかりと定められた為、 これまでより格段に手応えが感じられて面白かったです。でも柊美が隠してた秘密をとう とう明良に吐露した事で、更に救いようの無さが増してしまったような気もする……。    既刊感想: 2003/08/08(金)シャープ・エッジ2 sink in the starless night
(刊行年月 H15.07)★★★★ [著者:坂入慎一/イラスト:凪良/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  たとえ多くの欠点や足りない要素が明らかに見えてしまっていても、強烈に印象を植え 付けるだけの抜きん出た要素が唯一点あれば、それは欠点を一遍に覆すだけの持ち味に成 り得ると見事に証明しているなと思わせてくれた作品。2巻目にして既に独自の文章スタ イルを確立させているような所は、素直に凄いなと声に出てしまいそうな程でした。  この物語は設定やキャラクターの心情などを深く掘り下げて描かれているような性質の ものではないので、当然そこに期待して楽しむべき部分を探そうとしても肩透かしを食ら ってしまう。前巻でも感じた物足りなさは今回でも引き継がれており、つまり登場キャラ クター達の表情だとか誰かと誰かが接する事で生じてくる様々な感情だとか、この辺りの 淡白過ぎる描写から心理描写の浅さに繋がってしまう所。  ただ、今回読んでみて前巻とはちょっと違う印象を抱いたのも、この心理描写の不足と いう点。改めて考えてみれば、そもそもこの物語の中には感情が薄いか欠落してるか同じ 表情しか見せないか……とにかく何処か“まともでない”神経の持ち主がひしめいてる。  もしこれが“あえて心理描写を抑える事で逆にキャラクターの特徴を際立たせている” のだとしたら、感情表現の淡白さについても納得出来るだろうと思います(本当に狙って やっているのだとしたら脱帽するしかないけれど、実際の所は分からない)。  今回はカナメが成り行きなのか気紛れなのか深い意図はこれっぽっちもなく、単に「た だ道端に落ちてたから」拾った少女が実は感染型の魔女だった事から、少女の命を巡る抗 争に巻き込まれてゆく展開。最も惹かれたのは前巻同様で、一つ一つの単語や言葉を吟味 しながら繋ぎ合わせ形成されているような文章表現。飾り立てが巧く格好良いってのも変 な言い方かも知れないけれど、読んでいて凄く惹き込まれてしまうんですよね。  とりあえずサブリナが何者か分かっただけでもスッキリしましたが、カナメが拾った少 女・キラと、下を向いて生き続けてるキラの姉・ユイの関係が切なく悲しくやるせなくて 堪らなかったです。これがまた陰鬱で重苦しい世界に非常に良く合っていて余計に。  わりと多くのキャラクターが登場していて、魅力的なキャラもちらほら居ましたが、そ の大部分を1巻で使い切ってしまうのは潔いと思いつつ、ちと勿体無いなと思ったりも。    既刊感想: 2003/08/07(木)シルバー・ウィング
(刊行年月 H15.07)★★★ [著者:神野淳一/イラスト:成瀬裕司/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  前作『シルフィ・ナイト』と全く同じ時間軸で、ライム&ジーンとはまた別の王立空軍 部隊の物語。帝国空軍と王立空軍の戦争と戦闘機乗りの空戦という皮を被ってみせておい て、実は主軸としてメインに持って来ているのは、魔導騎士の少年と魔法使いの少女とい うファンタジックな設定を効かせた二人の恋愛ストーリー。  新しい部隊に配属されたマイアが同じ部隊のゼロとパートナーを組み、最初は慣れない 間柄と性格的なもののせいで打ち解けられないけれど、戦争での過酷な役割を背負いなが ら徐々に触れ会いお互いを知り深い絆が育まれてゆく。ゼロとマイアは同種の特殊能力を 有し、毎日狭い機内で一緒に任務をこなしてゆくのだから、こんな風に深い関係になるの も自然の成り行きで王道かつお約束事な展開と言えるでしょうが、分かり切っていても惹 かれ合ってゆく心情はいいなと感じさせてくれるものでした。  しかし今回どうしても気に入らなかった点があって、それは『シルフィ・ナイト』の時 と内容・構成・展開がほとんど一緒と感じられた事。両作品とも少年と少女の二人が戦争 の中で恋を育んでいる、というのは指摘するまでもないですが、むしろシリーズ通してそ れをテーマに掲げるのなら方向性がしっかり定まるので良い事だと思うのです。  引っ掛かったのは、二人の任務が敵機迎撃ではなく哨戒・索敵が主だったり、帝国と戦 う事より部隊の中での日常生活を描く事を重視していて、食堂で一緒に食事をしたり手紙 を受け取ったり貴重な非番にデートで一気に親密度が増したり、終盤では基地を爆撃され て二人は最終的にボス的存在の帝国機と戦いを繰り広げなければならなかったり……とに かく前作であったイベント群と非常に酷似していて、極端に言えばキャラクターを変えた だけの同じような話をもう一度繰り返し見せられた様な気分でした。  いくら何でもこれでは余りに芸がないだろうと思わされたのが大きなマイナス要素で、 折角帝国軍と王立軍の対立構図や、戦闘機に魔導機関・魔法力を用いるような魅力的な独 自の設定があるのだから、話の中身も捻って前作とは別の面白さを見せて欲しかった……。  既刊感想:シルフィ・ナイト 2003/08/06(水)鬼神新選 京都篇
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:出海まこと/イラスト:ヤスダスズヒト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  物語のベースになっている新撰組の事は有名どころの名前だけ2、3人知ってる程度、 明治初期の時代背景に関しても全く明るくなく、ほとんど欠片ほどの知識しか持たずに臨 んでみました。どうも時代小説・歴史小説に変な苦手意識があるせいか、最初は入り難い かなと思ってたのですが、意外と取っ付き易いという印象が大きかったです。  むしろ知識空っぽだったから余計な詮索&突っ込みを入れる事が出来なくて、あまり引 っ掛からずにすんなり読み進められたのかも……なんて事は、史実と照らし合わせオリジ ナリティを加えた時代・歴史小説に当たった時、毎度同じ様に思ってしまうのですが。  そんなわけで、主人公は新撰組二番隊長・永倉新八だぞと言われても「その人、誰です か?」と、登場人物である当の本人が聞いたら叩っ斬られそうな反応しか返せず。もっと も、ネタ元である新撰組の新八と容姿性格が一致してるかどうかは別として、物語上での 新八の気質などは序盤段階から丁寧な描写で掴み易く好感が持てて良かったです。  中身の大筋は、新しい時代の幕開けと共に滅んだ新撰組の怨念が人ではない異形のもの として復活を遂げ、生前為し得なかった野望を歪んだ形に変えて現世を地獄絵図に染めよ うと目論む……というもの。かつての同志で新八と同等かそれ以上の実力を持つ土方歳三、 沖田総司、原田佐之助ら(の亡霊)と敵対しなければならず、新撰組の中では元々戊辰戦 争を生き延びた新八だけが完全に孤立しているような非常に不利で厳しい状況。彼らの現 時点での目的は新撰組局長・近藤勇を完全に蘇らせる事。それが成就した上で何が起こる かはまだ分からないけれど、新八の立場が益々不利に傾いてしまうのは確実。  おそらくこれからどう新八が巻き返しを図って怨念を鎮めるのか? ここに見所の一つ が掛かってるのだと思います。ただ、今回全体が次巻以降へのプロローグ的位置付けとな っているので、期待する部分は今後へ持ち越し。他にも色々伏線敷くだけ敷きまくった状 態から、果たしてどんな風に展開して見せてくれるのかが気になる所。 2003/08/05(火)クッキング・オン!II
(刊行年月 H15.07)★★★ [著者:栗府二郎/イラスト:珠梨やすゆき/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  電撃hpで掲載された珠梨やすゆきさんのコミック版と、書き下ろし短編2話を収録し た計3本立て。順番はコミック→短編1→短編2となってるのですが、コミック版と短編 2が内容的に直結しているのに、それとは全く関係無い独立した内容の短編1が間に挟ま ってるものだから、ちょっとおかしな構成だなと首を傾げてしまいました。  コミック版が小説版の話と全然関係してないなら分かるけれど、もろに短編2話目に繋 がるような前フリ的な内容の上にコミック版だけでは全然話に決着がついてないので、そ れならこの二つを繋げた方が理解し易くて良かったんじゃないだろか? と、ストーリー に触れる前に中身の良し悪しと別な所で引っ掛かってしまったりも。  短編1は、宇宙調理師専門学校のいつもの落ちこぼれメンバーが、いつもの様に珍しい 食材を求めて、いつもの様にドタバタを繰り広げ、いつもの様にトラブルを巻き起こして しまうというもの。船に乗って巨大な回遊魚をゲットするのが目的で、やってる事はいわ ゆる海での漁の真似事なわけですが、違うのは場所が銀河航路上なのとターゲットが星間 回遊魚な事。やはりここで使われている『料理』とは、難儀な敵をどうやって仕留めるか =料理するか、が正しい意味なのだろうか(実際調理師専門学校のくせに“食材を調理す る”意味での料理なんて全然やってないような気がするし……)。  コミック版と短編2は風の父親が絡む話。関連して専門学校での有力者達が色々思惑抱 きつつ動いているようで、こちらが本筋だろうかと思わせる内容。どうやら風自身にも何 かが大きく絡んでゆくだろうと断片的に示す描写はあっても、ハッキリと次巻に持ち越し な展開なので『黙って楽しみに待て』という感じでまだ詳しくは分からない。  この特殊性と騒動の組み合わせは一見の価値ある面白さだと思うのですが、前巻同様ど うしてもストーリー描写の軽さとキャラクター描写の浅さが感じられてしまう。  大抵会話で繋いで流れを形作っているような印象だから、周囲の景色や様子やキャラク ターの行動が余り伴って来ないのかな……とも思う。もうちょっと話に肉付けして欲しい とか、折角変なキャラが揃ってるんだからもっと掘り下げてそれぞれ個性を活かす様な見 せ方使い方をして欲しい、なんて思う箇所が多くなるのは勿体無く惜しい所。    既刊感想: 2003/08/04(月)緑のアルダ 千年の隠者
(刊行年月 H15.08)★★★☆ [著者:榎木洋子/イラスト:唯月一/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズ第3巻。1巻がアルダ・ココ、2巻がウルファについての関連事が描かれた所 で今回は地狼ヨールの出番。千年前、東の果ての半島でヨールの身に起こった悲劇とは一 体どういうものであり、それによって守龍の姿は消えてしまったのは何故で、そして彼が 石化の呪いを受けて眠り続けてきた原因は誰によってもたらされたのか……。  一応ヨールの口からそれなりに語られてはいるけれど、最も肝心な“千年前に東の果て の半島で何が起こったのか?”の部分が完全に伏せられてるので、いくら悲劇的な出来事 と繰り返し強調されたとしても、おそらく謎が解かれない限りは響いてこない。その悲劇 とはヨールが強い罪悪感から自ら呪いを受け入れ背負わねばならない程のもの、とあって もそもそも彼の罪が何かという事を教えてもらえないから、どう反応すればいいのやらで 欲求不満が募ってしまいました。  もっとも、あとがきによればこの辺の詳細は過去の『守龍』シリーズを読んでいるなら 分かるとの事ですが、この作品は過去のシリーズを継承して描かれているような感じなの で仕方ないかなと言った所でしょうか。『緑のアルダ』から入った人にも分かるように現 在伏せられているのはおいおい明らかにしてゆくそうなので、過去シリーズ未読者はあま り心配せずに黙って今後の展開を待つ事にします。  思えば今回は新規登場キャラクターの星竜セインにしても、前巻からウルファを狙い続 けてる名前が明らかにされてない魔法使いにしても、誰かの話の中でだけ出てくる存在に しても、謎が多くてよく分からないなぁと感じてばかりだったような気がします。  おまけに王都ジャイバーラル目前なのに、道行の途中でまたしても足止め喰らってるよ うな展開だったし。王都突入前に3人の足並を揃える意味で、中継ぎ的な役割を担うよう な内容なんだろうなと呑み込めはしても、やっぱり読了時点でスッキリしない気持ちが抜 け切れなかった為にあともう一歩。ただ、ヨールの事で一旦ぎくしゃくしながら、事件解 決により逆に一層強い結束を得た3人の関係を描いた部分はいいなと思えるものでした。  次巻から、いよいよ舞台はアルダ・ココ達の守龍探しの旅の目的地である王都ジャイバ ーラルへ。本当に物語が大きく動き出すのはこれからだと思うので、色々蓄積されてしま った鬱憤を見事晴らしてくれるような盛り上がりに期待したいです。  既刊感想:石占の娘       荒れ野の星 2003/08/02(土)流血女神伝 女神の花嫁(中編)
(刊行年月 H15.08)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズの根幹であるザカリア女神に深い関わりを持つ、ラクリゼとサルベーンの幼年 期から成長期にかけてを描いた外伝。後編のはずが予定変更だそうで今回は中編。  ザカールの村を出てからの二人の運命の線は、波を描くようにくっついたり離れたりを 繰り返しているような感覚。一旦近付いて交差したかと思えば大きく離れ、そしてまた惹 かれ合うような交わるという風に。今の二人は心も身体も交差点のど真ん中で、どんなに 力を入れて引っ張っても交差の線は引き離せないだろうと思えるくらいの絶頂期でしたが、 再び離れて交わる事が無いのは既に本編での決定事項。先に希望を抱けない未来を知って いる所で過去が語られるのは、特に今回は束の間であれラクリゼにもサルベーンにも幸せ な時を感じる事が出来た内容だっただけに想像以上に辛くて堪えました。  どうもラクリゼにしてもサルベーンにしても、本編では最初素性の知れない謎の人物と いう印象で捉えていたせいか、何気ない行動や言葉の端々に本心を垣間見せていたかどう かまでは掴み切れていなかったような気がしてます。どちらかと言えばカリエやバルアン の方に気を取られてて、この二人の暗躍は「その内詳しく語られるだろうから、今分から ない所はそのままでいいや」と、見逃してしまってた所が多かったかも知れない。  お互いが相手の人生を狂わせてしまうかのように一変させてしまう程影響力を持ちなが ら、ここまで結び付きが深いものだとは正直考えてもみませんでした。二人の過去を理解 してから、本編ではどうだったか振り返る意味で掴み損ねたものをもう一度追ってみた場 合、最初に読んだ時とはまた違った感想を得られたりするのではないかなと。  それにしても相変わらずというのか、サルベーンへの責め苦が彼の内包してるどす黒い 感情の蠢きを助長してるような所はキツいです。読んでいて気持ちが荒んでしまいました。  ただ、こういうのがあってこそ、ラクリゼとの触れ合いにより徐々に変わってゆくサル ベーンの感情が際立っているのだとも思います。僅かながらの幸せは、この二人の本質か ら想像出来ないくらい穏やかで和やかなものでしたが、何だか後々の事を思うと余計に痛 々しくてやるせない気持ちになってしまう。ラストのラクリゼの選択が辛過ぎて……。    既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編後編             砂の覇王              女神の花嫁 前編       天気晴朗なれど波高し。 2003/08/01(金)フラクタル・チャイルド ストロボの赤
(刊行年月 H15.07)★★★☆ [著者:竹岡葉月/イラスト:オノデラ佐知/集英社 コバルト文庫]→【
bk1】  シリーズ第2巻。精霊が大きな力を持つ多層ネットワーク都市ライブラで、可能な限り 依頼人に代わって何でも請け負う『代行屋』を営む少年少女3人組の物語。  前巻で根幹に関わるような感じで結構出ていたライブラの創世者リヒト・オルベについ てや、カイと精霊世界の海に干渉することの出来る精霊使いについてなどは、今回でもま だ謎とされていたり伏せられている所が多い。同じようにリヒト・オルベの遺産兵器絡み で騒動が起こってはいますが、詳細に深く触れる程まで描かれていたわけではなかったの で、これらはもうちょっと話が積み重ねられなければ見せては貰えないのかも。  そんなわけで、ライブラ創世の時代や精霊使いにカイの能力の謎が語られなくて一体何 が語られていたのかと言えば、今回はもう単純明快でサキ、カイ、ジュラの代行屋稼業の 見せ場を余す所なく目一杯描いてる事でしょうか。  新興宗教団体同士のいがみ合いから遺産兵器による派手で過激な抗争へと発展してしま う事件で、猪突猛進な直情傾向なサキに、のらりくらりとマイペースながら自分の仕事は きちっとこなすジュラ、余り目立たないながら冷静な判断で精霊使いとしての役割を果た すカイ、と3人の個性の「色」が益々濃く表れていたなと。これに加えて3人の関係が始 まった日――8年前に起こった悲劇的な大災害『プロミネンス・バースト』当時の回想が 効果的で、絆の深さがじわりと染み込んでくるような感触は実に良かったです。  カイの親友で依頼人である教祖のカルマ。一見近寄り難い空気をまとっていそうで蓋を 開けてみれば3人に負けず劣らずの変な奴。平然と裏表を使い分けながら、どちらでもな い3つ目の自分をあえて見せない辺りに魅力のある存在かな(カイなんかはアッサリ見抜 いてるようですが)。もう一人の新キャラ・ユノーは、ずっと正体が掴めないまま、それ でも過去回想からサキと良い関係になりそうじゃないかと思ってたのですが……このオチ には参った。この二人はそれぞれ良い持ち味があるので今後も是非登場して欲しい。  既刊感想:ここは天秤の国


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