NOVEL REVIEW
<2003年11月[中盤]>
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11/20 『.hack//ZERO Vol.1 ファントム・ペイン』 著者:横手美智子/角川スニーカー文庫
11/15 『ムシウタ02.夢叫ぶ火蛾』 著者:岩井恭平/角川スニーカー文庫


2003/11/20(木).hack//ZERO Vol.1 ファントム・ペイン

(刊行年月 H15.06)★★★ [著者:横手美智子/イラスト:川島旅順/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  この小説版は、アニメ『.hack//SIGN』とゲーム版との間を繋ぐような位置付け で、半年間の空白を埋める為の物語だそうな。とりあえず.hackってのはアニメとゲー ムと小説とで過去と現在と未来が複雑に絡み合ってるので、時間的な事は最低でもどれか のメディアに触れていないと分かり難いかも。そもそも時間的に半年の空白期間が存在し ていた事からして全然知らなかったので、この物語に臨む以前からあんまりお話になって なかったわけですが、今回は少なくともアニメかゲームのどちらか或いは両方に触れいて いる人向けとキッチリ線引きされているような内容でした。  私の場合だとアニメもゲームも触れ方が中途半だったから、辛うじて楽しめる部分を見 出すことが出来た……かも? とまあ何とも曖昧な手触りだったけれども。登場キャラク ターがアニメからもゲームからも盛り込まれていて、しかも小説本編で結構重要な役割を 担いつつ幅を利かせているので、やっぱり彼らの特性を理解してるとしていないのとでは 面白さもかなり違ってくるのではないか? という印象が強かったです。  ただ、未体験者でもせめて『ザ・ワールド』と呼ばれる広大なネットゲームの世界が舞 台なのと、現実世界とネットゲーム世界との対比を描いてゆくものと頭に叩き込んでおけ ば、キャラクターの事を抜きにして物語だけでも楽しめる部分はそれなりにあるかなと。  物語の主人公。ザ・ワールドでは重斧使いの銀髪女性・カール。彼女を動かしている現 実世界の姿は小学五年生の少女・仁村潤香。現実で溜まった鬱憤の捌け口を全てネット世 界に向けているような女の子。感情表現や精神面が相当に歪んでいて、一見歳相応じゃな いようで実は非常に脆く繊細な歳相応の少女そのものな描写を辿って読み進めてゆくと、 荒んだ気持ちになってしまう事請け合いです。ここでおそらく、潤香(カール)とアニメ やゲームでのキャラとの新たな出会いがポイントとなりそうですが、実際にまだどう絡む のかはよく分からない。続きものなので面白くなるかどうかは今後の展開次第。  関連作品:.hack// AI buster 2003/11/15(土)ムシウタ02.夢叫ぶ火蛾
(刊行年月 H15.11)★★★★ [著者:岩井恭平/イラスト:るろお(頑童)/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  夢を抱かない人に虫は憑かない。けれども新たな夢を発現させた所で、誰もが直ぐに虫 憑きにされてしまうかと言えばそうでもなくて。じゃあ虫憑きの原種“始まりの三匹”達 は、夢を抱いて生きる人間の中で何を基準として己の“獲物”を選別しているのか?  寄生した虫の餌となる人の夢。例えば一体どれだけの夢を喰われてしまったら致死量に 達するのか? 人によって喰われて死に至るまでの許容量に差はあるのかどうか。もしあ るのだとしたら差が生じてしまう原因は何か。精神力の強さ? 虫との相性? それとも 抱く夢の大きさの違い? もし虫に夢を喰われ続けていても、意識して強く想い抱き続け れば喰われた分も回復して死を遠避ける事が果たして可能なのかどうか。  ……などなど、こんな風に色々尋ねてみたくなったのは、前巻でもそうだったけれど今 回でもそう。設定が甘いとは思わない。夢を喰う虫が人間に寄生するアイディアは、なか なか面白く心躍らされるもの。ただ、気になるなぁと声に出てしまう程に明確ではなく手 探りな要素が多いからで。扱われ方が曖昧だという言い方になりそうだし、あるいは逆に 形にならない夢のイメージをうまく掴んで描いていると言えそうな気もするし。この辺の 扱いが微妙なんですよね。ダメと感じるような所でもないんだけれど、次巻以降でもうち ょいと踏み込みながら上記で尋ねたあれこれに作中で答えて欲しいと思う。  今回も数少ない救いだった事は千莉について。利奈が前巻から引き続いて登場するシー ン毎に呻き声を吐きながら、「まさか千莉も?」という危惧が膨れ上がってました。もっ とも、彼女も虫憑きである以上今後どんな扱いを受けるか分からないので油断は禁物。  夢を虫に捧げる替わりに特殊な戦闘能力を得て、徐々に命を削りながら日々を生きてい るようなものだから、大助に今後幸せな結末が訪れるとはあまり考えられない。今回だっ て彼が彼女がああなってこうなってしまって、幸福の条件なんて何一つ揃わず辛い想いば かりしている。それでも、唯一虫憑き達に希望の光を照らす存在がある以上、何度死に掛 けても生きている限りは、少なくとも大助と詩歌のハッピーエンドを望んでいたいです。  既刊感想:01


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