NOVEL REVIEW
<2004年05月[前半]>
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05/10 『ムシウタ03.夢はばたく翼』 著者:岩井恭平/角川スニーカー文庫
05/08 『ランブルフィッシュ8 決戦前夜秘湯編』 著者:三雲岳斗/角川スニーカー文庫
05/06 『Dr.アンダーソンの休日 出張はラビリンス』 著者:都築由浩/角川スニーカー文庫
05/05 『月巫女のアフタースクール』 著者:咲田哲宏/角川スニーカー文庫
05/03 『ディバイデッド・フロント II.僕らが戦う、その理由』 著者:高瀬彼方/角川スニーカー文庫


2004/05/10(月)ムシウタ03.夢はばたく翼

(刊行年月 H16.05)★★★★ [著者:岩井恭平/イラスト:るろお/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  シリーズ通して主役っぽく描かれるのかと思ってた大助が今回ハッキリと脇役扱いだっ たのが予想外ならば、捕われのお姫さま状態で大助の迎えを待ち続けるのだろうと思って た詩歌が外に解き放たれたのも予想外。頭の中では『時が来たら迎えに行く大助』と『迎 えの時をひたすら待つ詩歌』が強固な相互関係の結び付きによって成立していたので、最 初は詩歌自身に飛び出す意思が無かったとは言え、彼女を巻き込んだ初っ端の事態には意 表を突かれました。もっとも、根の深い部分は次に持ち越されているにしても、1つの大 きなエピソードは1冊完結で進んでるから、大助以外が主役に踊り出ようとさほど違和感 は無いんだけれど。前巻殆ど出番無しだった詩歌の事を考えると多分“嬉しい誤算”。  この物語を読んでいてちょっと気になるのは各巻の前後繋がりがやや稀薄な点。まだ3 巻目なのを考慮して、今後へ向けて地盤固めの意味であちこちへ視点を飛ばしているとい うのは想像の範疇。ただシリーズ作品としては、これから完結を目指し展開してゆく方向 性みたいなものが未だに掴み切れていない。予想は幾つもあるけれど「これだ!」と確信 を持って言える手応えには至らなくて(ここで判断するのは早計かも知れないけど)。  でも、そんなのは巻数重ねて物語に深みが増して行けば解決する問題なので別に今は構 わない。それより私はこの巻も含めて単体のエピソードの密度の濃さが凄く好きなので、 そこに充分浸れるならそれだけでいい。もっと好きな部分を正確に言うなら、登場人物達 の心の底から響いてくる剥き出しな感情とか誰かに強く向けられる想いの深さとか。たと え過剰な表現あっても、包み隠さず気持ちを曝け出している描写の数々が堪らない。  今回は詩歌と新キャラの初季、夕の3人娘の逃避行。視覚的に華はあるが、濃い血の臭 いも同等以上にあれば流れる涙もある。とにかく逃げの一手、確認で1歩振り返ったら1 0歩逃げるような感じで。能力も人数も絶望なまでの劣勢にあって、3人それぞれの目的 を果たす為に、力弱き者が如何にして危機を切り抜けて行くかを徹底的に描いたもの。絶 望に晒されながらも、感情の後押しで深い絆を結んでゆく3人の姿が実に印象的でした。  こうやって書いてる私は、どうやらキャラが最も立っていて感情表現もなかなか魅力的 に映っていた初季が主人公と見ているらしい。で、前半から漂いまくる彼女のデッドエン ド濃厚な匂いにはもう何度も泣きそうに(結末は激しくネタバレなので触れませんが)。  次巻以降への希望。そろそろ何処へ向かうのかきちっと定めて欲しいのと、何となく虫 憑きそのものについての謎が埋れ気味な気もするので、その辺りを虫憑きを生むと言われ ている『始まりの三匹』を中心に解き明かして行って欲しいのと。あとはこれまで登場し たキャラ同士をうまく絡めつつ見せ場を作ってくれたりすると嬉しくなるでしょう。  既刊感想:0102 2004/05/08(土)ランブルフィッシュ8 決戦前夜秘湯編
(刊行年月 H16.05)★★★★ [著者:三雲岳斗/イラスト:久織ちまき/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  決戦前夜――ってまだSR本戦突入せずに引っ張りやがりますか? と突っ込みたくな ったのが最初。とは言え頭ごなしに嬉しくない表情浮かべるのもあれなので、大切な点は これが“果たして本戦前に描くべき必要性のあるエピソードかどうか”という事。おそら くこの展開でストーリーを進めた場合、読了時点で手元に残るのは『SR本戦直前に更な る高揚感が得られる』か『余計なフラストレーションが溜まりまくってしまう』のどっち かしかないだろうなと。結果としてはどっちも半々の手応えで相殺、故に差し引きゼロ。  今回の中で最も微妙だったのは、強化合宿中の修学旅行っぽいノリ。中盤の役割分担行 動とか温泉での覗き騒動とか。読んでて楽しい事は楽しい風景なんだけど、あんたら本戦 直前でそんなに余裕ぶっこいて和んでる場合かよ! と言いたくもなったり。別に余裕か ましてるわけではないし、和んでるばかりじゃないのも分かっている。ただ、この辺りの シーンを省いてもそれ程差し障りはないという印象もあったので。それでも一方ではチー ムワークを深める意味でやっぱり必要な描写か? と思うとなかなか微妙で複雑な気分。  しかしそれ以降の後半からラストに掛けては、ちょっとした物足りなさなんぞ一気に吹 っ飛ばしてしまうくらいに読み応え抜群で素晴らしく良かったです。この物語はやっぱり RF戦のアクションシーンがあってこそ映えるものだなと、改めて見せ付けられました。  要の出場辞退から沙樹への弱点指摘に飛び火して、そこから発生した興味をうまく最後 まで誘導してくれている。よもや瞳子がこういう立場に置かれる事になろうとはさすがに 想像の枠外でしたが、彼女の設計士としての勇敢な戦いぶりに魅せられっ放しでした。  どうやら今度こそSR本戦突入となりそうですが、相変わらず思わせ振りにちらつかせ ている幾つかの謎が引っ掛かる。その辺りをきちんと整理整頓させる意味でも、この決戦 前夜を差し込む必要性はしっかりと感じられました。なんだかこれだけ焦らしてくれると、 SR戦決着でシリーズ完結となりそうな予感もあるのですが……どうでしょうね。ともあ れ溜めに溜め続けてくれたこれまでの鬱憤、見事次巻で晴らして欲しいものです。  既刊感想: 2004/05/06(木)Dr.アンダーソンの休日 出張はラビリンス
(刊行年月 H16.05)★★★★ [著者:都築由浩/イラスト:エナミカツミ/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  知的探究心を満たす為なら隣りに寄り掛かる女さえ振り切って、未知なる存在との遭遇 に想いを馳せて危険をかえりみず突っ走る。男の浪漫の匂いが色濃く漂う物語。異星生物 学者と未開惑星調査エージェントの2つの顔を持つ主人公カイル・アンダーソン、第一印 象は異星生物学に精通した熟練の探検家。あとは三十路過ぎのどこか冴えない助教授。  全部ひっくるめてみたら“掴めない男”かな〜。リディアの不意打ちな猛アタックや、 ブレンダの色香にたじろいだりしてるのを眺めてるとちょっと頼りなさげだけど、いざ得 意分野に触れると水を得た魚のように自信に満ち溢れた頼もしい存在に映る。興味対象を 目の当たりにすると、なりふり構わず突撃してそれ以外の周りが見えなくなってしまい即 座に危機に陥ってしまう。けれども危険に晒される程に冷静な判断で知恵を働かせ、うま く立ち回り脱する術を見付ける事の出来る男。リディアはどうしてこんなおじさんに好意 を寄せるのか? 彼女の友人はそんな風に言うけど、この不思議な魅力を持つ三十路半ば に惹かれるのも分かるような気がする(単におっさん趣味なだけかも知れないけど)。  SF設定な辺りは、そういう要素を料理し慣れてる作者さんだけあって色々と面白いも のを盛り込んでくれている。あまり面倒臭くて頭抱えてしまうような描写も目立たずで、 苦手意識持ってる割には読み易かったかなと。ただ、謎とされている部分が解かれた時は 「なるほど、そういう事か」よりも「ふ〜ん、そういう事だったの?」という感じで、言 われても知識が弱いから把握し切れなかったり。例えばアンダーソンがレールを追い続け た先にあったもの、これが実はそういうものだとしっかり描かれていながら、今一つピン と来ないのは読んでる側が分からないから。これが知識の内にあると、もうちょっと容易 に納得出来たんじゃないかなぁ。他にも幾つかあったので少しだけ悔しいと思った。  未開惑星を探索する冒険活劇としては充分な手応えで面白い。最後に残った人員を考え てみると、意外と人の生死に容赦ないですよ。まあそんな所が潔くて好きなんですけど。 絶体絶命に陥っても、ぎりぎりのラインでちゃんと思考を巡らせ知恵を振り絞って回避し ようとする、この行為がごく自然にアンダーソンらしい展開で良かったです。  派手な見せ方じゃないけどじっくり堪能出来る物語。もし続編があれば読んでみたい。 2004/05/05(水)月巫女のアフタースクール
(刊行年月 H16.05)★★★☆ [著者:咲田哲宏/イラスト:松竜/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  時に効果的な装飾も度を越えると足枷になる。この物語の内容がどうだったかを思い返 すより前に、どうしても文章自体のあまりに特殊過ぎるおかしさが割り込んでしまうのに は参りました。至る箇所で特殊なルビ振りまくりなその試みは面白いかもしれない……と いう印象もあったんですけど、何か設定がややこしい部分に限って狙ったようにルビ振り 多用してるのでちょっと読み進め辛かった。うむむ、自分が過剰に気になってるだけで実 は些細な事だったりして。でも読み易さが物語に面白さに影響しているような気もする。  内容より先にまずその辺り。物語の雰囲気作り、それから他とは違う事がやりたい著者 のちょっとした遊び心を盛り込んでみました、な演出も『有り』と肯定したい。けれども 演出としての装飾が原因で却って文章を読み難くしているのはマイナス。おまけにそうい う変に凝った仕掛けで攻めているのに、普通に漢字使っても問題なく読める文字を平仮名 のままで書いている箇所が結構目に付いたりとか。この文章、あえて読み難い方へと行き たがっているようにしか思えない。もし分かってて挑んでいるなら大したものかも。  どうも文章に対しての文句ばっかり出てしまいがちですが、ストーリーに関しては決し て悪くない出来。だから面白さの手応えを得る機会を、ことごとく読み辛さに阻害されて いるのが勿体無い。夢を抱き向上心溢れる少女の成長過程なんかも、夢への憧れと希望→ 現実の壁と葛藤と挫折→遠い日の約束から大きな力を得て復帰――の流れで、凛という元 気娘の感情を通してこの1冊で割としっかり描けていたように感じられて良かったし。  ただ肉体も精神も限界一杯まで駆け続けている割に、凛の印象って何故か薄くてあまり 手元に残らなかったんですよね。せめてもうちょい余計に彼女のキャラクター性を前面に 押し出してくれてたら、元々好感触なだけに間違いなく凛に惹き込まれてたと思う。  後半の紗奈&澄が凛を優しく受け留める友情劇、それから美雨の捻くれたキツイ激励な どは凄く心に残りました。こういうのをもっと挿入してくれれば! もしかして姫護衛士 を目指して頑張る凛の姿を友情交じりで描いてた方が普通に面白かったのか? 一応話は 一段落したので、今後そっちに行く可能性もあるかなぁ。期待すべきかちょっと迷う。 2004/05/03(月)ディバイデッド・フロント II.僕らが戦う、その理由
(刊行年月 H16.05)★★★★☆ [著者:高瀬彼方/イラスト:山田秀樹/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  隔離戦区下での憑魔との死闘。極限状態に陥った英次と香奈の精神的な追い込まれ具合 は、その部分を描く為に全精力を注いでいた前巻の方が今回より上を駆けていたように感 じられました。が、それとは逆に今回の方が前巻を遥かに凌ぐ程良かった点は、一人称視 点で綴られている主要キャラクター達それぞれの感情描写。この要素は前巻も相当の熱意 で描かれてましたが、更に個々の思考により一層の複雑さが加味されていたかなと。  自分達に牙を剥く憑魔を殲滅し、何が何でも生き延びてみせるという命を賭けた必死さ は勿論誰にも多量に盛り込まれている。ただ、今回はそれよりも近しい相手に向けられる 感情描写に対して圧倒的な魅力と力強さを感じました。単純な言葉や態度で割り切れない 関係なのは分かっているんだけど、それでもあーでもないこーでもないと思い悩みまくっ てしまう。香奈にとっての英次であり、英次にとっての一流であり。やっぱり中心はこの 2人でしょうか。そんな彼らの感情の中に割り入って、台風の如く良い意味で引っ掻き回 してくれたのが前巻出番の少なかった彩。彼女の言葉に相手を気遣いながらの説得力があ る事は分かるし、それが強者の視点で語っているように見えてしまう香奈の気持ちも良く 分かる。彩が香奈や一流そして進藤二尉等に何かを投げ掛ける度に、波紋は広がり心は揺 らぎ、様々な想いを繋いで物語を奥深いものに仕上げている。まるで出番の少なさから溜 まった鬱憤を晴らすかのような彩の存在感と影響力、抜群に決まっていました。  そして、そうなって欲しくないと願いつつとうとうやって来てしまったその瞬間。香奈 が何気なく発したであろうラストの一言を目にした時、何か呆然としながらも吐き出せな くて溜まっていたものが一気に溢れてしまい、どうにもこうにも止まりませんでした。  実はその事に関する部分にはあんまり作中で詳しく触れていないし、描写も少なかった んだけど、物足りないとかじゃなくて逆に潔いあっさり加減が現実に起こった残酷さを際 立たせているような印象。香奈が多少なりとも前向きに生きようと頑張る明るい材料があ っただけに、この反動は凄まじくて相当に堪えました。これからどうなるんだろ……。  これでまた一流と英次と香奈の感情が捻じれそうな気もするけど、本音は英次と香奈で うまくいって欲しい。いつまでも天然と鈍感で付かず離れずの関係じゃなくて。何でかっ て言うと香奈の気持ちが大きいから。何せ英次への想いの丈がストレートに伝わってくる もんだから応援せずにはいられないんですよね。僅かずつでも進展してくれる事を願う。  既刊感想:


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