NOVEL REVIEW
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06/29 『天国に涙はいらない10 妹兄山腐女子庭訓』 著者:佐藤ケイ/電撃文庫
06/28 『とある魔術の禁書目録2』 著者:鎌池和馬/電撃文庫
06/28 『とある魔術の禁書目録』 著者:鎌池和馬/電撃文庫
06/25 『シャドウテイカー 黒の彼方』 著者:三上延/電撃文庫
06/24 『アプラクサスの夢』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
06/23 『殿様気分でHAPPY!2』 著者:杉原智則/電撃文庫
06/21 『先輩とぼく2』 著者:沖田雅/電撃文庫


2004/06/29(火)天国に涙はいらない10 妹兄山腐女子庭訓

(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:佐藤ケイ/イラスト:さがのあおい/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  刊行期間が開いてた上に前巻は短編集だったもんで、シリーズ長編作はえらく久々に読 んだ気がした。元々初期に主軸として描かれていた『賀茂を生き返らせる』事があっさり 2巻目で終わってしまってるので、それ以降さしたる目的が見出せず基本的にやってる事 もあんまし変化無く。ただその中で面白く楽しめるかどうかの差が出るのは、大抵毎巻読 んでいて萌えっ娘ゲストキャラの扱い方や描き方の違いに因る所が大きいと思わされる。  その点で今回ゲストであるD級ランク悪魔っ娘ペディを見ると、なかなか楽しいキャラ だけど彼女の性格同様に詰めが甘く活躍し損ねている所が惜しい。最初のたまを利用して ウッハウハ計画なペディメインから、最終的にはたまが主役的立場で神父さんエピソード メインに移行した為、ペディの立場が尻すぼみの如く弱くなってしまったような印象。  まあペディに関しては徐々に主賓から逸れて行く扱いなので仕方ない部分もある。トホ ホな結末も半ば自業自得っぽいし、たまを口車に乗せて利用しようとしたツケと考えれば これも妥当な収まりか。最後に奇麗サッパリ賀茂達と繋がりが切れてない事から、もしか したら再登場の可能性があるのかも知れない。何か考え方の相違から色々ぶつかってはい るけれど、アブデルに鬱陶しがられてるのも含めて律子との波長は結構合いそうだし。  この泣かせて落とす締め方は、あからさまに狙っていても好みの流れなのでどうしても 少なからず心に響いてしまう。今回にしてもペディの存在感の弱さ分をきっちりカバーす べく、たまの罪悪感と葛藤と謝罪と別離でしんみり浸らせてくれた点は良かった。  アブデルの変態度もわりと絶好調(しかし公衆の面前でそゆこと言うなよ具体的には1 29頁の発言)。律子とペディの譲れないボーイズ・ラブ論も、賀茂が「ツッコみ役」て とこで思わず吹いてしまった辺り、それなりに楽しめてたみたいです。  既刊感想:
2004/06/28(月)とある魔術の禁書目録2
(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:鎌池和馬/イラスト:灰村キヨタカ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  超能力者と魔術師の共闘で吸血鬼を求める錬金術師に挑むのが今回。何はともあれ前巻 ラストのアレから当麻の扱いが非常に気になってたのですが、ああやっぱり手段としては こう持って行く他ないか。ただ、順応するのがえらく早い気もしたんですけど。そこで逆 に少々違和感を覚えてしまったので、所々で慎重に考える仕種は見られたけど、もうちょ いインデックスに対してボロを出しそうな程に色々と焦ってくれても良かったのになと。  今回敵方の錬金術師アウレオルス。これもまた救いを見出せず憎み切れない位置付けで 辛いな〜。アウレオルスにしてもステイルにしても、インデックスの背中に過去を見ても 決して記憶を持って振り返ってはもらえない立場なのが切な過ぎる。当麻は当麻で複雑な 状況から自分自身に向き合わなきゃならないし、その上インデックスの所有権で難儀に悶 々と葛藤してたりとか。インデックスの記憶の連なりって相当根が深いのかも知れない。  前巻と同じで後半一気追い上げな展開。なんだけど今回は中盤の塾内戦闘で結構ダレて しまった。悪くないんだけど何となく描写が濃過ぎてすぐお腹一杯。もっとスマートに行 かなかったかなとか、その分アウレオルスと秋沙の関係とキャラクター描写を余計に盛り 込んで欲しかったとか。ハッキリ断言で巫女さん秋沙の掘り下げ不足が弱点。前巻の美琴 といい何でいつも序盤でキャラクター性に好感触を得る準ヒロインが不遇なんだろ?  もっとも、中盤のダレを補って余りある終盤から結末に至るまでの盛り上げ方がなかな かに素晴らしいので、微妙ながらも簡単に切り捨てるのが勿体無い。アウレオルスに追い 込まれてからの必死の打開策で、当麻が反撃に転じて勝利を掴む流れの手に汗握る熱いラ ストバトル、そして捻りを効かせたエピローグ。面白さの全てはここに凝縮されている。  しかしもし次があるとしてこのラストからどう繋がる? またインデックスの消去され た過去の記憶に絡んだキャラが登場したりするのか、それとも当麻の記憶が絡んで来るの かどうか。個人的にはあとがきを見るに描きたい気はありそうな美琴の再登場希望。  既刊感想: 2004/06/28(月)とある魔術の禁書目録
(刊行年月 2004.04)★★★☆ [著者:鎌池和馬/イラスト:灰村キヨタカ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  うわービリビリ中学生が全く活きてないぞ! 口絵と序盤だけで勢い良過ぎで突っ走る 元気小娘だなーとさり気なく気に入っていたのに、そのまま立ち止まらずに駆け抜けて見 えなくなってしまいましたよ……ふ、不遇だ。余りに不憫でちょっと泣けてきた。  と、最初の掴みはそんな感じ。言わば当麻の右手に宿る『幻想殺し』の能力を一番最初 に強烈に読み手に知らしめる為の引き立て役、美琴にとってそれ以外の何ものでもない所 が悲しいかな。更にインデックスが正ヒロインらしく捨てられた仔犬のように当麻に懐い ているもんだから、「何がしたかったんだ」と思ってしまうのも仕方ないのかな。存在意 義が皆無なわけではないんだけど、出番も無ければ活躍の場も与えられないのでは……。  まあ美琴に関しては序盤で当麻に突っ掛かってる辺りから印象が良かったので、予想を 大きく外れて出番少なかったのが残念という事で。その代わりと言うのか、当麻とインデ ックスの全然噛み合わない会話でのじゃれ合いは、また〜りとした緩い雰囲気で心地良い ものでした。不幸のこの身にじゃれ付く少女の温もりが擽ったいような気分か。  決して相容れない2つの力――科学で証明出来る『超能力』と、非現実(オカルト)に 分類される『魔術』の衝突。そして中心には常にインデックスの存在。当麻には全ての異 能力を無効化する『幻想殺し』があるがそれ以外は無能力。インデックスには膨大な魔術 知識があっても魔力が無いので使えない。そしてステイルと神裂の2人の魔術師は、圧倒 的な攻撃力を持っていてもインデックスという足枷から躊躇いや隙が生まれてしまう。特 定の誰かをあまり突出させないように能力に制約を課して、拮抗したバランスの中で描か れている異能力戦は工夫を凝らした見所が多くて読み応えありと思いました(対ステイル 戦のスプリンクラー使用はやや上手く行き過ぎな退け方だったような気もしたけど)。  面白さは徹底的な後半追い上げ型で、とりわけインデックスの脳の許容量とか2人の魔 術師との関係が明らかになった辺りから一気に火が付きました。単純な敵味方の対峙では なくて、相手の言い分も正論なのが凄く良く分かるから当麻の葛藤も凄く響いて来た。  そしてやっぱり最も驚かされたのは、二転三転のどんでん返しが待っていたラストシー ンの当麻とインデックス。ふむーまさかこういう立場で結末を迎えるとは……続編出すと してもこれじゃどうなる? って気持ちがよく分かった。ホントにどうなるんだろ。 2004/06/25(金)シャドウテイカー 黒の彼方
(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:三上延/イラスト:純珪一/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  またもやヒロインが何かしらの“痛み”を背負い込んでしまうストーリー展開。それが 今度のシリーズは既に1巻目から提示されていて、しかも大好きな幼馴染みキャラなので 嬉しい反面苦悩する姿が余計に痛ましい。まあ幼馴染みが出てりゃ何でもかんでも惹かれ てるわけじゃない(つもり)ですが、裕生の前では頑なにわざとらしい他人行儀な振る舞 いをしていても、見えない所で常に裕生の事を強く想っているのが分かった時点で葉にこ ろっと惹かれてしまいました。裕生の方でも葉をしっかり受け留めるだけの度量と想う心 は充分持ち合わせているようなので、早い所その違和感を振り撒きまくりな幼馴染みっぽ くない会話から脱却してよと望む。今回の一件で少しは緩和されてればいいんだけど。  他人行儀な口調になった理由と言えば葉の方は想像してたのよりも意外と単純で、問題 があるとすれば裕生の変化か。この辺の理由は詳しく語られてないですが、よもや『名前 で呼ぶのが照れ臭くなったから』とかではないだろな。いや、それはそれで至極真っ当な 理由であっても当り前過ぎてどきどきしないですよ。もっとも、裕生の性格的にそれはあ んまりなさそうな気もしてますけど。何か裕生にとって特別な意味であって欲しいな。  肝心の中身の手応えは前シリーズ『ダーク・バイオレッツ』の1巻目とほぼ一緒。文章 表現力は安定した水準だと思う。読み手の意識を先へと引っ張る牽引力をしっかり有して いて、引っ掛かって躓くような箇所も少なくて読み進め易く理解し易い。ただ、これが裏 を返すと“あまり冒険せずに手堅く無難に纏まっている”とも取られ易くて難しい所。  あとは「なんか何処かで見た事ある?」なんて感触も全くのゼロではなくて、こういう 新鮮味の薄さを今後のストーリー展開でどうカバーしつつ好転させてゆくのか……このポ イントも興味深い見所として捉えてます。何にせよまだ肝心の『カゲムシ』の本質につい ては不明な点が多く、今回は今後を盛り上げる為の下地作り段階の状態なので、面白くな るか否かを本当に見極めるのは次巻以降となりそう。とりあえずは単純明快な相関関係の 中で脇役奮起に期待。特に途中から一気に影が薄くなってしまったみちる頑張れ。 2004/06/24(木)アプラクサスの夢
(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:高橋弥七郎/イラスト:凪良/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  何かカバー折り返しのあらすじにも巻末あとがきにも明確な注釈がないので(あとがき に“2年ぶり”とだけは書かれていたけど)、もしかしたらシャナに続く新シリーズと勘 違いされ易いんじゃないかなーとか読む前に余計な心配が先立ってましたが、これは↓の 感想リンク通り既刊である『A/Bエクストリーム』の続編に当たる物語です。  ……うむむ、私みたく続きを待ち望んでた人なら続編表記しなくても最初から分かって そうだけど、やっぱり頭にシリーズタイトルくっつけてた方が良かったんじゃないだろう かと。例えば既刊2冊と比較して、続編と冠するには微妙な程あっちこっち変わってしま ってたらおそらく一々気にしたりしなかったろうけど、キャラクターとか各種設定とかが 嬉しくて小躍りしたくなるくらいまんま一緒なんだもん。それに前巻までに語られたエピ ソードが結構今回の中でも反映されていたので、そっちを先に読んでいないとアンディや ボギーに掛かっている設定なども把握し難いのではと思わされるシーンもちらほらと。  要は「既刊2冊を先に読んでからの方がより一層楽しめる事請け合い」と言いたかった だけで、しかしそこはきちっと強調しておかないと。で、久々の感触は懐かしさで一杯で した。余裕と自身に満ち溢れるキャラクター達の魅力、ゲンセとゾーンで成り立つ世界、 強化服と重火器で派手にドンパチやらかすアクション、頭痛くなりそうな設定の数々、戦 いの中で様々な思惑が交錯するストーリー、本当に何も変わってなくて嬉しい手応え。  ただ、今回は読んでいて疲れそうな面倒臭い設定が相当幅を利かせていたせいか、戦い の描写は申し分ないんだけどキャラクターの描写が控え目な印象だった。アクションメイ ンとしては敵との駆け引きが暑く面白く、心理面から来る感情的なキャラクター同士の対 話ではやや物足らず。個人的にはゴシップとトランクイロの辺りをもっと重点的に……と 思ったのですが。ディビジョン商会のメンバーのハジケっぷりも、いつも魅力的に描かれ ていた敵側の事情も少々弱い気がしたので、次があれば巻き返しに期待したい所。  …………………………でもあるのかな? 次。  関連感想:
A/Bエクストリーム CASE314−[エンペラー]       A/Bエクストリーム ニコラウスの仮面 2004/06/23(水)殿様気分でHAPPY!2
(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:杉原智則/イラスト:玲衣/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】  城主になった所で性格的な成長の跡が全く見られないので、何処まで行っても舐められ っ放しの見下されっ放しなしょーもない城主サマ。今回は現世に歪みを生み出す異形を討 つ一族についてのお堅い部分は少々控え目、逆に一馬のスケベ煩悩根性丸出しなコメディ 色が絶賛(してるのは一馬当人のみ)増量中な内容。周囲守備の為の人員補強という大義 名分はあれど、城主一馬の解釈では『俺の周りに女をはべらせまくろう計画』となる。  野郎眼中無しで女の子だけしか視界に入れない辺りの欲望に満ちた行動力は清々しいほ どに潔く、そして力入れてる割には敬遠される素行のせいで当り前のように結果がまるで 伴わない所は一馬らしく。ってこの性格どうなんだろ? いつもどうしようもなくて嫌い になりそうな一歩手前で、不意に格好良いいい奴っぽさを行動で示すもんで、個人的には 『得な性格してるよな〜』と憎み切れなさを感じてるんですけど。嫌いにはなれない奴。  ヒロイン3人娘の中では美亜の兄貴=一馬へのアプローチが特に目立ってた今回。この 美亜って娘は一馬の事が好きな本心を隠す為に、わざと大袈裟にあの手この手でアタック を掛けているようにも見えるのだけれど……さて? ことごとく一馬の事をからかってる かおちょくる事こそが、美亜にとって好きな事という風に見えてしまう。なので表向きで はあんまり“好き”が伝わって来ないんだけど、だからこそ切羽詰った時にポロっと零す 本音に「おおっ!?」と過剰反応を誘う際立ち具合がうまく出ているなと。  ただ残念だったのは、目立ちまくりな美亜やゆみ&るみや久美先生の前に、明らかにみ づきと壬琴の存在感が霞んでいた点。もっとも裏で展開されている不穏な動きには不明な 部分が多いし、みづきはそっち方面に深く関わっているようなのでまだこれから。一番置 いて行かれそうな気がしてならない壬琴のエピソードもしっかりフォローして欲しい。  既刊感想:
2004/06/21(月)先輩とぼく2
(刊行年月 2004.06)★★★☆ [著者:沖田雅/イラスト:日柳こより/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  妹キャラ登場。あの手この手ではじめに迫るも思考回路がおこちゃまだから、はじめを 雑作もなくオモチャにしてしまうつばさには及びもせず。従って嵐の一方的な気持ちでし か三角関係は成り立たず。まあ歪みまくってはいるけど相思相愛には変わらず、心と身体 が入れ替わった事で確固たる絆を得た2人の間に割り込もうとするのはまず無謀な話。  新キャラである嵐の脅威はそんなもんで、結局はつばさにとっての“面白いオモチャ” が一つ(一人)増えただけ。さすがにつばさが焦ったり怯んだりってのは想像も付かない ので、最初から嵐にそこまで求めちゃいなかったけれど、嵐のキャラクター性で前巻のガ ツンと殴られたような衝撃的なインパクトは残念ながら得る事が出来ませんでした。  元々銀賞受賞作に当たる1巻目の1冊できちっとケリはついてた筈なので、あんまり続 編へ引っ張る必要性を感じなかったと言えばいいのか、同じ一発芸をもう一度繰り返しや るならばテンションは確実に下がるだろうなと。で、予想通り今回その道筋をもろに辿っ ている為、物語としての面白さや興味を引く見せ方のうまさには繋がっていない。  嵐の秘密をメインに据えようとしているのならば、途中の数あるアホな騒動に一体何の 意味があるのか? 単純に笑いを誘うウケ狙いではなく、これってほぼ全部つばさの思惑 の隠れ蓑になっているのですよね。今回では嵐の秘密を探る為のつばさの仕掛けが張り巡 らされていたわけですが、問題なのはつばさの伏線がバカ騒動のテンションに埋没してし まい、後々提示されても「そんな事あったっけ?」とイマイチ印象が薄くなる点。  つばさの真剣なちょっかいにつばさが可愛く突っ込み入れて反論する仕種も、楽しい事 は楽しくて笑えるんだけど、そればっかり続くのもちょっとな〜という感じで。のりちゃ ん、道元、真太郎、美香辺りはどんなキャラか立ち止まって考えないと思い出せない始末 なもんで、どうせなら他の脇キャラ達にも台詞与えたり掘り下げなどがあれば……。もし 続きがあるならこういう部分で巻き返しを図って欲しい。ただ、タッキーこと川村君だけ はその変態ぶりが映えていて実に素晴らしかった。今後もこの調子でお願いします。  既刊感想:


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