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07/31 『Missing11 座敷童の物語・完結編』 著者:甲田学人/電撃文庫
07/30 『我が家のお稲荷さま。2』 著者:柴村仁/電撃文庫
07/30 『埋葬惑星II Rose Doll Frantic』 著者:山科千晶/電撃文庫
07/27 『埋葬惑星 The Funeral Planet』 著者:山科千晶/電撃文庫
07/26 『ルーン・ブレイダー!』 著者:神野淳一/電撃文庫
07/26 『ガンズ・ハート3 硝煙の栄光』 著者:鷹見一幸/電撃文庫
07/24 『プロット・ディレクターII 中華と通貨の狂詩曲』 著者:中里融司/電撃文庫
07/22 『Mr.サイレント5 愛情世界の聖なる希望』 著者:早見裕司/富士見ミステリー文庫
07/22 『Mr.サイレント4 心象世界の幸せな景色』 著者:早見裕司/富士見ミステリー文庫
2004/07/31(土)Missing11 座敷童の物語・完結編
(刊行年月 2004.07)★★★★
[著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
座敷童の完結編。どうじさまの儀式と神隠しと座敷童――この3つの繋がりと関連性を
明確にさせるのが、少なくとも空目にとっては直接的な目的であり今回の解決策であった
模様。知る事こそが魔女・十叶詠子へ少しでも近付き対抗する手段に他ならないから。
とは言っても、座敷童の謎解きを示唆した所で全然スッキリしないのは何故か。最も大
きいのは魔女の意図がまだよく見えて来ないからだと思う。空目達に対する語り口調など
を眺めていると、本当は目的なんて無くてただ単に興味対象の相手をしながら遊び楽しみ
たいだけなんじゃないのか? なんて時々ふと感じたりしてるんですけど。それかもしく
は、読み込みと読解力が足りないだけかと思ったりするのも割と陥ってしまう事で。
今回は詠子が“何をやりたいのか”を空目が見事暴いてくれただけでも、巻き返しとし
て一歩前進出来たんじゃないかな。問題は何故それを実行しようとしてるのか? まだ語
られてないような気がするんだけど……ちょっと自信無し。ここが掴めない限りはもやも
やし続ける事になるんだろうなぁきっと。そんな中で俊也の精神の復帰は非常に心強く、
先の戦いに向けての明るい要素。これは読んでいて気持ち良かったし素直に嬉しかった。
しかし今度は武巳の精神がやば過ぎる。作中のアレは久々に痛々しい描写でうひ〜って
なりました。ぐさぐさ。あとそういや亜紀もどうじさまの儀式やって確かまだ解決してな
い筈なんだけど、それは結局大して描かれてなかった。持ち越しで後引くのかどうか。
どうやら広げた風呂敷畳み始めてる段階だそうなので、果たしてどんな風に結末まで導
いてくれるのかを見守りたい。この巻のラストでちらついてた彼の存在も気になる所。
既刊感想:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10
2004/07/30(金)我が家のお稲荷さま。2
(刊行年月 2004.07)★★★★
[著者:柴村仁/イラスト:放電映像/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
恵比寿の勝手な紹介によって、はぐれ狐父子の拝さんと大五郎ちゃんの面倒を見る事に
なってしまった高上家一行。皆で暮らして馴染んだ所で今度は隣りの土地神・六瓢の盗難
事件が舞い込み、それを解決した辺りでこれまでを統べる今回の核心とご対面……という
三段階の三章立て構成。前巻と比べて、今回は個別の章同士が前後でしっかり噛み合い繋
がっていた為、全体的に見て一つの大きなストーリーとしての纏め方がうまいなと。些細
な請け負い事から徐々に大事件へと発展してゆく過程を描く部分で、あちこち飛び火する
ような散漫さが薄れて辿るべき筋道が奇麗に一本通っているように思えました。
しかしながらこの物語、実に醸し出す雰囲気が独特というべきか、何処まで行ってもま
た〜りムードが続く続く。読んでいて「これでいいのか?」と機微を捻った挙句「ああ、
これがいいんだな」といつの間にやら納得させられてしまう感触は侮り難し。まあ重要な
局面でも緊張の糸が緩みっ放しなのはどうかと思う事もあれど、それさえこの物語でしか
得られないものだと読み手を巧みに丸め込んでしまう独自の雰囲気も確かにある。
嗜好の違いで読む人によって捉え方は様々だろうけど、何かこの雰囲気って好きになっ
た人を決して手放さない吸引力があるように感じられるんですよね。ただ、盛り上がるべ
き所で起伏の激しさを発揮出来ない弱点もありそうなので、術合戦みたいな激しい動きの
アクションは不向き。やっぱりまた〜り感が堪らないホームコメディが相性抜群かな。
それから「主人公って一体誰?」と随分頭を悩ませる物語でもある。前巻と合わせると
随時顔見せしてる高上兄弟っぽいんだけど、イマイチ存在感が薄いんだよな〜。どちらか
と言えば主役より脇役で映えるタイプに見えてしまう。別に無理矢理特定する事でもない
かと思っていても、せめてもうちょい当主様の昇と佐倉の出番は増やして欲しいぞと。
で、今回は護り女の巫女・コウちゃんが全てと断言。だって絶対他キャラと見せ場の数
が違うもん。そういやコウちゃんて、世間ズレしてるとは言え無表情が際立っていたので
もっと冷静沈着な性格と思い込んでたのに、実はもの凄く天然さんだったのか! 焦った
りあたふたしたり墓穴掘って自爆したり……もう可愛くて可愛くて堪らんです。
既刊感想:1
2004/07/30(金)埋葬惑星II Rose Doll Frantic
(刊行年月 2004.07)★★★☆
[著者:山科千晶/イラスト:昭次/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
埋葬惑星ドールランドを抜け出した猫型アンドロイドのジョーイと傭兵モノローグが、
次の埋葬惑星へ向かう前の準備に立ち寄った惑星で足止めを食ってしまう展開。具体的に
は、ジョーイの所有証明称兼身分証である『オーナーカード』を偽造するのが目的。
前回頻りに『良い!』と喚いていた埋葬惑星の舞台は今回出番無しで、感触としては次
の段階へ進む為の中継点みたいなものか。とりあえず直ぐさま次の埋葬惑星へ行くもんだ
と想像してたので、好きな設定の新天地を拝めなかったのは残念だったけど、その分を補
うだけの面白さはこの工房惑星トーラスにも充分にありました。待遇としてはジョーイが
かなり割を食っていて可哀相な役回り。モノローグに「もっと気遣ってやれよ!」と言わ
ずに置けなかったというか(でもまあ後悔と反省をしてる辺り根は良い奴なんだけど)。
中心に置かれていたのはアンドロイドが『愛』とは何でしょうか? と想い続けて自問
し続けて葛藤し続けて、偶然巡り合ったジョーイの中に回答を見出そうとする事。ストー
リーの組み立ても、キャラクターの配置も立て方も、なかなか奇麗に纏まっていたし読み
進め易かったしで良かったと思う。ただ、今回はロゼの愛に執着する心が大きな要素であ
りながら、彼女の感情描写であまり印象に残る手応えを得られなかったのが惜しい所。
ロゼがアリオンに嫌悪を抱いているのも、マスターチップの書き換えに恐怖を感じてい
るのも、主人の言う愛について深く想っているのも、主にジークやジョーイとの会話の中
では確かによく出ているんだけど。本当は“深く深く他に何も見えなくなるまで思い込ん
で自我の『愛』の欲望のまま暴走してしまう”程に狂気染みてもいいから徹底的にやって
欲しかったのに……とか。終盤でジョーイに対してそういう部分は垣間見せてましたが、
やっぱりちょっと振り切れてない大人しい印象だったので物足りなさはあったかなと。
そして相変わらずハッキリ教えてくれないモノローグとフランの背景。まあ大まかには
掴めてるので今の所不満感は弱いんだけど、次ではその辺のもやもやを吹っ飛ばしてくれ
ますように。それからフラン頑張れ。めげずに張り付いて行ってくれる事を願う。
既刊感想:I
2004/07/27(火)埋葬惑星 The Funeral Planet
(刊行年月 2004.04)★★★☆
[著者:山科千晶/イラスト:昭次/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
元々は同名タイトルで電撃hp誌上連載されていたものを、大幅加筆修正で一冊に纏め
たのが本作。基本的に生きている人間の居住は許されず、人間と呼ばれる者は十五歳以下
の少年少女の死者達。その死者達に哀悼の意を込めて祈りを捧げながら生きるのは、童話
のキャラクターを模したアンドロイド達のみ――というこの『埋葬惑星』の設定そのもの
まるごと全てに強く強く惹かれました。いやもうホントに凄く好きですこの世界観。
本編読んだ印象ではそれほど設定に深く拘るような描き方でもなかったんだけれど、巻
末の用語解説を眺めると、かなり細部に到るまで綿密に練り込んでいるのがよく分かる。
作中だけでも分かり易く丁寧にこの世界背景と埋葬惑星ドールランドの舞台を描いている
ので、おそらく理解し難くて用語解説を利用する機会は皆無だと思う。それでも文章で補
い切れない設定や、雰囲気を掴む為の手助けとなってくれた辺りはちょっと嬉しい配慮。
死者に向けて延々と終わる事のない祈りを捧げ続けるのが、埋葬惑星に住まうアンドロ
イド達。とある切っ掛けでその循環から心をはみ出そうとしているのが、多分主人公で猫
型アンドロイドのジョーイ。目的を携えて埋葬惑星に侵入したモノローグとジョーイとの
関わりでいいシーンは多かったけれど、最も大きな見所はアンドロイドでありながら、ア
ンドロイドに有らざる心を持ち始めてゆくジョーイ自身の感情の変化じゃないかな? 切
っ掛けからジョーイがその行為に走る部分では少々感情の揺れが弱い気もしたんだけれど、
ラストでモノローグに対し剥き出しの暴走を演じて見せたシーンは実に良かった。
とにかく何度も何度もくどいですが『埋葬惑星』の設定自体が堪らなく好きになってし
まった為、このアイディアを捻り出してくれただけで個人的には充分拍手もの。ただし、
今回だけではモノローグとフランについての事が全部出尽くしていなかったので、あえて
辛目に見ています。そういう足りなかった所は続編に大いに期待していますという事で。
2004/07/26(月)ルーン・ブレイダー!
(刊行年月 2004.07)★★☆
[著者:神野淳一/イラスト:小川恵佑/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
なんか途中で読むの止めてしまおうかどうしようかと……小説を読んでる途中でこんな
風に思うのも稀なんですけど、とにかくひたすら読み進め辛くて苦痛だったんですよこの
物語の文章。設定は膨大で複雑で緻密でややこしくて難しくて面倒臭いのに、次から次へ
と固有名詞が出される割に大した描写も無くてどんどん進んで行くから、どれが何であっ
てどんな役割なのか混乱するばかりでサッパリ掴めない。読み終わってからあとがきに目
を通して、思わず一体どこら辺がシンプルなのかと突っ込みたくなってしまった……。
しかしそれ以上に拙さがあったのは、どんなシーンでも外側から見える状況だけをまる
で説明しているみたいに描いている点。ハッキリ言ってそこにキャラクターの感情は全く
ありませんでした。特に私が挫折しそうになったのは、それを延々と戦闘シーンでやられ
たから。描写不足な機械類魔法類などの設定込みで、隙間なく頁一杯に戦いの説明だけを
長々とされても、げんなりするばかりでちっとも楽しめない(決して頁一杯に書き込まれ
た文章の物語がダメという訳じゃなくて)。たとえそれが人間同士じゃなく物言わぬ機械
との戦闘だとしても、そこにグローブの抱えている感情をしっかり盛り込まなきゃいかん
でしょ。そういう心の動きが伴わないから、幾らちょっとだけの心の呟きとかアンやガー
ゴイルとの会話を入れた所で薄っぺらくしか映らない。
ただ唯一感情面が割とうまく乗っていたのがクロムウェル。彼の親友であるバスターの
思想からメルキオールとミディールの板挟みにされての葛藤や、ソーニャを長く想い続け
てきた気持ちなどは本当に唯一点だけ良かったと思えた部分。何でこういうのを肝心のグ
ローブとアンの所で表現出来なかったのか。ミリアムとエセルバートは別に居ても居なく
ても……と思ってしまったのも明らかに不遇の表れだろうし。これで尚続ける想定で決着
をつけているのが恐いです。もし本当に続編出たとしても相当慎重にならざるを得ない。
2004/07/26(月)ガンズ・ハート3 硝煙の栄光
(刊行年月 2004.07)★★★☆
[著者:鷹見一幸/イラスト:青色古都/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
エズオルの大群『スタンピード』を退けた後の新展開。今回は大多数の人間の命を蔑ろ
にする下らないとしか言えない禁忌をあえて侵し、真正面からの対立で自由と進化を掲げ
て行こうとする西域国と、一切の進化を大罪とし現状維持のシステムこそが最も正しいと
説く知の教団との互いのメンツを賭けた総力戦がメイン。前巻まで描き続けてきた事への
解答とか結末みたいなものがあまりに微妙でやさぐれ気分だったのですが、とにもかくに
もこの巻で元々西域国と教団の対立を表面化させて描く為に、エズオルのスタンピードを
足掛かりとしていたのは成る程という感じでよく分かった。ただ、今になってもエズオル
編の展開に納得行かなかった気持ちは変えようが無いんですけど……ここにスタンピード
の影響を乗せるなら、それこそ駆け足気味には終わらせて欲しくはなかったなと。
……なんて過ぎてしまった事をあれこれ突いて言っても仕方ないので。新展開の西域国
対知の教団という構図、あくまで前巻までと比較してですが、追ってみた感じだとスタン
ピードの時よりは無理のある微妙な展開でもなく、纏め方もそれなりで悪くなかった。
頭の切れる賢い者はどこまでも勇敢な正義で、愚かな行為を愚かと微塵も思わない者は
いつまでも愚かな悪、としか描かれないのも相変わらずなスタンス。ただ、今回はストー
リーが微妙に持ち直してくれたような感触があったので、幅が広がらない人物描写もあま
り気にはならなかった……と思う。これが持ち味と言ってしまえばまあそうなのかなと。
全体を平均的に描いているので、要所要所の見せ場はありながら主人公のケリンがイマ
イチ目立ってないのが毎度の不満でしょうかね。あとは敵方のプレディカーツ、彼にはも
っと積極的で徹底的な悪役に徹して欲しかった気も。根底では性根の腐った臆病者だから
その辺のキャラクターはよく出ていたけれど、多脚砲台をぶっ放す機会は幾らでもあった
のだから、つまりもっとケリン達を危機に陥れても良かったんじゃないだろうかと。
次巻で完結って事ですが、どうも次は教団退けた西域国の慢心が軸になりそうな予感が
あるのと、あとは東域国が絡んで来るのかどうか。ラストがまたとんでもない引きしてた
ので、最後にどう締めてくれるのか不安と期待入り混じりで気になる所。
既刊感想:1、2
2004/07/24(土)プロット・ディレクターII 中華と通貨の狂詩曲
(刊行年月 2004.07)★★★☆
[著者:中里融司/イラスト:日向悠二/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
世界各国の秘密結社が企む様々な陰謀を、学苑の部活動と称した同じ陰謀行動で殲滅す
るという依頼を請け負う、《カスタムキュー・カルテット》改め《カスタムキュー・ヘキ
サグラム》の面々。前巻からの名称変更は当然ながら卓也と沙羅の新規入部によるもの。
本来目を向けるべき大きな問題は、地球外の宇宙空間に存在している――という事実は
騎士の口から既に語られている事。なんだけど、それに比べてちっちゃなスケールで実際
行われているのは地球内での小競り合い。騎士が本当の意味で必要とし求めている卓也の
中にある『達人』たちの能力が、地球外の脅威に関わってゆくのはまだ先の模様。
あんまり触れずに離れ過ぎていると、その内宇宙にある危機が何なのか忘れてしまいそ
うで心配なんだけど。卓也の『達人』能力が何故必要で、またどんな風に威力が発揮され
るのかも全くと言っていい程語られてないので、その辺ももう少し表に出して欲しい。
中身はこれでもかってくらいサブタイトル通り、まさに中華と通貨の狂詩曲。日本政府
が大博打に出た全く新しい通貨システム、この設定は興味を引かれるものだなぁと思わさ
れました。まあ現実には有り得ない事なんだけど、頭に“もしも”が付いて想像を巡らせ
た場合、自分の通貨価値を測定したら一体いくらになるんだろ? と浸ってみるのが結構
面白い。しかし卓也の価値はなんであんなに低いのか、ちょっと笑ってしまった。
で、今回から圧倒的な存在感で陰謀の影に絡んでくるのが、美樹の製作者である阿南晴
香。彼女もまた謎に包まれたキャラで、何を目的として陰謀を画策しているのかサッパリ
掴ませてくれない。多分望まなくても何らかの形で卓也達と関わってゆくだろうから、そ
の中で晴香の狙いも徐々に明らかになるのかどうか。今後の焦点はその辺りかな?
既刊感想:I
2004/07/22(木)Mr.サイレント5 愛情世界の聖なる希望
(刊行年月 H16.07)★★★☆
[著者:早見裕司/イラスト:唯月一/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
シリーズ最終巻。なんだけど、最後のエピソードがちょっと……容量的にも話の展開に
してもミステリとしての楽しむにしても、色々と物足らなさ過ぎでこんなにあっさり終わ
らせてしまうには勿体無くないですか? いや、完結巻なのだからどんな形でもある程度
纏め上げなければ拙いんだろうけど、にしても急ぎ足だったかなという印象が強くて。
最後の事件だけはこれまでと全く質が違うので、中身の良し悪しをそう簡単には無視出
来ない。聖信が正体を晒した辺りを境に、晋一郎が受けた過去の事故の真相に迫ってゆく
という物語の方向性が徐々に固まって来たのだから、これまでの思い入れがある分だけや
っぱりもっともっと描き込んで欲しかったわけですよ。具体的に何がイマイチだったかと
言うなら、事件が起こって謎を解き真相に至るまでの“推理捜索する過程”がごっそり抜
けている点。事件発生から後は、もう真相を暴く為の準備と謎解きだけしかやってないん
ですよね。状況的に真犯人は他に考えられなくても、ロクに捜査もしない内にいきなり断
定してしまうのはどうかなと。後付けでレクター博士の情報を得たとしても、時間に制約
があったとしても、もうちょい過去の核心に踏み込んだ晋一郎の頑張りが見たかった。
あと、しばらく『喋れない晋一郎が真理香の通訳のフォローで相手に意志を伝えている』
という状況がなかなかうまく描けていると思っていたのに、最後でまた晋一郎自らが喋っ
ているようにしか見えないシーンが多くなってしまったのも残念。これは映像だと音声と
視覚で簡単に状況が掴めるんだけど、全て文章変換されてしまう小説で表現するにはやや
難しい題材なのかな。アイディアは最初から非常に目を引くものだったのですが、シリー
ズ全体を眺めて、充分に扱い描き切れていたかどうかを考えると微妙な感触だった。
他の前半1本はいつも通りの悩み相談解決、もう一本は多分初めてだったような気がす
る真理香の過去回想に絡んだ問題。真理香については高校中退してる事実だけしか語られ
てなかったので、これは凄く見たかったエピソード。本当はもっと描いて欲しかった。真
理香の学生時代もそうだし、事故についても晋一郎との過去の触れ合いについてとかも。
最後は……まあ本音はこうじゃない方が良かったんだけど。「何でこうなるんだよ〜」
だったけど。まだこの先の物語を想像してみたいと思わせてくれたのは良かったかなと。
既刊感想:1、2、3、4
2004/07/22(木)Mr.サイレント4 心象世界の幸せな景色
(刊行年月 H15.09)★★★★
[著者:早見裕司/イラスト:唯月一/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】
えーと前巻の感想でひとつ触れ忘れていた大きなポイント、真理香に疎まれても懲りず
にしつこく追っ掛け回してた聖信の役割と立場です。これはもう知ったときに「ええーー
っ!?」とぶったまげだった事実で、成る程こう来たかと。前巻ラストで語られていたそ
の辺り、引き続き晋一郎が受けた事故被害の真相へ徐々に迫るように描かれています。
さて沖縄旅行から帰って来た晋一郎と真理香、また元のネットで依頼を受ける探偵に戻
り、主に悩みや困り事など危険度の低い事件を解決する為に奔走する日々。そこに前述の
聖信が思惑を隠しながら表向きで真理香に近付きつつ、万一何らかの切っ掛けで事故に関
する秘密を晋一郎が思い出さない様に監視を続ける展開。こうなるとやっぱり彼の印象が
まるで違って見えるのが面白、と言えるのかな。ただ、真理香には本物の好意を寄せてい
るので、とある事件で思いっきり凹まされた彼が果たして今後どう出るのかが見所か。
あくまで近所の悩み相談っぽい域を出ないから、解き方も手軽で分かり易く簡単。ただ
しこの物語は、推理して謎解くまでの歯応えをメインに置いて味わうものとはちょっと趣
が違うので、単純明快さが物足らないとは思わない。最も目を向けるべきは、解決するの
に協力し合う晋一郎と真理香の二人三脚の姿でしょうかね。真理香は確実に急激に晋一郎
の事を意識しているし、晋一郎が思わせ振りな曖昧発言で真理香の気を逸らしているのは
照れ隠しにしか見えないし。あとは告白して2人が正式にくっ付くのを待つばかり。
そういやこの巻の初版刊行時はまだ新装前にもかかわらず、これでもかってくらいLO
VE&ミステリを相乗効果で盛り込んでいる所は素晴らしい。これが何となく富士見ミス
テリー文庫の今後の方向性を示唆していたような気がしてならなかった。まあ実際の割合
としては、謎解きよりも晋一郎と真理香の恋愛の方が多量に描かれているのだけれど。
既刊感想:1、2、3
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