NOVEL REVIEW
<2004年11月[後半]>
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11/30 『推定少女』 著者:桜庭一樹/ファミ通文庫
11/28 『echo ―夜、踊る羊たち―』 著者:枯野瑛/ファミ通文庫
11/27 『駒王神社深川家物語 神楽と丹生』 著者:星隈真野/ファミ通文庫
11/25 『吉永さん家のガーゴイル5』 著者:田口仙年堂/ファミ通文庫
11/24 『ナイト ウィザードノベル 蒼き門の継承者』 著者:犬村小六/監修:菊池たけし・F.E.A.R./ファミ通文庫
11/23 『To Heart アンソロジーノベル』 著者:新井輝 他/ファミ通文庫
11/22 『かくて災厄の旅ははじまる トワイライト・トパァズ1』 著者:佐々原史緒/ファミ通文庫


2004/11/30(火)推定少女

(刊行年月 2004.09)★★★★ [著者:桜庭一樹/イラスト:高野音彦/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  義父とのトラブルで警察沙汰になり逃亡してしまう少女と、彼女が逃げた先のダストシ ュートで偶然見つけた少女の物語。あとがきまで読んだ感じだと、著者の桜庭さんがカナ と同じ年齢当時の感情を強く思い起こして描いているような印象。そういう風に考えると、 一見カナと同世代の読者を一番のターゲットにしているようで、実はもう少しだけ上の世 代に過去を思い起こさせる意図が最も大きかったんじゃないかな? なんて思ったりする のは、自分がカナの年齢なんてとっくの昔に過ぎ去ってしまっているからでしょうかね。  かなり不可思議というか無茶苦茶な設定で展開しているので、その辺を一々突っ込んだ り深く意味を求めようとすると、割とお話にならない感触にもなり得そう。私はこの作品 のストーリーとしての組み立てや展開には正直あまり惹かれませんでした。が、それはそ もそも描き方が起承転結を含んだ物語とは全く次元が違っている気がしたからで、ストー リー性で面白さを求めようとしても求め方が筋違いで間違っていると言えるのかも。  要はカナの感情そのものがまるごと一冊の本に凝縮されている内容。しかもこれは少女 的な気持ちの揺れを様々な観点から非常に強調して描いている為、読んでいる世代や性別 の違いで相当作品の印象が変わってくると思う。性別はともかく、せめて過去を思い返し ながら年齢だけを意識的に下げて読んでみようと努力したけど、結局ダメっぽかった。  ふと「仮に自分が実際カナと接した場合どうだろうか?」って首捻ってみた所、多分子 供である少女の視点を理解してあげた振りして、最後には大人の態度になってしまうんだ ろう……と頭に浮かんだ結果がこれ。電脳戦士な兄ちゃんにはとてもなれそうにない。  少女の繊細で微妙で複雑な感情表現を読み解く物語としては絶品の一言。少女×少女の 触れ合いのようなものも、触れてみたいと思いつついざ触れるとあっさり壊れそうな何と も言えない妙な雰囲気が堪らない。この辺は同著作『赤×ピンク』でも感じた事だけど、 本当に同世代の少女達の絡み合いを魅力的に描くのがうまいなと。彼女達とは性別が違う から、分かりたいと懇願した所で理解出来ない部分がどうしても出てしまうのも同様。 2004/11/28(日)echo ―夜、踊る羊たち―
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:枯野瑛/イラスト:謎古ゆき/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  夜闇に潜み獲物を狙う羊の皮を被った手負いの狼と、過去に消失してしまった心の隙間 に狼によって偽りの記憶を植え付けられてしまう主人公・沢渡直樹。本当の記憶と現実と、 今現在置かれている状況に食い違いのような違和感を覚えつつ、それでも心の隙を突かれ た直樹は“有り得ない妹の存在”に気付けず安堵に身を委ねた日常に浸り続けてゆく。  何とも言えない不思議な空気を纏った世界観。描写は非常に淡々としているのだけれど、 読んでいて心の揺れが妙に尾を引いて印象に残ってしまうキャラクター達。これは物語の 雰囲気自体に酔い浸れたもん勝ちかな? 個人的には所々で淡白な部分がイコール描写が 弱いと繋がっていた為、やや作風が肌に合わない印象だったというのが正直な所。  気になっていた焦点は『雪路の獣』について。結局どういう存在だったんだろ? 読了 後にこればっかりがしこりの様に残って消えなくて、その曖昧さがちょっとした消化不良 を引き起こしてくれました。『雪路の獣』の性質とか、直樹に接触した理由とかってのは 割と把握出来るんだけど……引っ掛かってるのは要は存在自体。直樹の心の隙に潜り込ん だそもそもの原因――どういう別の存在に重傷を負わされたのか? そして何処から来て 何処へ行ってしまったのか? この辺の突っ込みの弱さが物足りない要因だったらしい。  ただ、この物語が纏っている淡くて脆くて触れると壊れそうな雰囲気は凄く好みなもん で、もう一つな点と差し引きすると微妙に複雑な心境なのですけど。もし続くのなら直樹 を主人公に立てるのではなくて、『雪路の獣』の方が次に何処に辿り着いて誰を標的にす るかをメインに持って来て欲しい。その中で不明瞭だったものを描いてくれたらなと。  しかし、結末の時点で全部が直樹の夢であったら……と都合のいい私の望みはさすがに 作中では叶えられませんでしたね。昨日まですぐ側で笑顔を交わしていた身近な人が、今 日何事も無かったかのようにあっさり切り捨てられるのはやはり相当の痛みが伴う。淡白 な表現で示しているのが、確かな現実味さえ奪ってしまうような感覚で余計に切ない。  そんな風に感じさせてくれる描写はなかなかお見事。直樹に降り掛かった事態は一応解 決を見たけれど、全てが現実に刻まれた傷痕。何ともやるせない苦味の残る結末でした。 2004/11/27(土)駒王神社深川家物語 神楽と丹生
(刊行年月 2004.09)★★★☆ [著者:星隈真野/イラスト:結川カズノ/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  第五回エンターブレインえんため大賞『佳作』受賞作。  一年前まで世間から忘れ去られ、人の全く寄り付かないうら寂びれた駒王神社。しかし 一年後の今では神主の少年・深川神楽の手腕によって、若い世代の観光スポットとして名 が知られるまでに変貌を遂げている。面白いなと思ったのはその客を呼び込む方策で、神 社の中に喫茶店やクレープ屋台などを投げ込むというもの。普通に眺めたら常識を大きく 逸脱した客寄せながら、神社の静寂な空気とのミスマッチが何とも奇妙で印象に残る。  奇をてらった設定と言えば全くその通りなんだけど、それでも良い感触で受け取れたの は、つい視線を向けたくなってしまう新鮮な一手というのがこの物語にはしっかり存在し ていたから。型にはまった考え方ではその本質をとてもじゃないけど捉え切れない――そ んな神楽の性格を引き立てる意味でも、奇抜な仕込みは効果的に表れていたかなと。  ただし、変な神社の設定が物語の本筋とはあまり絡んでいなかったのは惜しい所。要は 悪霊の怨念を祓う退魔モノなのですが、何か神楽の能力が曖昧であんまり把握出来なかっ たような。使い魔的存在(すず&ジロ)を使役して祓うみたいな戦い方をしてたのは確か なんだけど、神楽自身に退魔の力が備わってかどうかもう一つハッキリ分からなくて。  安倍晴明の生まれ変わりってのもデマっぽいので、インチキ臭さだけがやけに漂ってし まって、もしかして平然とハッタリかます主人公なんだろか? と思わされてしまったり も。いや、物語の中でそれがよく見えてないだけで多分ちゃんと能力は備わってるんだろ うけど。この辺も他人をひらりとかわし本心を掴ませない神楽の性格故なのか。  他に構成の難で、いきなり過去に飛んだり現在に戻ったりで時々ごちゃっとしてるなと 感じた点、会話時の書き分けがイマイチで誰が喋ってるのか見失う箇所も幾つかあった点 など。あとニューちゃんが全然活躍してないよ〜。実はこれが最大の不満点だったかも。 2004/11/25(木)吉永さん家のガーゴイル5
(刊行年月 2004.10)★★★★ [著者:田口仙年堂/イラスト:日向悠二/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  デビューからまだ一年未満にもかかわらず既にシリーズ五冊目(更に来年一月にはもう 六巻刊行予定のようだし)、しかも面白さのクオリティが落ちずにちゃんと維持出来てい るというのは素直に拍手もの。ご近所町内コメディ&ガーゴイルのアクションなノリは楽 しいんだけど、いつかパターンが出尽くしてマンネリになるかも知れない心配とかもして ました。が、前巻みたいなああいう変化球も投げれるんだなと感じた時点で心配は杞憂に 終わってたのだけれど、今回またご近所騒動の楽しさを得られてもう心配無用だなと。  もし仮に完結を見据えて物語を動かす事を考えた場合、まだどういう方向に進むかは分 からないけれど(このままのノリで行ったらどこまででも続けられそうだから)。今の所 はネタが尽きそうな勢いの衰えを全く感じさせないので、まだまだ楽しめそうです。  今回は御色町の『さくら祭』に便乗した南口商店街と北口商店街の対決激突騒動。でも 一番描きたかったのは多分パパとママの愛と吉永家の絆。力関係を眺めてるとやっぱりマ マが最強でしょうかね。ただ、ママの普段の無口さとか極端な変化とかは、自分の感情を うまくセーブ出来ない性質でもあると思うので、極端にキレたり号泣してしまったりする のは心の脆さの表れなのかも知れない。何にしてもこれまで縁の下の力持ち的存在であま り目立てなかった、吉永家のママの姿を堪能させてもらえただけでお腹一杯の満足感。  まあ本当はパパの役割の方が大きく取り上げられてるんだけどね。最初は必ず意図があ ると思いつつも、双葉の激昂と同様に「何考えてんだこの親父は」と呆れ気味でしたが、 終わってみればパパ凄く格好良かったよ! このラストシーンの余韻が堪らんですね。  既刊感想: 2004/11/24(水)ナイトウィザード ノベル 蒼き門の継承者
(刊行年月 2004.10)★★★☆ [著者:犬村小六/監修:菊池たけし・F.E.A.R.         /イラスト:石田ヒロユキ/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  TRPG『ナイトウィザード』のノベライズ版。何か各キャラクターに妙な特徴(足が 臭いとか方向音痴とか壊滅的音痴とか)が色々くっ付いてるな〜とか思ってたら、どうや らノベル版を執筆する前に実際にキャラクターメイキングして、TRPGのプレイで特徴 を肉付けして出来上がったキャラクターだそうで。ストーリーの雰囲気はシリアス寄りで 徐々に重苦しくなってゆく展開なのに、時折それぞれの特徴で笑わそうとしている気配が あるのはキャラ立ての為なのかな?(祐介の“足臭い”はあまり活かせてなかったけど)  以前刊行されたリプレイの中に登場していた灯とナイトメアが本作でも役割大きい脇役 として活躍しているので、リプレイを読んでいた方が二人の特徴を掴めている分だけ楽し める要素は多い。内容的にはリプレイ未読でも何とかいけそうですが、灯の無感動さやナ イトメアの真面目顔で変態チックな性質はリプレイに触れてないと分からないので。  ストーリー展開は……ううむ、ちょっと急ぎ過ぎでしょうかね。脚本をざっと流して描 いている感じで、設定やキャラクターの感情面の掘り下げがイマイチ足りてなかったよう な印象でした。特に納得が行かなかったのは、彼女(一応名前伏せときます)が千年前に 悲恋を遂げてその想いをずっと背負って来た筈なのに、千年経った現在で恋愛要素が全然 盛り込まれていない点。祐介がやや状況に付いていけない所はあるかも知れないけど、そ れでも前世の記憶を知ったからには、少なからず惹かれ合うシーンがなきゃ嘘でしょう。  夏休みに入ってからの特訓とか、覚醒が徐々に近付く日々の気持ちの推移とか、美智子 の接近とか、敵方の事情とか。大体軽く流されてしまったこれらのシーンを、もっと急が ず焦らず丁寧に描いてくれてたら手応えも大分違ったものになっていた筈……と思うと少 々残念。今度は祐介、水希、ニナが主要メンバーのリプレイとか読んでみたいかも。  関連感想:ナイトウィザード リプレイ 紅き月の巫女 2004/11/23(火)To Heart アンソロジーノベル
(刊行年月 2004.10)★★★☆ [著者:あすか正太・武乃忍・氷上慧一・新井輝/カバーイラスト:矢野たくみ    /本文イラスト:むっちりむうにぃ・小池定路・香川友信・あらきかなお    /クマイラスト:YUG/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】  今この作品のアンソロジーノベルを刊行するってのは、やっぱりアニメ放映に合わせて の事なのかな? 四人の作家さん&絵師さんの競演作、それぞれに主要ヒロインが決めら れていて、キャラクターは表紙を飾っているあかり・委員長・芹香・志保の四人。これは 好きなキャラ贔屓キャラによっては楽しめるか否かが全然違って来るかも知れません。 ・だいすき。/あすか正太  「さっさとヒロに告白しなさいよ〜」とあかりを急かす志保の策略で、レミィと告白対 決するというもの。オチは予想通りで「多分こういう理由なんだろうな〜」とあっさり読 めてしまうのだけど、何せあかり一人称視点なもんで、浩之ちゃんを常に想いながら告白 に踏み切れないじれったさがストレートに伝わって来るのでもう堪らんのですよ。 ・秋の風は彼方へ/武乃忍  委員長一人称スタイルのエピソード。既に浩之とあかりが結ばれている状況で、同じク ラスで友達付き合いしている二人の間から遠ざかろうとする委員長の複雑な心境を描いて います。本当は浩之が好きだってのがあからさまに出てるのが余計に切ない。でも最後に はもやもやな気持ちも吹っ切れて円満解決しているので、読後感は良い余韻が残る。 ・初めてのquarrel/氷上慧一  芹香エピソード。良かれと思い見せる浩之の気遣いが、逆に芹香を不安にさせ二人の距 離を遠ざけ、遂には不協和音を生み出すまでに至ってしまう。距離が出来てしまってから の芹香の大胆な行為にちょっと驚かされた。ストーリーは四編の中で最も練られていて読 み応えがあったように思いました。脇役としての綾香の活躍もなかなか光っています。 ・二人きりの夏夜/新井輝  一応志保メインのエピソードだけど、これだけは男一人:女多数の構図で浩之がやたら にもてまくるといういかにもなギャルゲーな雰囲気を醸し出しとります。何か妙に著者の 新井さんの特色が出てるというのか、浩之の一人称のせいもあるけど、上の三編と比較し ても浩之の視線があからさまに胸に行き過ぎでエロいですな。しかしまあ他は登場キャラ が絞られているので、こういう大人数のドタバタ騒動が混ざってるのもまた面白い。
2004/11/22(月)かくて災厄の旅ははじまる トワイライト・トパァズ1
(刊行年月 2004.11)★★★★ [著者:佐々原史緒/イラスト:瑚澄遊智/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】  同著作『サウザント・メイジ』シリーズから五百年後の世界が舞台となる物語。キャラ クターが一新されて、引き継がれるのは世界設定くらいかなと思っていたのですが、関連 性があるどころか前シリーズともろに直結してます今回のシリーズ。だってせいぜいちょ こっと歴史の人物として名前が出る程度だろうと想像してたオニキスが! そしてアダマ スが! ここまで深い繋がりを持ったままストーリーが展開してゆくとは……嬉しい誤算 ってやつですね。アダマスと琥珀が全然変わってない辺りにもニヤリとさせられた。   私の場合は『サウザント・メイジ』既読してる上での感想なので、未読の場合の印象が どうかはうまく述べられないけれど、過去の出来事を把握していなくても新シリーズとし て楽しめる手応えは充分に得られるんじゃないかなと。まだ掴みの段階なのでストーリー が走り出すのはこれからですが、オニキスに代わるツッコミ兼ボケ役で苦労人の新主人公 ・トパァズの一人称文章の軽快さだけでも読み手を引っ張る力はなかなかのもの。  ただ、ここまで『サウザント・メイジ』の時のキャラクター・設定・出来事などが深く 関連していると、やっぱり先に前シリーズを読んでおいた方が楽しめるのも確かで、そう いう順番での読書を推奨。既読してるのと未読のままで臨むのとでは、最初にプラス要素 を持っている分だけ面白さに相当の開きが出てしまうと思うので。前述のように前シリー ズとの繋がりを知っていると、にんまりとさせられる嬉しいシーンが実に多いのですよ。  あえて欲を出すなら、トパァズの師匠であるルキウスが早々にああなってしまったから、 その偏屈な性格が存分に拝めなくて残念だった点くらいか(ルキウスの印象は殆どがトパ ァズの言葉から出たものだったのでね)。最初から好感触発進で続きが楽しみです。  関連感想:サウザント・メイジ


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