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12/31 『虚剣』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
12/30 『舞-HiME 第1巻』 著者:木村暢/メガミ文庫
12/30 『銃姫3 〜Tow and is One〜』 著者:高殿円/MF文庫J
12/27 『春期限定いちごタルト事件』 著者:米澤穂信/創元推理文庫
12/24 『うさ恋。1 女なんか、嫌いだ〜っ!』 著者:野村美月/ファミ通文庫
12/23 『かくて流転の定めはつづく トワイライト・トパァズ2』 著者:佐々原史緒/ファミ通文庫
12/21 『流血女神伝 暗き神の鎖(後編)』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
2004/12/31(金)虚剣
(刊行年月 2005.01)★★★★
[著者:須賀しのぶ/イラスト:梶原にき/集英社 コバルト文庫]→【bk1】
雑誌『cobalt』にて連載されていたものに加筆修正しての文庫化。柳生一族の中に生ま
れ幼い頃より剣の道を志す柳生連也が主人公の剣豪小説……っぽく見せかけておいて、実
は一人のワカモノの様々な苦悩や葛藤を経ての成長と生き様を描いた青春小説だそうな。
私は一般的にどんなもんが『剣豪小説』と呼ばれてるのか知識足らずだったので、ジャ
ンルはあまり気に留めてなかったのですが、少なくとも剣術を駆使してドンパチ繰り広げ
るようなアクションがメインの物語じゃないです。むしろ身体を使っての激しい動作は最
初にイメージしてたのよりずっと少なくて、割合控え目で静かな表現ながらどこか読み手
に激しく訴え掛けるような、連也の様々な内面描写が素晴らしく際立っていたと思う。
何が驚きかって、こういう内容の作品を少女小説系の雑誌に連載してたのが驚きでした
けど。ただまあ一見して少女小説の枠からはハミ出しているようで、よーく眺めてみると
「ほらイイ男があっちにもこっちにもいるじゃないの」状態だったりするんですよね。
同性からの視点でも非常に魅力的に映るキャラクターがちらほら存在するのも、面白さ
に繋がる要素だったんじゃないかなと。その最たる所は主人公である連也の魅力な訳です
が、他にも十兵衛の生き方や光友と連也との友情、連也の心を包む清厳と茂左衛門の優し
き兄弟愛など、男同士の名場面で惹かれるシーンが多かったりしました(まあ殆どが男キ
ャラなので当り前なんだけど)。個人的に好きだったのは宗冬。剣剣の才が無い所から、
剣術の凄腕達とは別の観点で色々考え動き発言している辺りが印象に残ったのかなと。
もう一つの興味は連也が最後に剣に一生を捧ぐ修羅の道を選ぶか、それとも剣を捨て最
愛の妹・琴との恋情に身を委ねるかの選択。両者共に肉親以上の感情を抱いているのは明
らかで(主に連也の方)、どうやっても添い遂げられないからこそ自ら想いを秘めて逸ら
して避け続ける。そして話が進めば進むほど選択に迫られる連也のその姿が切なく映る。
連也がどちらの道を選ぶかは読んでみてからのお楽しみ。連也を見てその答えを考えつ
つ結末まで辿る事も、この物語の大きな面白さだと思うので。連也と琴は前述のような関
係で、しかも柳生の血も絡んでくるので当然ながら簡単に答えは決まらない。最後の最後
まで二転三転しながら、連也がどう選択するのかで結末まで楽しませてもらえました。
2004/12/30(木)舞-HiME 第1巻
(刊行年月 2004.12)★★★
[著者:木村暢/イラスト:久行宏和・深野洋一/学習研究社 メガミ文庫]→【bk1】
同名アニメの小説版でメガミマガジンに連載されたものを収めた短編集。とは言っても
最初はアニメ放映に先駆けたプレストーリーとして掲載されていたらしいので、ストーリ
ーとして描かれたのはこっちの方が先になるのかな? それを考慮すると事前情報という
形での、こういうキャラクター紹介がメインみたいな短編エピソードもありなのかも。
ただあくまで効果が発揮されるのはアニメに触れる前段階までなので、雑誌掲載時は有
効だったとしても、既にアニメが1クール終わってしまった今触れた場合の効果はやっぱ
り随分薄いです。逆に言うなら全く登場キャラクターを知らない段階で、これからアニメ
を観ようと思っている人で興味あるなら触れてみてもいいと思う。むしろ連載を文庫で纏
めた小説版は、アニメに触れた事のない人をターゲットにしているような印象でした。
小説でオリジナルキャラクターが出なくなった=アニメが始まった時期なのかどうか。
最初煩わしいくらい出てたのに、途中から全く出なくなったのでどうしたんだろ? と思
ってたのですが、耀って娘は読み手に主要キャラをよく知ってもらう為の仲介役だったの
かなと。ちょっと自己主張が激しいキャラだけど個人的には嫌いじゃないので、もしアニ
メとは違うサイドストーリーとしての物語に、準レギュラーくらいの位置で登場させてた
ら面白かったんじゃないかなぁと。今後また刊行されるかかは分からないけど、アニメを
なぞっただけのものよりは小説版オリジナルのサイドストーリーを読んでみたい。
2004/12/30(木)銃姫3 〜Tow and is One〜
(刊行年月 2004.12)★★★☆
[著者:高殿円/イラスト:エナミカツミ/メディアファクトリー MF文庫J]→【bk1】
次巻と合わせて前後編。色々問題提起したまま持ち越されているので、抱えた謎が解か
れてゆく楽しみもお預けという形。本題は『銃姫』とオリヴァントを追う事なのだけど、
徐々にセドリックの成長過程を描く事がメインに持ち上がって来ているような感じ。特に
この巻は髭とか声変わりとか外見的な成長もそうだし、これから何処へ向かい何をすべき
か真剣に自分の心と対面して考える事が多くなっている。セドリックに影響を与えている
のは様々で、前巻のバロットとの出会いに今回のプルートやティモシーの生き方の触れて
考えさせられている部分もある。それから謎に満ちている自分自身の過去を知りたい欲求
で、見えない記憶の闇に頭を悩ませていたりもする。アンやエルの出番が大幅に削られて
いる代わりに、これまで控え目だったセドリックの内面を存分に見れて良かったです。
とある人物の姦計によってセドリックとティモシーが別の場所に飛ばされ、アンは囚わ
れの身になろうとしている所で終わってしまったので、「早くその先を見せてくれ〜」な
状況なのですが、溜まった謎な所は後編でスッキリさせてくれるでしょうと信じて。結局
セドリックもアンも蜜蜂の館から離脱してしまう事になりそうなので、果たして残された
エルはどうなるか? そしてセドリックの過去に関わりのあるキトリや、彼女と対のキサ
ラとの経緯は今後何をもたらすのか? 次巻への興味は大体この辺りに掛かって来そう。
印象に残ったものとしては、セドリックとオリヴァント(ルーカ)の関係で意外な過去
が語られていたシーン。しかしこれもまた見た目通りに単純に鵜呑み出来そうな感じでは
なくて、何かオリヴァントには裏の事情がありそうな気がしてならない。今の所セドリッ
クが裏切られた(と思わされた)瞬間については断片的にしか描かれていないので、明か
されるのを待つしかない。あとはもうエルウィングの異質さのみ。この物語で彼女の不可
解さが最も恐ろしいと思う(プロローグの最後、背筋が寒くなってしまった……)。
既刊感想:1、2
2004/12/27(月)春期限定いちごタルト事件
(刊行年月 2004.12)★★★★
[著者:米澤穂信/イラスト:片山若子/東京創元社 創元推理文庫]→【bk1】
あの小市民の星を目指して掴む事を人生最大の目標と掲げ、互恵関係で成り立っている
高校一年生の小鳩君と小佐内さんの日常探偵物語。まず最初にあらすじ眺めて『小市民の
星』って何のこっちゃ? と首捻ってたのですが、ちゃんと小鳩君と小佐内さんの事情を
察した時点で「ああなるほど小市民の星を掴みたいと望んでる性質だな」と納得。
ミステリ方面は身近に起こり得る些細な出来事を取り上げて、そこに謎を含ませ推理さ
せてゆくパターン。どのエピソードも決して大仕掛けではないけれど、全てが現実でも当
り前のように簡単に起こりそうなものばかりだった為か、もしかしたら言葉が変かも知れ
ないけれど“凄く親しみ易い”か或いは“凄く馴染み易い”という印象が強かった。
特に面白いなと思ったのは、誰かの日常のすぐ側に転がっていそうな出来事ながら予想
以上に読み手を熟考に導いてくれる描き方。物事はこんなにも単純で容易く小鳩君と小佐
内さんの手に転がって来るのに、いざ解こうとなると二人を見守っている感じだったこち
ら側が、気が付くといつの間にか回答を得ようと深くじっくり考えさせられていました。
構成は連作短編形式。各話とも頭に適度な刺激を与えてくれるだけの良さがありました
が、個人的には「おいしいココアの作り方」で最も楽しませてもらえたかなと。あとは前
話までにちまちま張っていた伏線と小佐内さんの本質が解かれる「孤狼の心」も。
しかしまあ物語全般で楽しめた要素と言えば、『小鳩君と小佐内さんの奇妙な距離』で
あり『謎に抗えない小鳩君の性質』であり『小佐内さんの本質』であり。で、最後に『小
動物的な小佐内さんの可愛らしい仕種』が印象に残ればそれでいいんじゃなかろうか。
本当の所を知るとまた見方もちょっとばかり違って来るのですが、それでもいちいち小
鳩君の背後に隠れては、そっと顔を覗かせて様子を見ようとする小佐内さんの仕種が可愛
過ぎです。最もツボだったのは139頁「場を、繋ごうと思って……」という台詞。小鳩
君も言ってるけど健気過ぎだよ小佐内さん。このシーンを思い返しながら頭にそんな絵を
浮かべてはニヤニヤしっ放しでした。また小市民の星を目指す二人の様子を見てみたい。
2004/12/24(金)うさ恋。1 女なんか、嫌いだ〜っ!
(刊行年月 2004.12)★★★☆
[著者:野村美月/イラスト:森永こるね/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
うさ耳モ〜ドな月の末姫・真雪と、女嫌いな地球人の捻くれ少年・航平とのラブコメス
トーリー。いや〜、こういう何も面倒臭い事考えないでお気楽に読めるドタバタな騒動劇
って大好きです。ってのは一応誉め言葉で、まあストーリー性の有る無しを問われると返
答に詰まってしまう内容ではありますが、この物語(というより著者の方)は、最初から
キャラクターの魅力を引き出す事を最重視した描き方をしているのであまり気にしない。
そのキャラクターの中でも特にタイトルになっているうさ耳少女の真雪は、本当に何か
ら何までか弱く可愛らしく描こうとしているのが凄くよく伝わって来る。航平に辛く当た
られてもあくまで自分の非を責めようとしてる所とか、うさぎ姿で言葉喋れない時の「み
ゅみゅ〜」と必死に気持ちを訴える姿とか。真雪にここまで卑屈になられて航平が鬱陶し
いと感じる気持ちも汲み取れるんだけど、それは単に好意を寄せる女の子の扱いに徹底的
に不慣れなだけで。真雪に素直になれずぶっきらぼうに接しようとしては、周囲の余計な
ちょっかいでコケて転がって流されてしまう航平の滑稽な姿もまた眺めていて楽しい。
ストーリー展開での伏線は、今の所あんまり気にする程のものもないくらい大した事な
いのですが、この辺も上記のキャラ重視な感触があるからなのかなと。それでも唯一の謎
と言ってもいい“ジークフリート&オディールが何者で何故真雪を付け狙うのか?”はハ
ッキリしていないので、そこを気に掛けつつ追ってみるのもいいのかも知れない。
あとは“真雪のテンションが下がると地球が滅亡に近付く”という設定を、どこまで物
語に面白く盛り込めるかどうか。それから一巻時点では完全に良いお友達状態の恋が、真
雪と航平の間に恋愛感情込みで割って入るのかどうか。楽しみにしたい要素はそんな所。
2004/12/23(木)かくて流転の定めはつづく トワイライト・トパァズ2
(刊行年月 2004.12)★★★★
[著者:佐々原史緒/イラスト:瑚澄遊智/エンターブレイン ファミ通文庫]→【bk1】
ナイス・ボイン。なんて強烈なインパクトだろうかと思った。トパァズって見かけのわ
りに育ってんな〜とか眺めてたら(口絵参照の事)、アダマスが狙ったように本編でそこ
に関して突っ込んでたのに吹いてしまった。あんた千五百年も生きてて十五の小娘に負け
てんのかよ(……って外見がああだから中身もあまり変化する事がないんだろか?)
禁忌の属性魔導を使用しセサルに魔導力を奪われてしまい、しかも動物に姿を変えられ
てしまった師匠・ルキウスを元に戻す為、黒曜守護団の本拠地を探す旅に出たトパァズ。
相変わらず余計な事に(主にアダマスのせいで)巻き込まれてしまう苦労人街道まっしぐ
らで、その辺確実にオニキスの後を継いでるなぁと妙に微笑ましい印象を抱いてしまう。
オニキスとトパァズで違うのは、プロフェッショナルとへっぽこくらいの開きがある魔
導力の差くらいか? だけどトパァズも、カルセドニーの特殊な封印が施された手紙をあ
っさり開封してしまう辺り、潜在能力は並々ならぬものがあるらしい。その能力的な面が、
何となく生まれや育ちと関係あるような気がしているのだけどまだ分からない。割と思わ
せ振りに描いているような箇所もあるので、無関係ではないと思うんだけど……さて。
進行具合は次への繋ぎ的な感触が大きかったかも。しかし黒曜守護団の本拠探しに関し
ては全くの無駄って訳でもなく、また常時すちゃらかなアダマスの表情にも珍しく影を落
とすシーンがあったりで(身内にああいう事が起これば当り前なんだけど)、前巻同様読
み応えは充分で面白かった。張られる伏線がちょっと増えてきたかなという感はあれど、
基本的にトパァズの喜怒哀楽がハッキリした一人称を辿るだけでも楽しいので問題なし。
あとはトパァズがルキウスを好きだという事実にピクピク反応してしまったのですが、
片方が動物と化してロクにコミュニケーションも取れないんじゃ、今の所はどうにも転が
しようがないかも。まあ師匠好きを突かれて焦っているトパァズも可愛いんだけど、これ
もまたアダマス&琥珀に弄られる格好のネタになるのでしょう。羊から狐になったルキウ
スは次にどんな動物になるんだろう? とか考えながら続きを期待してます。今回登場し
なかった目下元凶である所のセサルとも、次巻で再衝突する可能性は充分ありそうだし。
既刊感想:1
2004/12/21(火)流血女神伝 暗き神の鎖(後編)
(刊行年月 2004.11)★★★★☆
[著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]→【bk1】
本当に決着つくのか最後の最後まで物語に釘付け状態だったこのザカール編。落下が止
まらないカリエの事や、真向勝負では誰にもどうやっても覆せないリウジールの圧倒的な
強さなどがあったせいか、あくまで劣勢のまま辛うじてザカリアの大祭での儀式を退けて
逃げ延びるんじゃないかと予想してた。カリエの立ち直りはほぼ確信に近い形で信じてま
したが、リウジールについてはどうしても誰かに討たれる姿が想像出来なかったので。
でも実際には辛うじてではなく逃げる選択でもない納得の行く決着の付け方でした。ま
あとてもホッとさせられるようなものではなかったけれど。リウジールとザカールによる
流血女神復活の要素は、もっと後々まで執拗にカリエに絡むかと思ってたので、予想とは
ちと違ってた模様。結局はこれもまた次なる激動への足掛かりに過ぎなかったのかと。
カリエを落とす所までとことん落として、絶望の最下層から微かな光を掴み取り復活を
遂げるというこの展開。割と常套手段ながら彼女の過去から今に至るまでの道程にすさま
じいものがあるので、まず奈落に叩きこまれる絶望感が容赦なく突き刺さる。そしてその
絶望があったからこそ、カリエに生きて欲しいと願う人達を彼女自身で強く想い起こし、
自我を完全に喪失する一歩手前で蘇りを果たす姿が素晴らしく際立っていたんだと想う。
あとがきに精も根も尽き果てたとありましたが、その気持ちは凄くよく分かる。何せ終
わった途端に崩れ落ちてしまう程、読んでいるこっちも終始気が張り詰めていたものだか
ら(最初の方で一部それとは正反対のゆる〜い空気が流れてたような気もしましたが)。
しかし平穏無事に終わる訳もなく、カリエはまたしても過酷な選択迫られる事に。一見
今度こそ自らの手で運命を切り開いて変えたようで、実はそれさえも女神の意志の力で歩
まされているように感じられて仕方がない。リウジールの忘れ形見がこれからカリエに、
そして世界に果たしてどんな影響を与えてゆくのやら。ラストシーンのヒカイの意味深な
言葉がまた凶悪な幕引きを演出してくれていて参った。今度は完全に袂を分かってしまっ
たバルアンに何かが起こるんだろうなぁ……。ルトヴィアに帰還したミュカも、バルアン
との対話以降何となくドーンに対し含みを持った思考をするようになっているようで、ど
うも嫌な感じがする。このまま来夏まで待つのは辛いけど大いに期待して待ってます。
既刊感想:流血女神伝 帝国の娘 前編、後編
砂の覇王 1、2、3、4、5、6、7、8、9
女神の花嫁 前編、中編、後編
暗き神の鎖 前編、中編
天気晴朗なれど波高し。1、2
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