NOVEL REVIEW
<2005年02月[後半]>
] [戻る] [
02/28 『ご愁傷さま二ノ宮くん2』 著者:鈴木大輔/富士見ファンタジア文庫
02/27 『真実の扉、黎明の女王』 著者:いわなぎ一葉/富士見ファンタジア文庫
02/24 『君の居た昨日、僕の見る明日2 ―FAKE HEART―』 著者:榊一郎/富士見ファンタジア文庫
02/23 『BLACK BLOOD BROTHERS2 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区鳴動―』 著者:あざの耕平/富士見ファンタジア文庫
02/21 『吉永さん家のガーゴイル6』 著者:田口仙年堂/ファミ通文庫


2005/02/28(月)ご愁傷さま二ノ宮くん2

(刊行年月 H17.02)★★★★ [著者:鈴木大輔/イラスト:高苗京鈴/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】    あ〜も〜くそ〜麗華可愛いなあ。いやあの、前巻のしょんぼりさがあったので続編のデ キには良い意味で裏切られたというのか。とにかく一巻目のイマイチ感を帳消しにしても まだお釣りが返ってくる程、今回は非常にいい手応えで格段に面白くなってました。  前巻の感想で真由のキャラをしっかり立ててくれれば或いは……と書いたのだけど、二 ノ宮家専属メイドお嬢様の方が見事に際立ってくれやがりました。同時に更に真由の存在 意義が果てしなく薄くなってしまったのもあるのですが、それでも仕方ないかなぁ程度で 済ませられるくらい、麗華の描き方が際立っていてお見事と言う外にない。  中盤までは相変わらずギャルゲーエロゲーチックなベタベタのお約束シチュエーション 満載で、「またこんなのか……」と胸焼け起こしかけてましたが、このダレそうな流れを 一変させてくれた最大の功労者が麗華の付き人である保坂の本性(と言っても差し支えな いよな普段が普段だから)。魂胆ありげな空気ちらつかせて、麗華の想いを問い詰め峻護 の心を追い詰める保坂の巧みな話術。思わず食い入るように読み耽ってしまいました。  しかも真由の対抗馬として麗華をそういう風に扱うとは予想外もいい所。幼い頃から抱 え続けて来た思慕の記憶、それが思わぬ事故によって全て忘れ去られ捻じ曲げられてしま った関係。まだ多くの事情は水面下で推移しているに過ぎませんが、過去の出来事が複雑 に縺れ絡み合いながらの峻護・真由・麗華の三角関係は着実に形成されつつある。  これは最初に想像していたお気楽ドタバタラブコメなんかでは決してなく、極めてシリ アスムードで展開して行きそうな流れで続きが素直に楽しみ。今後は麗華にリードを許し た真由の巻き返しもあるだろうし、読み手側の希望としてもそろそろ存在感をアップさせ て欲しいし。気になるのは曖昧に触れられている涼子と美樹彦と保坂の企み、麗華につい ての記憶が戻った峻護の気持ちがどう揺れ動くか、など。サキュバスの設定も徐々に活か され始めているので、精々峻護には真由と麗華の板挟みで思い悩んで欲しいものです。  既刊感想: 2005/02/27(日)真実の扉、黎明の女王
(刊行年月 H17.02)★★★☆ [著者:いわなぎ一葉/イラスト:AKIRA/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】    単巻で割と奇麗に完結していながらも、発展性をプラスに転じて更に面白くなって伸び る作品ってのは様々に例はありますが、少なくとも私にとってこの物語の続編はそうはな りませんでした。無理に続けず奇麗な形で終わらせてくれてた方が良かった……なんて思 ってしまう事自体が残念でならない。多分個人的にこの物語に期待を寄せて求めていたも のと、実際に描かれていたものの間に齟齬が生じてしまったのが原因でしょうかね。  もうとにかく描写面で自国の内政とか隣国との諍いに対する政策とか、そういう方向に は深入りして首突っ込んで欲しくないと切に願っていたのに、見事に真逆を行くかの如く 首突っ込みまくり。しかもそこにカルロとクレアの互いの想い、そして未だ引き摺り続け ているクリムへの想いを含めた感情描写がうまく乗れてないから全然盛り上がれない。  王位継承権を持つ“隠されていた”一国の王女クレアに、内部の叛乱や隣国の敵対行為 などが襲い掛かる展開となれば、確かに政治政策が絡んだ描写も無視出来ない。ただ、そ ういう要素は前巻みたく結果報告のように軽く流す程度の描写でいいと私は思っていた。  しかしながら今回は、カルロとクレアの関係を描く事よりもカルロのクリムへの未練を 描く事よりも、明らかにカルロの軍師的立場を中心としたウェルラント王国の政治政策を 最重視して描いているように見えた事。齟齬が生じたというのはこういう意味で。  それぞれの想いをしっかり絡めてくれてたら、ぐぐっと上向いていたような気もするの ですが、如何せんこうも途中でのカルロとクレアの絡みが弱過ぎるのではイマイチ感が拭 えない。せめてクレアとクリムの関係を中心に据えて、カルロの心情をちくちく突くみた いな展開にしてくれてたら良かったんだけど、これまた中盤までサッパリ触れられてない し。こんなだから終盤で事実を述べられてもあまり響いて来なかったのですよね。  前巻から繋がるストーリー展開は嫌いじゃない。物語の雰囲気も好き。けれども受け入 れ難い気持ちからはどうしても逃れられなかったのでごめんなさい。あとがきで三巻の予 定もあるような触れ方してましたが、さすがにカルロではもう引っ張れないような気がす るので新展開を望む。今度は求めてるものがピタリと合わさってくれたらいいなぁ。  既刊感想:約束の柱、落日の女王 2005/02/24(木)君の居た昨日、僕の見る明日2 ―FAKE HEART―
(刊行年月 H17.01)★★★★ [著者:榊一郎/イラスト:狐印/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】    人間になりたくて人間を理解しようと人間の在り方を観察し続ける、新入生のアンドロ イド少女が転校生的シチュエーションで登場。優樹視点での物語――いずれ訪れる別れと 現世への帰還まで、彼が閉じた世界で何を経験しどんな風に生きてゆくのか? この辺り の進展具合ってのは、新入生=新たに閉じた世界である鈴乃宮学園に迷い込んだ者達との 触れ合いを通じて描かれてゆくのかなと。今の優樹は脱出不可能でどうにもならないとい うのを理由に、鈴乃宮学園の深くを見ようとせず触れる事を避けているような感じか。  それは諦めにも似たもので、自力では何も動かないからとりあえず詩月の理想に付き合 ってみるか。そうすればどこかで突破口が見つかるかも知れない。でも、そう考えていて も簡単に機会は訪れないから、学園生活の真似事に流されて付き合う事しか出来ない。  つまり、現段階で優樹自身の立場が動いてどうこうなるような方向にはまだ向かいそう にないなと。新入生(今回で言うならその役割はアンドロイド少女のネレイドとなるわけ ですが)の描写がメイン寄りなエピソードも好きなんだけど、ちょっとずつでも逃げて迷 い込んだ優樹自身の歩み方みたいなものにも触れて欲しいかもと個人的な感想(まあまだ 長編二巻目なので、そういう気持ちになるのは焦り過ぎだろ? とも思うのだけど)。  今回の内容だけで言うなら……ええと、面白かったです。上でうだうだと書いておきな がらあれですけど。自分は人間になりたいと考えているが、そもそも人間であるなら最初 からそんな事を考えるわけはなくて、そう考えている時点で既にそれは自身を人間ではな いモノと認めている事実であり、それでも自分は人間になりたいと考えているが……以下 延々と終わり様のない思考の流れとか、読み手を惹き込む描き方が上手いですね。  ネレイドと目指すものが一緒の紅葉についても同様。紅葉の過去――人間になりたい理 由の根幹が明かされた事で、より一層深みが増した。というよりは、紅葉の場合愛着が湧 いたと表現した方が合ってるかな? 今回新規参入を果たしたネレイドも含め、今後も各 キャラクターの事情の深い所を掘り下げつつ、物語の全容を見せて行って欲しい。  既刊感想: 2005/02/23(水)BLACK BLOOD BROTHERS2 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区鳴動―
(刊行年月 H16.12)★★★★ [著者:あざの耕平/イラスト:草河遊也/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【
bk1】    人間と吸血鬼の間を取り持つ調停員であるミミコの招きによって、両種族が共存して生 活を営む『特区』への入場を果たした吸血鬼のジロー&コタロウ兄弟。今回は表向きミミ コと一緒に兄弟の住居探し、裏では特区での兄弟の(主に銀刀と称されるジローの)扱い を巡って、人間側の組織『カンパニー』と吸血鬼側の代表達との会談が描かれている。  んん〜。シリーズ作品として物語を展開してゆく上で、実に読み手への楽しませ方を熟 知した描き方だなぁという印象。まず特区に入って一気に新キャラが増えたけれど、それ ぞれの立場や関係も含めてしっかり書き分けが為されている。そして現状で見えている部 分を全力で掘り下げて描きつつ、まだ伏せている要素は曖昧にちらつかせながら興味を先 へ先へと引っ張ってゆく。このバランスが非常に絶妙なので、今回の内容に充分満足出来 たのと同時に次巻への期待感も大きく膨らむ。まだ2巻目なのだけど、巻が進めば進むほ ど次への期待値が際限なく高まってゆくような手応えを早くも感じさせられました。  焦点はジローとコタロウが特区に定住する事が出来るかどうか。前半の割とお気楽な雰 囲気からはすんなり行くんじゃないかと思ってたけど、まず特区の吸血鬼と人間の付き合 い方が単純明快にうまく行ってるとはとても言えない状況がそれを難航させる。  そして他の吸血鬼に対するジローの『銀刀』という呼び名の影響力の大きさや重さが、 更に際どい立場へと追い込んでゆく。自分のせいで危険に晒してしまうが故に巻き込みた くない人を遠ざけようとするジローと、それでも関わろうとしても絶望に触れた本能が拒 絶反応を起こしてしまうミミコと。立場の違いで深い溝が出来てしまったラストシーンの 二人の姿が特に印象的でした(しかも話はまだ次巻へ続いてるし)。兄弟が特区に留まれ るか否か、そしてミミコが立ち直って踏ん張れるか否か。その辺りが気になる続き。  あとは曲者揃いのカンパニーのお偉いさん達や吸血鬼側のセイ、ケイン、ゼルマン等の 動き、それからまだ色々伏せられている『九龍の血族』の面々についても気になる所。  既刊感想: 2005/02/21(月)吉永さん家のガーゴイル6
(刊行年月 2005.01)★★★★ [著者:田口仙年堂/イラスト:日向悠二/エンターブレイン ファミ通文庫]→【
bk1】    これまで主に無茶しまくりな双葉のフォロー&ツッコミ係として、時折頼れるお兄ちゃ んとして、度々活躍する姿を見せても基本的には見掛けも中身も頼り無げな吉永さん家の 和己くん。ここは満を持してと言うべきか、そんな彼に今回ようやく主役が巡って来た。  和己が通う菜々色高校が今回の舞台、その中の演劇部が今回の中心。これまでと違って 御色町からは少し離れるので、ガーゴイルがちょっとした町内事件と関わるご近所探索系 とはちょっとばかり趣が異なる。演劇部の部員である片桐桃が見つけた作者不明の台本、 それを元に上演しようと決めた直後に演劇部に舞い込んだ脅迫状、そして浮かび上がる八 年前に菜々色高校に起こったとある事故との関係……てな感じのミステリ風味仕立て。  ただ、あくまで“風味”なので。最初から謎解きで楽しませるような狙いではないし、 こっちが考える前に種明かしもされてるし(あ、でも途中で気付いたけど冒頭で台詞練習 してる人物だけは読み違えてた)。何処まで行ってもテーマがハートフルコメディなのは 変わらないのです。ごく普通の日常に非日常気味な性格の人達を混ぜ込み、さり気ない出 来事にちょっとしたアクセントを加えてじんわりと温もりを演出し、そして最後にホロリ と泣かせて落とす。こういう描写は毎度手堅い上手さだなと実感させられる。  今回は本当に誰の追随も許さない見事なまでに和己が主役の物語。普段の役所で直ぐに ツッコミをかます癖に流され易い性質なのは相変わらずなんだけど、脅迫状の真相や八年 前の事件への接し方に、主役だからこその和己らしい優しさが溢れていて良かった。口よ り先に手が出てしまう双葉ではこうはいかないよな〜と苦笑を含みつつ。ガーくんについ ても、脇役に配置して和己の考え方を吸収しつつ心の成長を描いている辺りはなかなか。  しかし今後和己にこんな良い機会は巡ってこないんじゃないかな? と思わなくもない ですが、演劇部の面子でせめて桃と林吾はこれからも度々登場させて欲しい。一応桃の好 意は意識しているようだし、他に異性に好意を持たれる事もあんまりなさそうだから。  既刊感想:


戻る