NOVEL REVIEW
<2005年07月[中盤]>
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07/20 『わたしたちの田村くん』 著者:竹宮ゆゆこ/電撃文庫
07/19 『鬼神新選III 東京篇』 著者:出海まこと/電撃文庫
07/19 『ジョイン!』 著者:祭紀りゅーじ/電撃文庫
07/17 『ダビデの心臓3』 著者:スズキヒサシ/電撃文庫
07/17 『サンダーガール!』 著者:鈴木鈴/電撃文庫
07/15 『GOSICKs ―ゴシックエス・春来たる死神―』 著者:桜庭一樹/富士見ミステリー文庫
07/12 『バクト!IV The Revolver』 著者:海冬レイジ/富士見ミステリー文庫
07/12 『ハイブリッド・ソウル そして、光の中を』 著者:松田朱夏/富士見ミステリー文庫
07/11 『星屑エンプレス ぼくがペットになった理由』 著者:小林めぐみ/富士見ミステリー文庫


2005/07/20(水)わたしたちの田村くん

(刊行年月 2005.06)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:竹宮ゆゆこ/イラスト:ヤス/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ええーっ? 何で知ってんのさ!? 道中ヒントらしき要素はまるで見当たらなかっ た気がするんだけど……。既に本人から“話作ってた”と否定されているので、そんな わきゃないだろははは〜んと笑い飛ばしながらも、一瞬ホントに月から動向を見通して んのかあの娘は? と疑ってしまった。これは田村くんでなくても驚愕の結末だ。  未読の人に置いてけぼりを喰らわしてる感想ですが、興味ある人は大抵読んでるに違 いない→読んでる人なら分かるに違いないという事で。これで次へ引っ張ってるんだか ら小憎らしいったらありゃしない。そんな続きを大いに期待している私は松澤さん派。  ちょっと言い方悪くなってしまうけれど、松澤小巻を踏み台にして相馬広香へがむし ゃらに駆け登って行ったという印象でしたか。勿論そういう展開を見越しての組み立て 方だし、田村くんは松澤さんとも真剣に付き合うべくがむしゃらに走っていたし。それ に両エピソードの文章量に圧倒的な差があるので、ツンツンからツンデレからデレデレ への激変に身悶えしてしまう、現在進行恋愛中の相馬さんに分があるのは当然の事。  突き詰めてゆくと、この物語を好きになれるかどうかってのは、主人公を受け入れら れるかどうかに殆ど全て掛かってるんじゃないかなぁとか。多少大袈裟な物言いなのを 承知の上で。場合によっては“俺”という存在を、相手の都合を考える前に本能で相手 の中へ強引にねじ込もうとしている風に見えなくもなかったので。まあ個人的にはとっ ても好みなタイプのお話だったから、その辺の事は軽く避けてしまいましたが。 2005/07/19(火)鬼神新選III 東京篇
(刊行年月 2005.07)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:出海まこと/イラスト:ヤスダスズヒト/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  短いよ! 久々刊行の三巻目もこれに尽きる。……と前巻も同じような感想書き始め でしたが、使い回しが出来てしまったのには驚いた。いや、読者の気持ちとしては当然 出来て欲しくなかったんですけど。ついでに刊行ペースがはわわ〜なもんだから、ちょ っと読む前から溜息が出てしまったのでした(せめてどちらか一方でもマシならば)。  ただ、裏を返せば上記二点の不満とそれに付随しての進展の遅さ以外は、何の問題も ない面白さだと思うのですよ。私なんかは新撰組にも幕末から明治初期にかけての歴史 背景にも疎いので、物語の良し悪しではなく自分の知識不足のせいで充分楽しめている のかどうか不安になることもあります。それでも、そういうの抜きにしても先が待ち遠 しいと、早く続きが読みたいと思えるのだから余計にもどかしいと言うべきか。  どこで終わってたのかも忘れていて、読み始めてようやく「土方の部隊に追い詰めら れ絶体絶命の新八の運命や如何に?」のシーンを思い出した。序盤の新八は敗走に近い 形だったので、戦いの動きで目立ってたのは忍者対決くらい? 場面があっちこっちに 分散しているようで、それぞれの状況はしっかり描けていたかなと。でも、凄惨極まる に違いない近藤と新八の対決にはまだ至らずで残念。記憶を失った斎藤の存在が新八の 助力になるのか? それとも災いの種になるのか? ……また一年以上待ち?  既刊感想:II 2005/07/19(火)ジョイン!
(刊行年月 2005.07)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:祭紀りゅーじ/イラスト:尾谷おさむ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  一番衝撃的だったのが、結末で知ったアーベルやヨーゼフ達の安否。序盤で別れたき りだったのだけれど、ミュンヒイが今を生きる糧にしている所があったから、その辺に ついて楽観視していたのが衝撃受けた原因だったのかも知れない。もっとも、後から考 え振り返ってみれば、途中で何もないという事はそういう意味だったんだなと。事実を 受け入れた時のミュンヒイの表情と、それを見てのベルタの行為が堪らなかったです。  と、そう言って納得したように見せてはいるけれど、横道逸れてもアーベル達と魔物 との攻防をちょっとは描写したっていいじゃないか! とか、最後は遠慮せずにもっと ミュンヒイの気が済むまで感情をボロボロと曝け出してくれていいんだよ! など、全 然納得してねーじゃねぇかと突っ込まれそうな気持ちを抱えていたのも正直な所。  あとは作中の話。滑稽な演技をいかにも真面目に滑稽に、しかも一般人からは演技だ とバレないように演じているから、事情が分かっている側からすれば余計滑稽に映るで あろう喜劇。ただ、実際に読んでいて「凄く滑稽な演技だよね」と思わされるので、描 き方としては成功してたんじゃないかなぁ。ミュンヒイの悪役ぶりも素敵でした。  しかしこれ、続きは出る? 現状はヴィルヘルムの掌の上で踊らされているだけで、 厄介事は殆ど解決していないし。ハウゼンが探しているシステムズの事、ミュンヒイが 何故システムズを容易に扱えるのか、この辺も謎なまま終わっているので気になる。 2005/07/17(日)ダビデの心臓3
(刊行年月 2005.07)★★★★★☆☆☆☆☆(5/10) [著者:スズキヒサシ/イラスト:尾崎弘宜/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  やっちまった! あまりにさくさくさくさく読み進められていたので(あっさり過ぎ とも言えるけど)、心の中に不穏な空気を漂わせつつも、どんな結末が待っているのか どきどきわくわくしていたらこんなオチでした。明日馬に関しては、一線を踏み越えて も未だに誰かが死ぬ事や自らの手で殺す事に躊躇いを見せているので、最悪七日過ぎて 悪魔化するだろうと読んでいたのですが、実際は更にその上を行ってました。半ばヤケ クソに見えてしまうのは気のせいかどうか。衝撃的には違いないし、こんな風に仕掛け て来るのが実に凄い事だと唸らされもしました……これが打ち切りでなければ。  いや、“第一部完”の表記はどう反応されるのか分かってて意図的にやっているよう に見えなくもない。「どうせ第二部なんて永遠に開幕しねーんだろう?」と高を括った こちら側をギャフンと言わせようと狙っているのかも知れない。……って考え過ぎか。  色んな意味でこの惨状から続けるには苦しいだろうけど、決して先の展開を何も考え ずにポイっと投げ捨ててしまったのではない、とせめて希望を込めて思いたい。そう気 持ちを静めておかないと、唸り声が完全に悪い方へ行ったまま戻って来なくなるので。  既刊感想: 2005/07/17(日)サンダーガール!
(刊行年月 2005.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:鈴木鈴/イラスト:片瀬優/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  望みもしないのに勝手に自分の身体に《天魂》なんて訳分からん精神体が間借りなん ぞした日には……もうブチギレですよアンタ、と唸る少女。雷の《天魂》タケミカヅチ の存在が信じられない事より、もっと受け入れ難い理由があり、そんなメイの気持ちに 反して周囲の様々な状況が“受け入れなさい”と押し迫るものだから更に拒絶を示す。  「次はこうくるだろうな」というのが割と分かり易いのだけれど、一度惹き付けた興 味は離さず漏らさず、面白さも維持し続けて失速させないストーリー展開。同著作『吸 血鬼のおしごと』初期の頃は場面転換の多用が妙に引っ掛かっていたのですが、今は仮 にそうであっても簡単には躓かせないうまさと安定感が乗っているなと思いました。  見所は幾つもあれど、全体を通して見ても大きな牽引力になっていたのはメイの感情 描写。これに尽きる。前半からの疑惑で「もしかしてマナもそうなのか……?」っての を抱えたモヤモヤもあったのですが、さすがにそれは違ってた。メイの不安定な心理状 態を気にする時、何となく訳知り顔に見えていたので(実際マナはメイの状況に気付き 易い要素を持ち合わせていた訳ですが)。疎まれ孤立する事を恐れるメイの葛藤も、タ ケミカヅチとの不協和音も、全て最後には一応丸く収まり読後感も気持ちが良い。 2005/07/15(金)GOSICKs ―ゴシックエス・春来たる死神―
(刊行年月 H17.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:桜庭一樹/イラスト:武田日向/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  ヴィクトリカと一弥の最初の出逢いから、転校して来たアブリルを巻き込んでの幾つ かの事件を綴った短編集。起点となる事件から謎を残したまま次の事件へ発展し、更に また次の事件へと繋がってゆく。書き下ろしの序章も含めて全体が一本の線で結ばれて いる為、一つ一つが独立したエピソードというよりは連作短編に近い印象だったかな。  この初めての出逢いというのは、龍皇杯の時に掲載されて以来ずーっと文庫収録され ないものかと心待ちにしていた一品で、念願叶って心の中で小躍りしながら読み耽って しまいましたよ。ふふふ……。対して『ファンタジアバトルロイヤル』で掲載されてた 方はサッパリ読んでいなかったから、こういう風に連載形式っぽく展開していたのがち ょっと予想外でそれが実に好感触でした。手軽に解く事の出来る謎含みなエピソードも、 前後の繋がりが無い単発の集まりだと思っていたので。そこに知りたかったヴィクトリ カと一弥の最初、アブリルとの最初が存分に描かれていて楽しめない訳がない。  それから今回は書き下ろしである最後の序章が非常に良かった。これが有ると無いと では第一章以降の印象がまるで違って見える……それくらい大きな意味を持つ存在感の エピソードと感じたから。特にヴィクトリカが限られた特定の他人を意識する視線。あ あ、そうか、そうだったのか、一弥ってこんなスタート前の地点から既に灰色狼に見初 められていたのかー(ヴィクトリカ自身は真っ赤な顔で否定するだろうけど……分厚い 本とか飛んできそう)。そういうのがじんわりと感じられただけでも凄く嬉しい。  既刊感想:IIIIIIV 2005/07/12(火)バクト!IV The Revolver
(刊行年月 H17.07)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:海冬レイジ/イラスト:vanilla/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  美人大馬鹿さん教師・音無素子のへっぽこぶりが愛くるしい(たとえ錯覚でもここま で付き合うとそう見えてしまうから怖い怖い)、デビューから快調に飛ばし続ける隔月 刊行賭博ミステリー?四巻目。さすがにこれまで散々痛い目見続けてミリ単位でも心が 成長しているのかどうか、今回の素子はちょっと一味違う。何処が違うか? それは相 変わらず“へっぽこ”であっても“ズッコケ”てはいない所。どちらかと言えばありす と沙都里のとばっちりを喰ってる形で、逆にイカサマを見抜く一手を投じる大活躍を見 せて、普段冷たくあしらわれているヒロトとはかなり打ち解けていたりする。  どん底の危機に陥る致命的なミスが無い点。おかしい……こんなよく出来た素子なん て素子じゃないっ! と捻くれた主張をしたくなる物寂しさが胸に去来するのは何故だ ろう? でもまあぶっきらぼうで捻くれ者で素直じゃないヒロトが、いつもより多めに 素顔に近い気持ちで素子と心を通わせてくれているのは結構嬉しいものでした。  しかし、大きな不満点が一つ。本来メインに置かなければならない筈の、賭博勝負描 写が随分おざなりになってやしませんか? 巻を重ねる度に落ちてる気がするのはかな り致命的だと思うのですが。仮にもかつてバクトを二度も退けた美雪とのバカラ勝負、 完敗した中盤はともかく、リベンジの終盤戦があれだけしか描かれないのでは到底『賭 博勝負』で楽しむ事なんて出来ない。あーでもこれって美雪のイカサマを暴くまでを盛 り上げるような描き方だったのかなぁ? 確かにそこまでは面白かったのだけど……。  既刊感想:IIIII 2005/07/12(火)ハイブリッド・ソウル そして、光の中を
(刊行年月 H17.07)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:松田朱夏/イラスト:睦月そあ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  妙に懐かしい匂いがした。新装前かもしくはそれよりもっと前、創刊一、二年目頃の 作品の雰囲気に似ていたからか。自分がそう感じただけで、実際にそんな事はないのか も知れないけれど。ただ、ミステリ要素を差し置いて押し退けて、何が何でもLOVE プッシュしまくるのとはちょっとばかり違う。どっちかを深く掘り込むのではなくて、 どちらも半々で広く浅く。これが良い方向に傾くとバランスが取れていて、そうじゃな い方向に行くとどれもが中途半端で終わってしまう。で、この作品はストーリー構成も 謎や伏線の仕込み方も良い手応えだったから、割と前者寄りなのではないかなと。  話の途中で「寝取られモノなのか?」と思ったけど見当違いでした。竜介と薫がいい 雰囲気になり掛けた所、絶妙のタイミングでクリスが薫を掻っ攫おうとしてたから。実 際の感情の向きは全く逆だったわけですが、詳しい説明は無しで伏せときます。  表具師という設定も、この専門職に携わっていないと分からず気付けず解け難い仕掛 けが用意されているので、しっかり活きている。三つの掛け軸の推理と謎解き、それに 真犯人の感情描写などもなかなか良かった。やっぱり現実的じゃない要素があっさり混 ざってるのは富士ミスらしいけど。でも、その特殊能力が殺人事件には直接的に一切関 わってないのが意外と言えば意外。だからトンデモトリックではないのです。 2005/07/11(月)星屑エンプレス ぼくがペットになった理由
(刊行年月 H17.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:小林めぐみ/イラスト:ぽぽるちゃ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  殺人事件があって、推理があって、謎解きがあれば……いや! ミステリー文庫はミ ステリー文庫でも『富士見ミステリー文庫』はL・O・V・Eがなきゃダメだ!(と、 もう言い切ってしまうよ) 初めて触れたその瞬間に踏み潰され死亡させられ、挙句の 果てにサイボーグとして生まれ変わらされてしまうとは、何て刺激的な出逢いだろう。   職業訓練生少年(サイボーグ化)と気丈で孤高でその実寂しがりやな皇女殿下の触れ 合いを描いた箇所色々、どれもなかなか良い雰囲気で好きだな〜。終始御主人様と弄ば れる下僕の関係には違いないですが、ナオシスタがちょーっとずつ高知を気になる存在 としてちらちら意識し始めた辺りが特に好き。ただ、高知は同じ訓練生のケイマリリに 惚れているので、恋愛感情を抱えてナオシスタに向き合う可能性は低いのだけれど。  私が印象に残り易かったのは、よくぞこれだけの多種族を次から次へと投入出来るも んだなぁという部分。何か凄いなーと感心させられた。種族毎に設定考えるの大変じゃ ないのかな? でも考えるのが楽しければ大変じゃないのかな? 余計なコト考えつつ、 読んでいて種族の多様さや異種族間のトラブルなどで楽しませてもらえたのは確か。  ……しかし殺人事件あるのに“楽しい”でいいのか? と首捻り。まあミステリ寄り ではなくSFメインにちょっとミステリっぽいのがくっ付いてた印象だったし、騒動劇 で楽しめる要素が大きかったのでいいか。そういやルーヤってどんな姿なんだろう?


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