NOVEL REVIEW
<2005年12月[前半]>
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12/09 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル6<下>』 著者:川上稔/電撃文庫
12/08 『AHEADシリーズ 終わりのクロニクル6<上>』 著者:川上稔/電撃文庫
12/07 『灼眼のシャナXI』 著者:高橋弥七郎/電撃文庫
12/06 『ボクのセカイをまもるヒト』 著者:谷川流/電撃文庫
12/05 『12DEMONSII』 著者:御堂彰彦/電撃文庫
12/04 『とある魔術の禁書目録7』 著者:鎌池和馬/電撃文庫
12/02 『Hyper Hybrid Organization00−03 組織誕生』 著者:高畑京一郎/電撃文庫
12/01 『夏月の海に囁く呪文』 著者:雨宮諒/電撃文庫


2005/12/09(金)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル6<下>

(刊行年月 2005.11)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  下巻は大局が静(Low−G信任不信任の会議)と動(Low−GとTop−Gの決 着の為の代表戦)二つだけなので、あちこちに散らばったもののどれを拾ったらいいか 迷いに悩んだ上巻とは対照的。それぞれの人がそれぞれの場所でそれぞれ違った為すべ き事を行動で示し、その散らばった幾つもの欠片を「がっ!」と両腕から両手まで使っ て掻き集めて纏め上げたのが今回の会議と代表戦。そんな印象。6巻上巻だけではなく、 1巻上巻からここまで積み重ねてきた集大成。そして解答と回答と結論を示す時。  全Gを交えての最後の会議、Top−GとLow−Gのどちらの言い分を支持するか =どちら側に付くかをそれぞれのGが表明する為の投票。1st−Gから10th−G までとTop−Gが、これまで語られて来た様々な事実を踏まえてLow−Gへ意見質 疑その他諸々を投げ掛ける。納得を望む確認であったり、過去の行為や現在の立ち位置 を改めて明確に刻むものであったり、真っ向から罪と言われるものを攻め立て追い込む ものであったり、そうした中で紡がれて出てきた劣勢を引っ繰り返す大逆転の一手。そ れは“真実”の一手。空白のまま足りてなかった箇所が、パチリパチリと音を立てて見 事にはまってゆくこの感触。震えが襲って来るほど堪らなく心地良いものでした。  後半は五対五の代表戦。激しい意思と意思のよるぶつかり合い。交わし求めて得たも のが“二つの均衡”であっても、尚戦いによって雌雄を決しなければならないのは、個 々に納得のゆく答えを見出したかったからなのかなと。決してLow−GとTop−G のどちらが正しくてどちらが間違っているかとか、上か下かとか、必要か不要かとか、 そういう事の為ではなくて。結末はなかなかに凶悪な幕引き。解かれたのも一部であっ て全部じゃない。どのような形で全てを終わらせてくれるのか。極厚に挑みます。  既刊感想:1<上><下>、2<上><下>、3<上><中><下>、4<上><下>       5<上><下>、6<上> 2005/12/08(木)AHEADシリーズ 終わりのクロニクル6<上>
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:川上稔/イラスト:さとやす/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ……これ、一体何処を重点的に拾って感想書いたらいいんだろう? 5下で書いたの と同様に今回もまた作中全てが見所。一頁たりとも見逃すな! と言うくらい隅から隅 まで余す所なくびっしり見せ場が詰まってます。しかも上巻ですよ? 六百頁近く書い ておきながらまだ同じ分量で描き切れてない部分が残されているんですよ? あまりに 描かれるべき要素が膨大な上密度が濃過ぎるので、誰のどのシーンに触れればいいのか 非常に悩む。そして迷う。多数のメインキャラクター全てに活躍の場を無駄のない描写 で与えているから、どれも切れない。どれも外せない。嬉しい悲鳴ってやつです。  “軍”のハジによって暴かれたLow−Gの大罪、それによって浮上したTop−G の存在、Low−Gの隠し事が発覚した為に広がり続ける各Gへの波紋と再交渉を求め る代表者との衝突、混乱に乗じて全竜交渉件を剥奪し我が物にしようと躍起になる各国 UCATの面々、そして最大のポイントであるLow−GとTop−Gの間に起こった 全ての鍵を握る新庄由起緒の足跡の謎――何故Low−GからTop−Gへ乗り換え移 ったのか? と、大きな動きを掬うとなるとこんなものかな。その他に細かい事が多々 あってキャラクター個々に様々あって、それでも未だ根底の謎は解かれていないと。  この巻限定で個人的な『燃えた!』『面白かった!』を挙げるとすれば、千里対ブレ ンヒルト、UCATに真っ向から喧嘩売る京、死に際で為すべき事を見出す命刻、ヒオ ティーと4th−G草の獣との再交渉、新庄と8th−Gワムナビとの交渉、強さを欲 する竜司の戦い……あ〜も〜やっぱし挙げ続けるとキリがない。それでもまだ半分。解 かれてない謎も残っている。控えめだったTop−G方面の見せ場は下巻に期待。  既刊感想:1<上><下>、2<上><下>、3<上><中><下>、4<上><下>       5<上><下> 2005/12/07(水)灼眼のシャナXI
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:高橋弥七郎/イラスト:いとうのいぢ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  表は学園祭で、悠二を巡る何ラウンド目か覚えてないけどシャナと吉田さんの女の戦 いみたいなもの。シャナが自分の感情を正しく自覚して、アラストールお父さんに安心 させてもらい、自信をみなぎらせる巻き返しの展開。角が取れてツンツンしなくなった 分だけ、吉田さんとの間にギスギスした雰囲気は綺麗に消え去り、吉田さんと対等の立 場にようやく追い付いた為、どうしようもない焦燥感や感情の揺らぎも無くなった。  ここまで来たら、もうシャナと吉田さんの二人による恋愛感情の比較描写はピークに 達したのではないか? とも思う。だからあとはどちらも気に掛けているけれどそれは 結局優柔不断丸出しな悠二の気持ち次第。その悠二が抱える極めて厄介なミステス『零 時迷子』と、元の持ち主の事と、悠二自身の内に秘められた謎と、その辺りが裏の話。  ちなみに今回も前後編構成(多分中は無いと思うけど)。表の話をメインに立てて裏 の話の伏線を張り巡らせているのが主な内容。裏は何も始まっちゃいません。ようやく 仕掛けが発動、フィレスが『零時迷子』の存在に到達した所まで。派手に動くのは次巻 からだと思うので、まあ今回は嵐の前の平穏、盛り上がる前の様子見と言った所。  既刊感想:IIIIIIVVIVIIVIIIIX        2005/12/06(火)ボクのセカイをまもるヒト
(刊行年月 2005.11)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:谷川流/イラスト:織澤あきふみ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  「何で僕を守るの?」「知らん」「何で僕が命を狙われるの?」「知らん」……って これじゃ話にならーん! いきなり押し掛けた綾羽は「わたしはお前の守護者だ」と説 明一切無しでこちらの話もロクに聞きやしない。意見を挟もうとすれば、わたしの言う 通りにすればいいお前は余計な事はするな言うなわたしに構うなただ護られていればい い……理不尽だ。理不尽過ぎる。なのに一番反抗すべき巽はどこまでも大して気にせず 受け身で流されているし。あーもー何だ? 何でこんなにイライラさせられる?  うむむ、綾羽の性格とか我が道を頑固に進む振る舞いと反りが合わないせいか。嫌い じゃなくて苦手と言った方がしっくり来る。で、あれもこれも全部ひっくるめてイライ ラが募る最たる原因は、根本的な謎である“巽が襲う側・護る側にとって一体どんな存 在なのか?”一向に掴ませてくれない事。まあそれもその筈、この作品はシリーズ展開 なので最初から何もかもバラす訳がない。帯に新シリーズとしっかりあるのに単発モノ と思い込んでたのがそもそもの間違いだったんだなと。でも、もうちょっと理解する為 の手を差し伸べてくれたっていいじゃないか〜、と情けない声ですがりたくなったり。  この会話が謎々なラストじゃさっぱり分からん巽の事とか、八つの世界の位置関係や 勢力関係とか、明かされてゆけばきっと乗れると思うので大人しく続き待ってます。 2005/12/05(月)12DEMONSII
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:御堂彰彦/イラスト:タケシマサトシ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  定められた十二人に宿る十二の『悪魔の部位』争奪戦の続きで完結編。暗躍する黒幕 “悪魔の魂”の所有者は誰か? 前巻謎のままで終わったここが大きなポイント。と、 思ってたのだけど、「誰か?」を考えさせながら進めてゆくにはちょっと牽引力が弱か ったかなぁという印象。どちらかと言えば“悪魔の魂”の所有者を探り当てる推理より も、残りのメンバーで十二の部位を奪い合う争奪戦の方が色濃く描かれていたから。  むしろあまり戦いで奪い合いを繰り広げる展開を想像出来なかったせいか、これだけ 部位を巡って激しく衝突するシーンが盛り込まれるとは思ってませんでした。戦いの構 図は生徒会のメンバー対残りの協力態勢メンバーで、それぞれの悪魔の部位の能力を活 かした戦い。これがなかなかに良いもので。特に芙未と智事加、創那、真の生徒会メン バーの戦いは好感触でした。複数抱える部位を奪ったり奪われたり、またあえて手放し たり他人に返したり……と部位を材料にした駆け引きの応酬が実に面白かった。  ただ、前述の通り“悪魔の魂”所有者関連はもう一つ。尻すぼみ、或いはあっさり纏 まり過ぎとか。こういう締め方だから読後感は良かったのだけど。物語全体を眺めてみ てもそもそも関わり方が弱いので印象も薄くなるのは仕方ないのかな。椎矢絡みの終盤 とか、意表を突かれた元の世界に戻る方法とか、いいなと思える要素は結構あったのだ けど、もっと深い所まで掘り下げて描いて欲しい要素も同等で少々惜しいものでした。  既刊感想: 2005/12/04(日)とある魔術の禁書目録7
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:鎌池和馬/イラスト:灰村キヨタカ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  今までも思って来た事だけど改めてふと思う。これだけ前巻からの繋がりというもの が希薄なシリーズ作品も珍しいんじゃないだろか? 学園の裏舞台とかそれに土御門が 絡んでるとかインデックスと仲良しになった眼鏡っ娘とかビリビリ小娘だとか小萌先生 だとか……一切合切綺麗にスルーされてた今回。またまた新キャラ登場で“不幸にも” 魔術組織絡みの騒動に巻き込まれ、“不幸にも”フラグ立てに奔走させられる当麻。  まあ美琴が全く出ないのは個人的な贔屓で不満だったりするのですが、シリーズ作品 らしくない話の繋げ方に然程異議がある訳でもなくて。基本的に一冊で勝負して一冊で 解決、次には引き摺らず全く新しいでまた勝負、てな具合の流れは結構好きなんです。  ただ、前巻で起こった事との接点が薄い状況で全然違った展開を構築していると、一 度表に出したキャラや設定が沈みがちになってしまう。特にこの物語はそういう所が顕 著なもんで、新たなフラグ立てもいいけど前巻までの積み重ねも大事にしてね、と。  多分今回の魔道書を巡る三つ巴の戦いも次に繋がらないと思うけど、大抵一巻分で起 こった事をきちっとその巻でケリをつけている辺りは巧さと言えるのかな。でも、物語 の結末という着地点を早く定めてあげないとぐだぐだになりそうで心配な面もある。  既刊感想: 2005/12/02(金)Hyper Hybrid Organization00−03 組織誕生
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:高畑京一郎/イラスト:相川有/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  玲奈先生には萌えられないか? ……萌えられないか。数少ない女性キャラではある けれど、彼女の姉御肌で格好いいタイプだし、あとストーリー上の雰囲気とかが萌えさ せてくれない。と“萌え0%”な帯に反応。多分読んでいる人は「んな事わざわざ指摘 されんでも分かっとるわ」って感じではないだろうかと。インパクトあるし目を引く帯 ではあるけれど、果たしてこれで“買わせる”効果があるのかと思うと……うぅ〜ん。  まあそれはさておき、悪の秘密結社ユニコーンの組織誕生までを描く外伝『00』もこ れにて終幕。誰がどのポジションに収まるかと言うのは、本編の内容からも外伝の進行 状況からも大体把握出来るものなので、今回は組織結成に至るまでの最後の決断をそれ ぞれに見せてゆく展開。残るは定められた着地点に一直線に進むのみで、凝った構成も 捻った仕掛けも何も施されていないのに、興味をぐいぐい先へ先へと向けさせる牽引力 が物凄い。抜群の面白さで読み進める手も止まらず、改めて手堅いデキだな〜と。  結成されたユニコーン内部は一致団結などではなく、佐々木、速水、阿部の三勢力の 腹の探り合い。油断をすればお互い即寝首をかかれる状況で、本編までどう関係を繋げ て来たのか? この辺りの経緯も知りたい所でしたが、それはまた機会があればって事 でこの外伝では語られず。欲を言えば結成から本編までの空白部分も知りたかったし、 分量的に物足りないなと思ったり(面白いからもっと読みたかったという意味で)でし たが、この始まりの結末には充分満足。あとはもう本編カモーンと待ち望むだけ。  既刊感想:01−0101−0201−03       00−0100−02 2005/12/01(木)夏月の海に囁く呪文
(刊行年月 2005.11)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:雨宮諒/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  もしかしたら。今確かに地に足を付けて“生きている”と実感出来るだけの生活を営 んでいるこの場所が実は本当の居場所ではなくて、じゃあ一体本当の場所とは何処なん だろう? と幾ら考えてみても答えは見つからず、でも漠然としたその場所が自分の中 にイメージとして存在しているのだけはハッキリ理解している。あとはおぼろげなイメ ージを顕現させる為の切っ掛けがあればいい……それが、夏の海に囁くとある呪文。  夢物語は夢でしかなく、誰かが遊びで考えた作り話は所詮それを実行した所で現実に 起こり得るわけもなく、つまりこの物語で『呪文』と言われているのはそういう類のも の。ただ、その呪文を囁いたり呟いたり叫んだりする事で、“自分の中の何かを変えた い”と切に願う想いは聞き届けらるのかも知れない。それが作り話の呪文の効果なんか じゃなく、違う自分の可能性を切り開く自らの意思の力なのだとしても、やっぱり呪文 の効果を信じてみたいと思うのは、そっちの方がドキドキワクワクさせられるじゃない か。そういう単純思考でいいんです。たとえ、本当の居場所なんかに行けなくても。  ……と、まあ思いの丈をつらつらと。いや、参った。もろに打ち抜かれました。三話 目が少々蛇足に感じられたのと、三話と四話のエピソードをもう少し長く取ってくれて たら私の中では完璧だったと思う。しかしそれも些細な事。呪文という現実離れした要 素がちょっと入った以外は、何気ない事の積み重ねで綴られているのだけれど、こうも 心を揺さぶられるとは……本当に良かった(個人的には特に二話目が凄く好きです)。


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