NOVEL REVIEW
<2006年06月[前半]>
] [戻る] [
06/15 『EME BLACK3 血に飢えし妖刀の夜』 著者:瀧川武司/富士見ファンタジア文庫
06/15 『黄昏の刻2 七色の刺客』 著者:吉村夜/富士見ファンタジア文庫
06/15 『ムーンスペル!! 霧の向こうに……』 著者:尼野ゆたか/富士見ファンタジア文庫
06/15 『まぶらほ 〜デソレイション・エンジェルス〜』 著者:築地俊彦/富士見ファンタジア文庫
06/14 『どり〜む・まいすたぁ 夢は楽しく見たいです』 著者:清水文化/富士見ファンタジア文庫
06/11 『サンタ・クラリス・クライシス』 著者:ヤマグチノボル/富士見ファンタジア文庫
06/11 『V−MAX ―ヴァーシャ・マックス 正義を貫く物語―』 著者:栗原かずさ/富士見ファンタジア文庫
06/09 『ゆにこん1 白馬にのったお姉ちゃん』 著者:子安秀明/富士見ファンタジア文庫
06/09 『戒書封殺記 その本、持ち出しを禁ず』 著者:十月ユウ/富士見ファンタジア文庫
06/09 『白王烈紀 天の獣に王なる翼を』 著者:諸星崇/富士見ファンタジア文庫
06/05 『電蜂 DENPACHI』 著者:石踏一榮/富士見ファンタジア文庫
06/03 『抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王』 著者:三浦良/富士見ファンタジア文庫
06/02 『マテリアルゴースト』 著者:葵せきな/富士見ファンタジア文庫


2006/06/15(木)EME BLACK3 血に飢えし妖刀の夜

(刊行年月 H17.07)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:瀧川武司/イラスト:尾崎弘宜/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ずががーん! 黒部とスミレってベッドの上でいちゃいちゃ一夜を共にする関係だっ たのか!?(前にそういうの匂わす描写があったかどうかは忘れた) でも、だからって、 そんな、挿絵付きで強調しなくてもいいじゃないか! スミレを慕ってる紅が知ったら ショックだろうなぁ。もしかして黒部と決別、かどうかは分からないけど現在一緒じゃ ないのはそれが原因じゃないだろな? ……いやいやまさかさすがにそれはないか。  と、本編の重要な部分とはあまり関係の無い所で衝撃受けたような仕草はここまでに して。今回も分厚い上にアクションシーンてんこ盛り……ってこれだけだと描写が薄っ ぺらくて泣きが入ってた今までと何ら変わらないのだけど、今回は大幅な増強がしっか り感じられる手応えで一味も二味も違う。ストーリー展開に捻りなんて気の利いたもの は無くても、とにかく力押しで一直線に駆け抜ける力強さがあって実に良かった。  しかしEMEの中でも名の知れた実力者が次々にあっさりと無惨に暗殺者に殺され続 ける様ってのは、読んでいて色々と思う所があったなぁ。個性的過ぎるキャラクターば かりなもんで、ここで切るには勿体無いなとか。潔いと言えば清々しいまでの切り捨て っぷりだったけど。現在のEMEへと変わる発端は、もしかするとこの大量虐殺だった のだろうか? 過去編も残り2冊、現在との繋がりの全貌が分かるまであと少し。  既刊感想:EME BLACK        EME BLUE        EME RED  2006/06/15(木)黄昏の刻2 七色の刺客
(刊行年月 H17.05)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:吉村夜/イラスト:すみ兵/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ひとつのエピソードとしてそつなく面白く纏め上げていて、続きに期待感を持たせる だけの幕引きもきちっと為されている。それなのに物足りなさを感じてしまうのは、一 点突き抜けた魅力に乏しいからだろうか? と考えてみる。しかしまあそういうのも重 要だけど、実際にはそこら辺の問題よりも、単純に『連盟』の裏と闇と銀嶺が持つ力= 黒い円盤の謎が一向に明かされないから欲求不満が溜まってるだけなのかもね。  知りたい欲求抱えたまま、謎は解かれず『連盟』のスパイ騒動に翻弄される銀嶺達3 A1のメンバー。何でスパイを潜入させてまで狙い欲しているのかという『連盟』の陰 謀と、敵対する大きな組織に狙われるだけの黒い円盤に秘められた能力と、やっぱり両 方ともこれだけ分からない事だらけじゃ盛り上がりも頭打ちになってしまう訳ですよ。  とは言え3A1のメンバー個々の存在感は前巻よりも更にぐぐっと上がって来ている し、『綾』と呼ばれる超能力を駆使した戦いも変わらず見栄えがあって良い。今回のス パイとの騙し合いも、ド派手な超能力合戦とはまた一味違った描かれ方で好感触(謎仕 掛けの辺りでどこか富士ミスの匂いがしたのは気のせいという事にしておこう)。  次こそは謎な部分を語って欲しいと願いつつ、あとは夕姫のお兄ちゃん好き好きっぷ りに拍車が掛かって、どきどき同棲生活にもっと焦点が当たってくれたら言う事なし。  既刊感想: 2006/06/15(木)ムーンスペル!! 霧の向こうに……
(刊行年月 H17.05)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:尼野ゆたか/イラスト:ひじりるか/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  シリーズ第2巻。まず最初にひとつ、どうしても作中で気になって気になってしょう がない箇所あって、それを先に述べておかなければ気が済まない。それはクラウスの家 庭菜園が理不尽な暴力によって崩壊してしまった(ごめんここちょっと笑った)後、イ ルミラが物置から謎の壺を持って来たシーン。何でイルミラは“物置へ行ってクラウス の部屋まで壺を持って来よう”と思ったのか……これが何度読み返してもサッパリ分か らなくて意味不明な行動にしか見えなくて。いや、全体的に見たら取るに足らないどー でもいい事なのはよく分かってる。でもせめて「極貧クラウスの腹の足しになるような ものを探して役に立ちたい。だってあたしはクラウスの事が……」くらいの乙女心をこ の筋肉少女に最低限持たせてやってもいいじゃないのさ〜、とか愚痴零してました。  ストーリー展開は……どうだろ? あんまり進展らしい進展もなく、後々進むべき方 向性も見られず、クラウスとエルリーとイルミラの三角関係の旨味も味わえず……色々 挙げてみると実は微妙だった? もっとも、クラウスが王国詠唱士を目指そうと頑張る 姿勢が多く見れた所は良かったかなと。今後は王国詠唱士の道へ進むクラウスを追うの か、千年前から生きるエルリーを追うのか。果たしてメインはどちらになるだろう。  既刊感想:ムーンスペル!! 2006/06/15(木)まぶらほ 〜デソレイション・エンジェルス〜
(刊行年月 H17.11)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:築地俊彦/イラスト:駒都え〜じ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  書き下ろし長編のこっちが外伝。富士見ファンタジア文庫で同じタイプの作品(一つ のタイトルで長編と短編が平行して刊行されている)の中でも、多分短編連作が『本編』 で長編が『外伝』の位置付けなのはこの作品のみ。というまぶらほ外伝長編第三巻。  ドラゴンマガジンで連載されてる方は初期の頃しか読んでなくて、今現在の雰囲気が どんなもんかはよく把握してないのだけど、それでもこの長編外伝は本編と絶対的な温 度差がある! と力一杯断言してもいい。だってラブコメ要素一切ないんだもん。  前巻までは辛うじて存在してた……ような気もするけれど、今回はちょっとすらも僅 かすらもない。序盤の夕菜と玖里子の絡みで微かにはあったと言えるのかどうか、って くらいラブコメ皆無。ここまで放り投げられているのにはびっくりだ。ただ、好きか嫌 いかで選ぶなら、実は意外と好きなんだよねぇ。だから刊行を待ち望んでたりとか。  基本はアクション&サスペンス&バイオレンス。甘っちょろい要素なんぞ入り込む余 地もありゃしない。まあ本編見向きもしない私みたいな奴にとっては「一気に長編の続 きを出してくれい」なんて心境。いいとこで幕引きしちゃってるし、結局『彼』の存在 語られず終いだったし。いい加減引っ張り過ぎにも思えるので早く続きが欲しい。  既刊感想:〜ノー・ガール・ノー・クライ〜       〜アージ・オーヴァーキル〜 2006/06/14(水)どり〜む・まいすたぁ 夢は楽しく見たいです
(刊行年月 H17.12)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:清水文化/イラスト:青桐静/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  この物語を楽しめるか否かは、舞花たんを愛でる事が出来るかどうかに掛かっている ……多分。いや、きっとそんな大袈裟なもんじゃないだろうけど、愛でようとする以前 に舞花たんの一人称文章に馴染めませんでした最後まで。一生懸命歩み寄ろうとする行 為はちらちら見せていたのだけど、こればっかりはどうにも反りが合わずで残念!  ……と、終わってしまうのもあれなので。結局舞花が『夢魔道師』という役割を得る までのエピソードだから、まだ何も始まっていないという点。これも展開の好みの差か なぁと思うのだけど、私はお馬鹿さんになったとしても最後は舞花が『普通』に戻る結 末を望んでたので。「それじゃ話が終わっちゃうじゃないの!」とアスミ辺りから抗議 が飛んできそうだけど、むしろそういう後腐れのない閉幕こそを欲していたのかも。  最後は夢魔道師になる道しか選択肢が残されなかったから、ぎりぎりの所まで葛藤す るだけのもう一つの選択肢――つまり普通に戻る道も残しておいてくれてたら良かった のになと。まあ選ばなければ死と言われりゃ生きる道を選ぶしかなかったのだけど。  さて、次に繋げたのなら続いて欲しいものだけど……実はそこが一番心配だったり。 2006/06/11(日)サンタ・クラリス・クライシス
(刊行年月 H17.12)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:ヤマグチノボル/イラスト:並木太希/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  くそ〜いいラブコメだな〜、に落ち着いた。最初は痛々しい妄想癖な主人公に彼を取 り巻く痛々し過ぎて見てらんない三バカどもの影響で、かなり微妙な低空ラインだった のだけど、いつの間にやらラブコメ話として惹き込まれてたので悔しさを込めて。  そういやこの『三バカ』の雰囲気、どっか別の物語で感じた事あったような……と首 捻りながら、ああそうか前に読んだグリーン・グリーン(角川スニーカー文庫版)だと 思い至った。てか著者が同じヤマグチノボルさんだな、と後から気付いて先にそっち気 付けよと自分に突っ込み入れてみたり。コメディ部分の馬鹿馬鹿しさ加減は確かに一緒 で、面白いかは微妙だけど楽しい事は楽しい……ただし失笑と呆れと溜息混じりで。  悔しいと言えばもう一つ。終盤までずーっと智子の恋愛感情を読み違えてた事。途中 でヒントらしきものが結構あったのになぁ。浩二とクラリスとで三角関係展開に発展す るのを信じて疑わなかったと言うのか、自分の好みな展開以外の予想を立てようともし なかったのが敗因か。まあ個人的には世間知らずで不器用なクラリスの方が好きで思い っきり肩入れしてたから、この結果は満足の行くもので嬉しかったんだけどね。  クラリスが浩二に惹かれる過程がちょっと駆け足気味だったかな? という辺りに少 々物足りなさを感じただけで、“誰かを好きになる”というクラリスの感情の変化は作 中で充分に見せて貰えたし、ラストシーンも凄く綺麗に決まっていて良かった。 2006/06/11(日)V−MAX ―ヴァーシャ・マックス 正義を貫く物語―
(刊行年月 H17.12)★★★★☆☆☆☆☆☆(4/10) [著者:栗原かずさ/イラスト:ギンガ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  これってもし長編小説大賞の応募作として出したら一体何次選考まで行くだろうねぇ、 とか黒っぽい感情丸出しでやろうかな。満足度評点で半分を割る程の事って滅多に無い んだけど、この作品は割る程のモノだった。しかしどうも過去にこういう文章表現に触 れた事があった気がするなぁ……と読みながら感じていたのだけれど、あとがき見て思 い出した。これは以前遊んだ事のあるPBM(play by mail=郵便を使って行う多人数 参加のゲーム)のシナリオと同じ描き方だ(主にホビー・データのをやってた)。  要は参加者(プレイヤー)が自分のキャラクター(PC=プレイヤーキャラクター) をメイキングして、毎回の行動を考えて郵便で送って、参加しているシナリオのマスタ ーが参加者達の行動を纏めてシナリオを描いて物語を進めてゆく、というもの。マスタ ーが小説での著者に当たる訳ですな。つまり、自分がプレイヤーとして参加していなけ ればそもそも全く知らないPBMのいちシナリオを延々と読まされる感覚。  もし読み手側がPBMの参加者と同様にヴァーシャや小鳥をメイキングしたのならば、 思い入れはある程度違うものになっていたかも知れないけれど、それでもこの唐突で行 き当たりばったりな展開の連続には閉口するしかなくてどうにもならなかった……。 2006/06/09(金)ゆにこん1 白馬にのったお姉ちゃん
(刊行年月 H17.11)★★★★★☆☆☆☆☆(5/10) [著者:子安秀明/イラスト:伊藤ベン/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ぷぎゃー! 下半分が白い! 白過ぎるよ! 詰めたら百頁は縮まりそうだ。ええと、 帯曰く“「あかほりを超えた漢!!」(あかほりさとる談)”だそうで。ああそうだ。確 かに昔読んだあかほり作品はこういう感じの手応えだった。でもまだ感じ入る部分はあ ったと思うよ。何か「イラストに騙された」とか言い訳しないと立ち直れない……。  何の脈絡もなく主人公・一文字空きゅんの頭にユニコーンのような角が生えちゃって、 その角を狙う組織に襲われまくり、弟(空きゅん)のピンチにどこからともなく一角獣 の背に乗って現れて戦う最強のお姉ちゃん……もう訳わかんね。そこに意味や理由を求 めちゃいけないんだきっと。キャラクター達の異常な性質だけはきちんと把握出来るの だけど、ギャグやラブコメとして楽しむにしてもあまりに話の中身が無さ過ぎる。  もし自分が空きゅんと同世代で思春期のリビドーに同調したいとか、ショタコンで空 きゅんにあんなことやこんなことをして弄びたいという妄想を描いて楽しみたいとか、 この続き待ち遠しい〜早く読みてぇなんて気持ちになったりしてたら面白さを見出せた かも……いや、見出せなかった気がしてならない。くぅ〜、せめて稜くんが男の子じゃ なく男装した女の子だったなら、空きゅんとああなってこうなってと妄想で楽しめたか もしれないのに。……ってそこでしか楽しみ得られなかったので、登場時から稜くんは 女の子に変換して読んでたけど。もし続き出たらそれはある意味凄い事だと思う。 2006/06/09(金)戒書封殺記 その本、持ち出しを禁ず
(刊行年月 H17.11)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:十月ユウ/イラスト:藤丘ようこ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  編集さんの野生の勘と今まで売れて来た作品と同種「匂い」で掬い上げられた、長編 小説大賞選考落選からの復帰作(んな根拠の弱い理由であっさり拾うの決めちゃってい いものなんだろうか? と首傾げてしまったけれど突っ込みは保留)。まあ結局の所出 版までの経緯はどうであれ、面白く楽しめればそれでいいや的に読み進めてみた。  舞台は学校の図書館。その奥に隠された世に出てはならない『戒書』と呼ばれる曰く 付きの書籍を管理する、異界司書達の物語。本好きにとっては喰らい付きたくなるよう なキーワードの数々、まずそれだけで胸躍らされる。禁書を奪い己の欲望の為に悪用し ようとする者と、それを阻止しようと暗躍する者との戦い。この“禁書を巡っての戦い” いってとこに非常に心惹かれた。これが任務使命ではなく、例えば自分の好きなタイト ルを奪われたから取り戻す! とかだったら一層揺り動かされていただろうけど。  あと月詠読破。いい名前だ。冷静沈着で感情の起伏が乏しいとか特徴抜きにしてこの 名前だけで心を鷲掴みにされてしまった。決して無感情で冷徹なのではなく、素っ気無 い態度も危険に晒したくない気持ちの表れなので、性格的にもまずまずの好感度。  ただ、あとがきで「ミステリじゃない」って言い切っちゃってるけれど、明らかにミ ステリ仕立てを意識してる組み立てで、そういう部分はもう一つだったかも。それにシ リーズ展開を意識しているからか、隠されてる部分で把握し難い所も少々あったり。こ の辺りは次巻以降に期待。あとは綴の出番と活躍の場がもっと増えますように。 2006/06/09(金)白王烈紀 天の獣に王なる翼を
(刊行年月 H17.12)★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:諸星崇/イラスト:桐原いづみ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  長編小説大賞の選考落選からの復帰作だと思い込んでたけど違ってた。グループSN E所属の方の一人立ち長編デビュー作だそうで。グループSNEの人で富士見系列から 伸びて行った作家さんで私が印象に残ってるのは三田誠さんとか。ここ何年かでは。  そんな風に伸びて欲しいと一作目の内容に期待を寄せてはみたものの、どうやら「ま だまだだね」とか蹴っ飛ばされるの覚悟で呟きたくなる程には引っ掛かりを覚える箇所 があった模様。まず目に付くのは、身体の一部と引き換えに様々な獣を従え使役して戦 う魔獣召喚的システム。これは主人公テンケイの能力としての部分や、逆に簡単に最強 無敵とならないような足枷としても働いているので目新しさは薄いけれど悪くない。  拙いと感じたのは、途中までどう読んでもサナ絡みの白凰家再興問題を主軸とする描 き方進め方だった筈なのに、中盤以降全く取り上げられなかった点。白凰家の中でも限 られた者しか知らない家紋を印した書状まで送っているのに、全て蔑ろにされていては そりゃないだろうと言いたくもなる。黒い思惑巡らせてたタイシンって人は? 名前し か出て来なかった元老コウアンって人は? あまりの投げっぷりにポカーンだった。  で、代わりに後半メインを張っていたのは復讐の為に獣に身を売ったシドウとの闘い なのだけど、これも結局リョウエンがシドウをけしかけたのは一体何の意味があったん だ、という結末だったし。より強く生かす為にとテンケイにぶつけたんじゃなかったの か……。これじゃサナと嬉し恥ずかしのいちゃいちゃなとこでしか楽しめないぞ〜。 2006/06/05(月)電蜂 DENPACHI
(刊行年月 H18.01)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:石踏一榮/イラスト:結賀さとる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第17回ファンタジア長編小説大賞『特別賞』受賞作。  携帯電話のメール機能を駆使して戦い抜いてゆくネットゲームにも似た、しかし全く 別物のサバイバルゲーム。これは多機能携帯電話が普及している今現在だからこそのア イディアで非常に素晴らしいと唸らされた。私はあんまり携帯電話使用しない奴なもん で、いつ頃から一般的に普及し出したのかハッキリ覚えてないし、携帯機能の知識も乏 しいのだけど、五年くらい前だったら多分このアイディアはなかなか生み出せなかった んじゃないかな。と、思いつつ組み込まれたこの設定に対して拍手送りたくなった。  しかしながらストーリー展開には「うーん……」ってな具合で、携帯メールのアイデ ィアの時とは逆方向に唸らされる事が多くて。ただ、“特定のキャラクターが主人公で はなく、『Innovate』というゲーム自体が主人公”と言い切っているので、その辺りを 考慮すると、『Innovate』の設定やルールなどの描写を最重視、キャラクターの内面に はそれ程深くは踏み込まず……と書き手側の意図通りにはきちんと描けていたのかも。  あとは一本の長編としてうまく纏まってない印象を抱いたりとか。ゲームクリアを目 指す登場人物達のそれぞれの事情を、ひとつひとつ拾っては見せての繰り返しで結局収 拾がつかなくなってしまった……って感じかなぁ? 途中に挟まれてた過去の事も噛み 合いはイマイチな感触で。役割が主人公ではなかったとしても、やっぱり中心に居た光 也の事をメインに立てて欲しかった。アイディアに強烈に惹かれてただけに無念。 2006/06/03(土)抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王
(刊行年月 H18.01)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:三浦良/イラスト:KIRIN/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第17回ファンタジア長編小説大賞『審査委員賞』受賞作。  一方は勇者として魔王の絶大な魔力を一瞬にして全て奪い尽くし、新たな魔王として 人間達の領地に攻め入り、覇王として人間と魔族の統合を果たした『謀略の皇帝』。も う一方は己の油断で全てを奪われた勇者に復讐を誓う『孤高の魔王』。この両者の構図 はそういやこれまであまりお目に掛かった事のないものだな、と新鮮味溢れる手応えで 楽しめました。加えて『謀略の皇帝』サラは勇者として初めて相対した瞬間から『孤高 の魔王』ラジャスに恋情を抱き、ラジャスも(本人自覚無しだけど多分)無意識の内に サラを求めている。こういう特殊な関係も堪らなくグッとくるものがあって良かった。  ただ、期待してたのとちょっと違ってたのがサラの恋心の描き方。皇帝としての立場 と、恋焦がれる一人の女としての立場と、その間で身悶えする程の葛藤を見せてくれる ものと思ってたのだけど、意外と淡白だったかなぁと。所々ではどうしようもなく惹か れる様子も垣間見れたんだけど、もっと歯止めが利かなくなるくらいの本心を曝け出し て欲しかったと言うのか……僅かに物足りなさを感じたのはおそらくそこら辺の事。  もっとも、激しい戦いの中で想いをぶつけ合う姿ってのは凄く良いもので。サラの想 いが淡白に映るのは、決して誰にも秘めた想いを悟らせない強さの表れかも知れない。 2006/06/02(金)マテリアルゴースト
(刊行年月 H18.01)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:葵せきな/イラスト:てぃんくる/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第17回ファンタジア長編小説大賞『佳作』受賞作。  死にたいけど楽に死ねる方法が見付からないから死ねない……ってそれ本当は死にた くないの誤魔化してるだけじゃないのか? いや、この主人公君には楽に死ねる方法を さっさと探してあげて死なせてあげりゃいいじゃないか、とか思ってしまった。何かぐ だぐだうだうだとうざったかったので。せめて"死にたがり"になった原因とか切っ掛け でもあればそこに踏み入る事も出来たんだけど、本当にただ何となくみたいだし。  てな具合で何故か個人的に蛍への印象がすこぶる悪かった。単に生理的に受け付けな いだけだろうから、この辺の気持ちは物語の良し悪しとは別物かな。都合よく美少女幽 霊に憑かれやがった上に好意を寄せるクラスメートの美少女を嫉妬させてその事にも気 付かず先輩の美少女には遊ばれ弄られ可愛がられ、この充分な幸せ環境に身を委ねてお きながら「ああ死にてぇ」だとコノヤロウ! もう死ね! いっそ死んでまえ!  ……こんなんです。見苦しくてごめんなさい。でも最後で微かに蛍の"死にたがり"が 改善されたような気もしたので気持ちも少しだけ落ち着いた。とりあえず蛍へのムカツ キはおいといて、幽霊物質化現象なる要素は面白いもので、その能力を活かしての描き 方はなかなか良かった(最後《中に居る》との戦いの中での使い方とか)。肝心のユウ の死因は結局不明のまま終わったので、次に焦点当たりそうなのはその辺りかな?


戻る