NOVEL REVIEW
<2006年10月[前半]>
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10/13 『かりん 増血記7』 著者:甲斐透/富士見ミステリー文庫
10/11 『トキオカシ』 著者:萩原麻里/富士見ミステリー文庫
10/09 『エクスプローラー3 白黒乱舞』 著者:北山大詩/富士見ミステリー文庫
10/09 『楓の剣! 三―かげろふ人形』 著者:かたやま和華/富士見ミステリー文庫
10/08 『マルタ・サギーは探偵ですか?3 ニッポンのドクトル・バーチ』 著者:野梨原花南/富士見ミステリー文庫
10/05 『ヒドラ ―HYDRA―2』 著者:吉田茄矢/富士見ミステリー文庫
10/01 『ヒドラ ―HYDRA―1』 著者:吉田茄矢/富士見ミステリー文庫
10/01 『空とタマ ―Autumn Sky,Spring Fly―』 著者:鈴木大輔/富士見ミステリー文庫
10/01 『待ってて、藤森くん!』 著者:壱乗寺かるた/富士見ミステリー文庫


2006/10/13(金)かりん 増血記7

(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:甲斐透/原作・イラスト:影崎由那/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  なっ!? い、いつの間に果林と健太くっ付きやがったんだ! いや、この不意打ちに は参ったぜ。……と、まあいつも小説版読んだ後に「その内読もう」と思うだけで結局 いつまでも読もうとしない原作コミック未読者が辿る末路。ヴァンパイアハーフ・橘友 里耶の存在や、健太の家庭関係のトラブル、そのせいで果林との仲がギクシャクしたり、 でも元鞘に納まってバレンタインデーに遊園地初デートで、そこで告白して遂に恋人関 係になったりとか、「そんなの知らねえ!」って出来事(しかも重要で重大な事ばかり) が幾つもあって。今回ばかりは原作コミック追ってなかったのが痛恨の一撃で相当に悔 やまれる。本来は上手い具合でコミック版と密接に絡んでると思う筈なんだよなぁ。  別に果林と健太がくっ付くのに反対なのではなくて、むしろこれまで「好き合ってる 癖に好きじゃないとか友達だとか言いやがって……大概にしとけよ」てな苛立ちが少な からずあったので、よーやくケリがついたな〜という安堵の気持ちが大きかった。  今回のメインは麻希との友情。新キャラのノエルが目立ってたせいか、一冊丸々麻希 の独壇場って訳にはいかなかったけど、これまで“果林の友達”以上に目立つ活躍が無 かったから良い感触だったよ。麻希に正体バラすかどうかってシーンにぐっと来た。  既刊感想:       恥じらいダイアリー 2006/10/11(水)トキオカシ
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:萩原麻里/イラスト:鹿澄ハル/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  ホワイトハート出身の作者さんが富士ミス進出。前半は誠一の心境の如く。とにかく 「何だかよく分かんね」が先に立っちゃってどうしようかと思った。冒頭の眞名の事、 夢に似た一時的なタイムスリップで垣間見た断片、それから誠一にいきなり突きつけら れた『時置師(ときおかし)』と<対>の存在やら関係やら。おまけにタイムスリップで 明治時代の歴史のお勉強か!(まあそこまで苦手意識剥き出しにするほど歴史背景の描 写は濃くないけれど) などなど、一応頭に留めつつ、きっと中盤から一気に加速が掛 かるんだろう? と半信半疑で最後まで読み進めて、再度分からなかった部分を辿って みた所で、ようやく実は二周目にこそ物語の真価が隠されていた事に気付いた。遅過ぎ るっての! と自分を叱責しつつ、全てを知った時は感無量で胸が一杯になった。  決して後味の良い結末とは言い難いのだけど、一度踏んだだけでは理解出来なかった 仕掛けが、二度踏んで見事なまでに紐解かれるこの気持ち良さが堪らない。最初に“あ の人”から眞名に放たれた言葉の意味を知り、そして最後に眞名から“あの人へ「…… これから、会うのよ」と返した時の瞬間が忘れられない。完璧に魅入られてしまった。  あとがき読んだ感じでは続ける気満々のようなので、期待して続きを待ってみたい。 2006/10/09(月)エクスプローラー3 白黒乱舞
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:北山大詩/イラスト:石田あきら/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  いや、もう、何て言うか……今巻どうにも感情的に揺さぶられる箇所が多くて、ちょ っとどころじゃなくやばかった。加えて適度にグロかったし。まあ「おまえら迂闊過ぎ るにも程があるぞ!」と思わず指摘したくなるくらい周囲に対する配慮が欠けていたり (一般人が側に居るのにエクサー絡みの話をしたり、桃=白黒デブ猫との会話を隠そう ともしなかったり)、透の生命力がそろそろ異常レベルに達したり(回復能力が高くて もあれだけダメージ受けたら死ぬって)、突っ込みたいとこは色々あるんだけど、それ を補って余りある個々の感情描写が充分な手応えで得られて凄く良かったなぁ。  薫のエクサーとしての試練。透や響(とりわけ透)の役に立ちたいと思う理想と、経 験不足で足手まといになってばかりの現実との隔たり。一生懸命頑張ってはいるんだけ れど、良い結果に結びつかない過酷さが薫の感情の脆い部分を強く刺激している辺りで、 何度も泣きそうになってしまった。薫だけでなく透にも響にも、特に危機に陥れば陥る 程に感情の揺れ動きが激しくて、そういう描写に今回はもの凄く惹かれた(しかし三角 関係っぽいのがここまで表に顔出して、透、響、薫の気持ちに影響及ぼすとは思わなか ったなぁ)。ともあれ、最後が「次巻へ続く」だったので続きが待ち遠しい。  既刊感想: 2006/10/09(月)楓の剣! 三―かげろふ人形
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:かたやま和華/イラスト:梶山ミカ/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  惜しい! もうそこまで行ったら酔った勢いで一気にやっちゃえよ! ……なんて叫 ばずにはいられない程、もどかしさを素直に抱かせてくれる辺りが上手い描き方なんだ ろうなぁ。キス程度でも一度交わしたら関係は進展するだろうけど、今のように犬猿の 仲みたいなじゃれ合い方は微妙に出来なくなってしまうのかも。楓の中にも弥比古の中 にもそれに近い気持ちが何処かにあるから、酒の力を借りても一線を踏み切れないんじ ゃないか、という気もする。実際楓と弥比古の関係を一番もどかしく感じているのは、 読んでいる側でもなければ周囲で騒いでる人達でもなく、当の本人達だろうなと。  まあ何か事件が発生したと思われる近辺に居合わせたこの二人が、それを無視して自 分達の事に没頭出来るわけはないし。こういう寸止めの焦らしによる擽り方もまた描写 の上手さがあればこそ。たとえ互いに惹かれ合っているのを自覚したとしても、もう暫 くは痴話喧嘩で本心誤魔化しの曖昧な関係が続きそう。その方が楽しめるのかもね。  既刊感想: 2006/10/08(日)マルタ・サギーは探偵ですか?3 ニッポンのドクトル・バーチ
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:野梨原花南/イラスト:すみ兵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  ん、長編は久々だな。長編はどうも毎度微妙な手応えだから、正直「短編集の方メイ ンに進めて」なんて考えてたのだけれど、今回はちょっと一味違ってた。短編で面白い なと思う部分が長編でも味わえるようになってきた、と言った方がより正確か。  要はマルタとバーチのじゃれ合いみたいなもんが楽しくて、この辺りは確実に短編集 2巻の流れを汲んでるんじゃないかなぁ? マルタはバーチの正体知らないから男とし て捉えるしかないんだけど、知ってる側からすればやっぱり「何て勿体無い事を……」 ってなっちゃうんだよねぇ。だってバーチを女性に変換すれば恋人同士がデートしてる ようにしか見えないんだもん。今後マルタに正体明かすのかどうかが興味深い所。  本来はカード戦争に巻き込まれての異世界転移だった筈なのに、この要素が目立ち過 ぎると内容が微妙になってゆくという難儀さ。今回システムに関しても大分詳細まで語 れていたようだけど、マルタがカードバトルに応じた所でどう話が転がるのか……なか なかハッキリしなくてねぇ。でもまあ今はゆっくり進めてくれればそれでいいかなと。  既刊感想:       a collection of s. 2006/10/05(木)ヒドラ ―HYDRA―2
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:吉田茄矢/イラスト:武若丸/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  ちょっと受け入れ難いからって何だかいちゃもんつけるような書き方も大人気ない、 とか前巻感想眺めて思いながらも、そう感じた部分も確かにあったので仕方ないじゃな いかと開き直ってみる。この2巻目ではそういう違和感みたいなものは抱かなくて、キ ャラクターの言動もよりシリアス増しな物語の雰囲気にうまくはまってたかなと。  ただ、上記の不満を抜きにしても、やっぱり終盤までは自分の中で積極的に盛り上が ろうとする意欲が湧き起こらなかった。しかし面白そうな要素は幾つも見出せていたの に、どうしてこんなにも読んでいる時の手応えが空虚なのかねぇ……。思うに、“何を 置いてもこれを描きたい!”って意気込みが弱いんじゃないだろか? ウミの思惑、ウ ミとハナの関係、二人の血に秘められていたもの、アラタとエイトの関係、アラタの進 路の事、押し付けられるように一緒に居るようになってしまったアラタとハナの事、ウ ミとナカミチの関係、など。羅列してみたけれど、多岐に渡って色々、でもこれらがう まく纏まっているかと言えば……う〜ん、と唸ってしまう辺りがね。微妙なのかな。  一箇所だけ強烈な押しがあれば、絶対「ぱくっ」と食いついちゃってただろうけどな ぁ。しかしながら、エイトの心情が曝け出されたラストシーンの描写は非常に良いもの だった。ようやく正確にアラタの事を把握出来たのに、何もかも遅過ぎた結末が切なく て遣り切れない。消息を絶ったアラタとハナは何処へ行ってしまったのだろう……。  既刊感想: 2006/10/01(日)ヒドラ ―HYDRA―1
(刊行年月 H18.08)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:吉田茄矢/イラスト:武若丸/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その8。  ん……何遍振り返って考えてもこの物語ってシリアス寄りだよな、という方向で落ち 着くのだけれど、その反面キャラクターの描き方がどうにもコメディっぽく見えて仕方 がなくて、そういう部分で妙にちぐはぐさを感じてしまってどうしても最後まで馴染め なかった。ストーリーの雰囲気がシリアスだからって、別にキャラクターの感情までシ リアス一辺倒にならなきゃ嫌だとかダメだとか思ってる訳じゃないんだけど……。  何でそこでおどけてみせたりふざけてみせたりするのかなぁ? とか思わず文句言い たくなるくらい、場の空気にそぐわない行為を起こす事が多い気がしたんだよなぁ。そ れが噛み合わないと感じて何か鼻についちゃって、幾つも積もって誰も好きになれなく なっていたと。まあこの辺は単純な好き嫌いで合うか合わないかの違いなのかも。  謎が一切解かれないまま次巻へ持ち越しな内容に関しては、続きがあると最初から分 かっていたので「こんなもんかな?」と予想内の範囲。それよりも話が何処に向かって るのかイマイチ把握出来なかった事の方が気になる。でも、これも主犯らしいウミと遠 ざけられたハナの双子の本質が見えてこないと何とも言えなくて。所々でやや引っ張り 過ぎな感触はあれど、まあそんな不満はきっと次巻で解決してくれるに違いない。 2006/10/01(日)空とタマ ―Autumn Sky,Spring Fly―
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:鈴木大輔/イラスト:原建人/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その7。  馬鹿だなー。馬鹿な事やってるなー。馬鹿な事やってると自覚している癖に馬鹿な行 為を一向に止めようとしない所が益々馬鹿だ。でも、こんな馬鹿は大好きだ。一体こい つは何処まで一人語りの滑稽な道化を演じ続けさせられれば気が済むんだ? なんて気 にしてみたり、その空回り振りがいい加減痛々しいからもうやめようよ? とか声掛け てみたくなったり。そんなこんなで気が付けば空の一人語りに惹き込まれてた。  色々とあの手この手を考え込み過ぎて墓穴を掘り、威勢はいいが詰めの甘さで攻め切 れずに踊らされてばかり。始まって暫くは相手が殆ど喋んないもんだから、ずっと空の 一人芝居と一人相撲が続いて行くのだけど、誰かに見られたら確実に失笑を買いそうな 滑稽さが妙に楽しくて。よくこれで話を引っ張れるなぁと感心させられてしまった。  中盤以降はタマとしっかり言葉を交わして触れ合っているのだけど、タマと空の母親 とはもっと深い繋がりがあるのかと思っていたので、その辺りは想像してたよりもやや 薄味だったかな? もっとも、この結末は温かい様な切ない様な何とも言えない余韻を 残してくれて凄く良かった。描かれなかった結末の先、想像してみるのもまた一興か。 2006/10/01(日)待ってて、藤森くん!
(刊行年月 H18.08)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:壱乗寺かるた/イラスト:カントク/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  2ヵ月連続オール新作『初体験(はぁと)project』その6。  傍から「お節介焼き過ぎでちょっと鬱陶しいなぁ」と思われてしまうそうな幼馴染み が良い幼馴染みの証。里見はそんな事これっぽっちも思っちゃいないだろうけど、吉野 が過保護に過保護を重ねた過保護だというのは誰が見ても揺ぎない事実。正直最初の方 鬱陶しいと感じてたよごめんよ吉野ごめんよ……と精一杯平謝りしながら、段々そうい うお節介が愛しく思えて来た所で、やっぱり間違いなく「俺は幼馴染みキャラが大好き なんだ!」と心で叫んで実感を噛み締める。……言い訳がましいのは気にしない。  そういや新作って事で勝手に一冊完結と思い込んでた所、実際には完結どころかよう やく始まったばかりのような。まあ“里見の待ち人は誰か?”って部分が謎のままで持 ち越されちゃったからなぁ。物語の流れと雰囲気と里見の勘とをそのまま信じるならば、 待ち人は生徒会長・黒河和美としか考えられないんだけど……んな単純に事が運ぶ訳な いだろうという予想。今回はラブコメからスポ根へ見事に飛んでしまったせいか、大抵 の見せ場は“里見と吉野の為に用意されたもの”なんて感触だったので、次があれば素 性が結構謎で出番も控えめだった和美にも焦点を当てて欲しい。……次、あるよね?


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