NOVEL REVIEW
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08/15 『翼は碧空を翔けて1』 著者:三浦真奈美/C★NOVELSファンタジア
08/15 『一瞬の風になれ 第二部 ――ヨウイ――』 著者:佐藤多佳子/講談社
08/15 『桐原家の人々1 恋愛遺伝学講座』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/15 『スカーレット・ウィザード外伝 天使が降りた夜』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/12 『スカーレット・ウィザード5』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/12 『スカーレット・ウィザード4』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/12 『スカーレット・ウィザード3』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/12 『スカーレット・ウィザード2』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/08 『スカーレット・ウィザード1』 著者:茅田砂胡/C★NOVELSファンタジア
08/08 『猫泥棒と木曜日のキッチン』 著者:橋本紡/メディアワークス
08/08 『黒い季節』 著者:冲方丁/角川書店
08/08 『ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語』 著者:定金伸治/C★NOVELSファンタジア
08/04 『煌夜祭』 著者:多崎礼/C★NOVELSファンタジア
08/04 『ヤングガン・カルナバル』 著者:深見真/トクマ・ノベルズEdge
08/04 『世界で一番優しい機械 〜SOFT MACHINE〜』 著者:榊一郎/EXノベルズ
08/01 『ねこだらけ物語』 著者:一条理希/EXノベルズ
08/01 『スタンプ・デッド』 著者:はむばね/スクウェア・エニックスノベルズ
08/01 『くさる前に抱きしめて』 著者:すぎやまひろゆき/スクウェア・エニックスノベルズ


2007/08/15(水)翼は碧空を翔けて1

(刊行年月 2006.11) [著者:三浦真奈美/イラスト:椋本夏夜/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  小国の王女様アンジェラ出奔。中盤辺りまではこのままちゃっかり飛行船に居座って、 更には乗組員として何らかの秀でた能力に目覚めて行くのかな、という風に考えてたんだ けど。ほら、雨で視界が悪い中でいち早く着陸地点の明かりを発見したりとか、そういう とこから能力開花に発展して行ったりとか。でも最後には降りて自国に戻っちゃったね。  となると、今後の展開は? 今回あまり表面化しなかった戦争勃発をメインに立てて進 むのかな? ともあれ、個人的に今後に期待を寄せたいのは色々な経験を積んでのアンジ ェラの成長。その過程を描く部分。今回は意気込んで事を起こしてみたものの、彼女が最 も反発してたセシルの発言の方がことごとく正論を述べてたもんで、結局“世間知らずの 我が侭お姫様”以上の印象には映らなかったんだよねぇ(そこら辺が可愛く見える部分で もあるんだけど)。そんな具合でアンジェラの成長を楽しみにしつつ続きを読んでみる。 2007/08/15(水)一瞬の風になれ 第二部 ――ヨウイ――
(刊行年月 2006.09)★★ [著者:佐藤多佳子/講談社]→【bk1】  一年の終盤から二年の中盤頃まで。弾むようなリズムでテンポ良く進んでゆく手応えは 前巻同様。かなり展開早く感じられたのだけど、この物語の一番の見所である“新二の成 長過程”の描き方は決して疎かになっておらず、むしろ実に変化に富んだ感情表現で丁寧 な感触。失速しそうな所でも絶対に落ちない。その辺りで巧さが存分に発揮されている。  走る速さだけではなく、心の成長も共に。今回は前巻以上に新二の心の悩み所で見せ場 が多かったんではないかなと。しかし前から彼に「恋させてよ」と希望してたせいか、結 構いい雰囲気の谷口とうまくいくんかな? とか、そんなとこばっかり気にしてたな。  短距離走者としての実力、そこに精神面の成長が伴い確実に上へ上へと伸び続けてゆく 新二。でも、まだ連には届かない。仙波にも高梨にも。但し、その差は新二自身が思って いるよりずっと僅かな距離。彼が目指すゴールは、連を上回る事? それとも仙波や高梨 に勝つ事? 勝敗は関係なくインターハイに出場する事? 果たしてどうなるだろう?  既刊感想:第一部 2007/08/15(水)桐原家の人々1 恋愛遺伝学講座
(刊行年月 1999.09)★★★ [著者:茅田砂胡/イラスト:成瀬かおり/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  初っ端からボーイズラヴ警戒信号をキャッチ! しかも容姿が全然似てない双子の兄弟 同士で! その片方が「もしかして俺ってこいつと血が繋がってないんじゃないか?」と か考え始めちゃって! 事ある毎に意識してどぎまぎして「俺……もしかしてホモ?」と か悩み出しやがって! こ、こいつぁやべぇぜ…………なんて危機感も実は途中まで。  とある転換点から、ボーイズラヴだのホモだのなんて要素は遥か彼方に吹っ飛んじまい ました。そんなのどーでもいいくらい、もっともっともーっと物凄ぇ超展開が待ち構えて た。すげー面白かった! でもこれにはもう吃驚仰天。顎が外れた。腰が抜けた。開いた 口が塞がらない。な、何だこの家族。複雑怪奇な事情にも限度ってもんがあるだろ! 基 本はホームコメディと家族愛に寄ってると思うんだけど、桐原家の事情があまりにへヴィ だからな……今後どんな展開になるのか。好みで言うなら明るく楽しくで行って欲しい。 2007/08/15(水)スカーレット・ウィザード外伝 天使が降りた夜
(刊行年月 2001.11)★ [著者:茅田砂胡/イラスト:忍青龍/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  本編で語られなかったジャスミンの空白の四年間。かつてケリーと初めて出逢い、様々 な意味で救われた事。それらの中に秘められた彼女の想いが心穏やかに綴られる。そして 本編エピローグ後のケリーの激動の日々が、彼らしく余裕綽々とした足取りで綴られる。  これって同著作『デルフィニア戦記』や『暁の天使たち』とリンクしてる部分があるの かな? 少なくとも『暁の天使たち』は確実に関連性あるんだろうけど、そうなると割と お手上げな結末だよなぁ。そっちを読んでみない事には何とも言いようがない印象で。  しかしながらジャスミン関連の事や、ケリー退場までの激動の歳月と技術の進歩などを 描いた部分については大いに楽しめたかなと。まあ結局一番知りたかった「ケリーとジャ スミンはどうなった?」という未来は明確にされなかったのだけど。そこだけが心残り。  既刊感想: 2007/08/12(日)スカーレット・ウィザード5
(刊行年月 2001.04)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:茅田砂胡/イラスト:忍青龍/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  シリーズ最終巻。壮絶。自分の子供の為にどんだけの事やらかすんだよ! 常識を覆し ながら必ず相手の策を上回る行動を取っている辺りは凄いとしか言い様がないな。結局首 謀者の狡猾で巧みな策略も、ジャスミンの力押しの前には全く歯が立たなかったと。  しかしこの巻の本番はダニエル君が無事に救出された後、満を持して待ち構えてた。正 直ジャスミンとケリーの過去に接点があるなんて、これっぽっちも思わなかった。しかも こんなに重要な所で、深く繋がってたなんて……。確かにケリーの言う通り、容姿を手掛 かりにしてたらとてもじゃなけど過去の彼女と今の彼女が同一人物とは思えねぇよ。  ラストシーンは“あとは読み手のご想像にお任せします”な感触で、こういうの嫌いじ ゃないんだけどスッキリとは行かなかったなぁ。でも、これまでの彼女の様々な仕草が、 全て納得のゆく形で胸の中に収まってくれた。今後奇跡が起こるか失敗に終わるか……実 はどちらでもいいと思ってる。彼女に悔いは殆ど残ってなかったように思えたから。ただ、 彼がどういう過程を経て、どんな結末へ辿り着いたのか? ここだけは是非にでも知って おきたい。どうやらその辺は残る『外伝』で語られているみたいなので期待してみる。  既刊感想: 2007/08/12(日)スカーレット・ウィザード4
(刊行年月 2000.11)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:茅田砂胡/イラスト:忍青龍/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  警告! 少しでも長生きしたけりゃケリーとジャスミンを本気で怒らせるな! たとえ どれだけ理不尽で納得が行かなくても、この二人が実行する事に対して意見を述べてはい けない!(どうせ聞く耳持ってないから) とにかく黙って首縦に振りつつ従っとけ!  ……と、思わず力説したくなった今回のお話。身の毛もよだつ恐るべき報復。この手の 大逆襲って結構爽快感が得られるもんだと思ってたけど、ケリーが冷徹冷酷に徹し過ぎて とてもとても……。つーか味方まで震え上がらせてどうすんだー。まあ詮索する方も配慮 が欠けていただろうけど。好奇心は我が身を殺す、という恐怖を存分に味わわされた。  んで、一件落着と思いきや今度は赤ちゃんが誘拐される(また次から次へと最強夫婦の 逆鱗に触れそうな騒動起こしやがって……)。これはようやく重役連中の謀略が発動され たって事だよなぁ。どう転んでもジャスミンの100倍程度の報復受けそうなのは目に見 えてるんだけど、逆にどれくらい彼女を窮地に追い込めるか見物なのかも知れない。  既刊感想: 2007/08/12(日)スカーレット・ウィザード3
(刊行年月 2000.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:茅田砂胡/イラスト:忍青龍/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  物語に深く絡むかどうか全く掴めないのが、人外生命体(と認識されている)の存在の 事。ケリーがガイアと名乗る女性と接触しても、結局正体は何も分かず。分かったのは干 渉して欲しくないという意思のみで、今後の関わりも薄そうな気がするのだけど……。  後半はケリー拉致から一気に緊迫した展開へ。こりゃちょっとやばいか? いや、散々 拷問受けてもくたばらないケリーじゃなくて、最強夫婦の片方に手出したおバカな海賊ど もの方がね。まあ奴らに同情の余地無しだけど、初めて見せたケリーの本当の本気っての が物凄く恐ろしい。決して覗いてはならない彼の過去には果たして何があるのやら。   巻末にはダイアナ・イレヴンスの過去エピソード。こちらは彼女のキャラクターイメー ジの幅が広がる美味しい一品。今度はケリーと出逢った頃の事とかも読んでみたいな。  既刊感想: 2007/08/12(日)スカーレット・ウィザード2
(刊行年月 1999.11)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:茅田砂胡/イラスト:きがわ琳/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  著者の方曰く、この物語は“ハーレクイン・ロマンス”を意識して書きたかったんだそ うで(その癖にハーレクイン関連書籍を一冊も読んだ事無いとか公然と述べてる辺りどう なのさ? なんて思ったりとか)。でも読者経験者の担当氏曰く“男女が劇的に愛し合う” という部分は合っているらしいけど、“甘ったるさ”が劇的に足りないんだそうで。  私も読んだ事ないんで「ふーん」としか言えない。現段階での印象だと“愛し合う”っ て部分も非常に怪しげな気がしてならない。つまり要素として残るのが“男女が劇的に” だけになるのだけど、ここだけは見事過ぎるくらいこの物語に合ってるじゃないか!  そんな訳で更に劇的な展開。他者から見える非常識の数々を、自分の中でことごとく常 識に変換してジャスミン&ケリーの最強夫婦は今日も我が道を突き進む。しかし背表紙に 付いてるあらすじである程度分かっていたとは言え、この妊娠騒動にはさすがに吃驚仰天 したわ。同時に振り回され付き合わされる周囲の人達も気の毒に……とかしみじみと。  既刊感想: 2007/08/08(水)スカーレット・ウィザード1
(刊行年月 1999.07)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:茅田砂胡/イラスト:きがわ琳/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  「さて、やるか」(P162)に大爆笑! いや、普通笑いが漏れるシチュエーション じゃねーだろそこ。まともなカップル? 普通に出会って普通に恋して? ……だ、騙さ れた? でも騙されたと感じてもめちゃくちゃ爽快で気持ちがいい。これって全てはあら ゆる所が恐ろしい程に規格外で豪快なジャスミンが居るからこそ、なんだろうな。  一方、無理矢理結婚迫られるわ襲われるわその他色々問答無用で巻き込まれまくりのケ リーなんだけど、それらのどのシーンでも同情心と合わせて思わず「ぷぷっ」と苦笑が零 れてしまうな。こう言い切るとケリーから溜息と一緒に迷惑顔で反論突き返されそうだけ ど、案外一人海賊家業やってた時より活き活きしてるんじゃないの? 彼の過去の事はま だよく分からないので断言出来ないけど、新たな生き甲斐を見つけたかのように満更でも ない様子だし。これからこの破天荒カップルがどんな風に暴れてくれるのか凄く楽しみ。 2007/08/08(水)猫泥棒と木曜日のキッチン
(刊行年月 2005.08)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:橋本紡/メディアワークス]→【bk1】  文体とか、物語のテンポとか、かなり軽快ですーっと流れるような感覚で読めるもんだ から、内容もそういった雰囲気に見合うほのぼのテイストだと思ってたんだ。……でもそ れただの錯覚だった(そもそも親に捨てられた子供の話が軽いままで済む訳ないだろ、と 自分で気付くべきなんだけど)。深刻になりがちなテーマを用いてもなるべくそうならな いように、随所で意識して描かれているなと思わせてくれる辺りに巧さが感じられる。  しかし、まあ何て言うか……予想外過ぎる程に生々しい。綺麗事では済まされない生々 しさが至る所に。でも、不思議と重さとか圧迫感が無い。淡々としていて、軽い。この妙 にアンバランスな感触が堪らない。心地良くて堪らない部分もあれば、気持ち悪くて堪ら ない部分もある。で、全部ひっくるめて“堪らなく愛しい物語”という所に落ち着いた。 2007/08/08(水)黒い季節
(刊行年月 H18.12)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:冲方丁/角川書店]→【bk1】  第1回スニーカー大賞『金賞』受賞作の新装版。  こりゃまた凄ぇの読んじゃったよ。受賞作とかデビュー作とかには、よく他がイマイチ でもダメダメでも一点だけ突き抜けた“尖り”を感じられたら「それで良し」とか思った りするんだけど、この作品は「どんだけ尖がってりゃ気が済むんだ!」なレベルでさ〜。  時折……ではないか。しゅっちゅう意味不明理解不能に陥ってた。幾度も数歩戻りつつ 明確にしようと理解しようと読んでみてもダメな箇所はとことんダメだったので、分かっ たフリした感覚で進めるしかなかったんだよなぁ。特に五行陰陽を用いて更に複雑化した 異形の力が表現されてる辺りとか、どうしてもそこで躓き転ばずにはいられなかった。  もっとも、躓いて梃子摺ってたのはそこだけなんだけど。幾度となく出て来る“贖い” という言葉が非常に重く圧し掛かり、誰にとっての何の贖いかが興味深く奥深く描かれて いる。そういう部分には見事に心惹かれハマってしまったんだがなぁ……。藤堂と同等で あり対のような扱いに見えていた穂ちゃんの存在感がちと薄かったのが残念だったか。 2007/08/08(水)ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語
(刊行年月 2006.12)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:定金伸治/イラスト:椎名優/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  読み進めながら、ずっーとタイトルの事が気になってた。“ユーフォリ・テクニカ”っ て一体どんな意味? とか何とか。なかなか出てこないんだよね、詳しい所が。結果的に は物語の最後の最後で聞かされる事になるんだけど、この意味を出すタイミングってのが なかなか絶妙だった。ここぞというシーンでエルフェール自らの台詞で意味を述べてくれ る辺りが凄く良いんだよ。まさに彼女の本質を示す為にあるような言葉だな、と。  打ち上げ花火の技術研究と発表会。それに付随される隣国の謀略など。花火で青や紫の 色を表現するには相当な技術を要する、というのは現実でも同様なんだったかな?(どこ かでそんな話を聞いた事あったような気がする) まあ技術面の詳細は描かれていても理 解出来ないので流すしかなかったのだけど、アイディア勝負で観客の心を掴み取る所は感 じ入るものがあって良いもので。“雨中の夜空に咲く花火”なんて実に幻想的な表現だよ なぁと。あとは全く王女殿下らしくないエルフェールの魅力にやられちまいました。 2007/08/04(土)煌夜祭
(刊行年月 2006.07)★★★★★★★★★★(10/10) [著者:多崎礼/イラスト:山本ヤマト/中央公論新社 C★NOVELSファンタジア]→【bk1】  第2回C★NOVELS大賞『大賞』受賞作。  こんなにも見えない糸が幾つも張り巡らされてるなんて知らなかった。見えない糸によ って繋げられた幾つもの人と人との関係がこんなにも「綺麗だ」と思わされるとは……読 了後に昂ぶったテンションの勢いに任せて再読までして、最後に深い深い感嘆の溜息が漏 れた。最初の内は二人の語り部――ナイティンゲイルとトーテンコフの語り合いの中身だ けしか気に掛けていなかったのだけど、途中から二人の関係に注目し出すようになり、終 盤でこの二人の関係の真実を知った時……どうしようもなく心揺さ振られてしまった。  見えない糸の仕掛け方、隠し方、明かし方などが巧妙で絶妙。とにかく「この人とあの 人にそんな繋がりが!?」という驚きが多くて、怒涛の如く次々に伏線が解かれて行く終 盤の展開は本当に面白かった。一人はあの日交わした約束を果たし、もう一人は果たされ た約束を見届けて後世へ語り継いでゆく。ラストシーンの光景はきっと忘れれられない。 2007/08/04(土)ヤングガン・カルナバル
(刊行年月 2005.06)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:深見真/イラスト:蕗野冬/徳間書店 トクマ・ノベルズEdge]→【bk1】  高校生の少年(小暮塵八)と少女(鉄美弓華)が銃をぶっ放して腐った人間を殺しまく る物騒なお話。自ら『殺し屋』と称しているので基本的に殺しに躊躇いは無し。まあ物騒 とは言え、塵八や弓華が依頼を受けたターゲットは例外無く殺されて当然の外道ばかりな ので、そこはある種の爽快感もしっかり得られるという仕組み。二人が外道中の外道な黒 幕を殺った時、身体中ゾクゾクさせられてちょっとヤバめな感触だったりとかね。  シリーズ展開の一巻目って事で、塵八にしても弓華にしてもまだまだ開けられてない引 き出しは色々とありそうで、キャラクターとしての魅力も今後益々磨きが掛かって行くん じゃなかなぁ、という充実した手応え。あと、銃器類についての各部説明が実に丁寧で、 その辺り疎い側からすれば好感度抜群でポイント上昇。いや、何気ない事なのかも知れな いけれど、読み易さを配慮してくれているなと感じられるのは結構嬉しい事なのですよ。 2007/08/04(土)世界で一番優しい機械 〜SOFT MACHINE〜
(刊行年月 2004.02)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:榊一郎/イラスト:水上カオリ/スクウェア・エニックス EXノベルズ]→【bk1】  人間と人工知能プログラムとの見事な連係。患者に対する人間の医師や看護士からのア プローチ、機械である人工知能=キャロルからのアプローチ。何が出来て何が出来ないの か、相手に欠けている要素を補う為にはどうすればいいのか、真正面から向き合い理解を 深め合いながら一人の大切な患者を救おうとする。この辺の描写が非常に素晴らしい。  この物語の世界では禁忌とされている自我を持った人工知能プログラム。例えば、感情 面も含めて人間と同等の知能を持ち合わせた人工知能が何の制約も無く病院内の患者の情 報を覗き見出来るとしたら? ……やっぱりそりゃ拙いだろってとこが、禁忌に繋がって るのかなと。本編のキャロルみたく、感情的な部分は人間のそれにはまだ遠く及ばないが、 患者を労る良識と慈愛の心を確かに持ったプログラムならば問題は発生しないんだろうけ どねぇ。ともあれこの人間と機械のコミュニケーション、実に心惹かれるものでした。 2007/08/01(水)ねこだらけ物語
(刊行年月 2004.02)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:一条理希/イラスト:椋本夏夜/スクウェア・エニックス EXノベルズ]→【bk1】  私も猫大好きなもんで、猫視点に立ってみて辛い事や悲しい事を描かれるとかなり胸に ぐっとキてしまうんですわ。そういう要素が込められているだけで、自分の中では無条件 で優位に立ってしまう。この物語は猫と人間の意思疎通の難しさ、或いは逆に理解し合え ない所から偶然生まれる面白さ、そういうのを人間と猫の双方の視点で描いたもの。  でも、人間と猫達の交流よりずっと気になっていたのは……十七歳の野郎が十歳の女の 子に少なからず好意を抱き意識するのをロリコンって言うのかどうか? って事。いや、 だって、将来結婚だの何だのって指摘された時のテツユキってあまりに焦り過ぎじゃない か? まあ人の好みはそれぞれだから別にいいけど、手を出すなら十年後にしろよな!  ……横道逸れた。あ〜猫との意思疎通か。意外と人間の思い通りな思考ではないんだな 〜と、特に『プロポーズ』のエピソードを読んでしみじみと感じさせられた。物凄く通じ 合ってなくて思わず吹いてしまったのだけど、案外こんな風な掛け違いだらけなのかもし れないねぇ。ただ、理解が難しいからこそ、通じ合えた(と感じられた)時の嬉しさって のが限りなく大きくなるのかなと。それを“感じる”のもまた難しいのだろうけど。 2007/08/01(水)スタンプ・デッド
(刊行年月 2005.04)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:はむばね/イラスト:稀捺かのと/スクウェア・エニックスノベルズ]→【bk1】  第1回スクウェア・エニックス小説大賞『入選』受賞作。  何だろう? この手応えの軽さは。一番気になったのはキャラクターの掘り下げ。割と あんまりなしょぼしょぼ加減でしょぼーんな気分。せめて主人公の彗とヒロインの円花、 あとはボス的存在のブドォくらいは、もっと個人的な事情ってモノを色々語ってくれても 良かったじゃないのさ〜。多分スカッとした軽さはここら辺が原因か。むしろ主役級のこ いつらより脇役連中の方がキャラが立ってたぞ(秋乃以外は変人と言う意味でだが)。  現在3巻目まで刊行されているので、彗と円花について物足りなかった部分は続きでフ ォローされてるんかな? ラストはなかなかうまく纏まってたと思うので、続き出てたの は結構意外な感じだったのだけど、期待値は放り投げずに残しておく事にしよう。  望んでいるのはラブコメ! 三角関係展開! これだけで充分だ! バトルは今回ちょ っとダレてしまったのであんまし要らないかも。あとは円花と彗のボケツッコミ会話や秋 乃の介入でもあれば尚良し。四度キスを重ねた円花の方が圧倒的優勢だが……さて? 2007/08/01(水)くさる前に抱きしめて
(刊行年月 2005.04)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:すぎやまひろゆき/表紙イラスト:藤代健/本文イラスト:カザマアヤミ     /スクウェア・エニックス スクウェア・エニックスノベルズ]→【bk1】  第1回スクウェア・エニックス小説大賞『佳作』受賞作。  グロ&スプラッタ注意報! 見掛け「ほのぼの〜」っぽくて油断しまくりだった所で足 元掬われてしまった。そういやこいつは、ネクロマンサーと主従関係を結ぶ目的で能力を 磨く“ゾンビ養成学校”の物語だったか〜。力入れて注意報発令する程のぐちゃどろ描写 ではないけれど、外見は人間と全く変わらないのが一瞬で焼き消されたりとか刃物で切り 刻まれて血がぶしゃーっと溢れ零れたりとか。あまりにもアッサリ身の破滅が訪れる辺り で、ゾンビ=ただの商品という存在価値の軽さみたいなのが感じられたり。存在を軽く消 し飛ばしちゃってるのは主に端役に限られるのだけど、それが意図的に“ゾンビとしての 地位の低さ”を演出しているのだとしたら結構な巧さではないかな〜と思う。  しかし中身については根本的な部分から疑問続出。死人が外見人間なゾンビで蘇るって どんな仕組みだ? どんな企業が商品として出荷してるんだ? ネクロマンサーって誰が どのようにしてなれるんだ? どれだけの人数が存在するんだ? ……とか何とか。まあ 細かいとこはあまり突き詰める気なさそうだし、続編もないみたいなので軽く流していい のかも知れないけど。見所は露骨過ぎる百合?(正直そこしか印象に残ってないんだ)。


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