NOVEL REVIEW
<2002年08月[後半]>
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08/31 『ジオメトリック・シェイパー 桜に下にカミは眠る』 著者:紙谷龍生/富士見ファンタジア文庫
08/30 『ちっちゃな雪使いシュガー』 原作:蒼はるか/著者:大河内一楼/富士見ファンタジア文庫
08/30 『葉緑宇宙艦テラリウム 亜麻色の重鋼機乗り』 著者:夏緑/MF文庫J
08/26 『注文の多いパズル 夏の雪に溶けたパスワード』 著者:雅孝司/富士見ミステリー文庫
08/23 『ちけっと・2・らいど! カシオペアは北天に輝く』 著者:西奥隆起/富士見ミステリー文庫


2002/08/31(土)ジオメトリック・シェイパー 桜に下にカミは眠る

(刊行年月 H14.08)★★★ [著者:紙谷龍生/イラスト:篁龍士/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  折紙に命を吹き込んで使役するのも紙を人形に切って実体化させるのも、似たようなの がどこかであったかそれとも何かで見たか? なんて思ったのは既存のネタとどこか類型 的な所があったからかもしれないけれど、そういうのを吸収しつつこの作品ならではのア レンジの利かせ方が結構うまい具合に表れていたんではなかいかなと。戦いの場にいる人 間の心の持ち様で敵の力を増大させてしまったり、逆にこちらの式神に力を与えたり…… 式神の持つ『意味』がしっかり描かれている辺りはなかなか面白く、読んでてぐぐっと引 かれるものがありました。まあ匠をやたら美形美形と強調するのには「はいはい、それは よーく分かったから」と手を振ってあしらいたくなってしまったけど(笑)。  全体的には無難な作りと言えるのかなぁ、何かしらひとつ突き抜けた部分が見当たらな いのが少々物足りなくもあるけれど、良い意味で変に凝ってなくて安定した読み応えでも あったかなという印象。改めて思い返すと主要登場キャラは控え目だったからこそ、それ ぞれの特性や相関関係などが分かり易かったし、見せ場となるシーンが人数過多により分 散されず匠や奈々の活躍を余す事なく見れたのもそのお陰だったのだろうと。  少なくとも人数の少なさで物足りないってのは無かった(あくまで突出したのが見られ ない意味での物足りなさって事で)のですが、ただ今回匠がこれだけ必死に戦ってるのに 対してどうしても駆り立てる動機が弱いような気がして……。御子神との確執にしても、 あるいは約束した母との事にしても、あともー少しだけ過去に遡ったエピソードが追加さ れて欲しかった。その動機から匠の戦う意思とか信念がもっと際立ったんじゃないかなぁ。  結局最後まで分からなくてシリーズ化を決定付ける持越しとなったのは、奈々の中に眠 る潜在能力ってやつですが、これは匠と式神の戦いに関わってればその内きっと発現する だろうと思うので続刊待ち。おそらく今回登場キャラが少なかった分、次は御子神の関係 者とかわらわら出てくるに違いない(と勝手に予想(笑))。
2002/08/30(金)ちっちゃな雪使いシュガー
(刊行年月 H14.08)★★★ [原作:蒼はるか/著者:大河内一楼/表紙イラスト:コゲとんぼ         /口絵・本文イラスト:まりも/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]  今年3月末まで放映されていた同名アニメの小説版。アニメの方が大好きだったもんで 興味を惹かれて読んでみたのですが、数ページ進んでそういやこれドラゴンマガジンに連 載されてた話だったなと気付く。しかし連載読んでた時も思ったけどシュガーのキャラが アニメと全然ちっがーうと声を上げたくなってしまったよ……。  サガにとってトラブルメーカーなのは同じなんだけど、このテレビ好きで噂好きなオバ ハンと下ネタ好きなエロオヤジが混じったような性格はなんなんだ〜(笑)。そもそもア ニメじゃシュガーがテレビ観てるシーンなんぞ一度も無かったような気もするけど、こう いう根本は同じでも細かい所がかなり違ってる辺りから、アニメと小説は『二卵性の双子』 ような関係ってあとがきで言われてるのがよく分かる。サガもアニメはシュガーのトラブ ルに巻き込まれても比較的冷静で年齢以上に背伸びしようとしてる所があったけど、小説 は彼女の一人称のせいか11歳って年齢相応に感じられたし。案外計画魔が予定を狂わさ れると小説版のように等身大な姿が露になってしまうものなのかも。  シュガーの心の成長とサガとの絆……この二つが大きく描かれている事で、きらめき探 しを結末まで見せてくれたアニメはその両方なんだけど、小説の方はきらめき探しが途中 なのでサガとの絆に重きをおいてるような感じです。やっぱりアニメ見た人向けな内容か とも思いましたが、どちらから手を付けてもいいんじゃないかな? ただアニメと小説と ではシュガーの性格が激変してるので、あんまし小説版のイメージ先行になってしまうと ちょっとやだな〜というのが正直な所(笑)。
2002/08/30(金)葉緑宇宙艦テラリウム 亜麻色の重鋼機乗り
(刊行年月 H14.08)★★★★ [著者:夏緑/イラスト:OKAMA/メディアファクトリー MF文庫J]  ヒースが動けばことごとく宇宙艦テラリウムが何らかの事件に巻き込まれて被害を被っ てる辺り、ああ彼は本人の意思と関係なく厄介事を引き込んでしまうタイプのキャラクタ ーなんだなと。宇宙軍の人間と関わりあるからって、普段は軍政と関係ない宇宙造園業を やってる奴が軍のトラブルに巻き込まれ冥王星まですっとばして人助け、なんて状況には 普通ならんだろうし。これこそ厄介事請負型の証明か。  巻き込まれと言えば、ヒースは女性がらみでそういうのがちらほらあったような。まあ 圧倒的に女性比率が高い作品で、なおかつヒースに好意を寄せてる人達(人じゃないのも いるけど)ばかりなので当然と言えば当然な気もしましたが。  目立っていたのはハイラインにしてもプランツェルにしてもドラセナにしてもチコリに しても意味はそれぞれ違えど女性達の『強さ』ってもので、それが非常に印象に残りまし た。逆にヒースは男一人で立場弱いというか……押されっぱなしだよあんた(笑)。大体 の所は少々粗暴ながら格好良さが出てるだけに、ドラセナやプランツェルとの不毛な言い 合いで崩れた時のギャップが大きくて面白いのかなーと。  てな具合で、旧型艦の中に植物園って設定もなかなかいいな〜と思ったけれども、それ 以上に登場キャラクター達に心惹かれてしまう物語でした。特にテラリウム中枢制御シス テムであるプランツェルの嫉妬混じりの皮肉屋な性格が凄く好きです(ハイラインの逆境 にもめげない前向きな強さも良いんだけどね)。一方でぶちぶち文句たれながらもローズ をほっておけず面倒を見てしまう所もあったり、廃棄寸前の頃を思い返してハイラインの 前じゃ絶対見せなさそうな涙を流されたりしたらもうダメです。プランツェルに接し慣れ てると、ナノシステムの味気ないナビゲーションが物足りなく感じるとか言ってるヒース の気持ちがよく分かる(笑)。  特に大きな目的などは無いものの、成り行き上でハイラインを救助した時から次から次 へと発生する出来事・問題事の飽きを感じさせない見せ方が実に上手いです。気になる部 分で何故ハイラインからローズが出てきたのかってのがあったのですが、今流行?の“謎 を残しつつ次巻へ持ち越し”とかいう事にはならず今回だけでしっかり謎が明かされてい る所に好感触(苦笑)。やっぱりスッキリさせて次に臨むって形が好きなので。このキャ ラクター達なら是非別のエピソードなんかも読んでみたいです。
2002/08/26(月)注文の多いパズル 夏の雪に溶けたパスワード
(刊行年月 H14.07)★★★ [著者:雅孝司/イラスト:箱田真紀/富士見書房 富士見ミステリー文庫]  ミステリーにパズル要素をぶち込んだ内容がちょっと面白いかも、と興味を引かれる部 分があったわけですが、実は本筋の事件でトリックや謎解きなどにパズル的なものはあま り用いられてなかったという……。ミステリーとパズルが融合してるのではなくて、それ ぞれが違う役割で独立して同じ物語に組み込まれているという意味での“ミステリー+パ ズル”だったんじゃないだろかという印象。  具体的には主要キャラ4人の『パズラー探偵団』と何故か彼ら専用のメーリングリスト に介入して来たリュパン21なる人物を奇妙な糸で繋ぐ事となるのがパズル要素、で事件 発生から推理・謎解きに至るまでがミステリー要素。なので例えばパズルを解く要領で事 件のトリックを見破るとか、そんな風に2つの要素が合わさっていたらもっと良かったの になぁと言った所です。それでも作中のメールのやり取りの中で実際にパズル問題が出題 されてるのは結構新鮮で、それ解くのについついページを捲る手が止まってた辺り結局は 著者の意図通りにハメられてしまったって事なのかも(笑)。  久斗、麻鈴、純、優奈の4人はそれぞれ性格を活かした適材適所な活躍がしっかり描か れていて良かったですが、メールのやり取りでの会話が多いせいか感情の起伏があまり感 じられなかったような気も。久斗のへなちょこさは割と目立ってたけど(笑)、冷静過ぎ る所もあると思ったので、個人的には高校生くらいのメンバーならばもっとドタバタやっ て欲しかったかなと。あとがきでキャラに関して「もっとこう書きたかった」という続編 を匂わせる構想などもあったので、4人の魅力をもっともっと引き出した今後の内容をリ ュパン21との絡みや彼(もしくは彼女)の正体なども含めて期待してみたいです。
2002/08/23(金)ちけっと・2・らいど! カシオペアは北天に輝く
(刊行年月 H14.07)★★★☆ [著者:西奥隆起/イラスト:みけおう/富士見書房 富士見ミステリー文庫]  また富士見ミステリーらしく、トラベルミステリー“っぽい”とか語尾につけてしまい たくなるような軽い内容なんだろう……と可愛いイラストから想像してたら、普段と逆の パターンで引っ掛けられました。というのも基本的に翼とあずさに加えて隼人が揃うとド タバタなノリになるので軽いと言えば雰囲気としては軽めなのですが、寝台列車内での殺 人事件とか旅行先での事件がらみのトラブルを経て徐々に真相に近付いて行くような展開 が、トラベルミステリーって枠括りとしては実に正統派な作りだったので。そこら辺が予 想外だったけれども、全体的にはしっかり纏まっていたのではないかなと。  まあ色んな所がもろに『金田一少年』風味ではありましたが。探偵役の主人公が高校生 (さすがに名探偵の孫ではないど)でヒロイン役の女の子が幼馴染みで好奇心旺盛。好き 合ってるのにお互い素直じゃない所は大前提のお約束。町内会の福引で寝台列車の北海道 旅行引当てる庶民的な発端から、警察を味方につけて足に使ったり逆に容疑をかけられ対 立したり、徐々にパズルのピースを集めるようにヒントを拾って勿体つけた描写しつつ謎 が全て解けた所で探偵役の主人公が真犯人を言い当て推理を語り出す……などなど。  あと決定的証拠を突きつけないと「違う」だ「証拠はあるの?」だ言い張りすっとぼけ て容疑を認めようとしない真犯人とか(笑)。違うのは連続殺人じゃない事と容疑者全員 の前では推理を披露してない所かな? それでも終盤の真相に近付いてゆく頃からは思わ ず引き込まれてしまいました。  欲を言えばあずさの役割がもっとあったら良かったのですが(しょーもないギャグ要員 の隼人の出番なんてもっと削ってもいいから(笑))。カシオペアに乗ってる間は翼と結 構いい感じだったのに、徐々にミステリー主体な展開に追いやられて殆どあずさは傍観者 だったからなぁ……。せめて煮詰まった翼を励ますとか事件の謎を解くヒントをポロッと 漏らしたりとか、せめてそんな活躍があったらよかったのにと思うとちと残念。


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