NOVEL REVIEW
<2004年10月[前半]>
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10/10 『業多姫 伍之帖――春惜月』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫
10/09 『業多姫 いりどりつづり』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫
10/08 『業多姫 四之帖――雪帰月』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫
10/04 『業多姫 参之帖――恋染月』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫
10/02 『業多姫 弐之帖――愛逢月』 著者:時海結以/富士見ミステリー文庫


2004/10/10(日)業多姫 伍之帖――春惜月

(刊行年月 H16.06)★★★★ [著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  お互いが相手に捧ぐ想いの強さは止まる事を知らず、巻を重ねる度に増してゆく鳴と颯 音の絆の深さもここに極まれり……といった具合。ラブラブなんて口にするのも躊躇う言 葉さえ、この二人を見ているとあまり恥ずかしげもなく言えてしまう程だったりする。  このレーベルの方向性が微妙にズレて行ってしまったのが幸いしたかどうか、謎解き要 素をほぼ物語から切り離すという開き直りっぷりは潔しです。やっぱりこの方が無理なく 鳴と颯音の関係を重点的に描けていて、二人の気持ちを目一杯押し出せていると思う。  颯音の故郷へと辿り着き、異能力達の組織『狐』を操る青津野刑部を打ち倒すべく行動 を起こし始めるのが今回。しかしながら、初っ端から前途多難を予感させる躓きが二人に 容赦なく襲い掛かる展開。何せいきなり捕まって見せ物にされてしまうわ、颯音の異能力 が一つ一つ消えてしまうわ、鳴の声は蘇った迅の亡霊に奪われてしまうわ、颯音の中に封 印されていた『和玖也』の人格が逆に颯音を乗っ取ろうとせめぎ合いになるわ。好転する 要素なんぞ見当たらないので、幸せな結末を迎えられるのかどうか見当が付かない。  ただ、これだけの色々な条件が付き纏って坂道を転げ落ちながらも、何とか完全に落ち る寸前で踏み留まってくれたりするので、読み応えや面白さは一向に衰えません。ここへ 来て重要所を担いそうな新キャラが登場したり、陸地からだけではなく海からも青津野を 倒す手掛かりを得ようと船上で行動してみせたり。時々今何処で何をやっているのか見失 いがちな事もありましたが、その辺は些細なもので概ね満足のゆく内容でした。次はいよ いよ最終巻で宿敵・青津野刑部と直接最終対決。願わくば二人の想いに幸せな結末を。  既刊感想:壱之帖弐之帖参之帖四之帖       いりどりつづり 2004/10/09(土)業多姫 いりどりつづり
(刊行年月 H16.03)★★★★ [著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  彩り綴り。鳴と颯音が美駒を旅立ってから、異能者を受け入れてくれた戸谷ノ庄での二 人暮しに落ち着き、そして『狐』と決着をつける為に再び颯音の故郷へと旅立つに到るま での道程。その間に起こった幾つかの出来事を二人の回想という形で綴った短編集。  何て言うか……とにかく幕間のシーンで鳴と颯音がいちゃつきまくってるもんだから、 もうそれだけでお腹一杯って感じで。ただ、そういう軽めの表現で済ませてしまえるほど 浮ついた雰囲気ではなくて、純真で純粋にお互いが相手を素直に想うような、心地良さと か穏やかさとかが感じられるもの。鳴も颯音も心に苦しみを背負いつつ、寄り添い支え合 うように、まず相手の事を想わずにいられないという心の描写はなかなか良いですね。  で、短編集の構成だから挟めなかったのかも知れないですが、やや無理して入れている ように見えたミステリー要素は奇麗さっぱり無くなってました。LOVE強化のお陰で恋 愛面が非常に映えてくれてたから、結果的に好転したんじゃないかなーと個人的には。  今回の短編集で印象に残ったのは銀と早霧のエピソード。この二人の関係について、初 めてここまで深い所を見れたので。あと颯音と迅の『狐』としての初任務エピソードも、 普段あまりお目に掛かれない興味深い内容で面白かった。鳴と颯音のエピソードもそれぞ れ良かったのだけど、まあこっちの二人は本編でも存分にメインを張っているからね。  この短編集はこれまでの壱之帖から四之帖までと、次の伍之帖とを繋ぎ結ぶような描き 方をしている為、刊行順通りに四之帖の次に挟んで読んで行くと最も楽しめそうかな?  既刊感想:壱之帖弐之帖参之帖四之帖 2004/10/08(金)業多姫 四之帖――雪帰月
(刊行年月 H16.01)★★★☆ [著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  ストーリーの面白さ、それから構成面のうまさなど、総合的に見てこれまでで一番良い 手応えでした。まず鳴と颯音の交互の一人称視点が、今回は“離れ離れの行動”を効果的 に表現する役割を果たしていた点。少なくとも、今までのように「どちらか片方に視点を 絞っても別に構わないのでは?」という気持ちは浮かんで来なかった。同時間上で起こっ ている二つの出来事を、時間差で交互に追う事で双方の視点を比較しながら楽しませてく れる描写はなかなか見事。そこに離れ離れでも鳴の想いを拾える颯音の特殊能力が充分活 かせていたし、二人の線が再び交わった時の安堵感もそれまでの積み重ねがあればこそ。  あとはもう鳴と颯音の互いを強く強く信頼し想う心が、物語の盛り上がりを後押しする ばかり。これは離れていたからこそか、余計に添い遂げたいと願う相手への想いが鳴にも 颯音にも感じられて良かったですね。今回は一人称の強味がしっかり効いていました。  鳴には香椎が、そして颯音には常磐が関わる事で、何もかも投げ出して戸谷ノ庄で二人 だけで幸せを育む事が、自分ではなく相手にとって本当に正しいのかどうか? この辺り の葛藤を織り交ぜて心をちくちく突くような展開も見所。特に颯音の方――心の底からそ うしたいとは思っていても、我を通す事で立場的に美駒の窮地を救わねばならない鳴の気 持ちの妨げになりはしないか、なんて気持ちの揺れ動きなどはよく描けていたと思う。  後半のミステリー寄りな謎解き要素は今回も文章の暗号解読。こちらも結構頭を捻らせ てくれる程に練られているなという面白味はありました。ただ、「ミステリーレーベルだ から」の蛇足のように感じられたのも確かで、無理に入れなくても構わなかったかなと。  よく足りないと思わされるのは“魅力的な敵役”の存在。雑魚がわらわらと沸いて出て 来るシーンは結構あるんだけど、鳴や颯音があっさり退けるのは目に見えてるのでワンパ ターンだと飽きてしまう。これは佳境に入る今後の『狐』側のキャラに期待かな。  既刊感想:壱之帖弐之帖参之帖 2004/10/04(月)業多姫 参之帖――恋染月
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  今回も鳴と颯音を受け入れてくれた戸谷ノ庄が舞台。完全に鎮火しなかった尾白との因 縁や、戸谷ノ庄に残された戦道具の在処を示す文書の謎とか、前巻で決着を見なかった出 来事が引き続き描かれています。内容的にもこれまでとほぼ一緒で、鳴と颯音の恋模様を 振り撒きつつストーリーの流れにミステリー要素を盛り込んでいるような仕上がり。  ミステリーに関しては暗号解読が主なので、今まで感じていた『状況を描写で示す時の 把握し難さ』ってのがあまり無くて断然掴み易かったです。ただ、作中で次々出てくるヒ ントと常に照らし合わせられるように、冒頭にでも元の暗号を載せておいてくれるような 配慮があれば更に嬉しかったなと。実際のそれは58頁にあるのですが、ちょっと読んで る最中に何度も戻って確認するのが手間だったので。その辺りが惜しいと思った点。  鳴と颯音の関係を追って描いている方は、やっぱりと言うべきかそれとも言ってしまっ ていいのかどうか……ミステリー要素と比較しての面白さは勝っていて、特に今回のパタ ーンは鳴の颯音を強く想う気持ちに魅力を感じていいなと惹かれるシーンが多かった。  颯音がかつて所属していて鳴の為に裏切った『狐』の刺客の罠にはまり、あれだけ想っ ていた鳴の事を記憶から消去されてしまうという展開。冷たい瞳で鳴を突き放す颯音も、 突き放されても何とか颯音を取り戻そうと付いてゆく鳴も、これまで見た事無い姿だった ので、とにかく話を追いつつ「どうなるんだろう?」なんて不安と期待の入り混じりのよ うな好感触で読めました。何があってもきっとこの二人ならば絆を取り戻すのだろう、と いう安心感はどこかで必ずあるのだけれど、そこに至るまでの過程も充分に面白かった。  もう一押し、恋愛とミステリーの融合が上手く行けば作品自体にもっと浸れそうなのだ けど。もしくは、たとえ「ミステリー文庫としてどうよ?」と言われそうな内容になろう とも、あえて鳴と颯音の恋愛面を重点的に描いて前面に押し出してくれるとか。  既刊感想:壱之帖弐之帖 2004/10/02(土)業多姫 弐之帖――愛逢月
(刊行年月 H15.04)★★★ [著者:時海結以/イラスト:増田恵/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  ずっとほったらかしにしてた続きを一巻以来久々読んでみましたが、不満に感じていた 部分が全然良くなっていなくてがっくり。何が良くないかと言うと、この作品の文章って ミステリー要素の中に盛り込まれている“トリックの描写”が壊滅的に把握し辛いのです よ。今回ならば牢抜けのトリックとなりますが、真相を語られてもそれが一体どんな状況 で何をやっているのか、全然掴めない上に頭で思い描けないのには本当に参った。  せめて一箇所だけでも牢のイラストとか挿入されていたら、随分イメージも掴み易かっ たんだろうけどなぁ。と、これは前巻でも感じた事だけど。でもやっぱり文章表現が主体 なのだから、何度も読み返さないと把握出来ない描き方なのはちと拙い気がする。  結論→このシリーズ作品にミステリー要素なんぞ要らん、とか言い切ってしまったら身 も蓋もないですが、これがどうもうまく乗れてない以上はどうしてもね。ミステリーレー ベルだから無理に謎を持たせて伏線敷いて……とやらなくても、鳴と颯音の恋愛模様とい う強力な武器があるのだから、ミステリー云々はあまり考えず開き直ってそこを前面に押 し出すような展開でもいいんじゃないかなとか思う。心に制約を持たせているせいで、眺 めていてじれったくてしょうがない鳴と颯音の触れ合いとかは凄く好きな要素なので  もうひとつ。これも前巻と同様に気になった所で、一人称視点の描写なのにどうも客観 的な三人称視点のように感じてしまう点。鳴と颯音とで交互に視点変換してるのはそれ程 気にならなかったけど。感情を曝け出すよりは、感情を抑えて理性的に物事を考えるシー ンが二人共多いからなんだろか? これも物語の特徴としてその内慣れるのかどうか。  既刊感想:壱之帖


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