NOVEL REVIEW
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06/09 『大唐風雲記2 始皇帝と3000人の子供たち』 著者:田村登正/電撃文庫
06/08 『十二国記 月の影 影の海(下)』 著者:小野不由美/X文庫ホワイトハート
06/05 『十二国記 月の影 影の海(上)』 著者:小野不由美/X文庫ホワイトハート
06/04 『流血女神伝 砂の覇王7』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
06/03 『流血女神伝 砂の覇王6』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
06/01 『流血女神伝 砂の覇王5』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫
06/01 『流血女神伝 砂の覇王4』 著者:須賀しのぶ/コバルト文庫


2002/06/09(日)大唐風雲記2 始皇帝と3000人の子供たち

(刊行年月 2002.05)★★★ [著者:田村登正/イラスト:洞祇ミノル/メディアワークス 電撃文庫]  有名どころが登場していても結局名前だけは聞いた事ある程度なので、中国の歴史を知 っていた方がより理解できて楽しめるのかなと。これは前巻も読んでいて同様に思った事 でしたが、しかし時代考証の是非はともかくとして(そもそも分からないから)非常に細 かな背景描写は、よく調べて設定を効かせてるなぁという感じで却って知識が皆無な分す ぅ〜っと素直に世界観が頭の中に入ってくる。「です」「ます」調の三人称文体ながら、 行儀がいいだけじゃなく時々くだけた物言いをしてる所が面白く、その辺りは丁寧な描写 と合わせて良かったです(ただ、前巻参照とストレートに書いてる(P17)のはどうか と思ったけど)。  内容の方は前回から続いていて、反乱軍によって長安が危機に晒される未来を事前に知 った則天皇帝や履児達が人々を守ろうと方策を練る所から始まってます。が、途中から始 皇帝の欲望によって攫われた子供達の心を取り戻すという目的に完全にすり替わってしま ったのがちとイマイチでした。寄り道して時間食っただけで肝心の人々を守る為の具体的 な策が提示されたわけでもなく、結局本筋の話が全然進展してないよ〜ってな具合。  もっとも、この物語の醍醐味は史実とタイムスリップという架空の出来事を掛け合わせ た所にあると思っているので、そこは時空の流れを行ったり来たりで事件を追う展開から 面白く読ませてくれたかなと思いましたが。あとはラストの締めがもう少し……子供の心 を救ってはいお終い、じゃなくてそれからさて次はどうする? という次回はどうなるの かと興味を持たせてくれるような締めを見せて欲しかった。  登場人物は女性が多いので仕方ないのかもしれないけど、相変わらず女性上位のパワー が痛快で履児の圧倒されっ放しな様子に笑いました。真面目なシーンで女性陣が色恋沙汰 を語るというギャップもなかなか楽しいのですが、やっぱり履児は今後もおもちゃにされ る運命なんだろうなぁ(笑)。ただ今回の履児は則天皇帝に強制的に使われてたような気 もするけど、しっかり見せ場があってへなちょこさをあまり感じなくて良かったかな。  既刊感想:
2002/06/08(土)十二国記 月の影 影の海(下)
(刊行年月 1992.07)★★★☆ [著者:小野不由美/イラスト:山田章博/講談社 X文庫ホワイトハート]  上巻で何一つ明かされなかった謎と、理由も分からぬまま運命に翻弄され続け瀕死の状 態に陥ってしまった陽子と。この2つの『溜め』が下巻で真相明かされる時にもの凄く効 いていたかなという印象で、先が知りたいという欲求からページをめくる手が最後まで止 まらなかったです(笑)。陽子の立場に関しては急展開で「ほほぉ〜」と思ったのは、最 初の景麒の接し方から想像してた所もあったので驚きよりも納得の方が強かったかな?  どちらかと言えば陽子の生い立ちに関しての真実の方が意外だったのですが……ただ現 世で生まれ育った少女が異世界に飛ばされた、という単純なものではなかったんだなぁと。   上巻より若干評価が下がってるのは、ひとえに終盤の見せ方によるもので、偽王軍との 闘いや深く関わってる塙王と塙麟の行く末が思いっきり端折られていたから。もしかして 入れたら物語自体が冗長になってたかも知れないけれど、このシーンは読んでみたかった ので詳細まで書いて欲しかったのですが……。でも陽子の決断をメインとするなら、それ を際立たせる為にあえて入れなくても良かったのかなという気もしました。  とにかく上巻で沈みまくった分だけ今回の好転は凄まじいまでの惹きつけを感じ、少々 の欲求不満はあったものの、やはり景麒との再会シーンは陽子が感じてたであろうものと 同様に言いようの無い安堵と喜びが伝わってきて良かったです。  世界観や設定も今回の陽子の話を読んだ限りでも深い所まで練り込んであって、国によ って様々な状況・事情があるんだなというのがよく分かったので、陽子の今後も気になる けど他の国での他の人物のエピソードなども読んでみたい所(これからどう続くか分から ないけど他の国の話もあるようなので)。  しかし初版刊行が今から10年前とは……緻密で壮大な世界観が、読んでいて古臭さも 遜色も全然感なかったのは素直に凄いなーと思ってしまいました。  既刊感想:月の影 影の海 
2002/06/05(水)十二国記 月の影 影の海(上)
(刊行年月 1992.06)★★★★ [著者:小野不由美/イラスト:山田章博/講談社 X文庫ホワイトハート]  いきなり言ってしまうと、陽子のどん底まで叩き落される描写が実に見事で素晴らしか ったです……って別に不幸話が好きなわけではないのですが(^^;)。陽子は何故異世界 に強制的に連れてこられてしまったのか? ケイキは一体何者なのか? 陽子とケイキの 関係は? などなど、上巻ラストの時点でもほとんど謎や伏線が解かれてないので、読み 進めてくうちに「どうしてこんな目に……」と理由も分からず打ちひしがれてゆく陽子の 気持ちに自然と共感出来てしまう所がうまいなぁと思いました。  私は十二国記はアニメから入ったので、こうして小説も読んで比較してみると随分違う 所があったかなという印象で面白く、特に陽子に纏わり付いてる雰囲気はアニメと小説と では明らかに違いが出ている。孤独感や凄惨さ、裏切りから見える他人の醜さによって人 間不信に陥ってゆく様、妖魔の攻撃による肉体的苦痛と元の世界の声による精神的苦痛な どの生々しい表現描写は小説の方が圧倒的に勝っているかなと(もっともアニメの方でそ ういう表現は抑えざるを得ないのかも知れませんが)。    下巻ではおそらく真相へ向けて次々と事態が展開してゆくでしょうが、この辺まだアニ メも現時点では追いついてないので、絶望の最下層まで落ちて身も心もボロボロになりか けてる陽子がこれからどう這い上がって来るのか? そして一番重要である異世界に飛ば された理由はどういったものなのか? など明かされるのを楽しみに読んでみたいです。
2002/06/04(火)流血女神伝 砂の覇王7
(刊行年月 2002.05)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]  砂の覇王編7巻目。前巻ラストで海賊船から落ちてしまったカリエは、ギアス率いる第 六艦隊旗艦サグラ・グラーシカ号に拾われる。トルハーンとギアスとの交渉の末にカリエ はバルアンと別れる事となり、舞台は再びルトヴィア帝国タイアークへ。  エティカヤのインダリ後宮での生活はカリエにとってもはや遠い日々……と思わせるよ うな目まぐるしい状況の変化。別れと再会と迫られる決断。まさにラストスパートで怒涛 の展開は読了した時「もっと先を読ませてくれ〜」という叫び声に変わったのでした。  そんなわけでようやく既刊に追いついた流血女神伝。バルアンは徐々に出番が少なくな っていたのである程度予感はありましたが、やはり一旦物語の舞台を降りる事に(と言っ ても次巻で直ぐに再登場しそうだけど)。でもなぁ去り際に「むしろ、今ここにいてほし いのは――」なんて書かれたら切なくなってしまうよ〜。いつの間にかバルアンの中でも 大きな存在になっていたんだなと思わされました。  一方で捨てられたと思い込んでるカリエ。ルトヴィアに向かう途中でギアスに言った言 葉「もしかして、わたし、結構もててます?」には思わず笑ってしまいました(^^;)。  確かに今まで散々男装させられて扱いもぞんざいだったから、対して今回は今までで一 番女の子らしい扱いと振る舞いだったんではないかなと。でも本来明朗快活なカリエに客 人としての王宮生活は全然似合ってなくて、グラーシカの親衛隊に入ってた方が余程様に なってる辺りが実に彼女らしい。  そして何と言ってもトルガーナ辺境伯の登場(と言うより復活か)と再会のシーン。好 きなキャラで待ち望んでただけに素直に嬉しかった……んだけど、彼の存在と向けられた 言葉がカリエにとって更なる迷いと苦悩を呼ぶ事になってしまったので、気持ちとしては 少々複雑。これまでのカリエは、言わば自分の意思などことごとく無視される強制シナリ オを歩んできたわけですが、今回は彼女自身に選択権が委ねられている。そこが決定的な 違いではあるんだけど……この選択はどれを取っても何かが壊れそうな危うさを持ってい て、しかし夢にまで出てきたカリエの真意はハッキリしているのにそれを選ぶ事が出来な い。もうどう展開してゆくのか知りたくてもどかしくて次巻が待ち遠しくてしょうがない です。あと今回でとうとう登場人物紹介蘭からも消えてしまった不遇な彼の復帰も密かに 期待していたい(苦笑)。  既刊感想:帝国の娘 
前編後編       砂の覇王  2002/06/03(月)流血女神伝 砂の覇王6
(刊行年月 2002.02)★★★★ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]  砂漠の国エティカヤ編6巻目。もっとも、カリエとバルアンは前巻ラストからエティカ ヤを離れ海上へ出てしまいましたが。今回は何と言っても大海原を進む開放感が読んでい て実に心地良かったです。思えば初っ端のエドの教育からカデーレ皇子宮、そしてバルア ンの後宮にタイアークでの婚礼&戴冠式と、カリエの行く先々は常にどこか閉塞的で人々 の思惑も複雑に交錯していたわけで、だから余計に開放的な雰囲気を感じられたのかも。  海賊稼業ながら海の仲間達との生活に充実感を見出し活気に満ち溢れているカリエの姿 は、今までの環境が環境だけにあまり見れるものではなかったので妙に嬉しかった。  一方エティカヤでは海の藻屑と消えた事になってるバルアンを余所に、まだ正式ではな いにしろ遂にシャイハンがマヤライ・ヤガ(エティカヤの王の意味)の座に手を掛けてし まう。トルハーンやソードの強烈な印象に押されてか、存在感は健在でも少々バルアンの 出番や見せ場が少なくなっているような……まあこれはこれで今はじっと機を伺ってると いう感じがしっかり出ていて良かったのですが贔屓のキャラだけにちと不満(笑)。砂漠 の国の王を巡る戦いはぐぐっとシャイハンに傾いてる現在の状況ですが、バルアンの思惑 通りに事が運べばきっと大逆転劇が見れるのではないかなと密かに期待していたい。  今回はトルハーンの存在や副長ソードとのやり取り、それからあからさまにカリエに対 してだけ態度が軟化してるラクリゼの意外な一面がやけに可愛らしく見えたり(笑)、そ して海賊島での事など、明るく賑やかな要素が多かったかなと。  しかしそれもギアスとの開戦までと思うと、一時の活気に満ちた平穏が酷く儚いものに 感じてしまいました。カリエとトルハーンのカード勝負は結果を見れなくて残念無念。た だそこからカリエの意思と、誰を一番に想ってるかがハッキリ伝わって来たので良かった ……と思ってたのにこんな後引く終わり方ってヒドイ(^^;)。  既刊感想:帝国の娘 
前編後編       砂の覇王  2002/06/01(土)流血女神伝 砂の覇王5
(刊行年月 2001.12)★★★★ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]  砂漠の国エティカヤ編5巻目。今回のメインは前巻の続きで戴冠式後の晩餐会での動乱 と、インダリへ戻ってからの後宮での動乱。もはや怒涛の如く押し寄せてくる物語の勢い は止まりません。晩餐会では、大分以前からそうだと分かっていたけど曖昧だったカリエ の出生が確定。しかしそれを示す物的証拠はないわけですが、サルベーンとラクリゼの存 在自体こそが確固たる証拠って事になるんでしょうかね。そう考えるとやはりカリエと二 人のザカール人とザカリア流血女神は深い所で関係していそう。でも謎めいたキーワード が多くて、おそらく物語の中枢を担っていながらまだハッキリ明かされるべき時ではない と。私は得体の知れない欲望を内包していそうなサルベーンってどうしても好きになれな いんですが(^^;)、一番気になる部分ではあるので今後の行動に興味を引かれます。  少し戻ってカリエに立ち直らせる切っ掛けを与えてくれたビアンとイーダルは、言葉に 感じるものがあって好印象でした。ビアンは正直意外だったんだけれど、バルアンから離 れて独自の道を歩み出した彼女の今後が楽しみ。イーダルは脇役ながら存在感のあるキャ ラで、言葉の端々に将来有望な大物ぶりを感じさせる所が良いですな。それからグラーシ カに、かつてのカデーレ皇子宮でのアルゼウスが実はカリエだったという事を知ってもら えたのが妙に嬉しかったです。次に会うのはいつになるでしょうねぇ。  後宮での騒乱はサジェが……カリエと共に後宮に入ったばかりの事を思い返すと余計に 痛々しくて。そのせいでバルアンの心象が一時悪くなってしまったよ(^^;)。ラクリゼ に溺れてるのも本気っぽくも考えあってふりをしてるようにも感じられたし。  そんなバルアンと対等に立って「ラクリゼを選ぶかわたしを選ぶか」と言い放ったカリ エの姿は際立って凄く格好よかったです。本当にマヤルの正妃になるとは思えないけど、 これから進むべき道を見定めようと模索する強い信念を感じました。こうしてカリエを見 ていて、紆余曲折しながらも確かに力強く成長を遂げているなと。  そして海を渡ってエティカヤの首都リトラへ。海賊に襲われて、その海賊も更にトルハ ーンに襲われてというのはバルアンの筋書き通りでしょうが、今までの展開からして平穏 無事には済まないだろうなぁ(笑)。ちょっとバルアンのカリエを見る目に変化が表れて るのは気のせいじゃないと思いたい。この二人にくっ付いて欲しいかと言うとかなり微妙 なんですが、以前と比べて雰囲気は格段に良くなってるし……どうなるんだろ?  で、あとがきのお言葉ではやっぱしエドってエティカヤ編じゃ脇役なのね。「必要な人 が必要な時に出てくる」とは確かにその通りで、多人数ながらそういった書き分けがしっ かりしていてるからうまいし面白いと感じられるのだと思います。  既刊感想:帝国の娘 
前編後編       砂の覇王  2002/06/01(土)流血女神伝 砂の覇王4
(刊行年月 2001.02)★★★★☆ [著者:須賀しのぶ/イラスト:船戸明里/集英社 コバルト文庫]  砂漠の国エティカヤ編4巻目。ようやく並行してたエティカヤのカリエとルトヴィアで 婚礼&戴冠式の準備を進めるドーンとグラーシカのエピソードが交わりました。そういや 3巻のあとがきで、当初砂の覇王編は全3巻で1巻はドーンとグラーシカの婚礼までの予 定だったとありましたが、いくらなんでもそりゃ無理でしょうよ(笑)。  ともあれ久々なサルベーンの登場で「帝国の娘」編で張られた伏線がいよいよ展開され 始め、タイアークに集結するキャラクター達の思惑も複雑に交錯して行く。今回婚礼と戴 冠式で多くの人々が集った為に登場キャラも非常に多数でしたが、どのキャラも万遍なく 描写が行き届いていて、しかもとってつけたようではなくしっかり見せ場を用意してる辺 りはさすがにうまさを感じました(終始見せ場の連続で簡潔な感想だけじゃとてもフォロ ーし切れないってくらい)。その分思いっきり削られてる人もいたけどねぇ……エドとか エドとかエドとかエドとか。  でも序盤のカリエとエドの会話シーンはなかなか良かったですよ。現在カリエが一番本 音をぶつけられる相手はやっぱりバルアンではなくてエドだろうから、離れ離れで生活し てる二人がたまに出会って話をする時ってなんかお互い活き活きしてるように感じるんで すよね。エドはとてもそうは見えないけどカリエを気遣ってる様子がまるわかりだし。本 編と連動しての船戸さんの巻末漫画は面白かった。というより固まるエドの姿に笑った(笑)。  カリエの身分流動は今回も健在でしたが、まさか婚礼に出席する際の形だけとは言え正 妃という身分を被せるとは……何考えてんだこのマヤルはと突っ込まずにはいられなかっ たですが(あ、そうか何も考えてないのか(笑))。しかも公衆の面前で死んだ筈のギウ タ皇国最後の皇女・カザリナの名前を出させるとはカリエ苛めもいいところですが、それ でもどうしても先の先を見据え予測しての突飛な行動なんだろうなと、バルアンという人 物に期待せずにはいられない部分があるのも確か。もうカリエの出生は明らかで、更にラ ストでエドと接触したラクリゼの登場により、次巻も波乱必至な展開になりそうで楽しみ。  既刊感想:帝国の娘 
前編後編       砂の覇王 


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