NOVEL REVIEW
<2002年06月[中盤]>
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06/19 『新装版フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち』 著者:深沢美潮/電撃文庫
06/18 『リバーズ・エンド2 slash the heart』 著者:橋本紡/電撃文庫
06/16 『リバーズ・エンド』 著者:橋本紡/電撃文庫
06/15 『僕の血を吸わないで ザ・コミック』 作画:宮須弥/原作:阿智太郎/電撃文庫
06/15 『スクライド 新しき盟約』 著者:兵頭一歩/電撃文庫
06/13 『インフィニティ・ゼロ2 春〜white blossom』 著者:有沢まみず/電撃文庫
06/11 『陰陽ノ京 巻の三』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫


2002/06/18(火)新装版フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち

(刊行年月 2002.05)★★★ [著者:深沢美潮/イラスト:迎夏生/メディアワークス 電撃文庫]  中身の感想どうのこうのより、まず巻末モンスターポケットミニ図鑑のモンスター達と か、挿絵で猪鹿亭おすすめメニューやアイテム紹介や価格なんかも載ってる辺りで「うあ 〜懐かし〜」というのがありまして。角川スニーカーの頃と電撃の新フォーチュンと、こ ういった基本的な作品スタイルってのはあまり変わってないものと思いますが、初期の頃 っていうと1989年刊行だったそうで懐かしさもひとしおという感じでした。  内容の方はファンタジー世界での初心者冒険者達の物語。最初のあとがきにもありまし たが、ファミコン時代RPG――主にドラクエとかのゲーム小説もしくはテーブルトーク RPGのリプレイを読んでるような感覚。おそらくライトファンタジーの先駆け的存在だ ったんじゃないかなぁと思う私のライトノベル読書の原点となった一冊に、このフォーチ ュン・クエストも確かに存在しています。  さすがに現在の多くのライトノベル作品群と比べると、王道とも言える内容は今読み返 してみるとどこか手法も展開も使い古されたような印象もありました。ただ、魅力的な部 分というのは今も昔も変わらずで、ゲームと違って初心者のレベルアップも楽じゃないと か金欠病でひーひー言ってる様子とか、そういう冒険者達の所帯じみた日常生活が面白お かしく活き活きと描かれている所にあるんじゃないかなと思います。  本当は自分でこんな感想書くより、現在の10代――中学・高校くらいの人達がこれ読 んでどう思うかという感想の方が見たい所なのですが……。ともあれ、私が新フォーチュ ンの方に全く手を付けてないのはこっちの方を全部読了してないからだったりするのです (確か7、8巻がまだ未読)。まとめて新装版が刊行されるって事なので、懐かしさに浸 り読みつつ感想も書き進めてみようかと。
2002/06/18(火)リバーズ・エンド2 slash the heart
(刊行年月 2002.05)★★★☆ [著者:橋本紡/イラスト:高野音彦/メディアワークス 電撃文庫]  う〜む…………微妙。前巻と比べて謎とされていた所が大分明らかにされつつあるけれ ど、核心に触れる部分は結局ハッキリ書かれず伏せられたままだったので。それが意図的 に隠されているのが分かっているから「唯の中に存在する“あれ”って一体何なのさ!」 とプロローグだけで何度言いたくなった事か(笑)。他の子供たちにしても、SIFMA の実験対象である為にスクールと呼ばれる場所に隔離させられているんだけど、その実験 とかSIFMAの目的そのものが不明瞭なのでどうにもこうにもスッキリしない。唯の中 にあるものが何なのかも周囲の反応から想像は出来ても明確な描写はないので、やはりこ の辺もどかしくて「そんな勿体ぶらずにもう少し見せてくれても……」な感じでした。  しかしそれでも総評上がってるというのは、拓己の唯への想いと未来の閉ざされたスク ールの少年少女達の心理描写。これが非常にうまいという印象だった前巻を突き抜けて更 に良いと感じさせられたから。訪れるのが今日とも知れぬ死を内包する少年少女達から伝 わるのはどうしようもない絶望感。と同時に強く感じた生きる事への渇望(特に七海のあ のシーンで)。痛々しくも非常にストレートに伝わってくる感情が読んでいて堪らなかっ たです。彼ら彼女らの心に触れ、または葛藤する心と交錯しながら、唯に対する気持ちの 変化を見せたのが拓己の心。これが一縷の希望を示してるものと願いたいです。  次は唯の目覚めかそれともそうであって欲しくないけど誰かの絶望を目の当たりにする 事になるのか……楽しみですが、もっと核心に触れる部分を明確に見せてくれないとこれ 以上はいきそうにないので期待を込めてそこら辺もお願いしますと(^^;)。  既刊感想:
2002/06/16(日)リバーズ・エンド
(刊行年月 2001.12)★★ [著者:橋本紡/イラスト:高野音彦/メディアワークス 電撃文庫]  文章量が軽いわりに拓己と唯を軸にした心理描写がしっかりしていたので、無駄な贅肉 を削いだような文体はさくさく読めて良かったです。が、中盤以降――唯の秘密が見え隠 れして沢野が彼女を狙い始める辺りからは、極力背景描写や説明を省いていて軽快と思わ れていた部分が逆に仇となってしまったかなと。  どうにもラスト付近の描写不足と説明不足は如何ともし難い感じ。意図的にハッキリさ せないで読み手の想像に委ねるというのも前例はいくらでもあるし上手く用いれば手法と しては効果的だろうけど、この場合はそれ以前の問題で、言い方悪いですがそういう描写 を手抜きしてるんじゃないかとさえ思ってしまいました。  ただ、前述のように前半の拓己と唯が携帯メールを通じて出会い心を通わせてゆく過程 を描いた部分は、くすぐったいような軟らかな雰囲気と、相反するように少しでも触れる と粉々に壊れてしまいそうな危険性を孕んだ雰囲気が軽めの文体と非常に良く合っていて うまいなぁと唸らされました。親友の良太や有香との関係も良い感じだったし、猫の事と か、冒頭である程度は予想ついてたけど悲痛な結末から一旦プロローグに戻ってラストに 繋がる展開は胸にくるものがあったし。  それだけに後半部分は惜しいな……とか勿体無いな……という印象で、総評はがくりと 落ちってしまったわけです。嫌いじゃなくてむしろ好きなジャンルなのですが、これで続 刊なければ更に落ちてただろうし、前半部分だけなら★4つ。なのでハッキリさせて欲し い所は次巻で描かれる事を期待したいです。
2002/06/15(土)僕の血を吸わないで ザ・コミック
(刊行年月 2002.05)★★★ [作画:宮須弥/原作:阿智太郎/メディアワークス 電撃文庫]  これはメインが小説じゃない上に小説版読了してるの1巻のみなもんで、はてどしよう かと思ったのですが、1巻がベースのコミックで電撃hp誌上に掲載された短編小説もあ ったのでとりあえず書いてみることにしました。んで、内容的には1巻と全く同じだった のでちと新鮮味が足らなかったって印象ながら、シリアスシーンでも常にギャグに崩れる 辺りが相変わらずで阿智さんの作品らしいなと思いつつ(笑)、コミックで宮須弥さんの 絵を充分に堪能出来て良かったです。  短編小説の方も抱いた感じはコミックと大体同じでしたが、大分キャラの印象が薄れて しまってたので懐かしいなと思い返しながら引き込まれて、2巻以降も読んでみたいと思 わされてしまいました。基本的にこのドタバタなノリが好みなんですが、何気にシリーズ 進行中の『僕月』とキャラがリンクしてる辺りがようやく理解出来たかなという感じ。
2002/06/15(土)スクライド 新しき盟約
(刊行年月 2002.05)★★★☆ [著者:兵頭一歩/イラスト:平井久司/メディアワークス 電撃文庫]  同名アニメの小説版。私はアニメ見てるという付加要素ありの読書で、まあ見てない人 が先に小説読むってパターンもあまりないような気もしますが、そういう立場にあった場 合の予備知識無しでも引き込まれる内容であったかどうか? と考えると、アクションメ インで世界観やキャラの心理面などしっかり描けてたのではないかなと。ただ元が映像な だけに、やっぱりアニメを見ていた方が小説版の多くのシーンの描写がすっと頭の中に浮 かんで来るというのもありました。例えば特にアルター能力者同士がぶつかる戦闘シーン とか、アルター能力がどんなものか映像で知っていると文章表現から明確に読み取れる。 他にはカズマと劉鳳の一連のやり取りなどを読むと「相変わらずだなぁ」なんて思わせて くれるし。それからかなみのアルター能力である夢の部分とかも、知ってた方が伝わり方 も違うんじゃないかなと。  本作はアニメ最終回の間に挿入されるエピソードとして書かれてるので、小説版から入 っても面白さは充分感じられるだろうけど、アニメを見てからの方が一層楽しめるのかな という印象でした。中でもカズマと劉鳳の関係はいいなぁと思ってた分思い入れが強くて、 性格とか考え方とか全く違うんだけど根底にあるものは共通であって単純でもあり、そう いう所が文章でもうまく描けていたなと思います。
2002/06/13(木)インフィニティ・ゼロ2 春〜white blossom
(刊行年月 2002.05)★★☆ [著者:有沢まみず/イラスト:にのみやはじめ/メディアワークス 電撃文庫]  前巻で実態がほとんど明らかにされなかった「ヤマ」という一族の事を補完するような 位置付けの話。あの結末だと未来に行き様がないんじゃないかという気がしてたので、3 年前に遡った過去のエピソードだったのは悪くない選択だったんではないかなと(でも次 巻は1巻の続きなんだよなぁ……)。麗(ゼロ)が1巻で担っていた役割を引き継ぐ事と なった経緯と、何で火川主(ホノカワヌシ)をサトーさんと呼んでたのか、それから野口 さん境さん川田さんの役割と過去の姿とか。全然分からなかったヤマ側の様子とか事情な どが今回メインで書かれていたので、気分的には大分スッキリした感じ。  しかし、どうにも描写不足から不明瞭な点が多くて「つまりこれはどういう事なんだろ う?」と首を傾げてしまうシーンが結構あったのと、キャラクターのバックボーンが弱い という印象であまり魅力を感じられなかったのと。  最初から『憑巫』の言葉は出て来ても実際意味する役割や背負ってるものがあまり見え てこなかったり、候補は何故二人であってそれが麗と紅雪であって最後の選定条件は結局 どういうものだったのか……とか他にもキャラの相関関係がハッキリ書かれてない(って のはバックボーンの弱さにも起因してるんですが)など色々、意図的なのかそうでないの か明確にして欲しいと思う所がことごとくぼかしたような書き方してる感じで、書き手の 伝えたいだろう事がイマイチ読み手に響いてこなかったです。  それからバックボーンの弱さは特に敵側。王と川田さんは明らかに確執があった筈なの に全然語られてなかったし(そもそも王は結局どうなったんだ?)。それから大道寺にし ても宗田にしてもヤマに相当な恨みはあっても「恨みがある」としか書かれてないので、 復讐のエピソードそのものが何だか薄っぺらく感じてしまったり。復讐心を抱くまでの描 写が見たかったんですが。ヤマ側としては長夜の存在とか……不明瞭というのはつまりこ ういう所でしょうかね。  ヤマの過去話って事で興味を引かれたのですが、今回不満点が多過ぎ。これで次巻は、 完結してるとしか思えない1巻ラストに続くというんだから、どういう展開になるのかサ ッパリ見当がつかないです。ん〜気にはなってるけど不安一杯だなぁ……。  既刊感想:
2002/06/11(火)陰陽ノ京 巻の三
(刊行年月 2002.05)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:洒乃渉/メディアワークス 電撃文庫]  今回は自然の猛威によって封印が破られ、京に襲いかからんとする巨大化け百足退治の お話。最大の山場は当然化け百足を討つシーンにあったわけですが、その役目が主人公の 保胤でなければ晴明でもなく、保憲でもなければ鷹晃でもなく、おおよそ主要登場キャラ クターの誰でもなかったというのは何とも奇妙な印象。蘇芳の正体が分かって最後はこう なるだろうと予感はあったものの、それでも保胤がどうやって化け百足を退けるかという 所に大きな興味と期待があったせいか少々肩透かしを食らってしまったような……。  ただ、それ故に作中でも事件が解決してなお煮え切らない思いの保胤や、関わった陰陽 寮の人達の気持ちに共感出来るような描き方が良かった。  そして1巻以来の登場だった弓削鷹晃と従者の紗夜姫、義仲。2巻で出番無かったのが 残念だったので再登場は嬉しい限り。でも印象は強いのにどうして鷹晃ってこうも活躍の 場が削がれまくってるのだろうか。皆と一緒に戦いたいと言えば止められてしまい……好 きなキャラなのに何か傷つき倒れてしまう役が定着してしまってちと悲しい(^^;)。  紗夜姫の事に関してはやはり見ててもどかしい。心知らずな鷹晃の不粋な言葉に「ぶん なぐってやろうかと思った」とあったのにはウケました(笑)。鷹晃が紗夜姫を妹としか 見てない以上もう鈍感以前の問題だよと思ったり。想いを打ち明ければ鷹晃も気持ちに変 化を見せるかもしれなけど、主従関係が優先してる限りそうする事はないだろうなぁ。  保胤の場合は鈍感じゃなくて向き合うのを避けてるだけのような(笑)。ちゃんと時継 の気持ちを知ってるわけだし。ラストで時継の住まいである伯家邸の母屋が化け百足の襲 撃で崩壊してしまい、保胤と一緒に住むとかどうとか話が面白そうな方向へ。この辺次巻 でどういう顛末になるのか楽しみでもあります。  少々地味な雰囲気ながら、それが作風にしっかりハマっていて印象深く見せてる所が面 白く、気が付くと物語に引き込まれている。毎度思っていて感想に書いてるような気もし ますが、登場人物の心の内を静かに深く奥深く見せて描いている所が本当にうまいです。 今回は登場人物が多くて、やや見せ場が分散させられて物足りなかったかなという気もし たのですが、読者に知り得て作中の人達には結局分からぬままで終わった鷹晃と蘇芳の関 係――この見せ方の妙だけで、物足りなさを補って余りある良さがあって満足でした。  既刊感想:


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