NOVEL REVIEW
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08/31 『世界最大のこびと』 著者:羽田奈緒子/MF文庫J
08/31 『銃姫2 〜The Lead In My Heart〜』 著者:高殿円/MF文庫J
08/30 『かりん 増血記3』 著者:甲斐透/原作:影崎由那/富士見ミステリー文庫
08/30 『食卓にビールを』 著者:小林めぐみ/富士見ミステリー文庫
08/29 『描きかけのラブレター』 著者:ヤマグチノボル/富士見ミステリー文庫
08/29 『空ノ鐘の響く惑星で4』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
08/27 『ロボット妹 改め 人類皆兄妹!〜目覚めよ愛の妹力〜』 著者:佐藤ケイ/電撃文庫
08/27 『いつもどこでも忍ニンジャ6 春日マコト抹殺指令!』 著者:阿智太郎/電撃文庫
08/27 『シュプルのおはなし2 Grandpa's Treasure Box』 著者:雨宮諒/電撃文庫
08/27 『シュプルのおはなし Grandpa's Treasure Box』 著者:雨宮諒/電撃文庫
08/26 『i.d.II seven』 著者:三雲岳斗/電撃文庫
08/25 『i.d.I 神使いたちの長い放課後』 著者:三雲岳斗/電撃文庫


2004/08/31(火)世界最大のこびと

(刊行年月 2004.07)★★★☆ [著者:羽田奈緒子/イラスト:戸部淑/メディアファクトリー MF文庫J]→【
bk1】  MF文庫Jライトノベル新人賞入選作。新人さんの作品買いという事で。  最初の方で“とんがり帽子のこびとさん”と出てきたら、やっぱり『メモル』が思い浮 んだ。ただ、ちょっとそれとは手応えが違うなと思ったのは、こっちはこびと視点じゃな くて人間視点がメインで描かれているように見えたから(実際には人間とこびとのどちら の事情もフォローしてますが)。気になったのは物語の中心に立っているのは一弥と小百 合なんだけど、主軸として描こうとしているのはこびとの『呪われた血』である点。  話が進むに連れて、メインが“一弥と小百合とパウエルとの触れ合い”じゃなくなりつ つある所で少々ちぐはぐさを感じてしまった。小百合は理由があったとしても、一弥の方 が別れをあっさり肯定してるシーンは何となく受け入れ難さがあったんだよなぁ……。  結局そういうのは人間側である一弥と小百合が主役的立場だという印象があるからで、 それならばパウエルとのコミュニケーションを最重視して描いて欲しかったなと。『呪わ れた血』についての展開も充分楽しめたのですが、こびと側の事情が物語を後押ししてい ると、どうも一弥と小百合が立ち位置が脇役っっぽく見えてしまうのですよね。  と、ぐちぐち零すのはここまでにして。全体的に把握し易いストーリー展開・描写は、 新人さんながらなかなかの安定感。一方でもっと冒険して欲しいって気持ちはありました が、それでもこのデビュー作は大きな破綻も無く安心して楽しめる内容でした。  ……これ、続き出来そうですよね? とは言え個人的には一作目をどうにか伸ばしてシ リーズ化するより、別の新作読みたい方が大きいのですけど。ただ、パウエルや他のこび と達とは今生の別れって訳じゃないから、もし続くならパウエルが『世界最大のこびと』 として今後どのように成長を遂げてゆくのか? を追って読んでみたいですね。 2004/08/31(火)銃姫2 〜The Lead In My Heart〜
(刊行年月 2004.07)★★★★ [著者:高殿円/イラスト:エナミカツミ/メディアファクトリー MF文庫J]→【
bk1】  今回は長編一本道。セドリックの挫折と迷走と心の成長を、ストレートながらなかなか 見事に描いていたので、前巻みたくやや設定詰め込みすぎな印象も払拭されて素直に楽し めました。実は非常に掴み難かった各国の情勢も、二巻目に入ったら大分その力関係が鮮 明に見えて来たし(まだ頭の中で整理しないと少々こんがらがったりもしますが)。  セドリックとアンブローシアとエルウィングの三人が主人公で、その通り主役としての 役割が等分に入れ替わって描かれていたせいで、視点が散漫気味だったのが前巻。対して セドリックを最後まで主役的立場に据えて、彼の行動、思考、感情の全てを十二分に描い てくれていたのが今回。個人的には感想の書き方の通りで後者の方が断然好みです。  これをやるとセドリック分は満足出来ても、アンブローシアとエルウィング分で盛り込 み足らずの不満を覚えてしまうもんなんですけど、そういうのをあまり感じさせない組み 立ても見事。前半と終盤に二人の介入がしっかりとあるのでキャラの印象も薄れない。  それにアンブローシアとエルウィングを主役に置いて描かれるエピソードも、今後の展 開で当然用意されるだろうし。逆にそう描かれないと今度は本当に面白くなっていかなさ そうな気もするので、セドリックに譲った分はこれからきっちり盛り返して欲しい所。  しかし……エルウィングの変貌には背筋が寒くなった。それは理由が分かっていても彼 女の正体がことごとく不明な為、一層怖さと不気味さが際立っているせい。これに加えて セドリックの属性と暴走、ラストシーンのアンブローシアの行動などを立て続けに見せら れてしまうと、もう読んでいる方は和やかで穏やかな気分じゃいられないですな。  意外と知りたい事の多くがまだ全然明かされてないので、まあ消化不良もあるにはある んですけど。前巻以上にどんどん話の規模が広がり続けているお陰か、ようやくぎゅうぎ ゅう摘めだった伏線やら謎やらが解放されたような感じで、随分とスッキリしました。  既刊感想: 2004/08/30(月)かりん 増血記3
(刊行年月 2004.08)★★★☆ [著者:甲斐透/原作・イラスト:影崎由那/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  原作コミックのサイドストーリーという位置付けの小説版。こちらの強味は各巻にオリ ジナルキャラクターを用意している点。コミックとはまた一味違った面白さが小説版でも 充分得られますよ、という読み手へのアプローチで。今回もしっかり効いております。  おのれらええ加減にせんか〜い! と言いたくなる様な果林と健太の言い訳じみた反応 もお約束の如く。そこまでお互いがあからさまに意識してたら「ただのお友達」「ただの クラスメート」で納得なんか出来るかー! なんてのも毎度のように思ってるんですけど、 今回はやけにそう突っ込みたくなるシーンが多かった。……ん? という事はつまり二人 の接する機会もそれなりにあったわけで、その辺の絡み具合には満足出来ていたのか。  まあ好き合ってるのは分かっちゃいるけど、それをあっさり好きだと認めてしまっては 面白くなさそうだし、そういうのは果林らしくないし健太らしくないような気がする。や っぱりどれだけ指摘されても突っ込まれても、無理矢理「友達」「クラスメート」と言い 訳してる方がこの二人らしい。それでも最終的には好きと告げて欲しいですけどね。  今回の果林はうまい具合に健太を巻き込みつつ孤島でアルバイト。でも役割の違いから 持ち場が終始離れていたので、密接する好機は案外少なかったかも知れない。それでも露 出度の高い水着や着替えシーンで、狙ったようなハプニングにはニヤリとさせられてた。  割とミステリー寄りに持っていこうとしている展開でしたが、一人一人失踪してゆく謎 仕掛けもキラの秘密も容易に見当が付くものなので、分かり易いけどそれ程手応えがある ものではないかな? 果林の飛躍し過ぎな思考による空回り振りは面白かったけれど。  あと毎回楽しみな事で、果林には悪いけど彼女が盛大に鼻血を噴き出すシーンは果たし てあるのかどうか。勿論あってくれる方に期待してるのですが、今回は……とりあえず読 んでみてのお楽しみって事で伏せとく。普段から果林が増血症状起こす対象である健太が 側に居るのに加えて、今回はキラもその対象なので彼女の極限状態が拝める事でしょう。  既刊感想: 2004/08/30(月)食卓にビールを
(刊行年月 2004.08)★★★☆ [著者:小林めぐみ/イラスト:剣康之/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  女子高生で小説家で人妻の主人公の女の子が、事ある毎に顔を付き合わせる様々な宇宙 人達と戯れる“変な話”。もう一度強調して力一杯“変”です。美味しいシチュエーショ ンになり得そうな、女子高生だとか小説家だとか人妻だとかいう設定は割とどーでもいい 扱いで、とにかく重要なのは何時の間にやら宇宙人と絡んでいる状況。これに尽きる。  幼な妻に萌える展開などでは断じてなくて、あくまで訳も分からぬ内に宇宙人が持ち込 んで来る騒動に巻き込まれてしまうコメディ一色のお話。例えばこれが逆に彼女の旦那視 点だったら……と考えてみたんだけど、この旦那も突っ走り気味な彼女の抑止力になりつ つも結構のほほんな性格してるみたいなので、やっぱりのほほんな雰囲気になるかな。  でもね、この彼女と旦那のとぼけたような会話シーンがなかなか味わい深くて面白いの ですよ。全体的に見たらあんまり夫婦会話の割合は多くないけれど、何となくお互い相手 の事がよく分かってるよな〜という感じでホッとする。夫婦の団欒に家庭の食卓、そして よく冷えたビールがある何気ない日常は、どこか和やかな気分にさせてくれる風景。  しかし日常的なのはそこだけで、その他大部分は宇宙人という存在が鎮座する非日常的 な出来事ばかりの内容。問い詰めたい事は目一杯ありまくりでも、きっと問い掛けちゃい けないんだろうな。それ以前に彼女がまともに答えてくれないような気がする。「そんな 細かい事いちいち気にしな〜い気にしな〜い」とか何とかあっけらかんと言いながら。  細かい事気にしてたら負けます。「飲酒は平気な癖にギャンブルは躊躇うのかよ」とか 突っ込んでも軽く流されます。もし勝てる気持ちがあるならきっと楽しめる……はず。 2004/08/29(日)描きかけのラブレター
(刊行年月 2004.08)★★★★ [著者:ヤマグチノボル/イラスト:松本規之/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  この物語を読んで自分が感じた事は、大体あとがきに書かれていました。等身大であり 実に現実味溢れる恋愛模様。ユキオと円と彼女の父親との間にあるものを考えると、決し てありきたりではないけれど、読み手が都合良くキャラクターに求めるような理想の恋が 描かれているわけでもなくて。むしろどうにかしてうまくやりたいんだけど、もがいても 足掻いても思うように行ってくれない事の方が多い。男(ユキオ)は事情はあれどなあな あで済ませてばかりで踏み切れないし、女(円)はいつだってつっけんどんだし。なのに 好き合ってるのだけは分かり過ぎるくらい明確なもんだからじれったくてしょうがない。  でも、思うように事が運ばないもどかしさこそがこの物語の魅力であり見所でもあり、 意識的にそういう風に描こうとしているから面白く感じられる。現実って案外こんなもん じゃないかな? と思わせてくれる『普通』に拘って描かれている二人が凄く好きです。  ただ、惜しいのは高校時代に当たる第一章がやけに駆け足だった点。最初は読みきりの 形で描いたそうなので、それならこの詰め込み具合もある程度は納得でしたが、やはり二 人の原点が薄味で印象が深まらないのは勿体無い。最初の出逢いからユキオが円に過剰な までに虐め抜かれた高校時代を、1巻丸々使ってやってくれても良かったと思う程に。  第二章以降のユキオと円の離れた恋愛を軸にした展開には満足。円みたいな娘はつっけ んどんな反応が溜まれば溜まる程に、ポロッと本心を零した時の表情がもの凄く破壊力抜 群で可愛く見えてしまうのですよね。まあ思惑通りキュンキュンさせられたという事で。 2004/08/29(日)空ノ鐘の響く惑星で4
(刊行年月 2004.08)★★★★ [著者:渡瀬草一郎/イラスト:岩崎美奈子/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  アルセイフ内乱はフェリオにとってあくまで通過点でしかない、と捉えるならばこの短 期決着は予定通り。レージクの件は最も理想的な形で奇麗に片付いていたので、別に無理 矢理犠牲を求めちゃいませんが、予定調和であっさり加減だったかなとは思いました。  しかしそうは言っても、犠牲が少なく無事に済んでくれたらやっぱりホッとするのも確 かで、特に決着がついた時点で生死が微妙そうだったクラウスの結末は素直に嬉しかった ですね。“ニナの生存”という切り札は最後まで残されていたので、余程著者の渡瀬さん が悲観的に描こうとしなければ、大丈夫だろうという気持ちもありましたが。  今回の印象は前述の通り、物語全体から見てもフェリオの歩みから眺めても、更に強大 な存在に立ち向かうべくの通過点。極端に言うなら、ステップアップに弾みをつける為の 寄り道みたいなもの……かな? まあ本音は「フェリオとレージクの内乱戦をもっとじっ くり見たかった」なので、そう解釈する事で自分を納得させてるだけかも知れないけど。  しかし思い返せば元々一巻の時点では、そう言えばアルセイフの内乱がメインを張ると はあんまり思ってなかった。フェリオとリセリナ、それから他の来訪者達とフォルナム神 殿を交えて物語が進むものと構えてた訳で。だから今回来訪者の存在に再び焦点が当たる ようになって来た辺りで、ようやくこの物語の本筋に入ったという手応えを感じました。  様々な意味でのフェリオの戦い、そして試練はむしろこれからが本番。内乱決着の後に 控えているアルセイフの立て直しから始まり、知らぬ所でウィータ神殿によるフォルナム 神殿制圧とカシナートの謀略、敵対する隣国タートムの動向、そして来訪者達の存在…… これらにフェリオがどんな形で関わる事になるのか? 抱えているものは山積みで楽しみ は尽きません。あとはウルクの出番さえ減らないでくれたら……ってフェリオから離脱し た現状では厳しいか。しばらくはリセリナが正ヒロインの位置に座り続けそう(いや別段 リセリナで不満がある訳ではなくて最初はフェリオとリセリナの出逢いから始まった物語 だしでもどっちかって言うとウルクの方がいいかな〜とかええいとにかく早いとこ三人揃 って三角関係繰り広げてくれよこんちくしょ〜と願って止まない今日この頃です)。  既刊感想: 2004/08/27(金)ロボット妹 改め 人類皆兄妹!〜目覚めよ愛の妹力〜
(刊行年月 2004.08)★★★ [著者:佐藤ケイ/イラスト:さがのあおい/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  んん……まあ、電撃同人本みたいな『電撃ヴんこ』が元だからね。完全版となって改め て読んでみても「変な話」以外の何ものでもない感想でした。これは別に妹属性だから楽 しめるとか、そうじゃないから楽しめないとかってもんでもないんですけど。“妹萌え” とは如何なるものかをストレートに異常に力強く延々と語り上げたもの……かなぁ?  ホントよくやるな〜と終始斜めの視線で読んでましたが、こういう破天荒なやつは意外 と嫌いじゃなかったです。物語中で人間としての妹なんか全く登場してないのに、それで も全編に渡って蔓延しているこの妹成分を醸し出せる物語を描けるってのは凄いなと。  しかしネタとし笑うとかではなく普通に物語として楽しめたかと問われれば、正直全然 楽しめませんでした。きっと「妹ロボットで熱血野郎が操縦するんじゃなくて、素直に人 間妹キャラとしてのもえみちゃんにしておいてくれよ!」とか言っちゃいけないんだろう なとか。これだけ捻くれた設定で、“妹萌え”を語り尽くそうとしている試みは面白いな と眺めていられる。けれどもストーリーの面白さには繋がってないんだよなぁこれが。そ もそもストーリー展開なんてもんがあったかどうかも疑問で首を捻ってばかりだし。  主人公の性格からして、“萌え”ではなく“燃え”に徹底してくれた方が面白そうだっ たのですが、さすがにそれだと“妹萌え”のネタを盛り込んだ話はとても成立しそうにな いし。巌男が徐々に妹精神に侵されてゆく姿を笑って楽しむ所が一番良かったのかも。 2004/08/27(金)いつもどこでも忍ニンジャ6 春日マコト抹殺指令!
(刊行年月 2004.08)★★★ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  これが最終巻なんですけど。それでも結局の所やってる事はこれまでと何も変わっちゃ いないので、終わろうが続こうが「ふ〜ん」以外の気持ちが全く湧いてこないってにも困 ったもんだと思うばかり。最後の最後で過去へのタイムゲートが開いただの、それによっ てマコトが涼葉と別れるかどうかだのやってますが、そこに至るまでの布石がこれっぽっ ちも敷かれてないので取って付けたようにしか見えなくて。しかも何かとりあえずこの辺 で終わらせようみたいなノリでやってるもんだから、そりゃ面白くなりようもない。  個人的にはマンネリでもワンパターンでも捻りがなくても、読み易さと分かり易さは良 い意味で買ってたのに、もう自分の嗜好と合わなくなってしまったのかなぁ。そういうの はこのシリーズだけだったと思いたいとこですが……。とにかくこの巻の最終話みたいな ネタを、なんでもっと前の中途に捻じ込んでくれなかったのかと。前にも感想に書いてま すがど、マコトが過去に例えば行ってしまうとか、もしくは過去から来たの因縁キャラを もっとマコトに絡ませるかして欲しかったのに。いや、確かに絡んではいるんだけど、そ れが殆どかなでかわに太郎かお間抜けな血桜忍群ばかりでは芸がなさ過ぎですよ。  しかしたった一つだけ。このシリーズの本当のラストシーンで明かされた真実――マコ トの両親に関してですが、これだけは良かったと思う。これを見れただけでも読んで来た のが報われたような気分でした。でもな〜こういう隠しネタがあるなら出し惜しみせずに 途中の段階で使ってくれよ! となってしまったので、やっぱりとほほな最後でした。  既刊感想: 2004/08/27(金)シュプルのおはなし2 Grandpa's Treasure Box
(刊行年月 2004.08)★★★★ [著者:雨宮諒/イラスト:丸山薫/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  身体が弱く室内で本ばかり読んでいたお陰か、いつの間にか同年代の他の子供を遥かに 凌駕する知識を得ていたシュプル。更にシュプルはどんな物からでも、何か連想して瞬時 に物語を頭に思い描く事の出来る天才的な技能を有している。そんな少年がおじいちゃん の様々な『宝物』から、空想劇或いは妄想劇をおじいちゃんに語って聞かせてゆく物語。  中身の組み立ては前巻と殆ど変わってません。最初にシュプルが苦手だったおじいちゃ んと宝箱を通じて距離を縮める事が出来た件を除けば、どっちが1巻でも全く問題ないよ うな内容。良く言えば安定したシュプルのお話を楽しめる、そうでなければどのエピソー ドも捻りが弱くて変わり映えがしない、となる。個人的には現実でのシュプルとおじいち ゃん、それからアロワやお母さんとの関係も、シュプルが憧れのムルカと繰り広げる空想 の数々も、全体的に流れる穏やかで和やかな雰囲気も全部ひっくるめて凄く好きです。  とは言うものの、一方ではその内ネタが頭打ちになる心配もあったりする。同じテーマ の連作短編シリーズには大抵ついて回る問題ですが、もし何も変化させようという気概が 感じられなければ、いずれは似たり寄ったりのマンネリパターンで飽きが来てしまう。  しかしそういう気になる要素はあるものの、このシリーズに関して言えば今の所はあま り危惧を抱いてない。単純に物語自体が好みなのもあるけれど、他にどんな『宝物』があ ってシュプルがどんな風に空想を広げるのか考えてるのも楽しいし、最後にシュプルの外 れた想像ではないおじいちゃんの真相がどんなものが知らされる辺りも面白いし。  子供が語る空想劇という意味では、やっぱり知識だけでは無理なんじゃないかな? っ て所もあるんだけど(特に恋愛感情面に関してはどうしても納得が行かない)、その辺り は前巻に比べてかなり減っていたので、不自然さはそれ程目立ってなかった。今後も別に 変わり映えしなくてもいいから、少年らしい無理のない空想話を綴って欲しいなと。  既刊感想: 2004/08/27(金)シュプルのおはなし Grandpa's Treasure Box
(刊行年月 2004.04)★★★☆ [著者:雨宮諒/イラスト:丸山薫/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  第10回電撃ゲーム小説大賞『選考委員奨励賞』受賞作。  たとえば他人が見たらガラクタの山としか思えない代物でも、所有する当人にとっては かけがえのない宝物というものがある。そんなおじいちゃんの『宝物』に触れたシュプル が、制限にない自由な想像力を働かせた空想劇をおじいちゃんに語り聞かせてゆくお話。  現実世界で言えばよくテレビとかでやってる天才児というやつのかな。“とある事柄に 対して天才的な能力を有している子供”という感じでしょうかねシュプルって子は。彼は どんな物からでも簡単に頭の中で物語を連想して、しかもそれを瞬時に口に出して語って 聞かせる事が出来る才能。将来小説家の道にでも進めば大成するんじゃないかな?  ただ、作中で語って聞かせている物語のついて。これらを年端の行かない子供が語って いると言い張るには、いくら天才肌だとしてもちょっと無理のある内容なのでは? まあ こういう細かくていらん突っ込みさえしなければ、著者の言葉通り『詩的で童話チック』 な部分で普通に楽しめた内容なんだけど。この作品は、“シュプルがおじいちゃんに語っ て聞かせる”所に新鮮な試みを見せようとしているわけだから、やっぱりもうちょっと不 自然ではない配慮を図って欲しかった。とは言っても幼年期の子供の空想で、無理ない範 囲の物語を描くってのも、それはそれで別の意味で無理難題な気もするんだけど。  例えば「それはシュプルが様々な物語を読んで知識を蓄えた結果なんだ!」と返された 場合、ある程度までは納得出来るんです。舞台と景色とか設定とかアイテムとかキャラク ターの性格とか、物語で得た知識だけで頭の中に思い描いて行く事は充分可能だと思う。  しかしある程度以上になると、どうしても現実での『経験の積み重ね』が必要になって 来る。多分小説書くのも一緒だと思うんですが、その経験が幼いシュプルには決定的に足 りてない筈なのに、明らかにそれ以上の事を語っているもんだから無理が生じる訳で。  本当は“おじいちゃんがシュプルに語って聞かせている”にすれば、自然な感じに収ま るんだけど。その辺をあえて気にしなければ、逆の発想の意欲作として楽しめる所がある のも確か。おじいちゃんが最後に真相を見せる少々とぼけたシーンは凄く好き。的外れな シュプルの想像だけど、最後の白い粉みたく意表を突いてくれたりするのも含めてね。 2004/08/26(木)i.d.II seven
(刊行年月 2004.08)★★★☆ [著者:三雲岳斗/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  一応ストーリー内容は独立しているので前巻読んでなくても楽しめるデキ。ただし雙羽 塾関連の繋がりは密度が濃いので、シリーズとしての面白さをより一層求めるのならば最 初から読んでおいた方がいいかも。前巻の砌と那依、それに深綾も登場している事だし。  話の流れとしては前巻と似たようなもので、「ああこれって三雲作品だなー」と思わせ てくれるような要素が盛り込まれているのも相変わらず。1冊で抱えられるキャラクター の許容量について、今回は割と控え目でごちゃごちゃ雑然としておらずに整理がついてい たかなという印象(それでもあくまで“前巻と比べて”であって、今回も多いには違いな いんだけど)。描くべき主要キャラ達を殺人者のターゲットとして焦点を当てていた為、 少なくとも他の多数の端役達の中にそれ程個性が埋れるような事もなくてホッとした。  あとは前巻やや薄味だったかなーと感じてた恋愛面に関して。やっぱり謎含みの伏線多 しの学園サスペンスな雰囲気は大きいのですが、今回は見せ場を奪われないよう主人公の 穂邑が“先輩に憧れ恋する少女”をバッチリ演じてくれていたので良かったですよ〜。  そういや『レベリオン』のキャラが出演してるというのを、あとがき見て初めて知った のですが……ごめんすっかりど忘れていて誰だか分かんなかった。まあそれだけ期間が開 いてたから新キャラ扱いでも構わないかな? と自分の中では(名前に見覚えあったので 梨夏だろうかとは漠然と思ってたんだけど)。数年経った今、これからどんな風に使役者 達と絡んで行くか。作品同士の繋がりをあまり気にしなければそれなりに楽しめそう。  しかし、とことん謎をちらつかせて焦らしてくれるのも相変わらずな作風で嫌らしい限 りだぞと(誉め言葉かどうかは微妙)。つまりは奥歯に引っ掛かったものがなかなか取れ なくてじれったい、という感覚なのですが。主に雙羽塾大火災の首謀者の影とかね。これ は続きを待つしかないので、問題なく待てるように刊行ペースは安定して欲しい所。  既刊感想: 2004/08/25(水)i.d.I 神使いたちの長い放課後
(刊行年月 2003.11)★★★☆ [著者:三雲岳斗/イラスト:宮村和生/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  うむ。刊行はこれより後だったけど先に読んでた『道士さまといっしょ』って、やっぱ り三雲氏にとっては異色作というのか、新ジャンルへの挑戦作みたいなものだったのだろ うかと。要はこの作品を読んで、実に三雲氏らしいなと強く感じさせられたわけです。  舞台がこのシリーズと繋がっているのも影響してるかどうか、作風は『レベリオン』の それにかなり近い。要素は学園モノ+恋愛+超能力・異能力+サスペンス+ミステリーで、 個人的には学園が舞台であるのとミステリー仕立てな印象が特に強かったかな?   恋愛感情の部分では砌、由希、那依の三角関係が普通に良かった筈なんだけど、どうも あまりに謎や伏線や思わせ振りな言動が多くて。那依の砌への想いとかは凄くいい感じで 描かれていたのに、なんだかスッキリしない謎を追う展開の方に阻まれて、素直に楽しま せてもらえなかったのですよね。隠された連続殺人の真犯人と、過去に起こった雙羽塾の 大火災の真実とを追うのがメインなので、描き方としては手応え充分と思いつつも。  あと登場キャラクターが非常に多い……のは別にいいとして、気になったのはそのせい で真犯人の個性まで“多数の中の一人”として埋もれてしまっていた点。忘れてたわけじ ゃないですが、ちょっとキャラクターの覚えが弱いせいか、終盤の盛り上がりにうまい事 乗れなかった。端役は一々記憶に留めなくてもその都度置いていけばいいんだけど、真犯 人はさすがにそうはいかないし。無理に登場キャラクターの多くに氏名を付けて分かり難 くしてやるよりは、人数を絞ってキャラの個性を一層引き出して欲しかったかも。  序章から張られていた伏線は最後の最後で腑に落ちた。「何故那依は砌をここまで護ろ うとしているのだろう?」という、その理由がずっと不明瞭で燻ってたのだけれど、終章 でなるほどねと納得。こういう所で組み立てのうまさがしっかり出ていたと思う。  式と式神、使役者と巫護のシステムはそれ程面倒臭くない。まあ元々そんなに複雑では ないにしても、描写が丁寧で理解し易かったです。あとは雙羽塾の実体とか根本的な事が 全然ハッキリしていないので、その辺りは次巻で明かされるのを楽しみにしています。


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