NOVEL REVIEW
<2004年03月[中盤]>
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03/20 『ダーク・バイオレッツ6 常世長鳴鳥』 著者:三上延/電撃文庫
03/19 『灰色のアイリスV』 著者:岩田洋季/電撃文庫
03/17 『いつもどこでも忍ニンジャ4 極悪を再び!』 著者:阿智太郎/電撃文庫
03/15 『殿様気分でHAPPY!』 著者:杉原智則/電撃文庫
03/13 『ガンズ・ハート2 硝煙の女神』 著者:鷹見一幸/電撃文庫
03/11 『かりん 増血記2』 著者:甲斐透/原作:影崎由那/富士見ミステリー文庫


2004/03/20(土)ダーク・バイオレッツ6 常世長鳴鳥

(刊行年月 H15.11)★★★★ [著者:三上延/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  柊美バッドエンドルートを一直線に駆け抜けるクライマックス直前。4巻ラストで柊美 がようやく明良に心の内に溜め込んでいた苦しみを打ち明けた事によって、元々惹かれ合 っていながらどこかお互い遠慮して踏み込めない一線を越え、2人の絆はより強く深く結 ばれた事。これはずっとシリーズを追って読んできた身からすれば、明良と柊美の関係か ら散々もどかしさを受けて来たので、本来なら凄く嬉しく喜ばしく思わなければならない 筈の所なのに、柊美の未来を考えると辛い気持ちばかりが積み重なってしまう。  この巻での一層相手を理解してからの明良と柊美の初々しい触れ合いや、悲痛な決意の 表れのように明良から柊美を優しく力強く包み込む抱擁とキスは、シリーズ中屈指の名シ ーンで堪らなく良かったです。ただ、その先の可能性を思うと「微笑ましく見守りながら 眺めていよう」なんて気にはとてもじゃないけどなれません。逆に何となくこれは束の間 の安息だと分かってしまうから、あまりに痛ましくて目を背けたくなってしまいました。  以下ネタバレで、明良の助けになりたい一心で命を蝕む常世の力で銃を連発使用し、と うとう意識不明に陥ってしまった柊美。感情的に言うと酷く悲しくて遣り切れない気持ち で一杯なのですが、悔しいけどおそらくこの流れが最も納得のゆく展開でしょうね。仮に 柊美が助かってたりなんかしたらご都合主義もいいとこで不自然な感じだったろうし、こ れまでの柊美に対する確かな描写の数々があってこそ、こんな風に残酷なまでに突き落と す事が出来たんじゃないかなと。最後の最後で一縷の望みを残してくれている辺りは小憎 らしいまでの演出でしたが、それも含めて危ういながらも絶妙なバランス感覚はお見事。  過ぎてしまったものを蒸し返してもしょうがないけれど、やっぱりこうなってしまって は、柊美が絶望的な手遅れとなる前に明良に本心を伝えて欲しかったと思わずにはいられ ない。絆の深浅はそんなに影響してないのかも知れないけれど、もっと早い段階から関係 を深めていたなら、あるいはお互いに相手を気遣うあまりほんの微かな想いのすれ違を起 こしていた事にも気付けていただろうか? そう思うと本当にやるせないです……。完全 に断たれてはいないので結末が予想付かなくなったけど、この先を辿るのが怖いなぁ。  既刊感想: 2004/03/19(金)灰色のアイリスV
(刊行年月 H16.03)★★★★ [著者:岩田洋季/イラスト:佐藤利幸/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  II巻以降のストーリー展開を諸悪の根源として引っ張り続けていた美木響紀が前巻で片 付いちゃったので、もう最終巻に描くべきものとして残っているのは「当然これしかない」 というものをまさに寸分違わず期待通りに見せてくれたイリスとの決着。  完結まで読了して余韻に浸りながら言える事で、『ここは勿体無い』とか『あそこは惜 しい』とかあれやこれやと結構頭に浮かんだりしましたが。とりあえずは都合や予定で仕 方ない所があったにしても、このIVとVの1年の開きはやっぱりちょっと勿体無かったな と思う。前巻で一応対響紀戦がひと段落付いた事もあって、盛り下がらない内に一気に最 後まで突っ走って欲しかったんだけど、結果的に大ブレーキの掛かりから勢いが削がれた のは残念(補足として、ストーリー的には最後まで全然勢いに衰えはなかったけれど、期 間が開いてしまったので前巻より引き続いて読む際の意気込みが弱まったという事)。  もう一つ、物語の大きな部分としては既に1巻時点から言葉が出ていた“時空狂い”に ついて。これは今回の最終巻でようやくきちんと描かれましたが、途中の絡み具合が非常 に薄くほったらかしにされていたようにも思えたので、ずっと意味が謎だったこの要素を もっと響紀やイリスとの戦いの中にも盛り込んでくれてたらな、という辺りが惜しい点。  以上、結末に触れてから浮かんだ注文は終わり。今回の内容に関しては、割と先への予 想が立て易い展開ながら、丁寧に着実に一歩一歩結末までの道を描いてくれていたのでは ないかと思いました。姫子と優夜の奏への告白なんかはもうベタベタなんだけど数少ない 実に微笑ましいシーンでもあったし、未来がイリスに歩み寄ろうとする心の会話にも感情 表現の深さが窺えたし、ラストの激しい死闘も最後までダレる事なく勢いに乗せて描かれ ていたし、最終巻に相応しい盛り上がりを全編に渡って感じられたので満足度は充分。  感情描写はそれぞれ高揚感に溢れていましたが、部分的に少々濃い目で、特に奏と未来 にその傾向があって時に描写過多な所で胸焼けしそうになったりも。ただ、己の全てを賭 けて最後の戦いに臨む姿をより一層際立たせる意味ではかなり効果的に決まっていて、だ から少なからず過剰さはあるかも知れないけれど印象的に心に響くのも確かな所。  色々たらたらと綴って来て、どうなるかと考えていたこのラストシーンはおそらくハッ ピーエンドの理想形ではないでしょうか。最後に言いたい事は、適度な巻数で書きたい事 を漏れなくキッチリ描いて結末まで導いてくれた事に対してありがとうございましたと。  既刊感想:IIIIIIV 2004/03/17(水)いつもどこでも忍ニンジャ4 極悪を再び!
(刊行年月 H16.03)★★★☆ [著者:阿智太郎/イラスト:宮須弥/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  もうストーリー内容のパターン化は、どんなに唸ろうが叫ぼうが打開してくれる気も変 化を付けてくれる気もなさそうなので、こうなったら捉え方を変えて挑んでみる。とりあ えず“適度な笑いと馬鹿馬鹿しい楽しさを読み易過ぎる文章に乗せて提供してくれる”部 分を否定しないで好意的に受け留めれば、何とか……多少はそれなりに……全く上昇して くれないのが阿智節の持ち味と言うべきなのか(そうでも思わないと挫けそう……)。  いや、前シリーズの僕月でもそういう印象が強かったけれど、立ち位置としては『電撃 文庫のサザエさん的存在』に映ってしまうんですよねこの作家さんの物語というのは。個 人的にはダメでも受け入れられないわけでも否定するでもないので、今後もずっと同じ方 向性で行くならこの『いつどこニンジャ』シリーズを10巻でも20巻でも、マンネリパ ターンで続けるだけ続けてくれてもそれはそれでいいんじゃないかと思うのです。  でもまあそんな物語が面白いのかどうかと問われると、毎度毎度似たり寄ったりの展開、 雰囲気、テンポではさすがにそう言うわけにも行かなくて。常に新鮮味から面白さを求め るならばこれは致命的欠点になり得るのですが、結局元々それとは逆を向いている内容だ から仕方ないのかなと。それでも1巻の時点で期待していた五百年前からのタイムスリッ プや過去と現在との繋がりの設定が、全く活かされてないのは勿体無い気がする。  今回の内容で見るべき点は、涼葉の制服系ファミレスのウェイトレス姿だけなんじゃな いだろか? これが唯一間違いなく新鮮と言えた点。血桜忍群が今までよりかなり出張っ てたような感じだったけど、慣れてなかった時の現実世界でのトンチンカンぶりも慣れて しまったらいつも通りのボケっぷりに落ち着いてしまったし。あとは主人公の癖に全く目 立ってなくて存在感無さ過ぎな鈍感野郎のマコトの処遇を何とかして欲しい。  既刊感想: 2004/03/15(月)殿様気分でHAPPY!
(刊行年月 H16.03)★★★★ [著者:杉原智則/イラスト:玲衣/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  ここ1年くらいを振り返って著者の杉原さんの作品結構読んでいるのに気付かされる。 そこで感じたのは実に多様な設定の引き出しを持っている方だなと。本作の己の『定義』 を保ちながら“歪み”を生み出し現世に顕現しようとする鬼を滅する戦い。そんな使命を 担う大所帯の一族。『定義』なんてまた頭こねくり回されそうな小難しいもの盛り込んで くれてますが、単純に抱いたイメージとしては“現実世界とは別の空間に身を沈め、そこ に潜み現実世界を脅かそうとする鬼どもを『定義』付けて捻じ伏せる”でいいのかな?  この辺を考えてみると『定義』という面倒臭い言葉に邪魔されて、案外掴みきれてなか ったかなぁと思ったりするのですが、描写が甘いのではなくて逆に複雑に入り組んでる部 分があったせいか。それでも設定を深々と突き詰めた凝り方に惹かれる要素も大きい。  ふと思ったのは、もしかして苛められたりとかうじうじ悩んだりとか落ちこぼれとか、 劣等感を抱えるキャラクターを主人公に据えるのが好きなのだろうかと(ホーリーグレイ ルは違うかもだけど)。わりと暗く重くじめじめでねちねちとした雰囲気が多いのは、そ もそも主人公のそういう性格的な部分が少なからず影響を及ぼしているからかも。  しかしこの作品はこれまでの雰囲気と随分違う事に驚かされる程、基本的にはお気軽お 手軽コメディ色が強い印象。やっぱり主人公のあけすけな態度で大手を振るって闊歩して いる状態を起点に、ぐいぐいっと引っ張られている確かな手応えを感じさせてくれる。  良かったのはキャラの立て方がうまいと思えた点。ど変態とレッテルを貼られている主 人公の一馬だけど、それを大っぴらにやってドジを踏んで痛い目を見てる明るさ含みだか ら、しょーもないバカバカしさはあっても後ろ暗い陰湿なイメージはない。しかも重要な 局面になると「これが彼の隠れた資質か?」と稀に目を見張る程の格好良さを演じ切って いるので、感触は“どうしようもないけど何処となく憎めない奴”でしょうかね。  一馬に付き添っている女の子3人も描き分けがしっかりしていて、更にそれぞれの掘り 下げも効いているので非常に覚えが良い。どうもこの位置関係だと本命ヒロインはみづき っぽいみたいですが、断片的な描写のみだった幼少時代の一馬(と新之助)の触れ合いは 今後もっと明確に見てみたい。みづきに関しては、確か成長するにつれて感情的な面が削 がれて行くだとか外法士の菊利媛が関係しているだとか、まだ隠されていてスッキリしな い点も多いので、その辺りもじっくり描いて欲しい所(実は続編出るかが一番気掛かり)。 2004/03/13(土)ガンズ・ハート2 硝煙の女神
(刊行年月 H16.03)★★★ [著者:鷹見一幸/イラスト:青色古都/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  つい最近読んだ同著者の別作品の中身とあまりに共通項が多くてどうしようかと。偶然 近い時期に刊行されたからすぐに頭の中で思い返してたけれど、たとえ時期開けて別々に 読んだとしても、あるいは順番逆に読んだとしても抱いたであろう印象は多分一緒。  味方少数に対し敵大多数、ある程度のタイムリミットが定められた中で生き延びる為に 武器を取り命を守り耐え抜く為の戦い、銃撃戦に篭城戦、敗北すれすれの劣勢から工夫を 凝らし演じられる逆転劇……などなど。本当に同じ事をもう一度繰り返して書いてる気が してならないのですが、いくらなんでもパターンがこうも似過ぎでは充分楽しめない。  もし逆の順序で読んでいた場合、そっくりそのまま同じ感想が向こうに行っていたかと 言えば答えはNO。理由は銃器類の描写の濃さと極少数に絞った主要キャラクター描写の 良さはこっちより断然上だったから。最もマシと感じられたケリンの感情表現でさえそれ でも全然物足りなかったのに、情勢が中心のグレンダランから外へ外へ広がるにつれて、 中身の伴わない名ばかりのキャラが次から次へと溢れ出てくるのには参りました。  キャラクターの行動やストーリーの流れやシーン毎の様子など、どうにも大抵100歩 くらい身を引いて目に映る表面上の事ばかりを描いているようにしか捉えられなくて。だ からこそ余計にじっと眺めているだけでは到底窺い知れない心の奥底まで、もっともっと 踏み込んで描いて欲しかったのですが(これは確かあっちの感想でも書いてた筈)。せめ てケリンとミントとD.Dくらいは感情の機微をそこまで見せてくれないかなぁ。  他にも少々。今回無能な人間(主にお偉いさん方)をぎゃふんと言わせ過ぎ。効果的な 所で1度ならスカッとするのも、掘り下げの不足したキャラで度々見せられるもんだから 結局「あ〜またか」となってしまう。あとはエズオル側の怒涛の大群も、これまた描写が 弱いせいかあまり迫り来る大群の脅威が感じられず、それに付随してエズオルに対する人 間達の焦燥感や恐怖感が全然響いて来ないのは如何なものか。ケリンの奮起の声だけで、 エズオルのスタンピードに誰もが恐怖を掻き消して勇敢に立ち向かえはしないと思うんで すよね。むしろこれだけの大群に、戦闘経験の少ない人間達が臆する事なく接近戦を仕掛 けられる方に違和感を抱いてしまう。この辺に感情描写の弱さが影響してるのかなと。  更に追い討ちを掛けるようにポカーンとさせられたのがラストの部分。「え、この流れ は今回で終わりなんですか?」と。私はこのスタンピードを主軸に完結まで引っ張るもの と思ってたので、あまりにあっさりな決着の付け方にしょんぼり気分で一杯一杯……。  既刊感想: 2004/03/11(木)かりん 増血記2
(刊行年月 H16.03)★★★☆ [著者:甲斐透/原作・イラスト:影崎由那/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】  影崎由那さんが描いている原作コミックの小説版2巻目。今度は時間的にコミック2巻 と3巻の間に挟まるサイドストーリーだそうな。前巻読了した時、小説版の次が出る前に 原作読もう読もうとあれほど意識してたのに結局まだ読めてなくて、きっと相乗効果で得 られる筈の楽しさ面白さは充分に得られてないんだろうなと。自業自得なので仕方ない。  開き直って読んでみると、最大のウリと信じて疑わない果林と健太の嬉し恥かしどきど きラブコメ度数が前巻よりも若干落ちているような。読み終わって理由を考えてみて気の せいじゃないと確信したのは、今回少なからず盛り込まれているミステリー要素が何だか とってもラブコメ展開を阻害しているじゃないですか、と思い至った時に。  一応ミステリーを掲げてるレーベルに対して結構酷い言い様かも知れないと自覚はあり ますが、まあ言ってしまった所で今更だし。この物語に関しては無理にミステリーしなく ていいので、ラブコメ最重視&強調で描いて下さいホントお願いしますから(こういう部 分でどれくらい原作と差違があるのか比較したくなって来る)。今回は結果的にミステリ ー盛り込みがLOVEを薄めてしまっている部分も確かにあったので、果林と健太のあれ やそれを大いに期待していた身としては2人の絡み方がちょっと物足らなかったです。  単発キャラのシスター・千奈の扱いにも納得いかない微妙さがあって、とにかくどうし ても突っ込みたかったのは「何で健太じゃなくて果林の兄貴なんだよ!」と。千奈が健太 に好意を寄せる展開の方が(主に果林の反応が)絶対面白くなっていた筈なのに〜。  いや、最初の健太と千奈の遭遇ではてっきりそうだと思い込んでいて、だから自分の気 持ちを誤魔化してばかりの果林の心がどんな風に揺れ動くのか楽しみにしてたのですが、 完全にアテが外れてしまって至極残念。せめて果林には毎回一度でもいいから増血衝動の リミットを越えて鼻血を噴いて欲しい……と希望するのもどうかとは思うけど。  救いはカラー口絵の4頁目。なかなか激しい萌え&エロな感触で有難うございました。  既刊感想:


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