NOVEL REVIEW
<2003年11月[前半]>
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11/10 『ムシウタ01.夢みる蛍』 著者:岩井恭平/角川スニーカー文庫
11/08 『ぞんびnaランデ☆ヴー』 著者:浜崎達也/角川スニーカー文庫
11/07 『グリーングリーン 鐘ノ音ファンタスティック』 著者:ヤマグチノボル/角川スニーカー文庫
11/06 『ランブルフィッシュ7 亡霊殲滅編<下>』 著者:三雲岳斗/角川スニーカー文庫
11/04 『ランブルフィッシュ6 亡霊殲滅編<上>』 著者:三雲岳斗/角川スニーカー文庫
11/03 『ランブルフィッシュ5 凶天使襲来編』 著者:三雲岳斗/角川スニーカー文庫
11/01 『キディ・グレイド3』 著者:志茂文彦/角川スニーカー文庫


2003/11/10(月)ムシウタ01.夢みる蛍

(刊行年月 H15.05)★★★★ [著者:岩井恭平/イラスト:るろお(頑童)/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  夢を喰らう寄生虫(イメージとしては節足動物に近いもの)に身体を蝕まれながら、い つ夢を食い尽くされ命を失うか分からない不安と恐怖を常に抱えつつ、それでも日々を必 死に生き続けなければならない“虫憑き”と呼ばれる者達の物語。まずメインとして前面 に押し出している虫憑きの設定について。これは最初からシリーズ作品の想定で描かれて いる為か、意図的に伏線張ってる所も結構ありそうで、今回だけでは疑問符付きでハッキ リ掴めなかったのが正直な所。頭の中に具体的な映像が少々浮かび難かった、というのは 虫が“人の夢を喰らう”という部分に表現的な曖昧さを感じてしまったせいかどうか。  その辺をもうちょっと具体的に……なんて言っても人の夢そのものがどうやっても定形 にはならないから、そう簡単には仕上がらないような気もする。とりあえずは様々な超常 能力を行使する代償として、強く思い抱く夢をばくばくっと食べちゃうものと単純に捉え ておいてもいいのかなと。分かっているのは“始まりの三匹”と呼ばれる虫憑き達が発端 なのと、新たに夢を持った時点で“始まりの三匹”に目を付けられた者が虫憑きにされて しまう。あとは虫憑きが死ねば寄生虫は滅び、逆に寄生虫を滅ぼせば虫憑きは感情を失い 抜け殻だけの”欠落者”の末路しか待っていない事。他にも虫の成虫化というのがあった り能力別で強さのランクが設けられていたり。単に虫を使役して戦わせるだけではない、 設定の練り込みと奥深さが虫憑きという存在に感じられたのは好印象。ただ“始まりの三 匹”は、どういった手順で何を基準に虫憑きにする人間を選んでいるのか……この辺もか なりあやふやな感覚だったので、こういう不明瞭な点は次巻以降に描かれる事を期待。   以下ネタバレ反転で。大助=かっこうだった事実。登場キャラクター内で当てはめるな ら多分これしかないだろうってのはありましたが、普段の大助と戦闘態勢のかっこうの性 格があまりに違い過ぎるので結局明かされるまで半信半疑なままでした。読んでいてあん まり意図的な引っ掛け狙いとは思わなかったけれど、最低でも4年は虫憑きやってるので 二重人格より状況に応じて性格を演じ分けしてると言った方が正しいのかなこれは。  最初の大助の行動は随分突飛な感じに映ったものの、それも詞歌との浅からぬ関係を真 相まで知った時点で納得しました。それに気付けなかったのは……まあ少女が身体的に飛 躍的な成長を遂げるのに、4年の歳月は充分な時間ではなかろうかと辛うじて納得。  この物語で何よりいいなと思えたのは、突き刺されるような痛さと切なさを重ねに重ね て重ね塗りした感情描写。自分に向けての葛藤や誰かに対しての想いなど至る所で響きま くり。特に大助、詞歌、利奈の擦れ違いにも似た縺れ具合が堪らない。個人的には利奈に 非常に惹かれてしまって、あぁ……もう……うぅ……と出るのは溜息ばかり。はぁ……。 2003/11/08(土)ぞんびnaランデ☆ヴー
(刊行年月 H15.05)★★☆ [著者:浜崎達也/イラスト:滝沢太郎/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  いきなり序盤から地の文のイタさでギブアップしたくなりました。これが読み進めると そうでもなくなって来る辺り、下手に慣れてしまうのも嬉しくないもんだなぁとか。何と なくわざと作中の不条理展開なノリに合わせて崩している気もしないでもないですが、も しそうだったとしても多分うまくはいってない。見事に空回りしながら滑ってます。  例えば、周囲がシラけて引いてるのに当人だけはそれに全然気付かず面白いと思って延 々と披露し続けているような。ストーリー設定やキャラ同士の会話が既に至る所で弾け飛 んでるから、せめて地の文だけでももうちょっと落ち着き払って下さいよと。  ゾンビの無感情美少年と、彼の秘密を知った為に無理矢理ゾンビマスターにさせられて しまった天然ドジッ娘がいちゃつく話……になってくれたらせめて少しは楽しめる部分も 見出せたものの、元々そっちの方向にしか行きようがないのにそれすらもかなり微妙。  引っ込み思案で積極的に行動を起こし難い千紗都と、命令されなきゃ千紗都が危機に陥 るまで反応を示さない蔵人。基本的にはどちらも受身体質なので、ストーリーを動かす為 の組み合わせとしては随分相性悪そうだなぁと。千紗都ぴーんちで従属の身の蔵人が颯爽 と守護しても、どんな時でも常に冷えてる感情だからなかなか響いて来ないんですよね。  かと言って三角関係展開にもならない。組めるだけのキャラはちゃんと揃っているのだ けれど。そういう意味で柚子や晶は少々勿体無い扱いだと思う。どちらか片方もしくは両 方共蔵人の方へ心が動いていたら、印象は違ったものになってたかも。特に柚子は蔵人と 主従関係にある千紗都と幼馴染み関係にあるから、蔵人を密かに想う感情含みで割り込ま せた方が絶対面白くなりそうなんだけどなぁ……。まりいお母さまの言動だけは作中唯一 読んでいて楽しいと感じられた要素。それでも弾け具合はもう一歩及ばずでしたが。 2003/11/07(金)グリーングリーン 鐘ノ音ファンタスティック
(刊行年月 H15.04)★★★★ [著者:ヤマグチノボル/イラスト:片倉真二/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  元は18禁PCゲームで、そこからコンシューマに移植されたりアニメになったり小説 になったりとメディアミックス展開。私は一番最初に入って知ったのはアニメで、それか らこの小説版。ゲームには全く触れてないので、各ジャンルを並べての比較評価がどうし ても不十分になってしまうのが少々心残りでした。こういうのはゲームだとこんな感じだ ったけど、でもアニメはこういう部分が面白く、更に小説はもっと別の所が良かったある いはもうひとつだった……などなど、この小説版を読んで他の顔を持つ「グリーングリー ン」との相違点を探せる事が、大きな楽しみに繋がると思うんですよね。そういった意味 で、ゲームやってないのが比較対象を狭めてしまってるので残念だったかなと。  話の中身はと言えば、山奥の男子校が共学化する前段階として試験的に女子生徒を編入 させるという事がそもそもの始まり。むさい野郎同士の生活で女の子に餓えている奴等が、 ただ黙って指をくわえて見ていられる訳もなく、本能のままに行動を起こした結果女子と の溝は深まるばかり。とにかく男達――主に3バカのやる事為す事全てが過剰に突っ走り 過ぎで、一応親友の祐介も一見頼られているようでその実押し付けられてるだけの行動も、 みどりの事が引っ掛かってサッパリうまく行かず。本当にあらゆる面で「こいつら馬鹿だ なー」と半ば呆れながらに思ってしまうのですが、やり方はどうあれ女の子にアプローチ する意気込みや信念などが実にストレートで分かり易い。その女の子に対する野郎達の並 々ならぬ情熱についつい感心させられてしまうような描写は素直にうまいなと思います。  話が進むに連れて徐々に絞り込まれてゆくのは祐介とみどり、それから彼らと小みどり との関係。グリーングリーンの歌詞を物語に直接影響させているのは小説版オリジナルの 要素だそうですが、祐介とみどりの行方を歌詞に乗せて追いかけるような見せ方も、伏線 として敷かれていた腕時計の扱い方にも納得で凄く良かった。  ただ、祐介とみどりの関係は不変だと思っていたので、この結末は予想と少し違ってま した。真相を考えるとこれが最も自然な形なのかなぁ。でもやっぱり切ないですね……。 2003/11/06(木)ランブルフィッシュ7 亡霊殲滅編<下>
(刊行年月 H15.09)★★★★ [著者:三雲岳斗/イラスト:久織ちまき/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  頭の中でぐるぐる巡っていたのは、SR競技直前の段階でこの『霧の亡霊』エピソード を放り込んだ意図は何だったろうかというもの。上巻は途中経過だったので、あんまりそ の辺が手応えとして感じられなかったのですが、意外にも『霧の亡霊』事件の表や裏に、 “実はこれを見せたかったんだ”という深い意図が幾つも仕込まれていたのにはちょっと 驚かされた。正直亡霊の中身についてだけはバレバレだし、ミステリ崩れで尻すぼみな展 開になるかも知れない心配とか抱いてたので。  表の方はフェニックス闘専の面子を物語に馴染ませる事、それから眠ってたもの達を復 活させてSR競技を本番前に肌で体感させる事。裏側はジーンが語るRF兵器の未来への 理想と有効性、祭理や斎が恵里谷地下で見たものなど。個人的な想像だから、全部が全部 『霧の亡霊』騒ぎに乗じて意図的に盛り込んだものかどうかは分からないし断言も出来ま せんが、ジーンのRF兵器産業に対する言葉や映画制作の真意などは妙に説得力があって、 力押して納得させられてしまったような気分。今後はSR交流競技と合わせて、構造や使 い道などRFそのものに対して深く踏み込んでゆく展開になりそうな予感も。  しかし今回の好感触はそういう所とはまた別。何と言っても、まるでSR模擬戦をさせ る為に仕組まれたようなRF同士の激しい戦闘シーンの密度の濃さ。これに尽きます。模 擬試験トーナメント以降もちょこちょこRF戦闘はあったけれど、盛り上がりの質が全く 違うのは……まあ沙樹が黙ったままか活き活きと暴れるてるかの違いでしょうかね。  登場パターンがお約束過ぎても、可変武器の効果含みで非常に熱い戦いを楽しませても らいました。キャリィと沙樹の因縁深そうな顔合わせも済んで、いよいよフェニックス闘 専とのSR競技本戦……だよね? 解決した以上に謎も増えるのは毎度の事だから、もう 余分に引っ張らないで気持ちが高揚している内に突入して欲しいです。  既刊感想: 2003/11/04(火)ランブルフィッシュ6 亡霊殲滅編<上>
(刊行年月 H15.08)★★★☆ [著者:三雲岳斗/イラスト:久織ちまき/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  上下巻構成の前半部分なせいか何とも微妙な具合。要するに今回の展開が活きるかどう かは下巻の内容次第って事になるわけで。それにしても、何らかの謎を起こしてミステリ 仕立てにするのがホントに好きな作家さん。このシリーズにしても他作品にしても間々あ る事なので、相変わらずだな〜なんて思ったりしましたが。これじゃ現状で既にややこし く絡まってるのに、余計に混乱しそうな要素を放り込まないでと言いたくもなります。  予定されている、恵里谷闘専と恵里谷に逗留中の留学生フェニックス闘専とのSR交流 競技試合……の本番はもうちょい先のようでまだ準備段階。恵里谷のRFを次々と襲う未 確認RF『霧の亡霊』を作中に投入させて、カンサイ先輩とかナルシとか忘れ掛けてた奴 等も再登場させて、A班の神楽坂姉弟にも焦点を当ててとまだまだ引っ張る気満々ですよ。  もっとも下手に急ぎ過ぎでコケるよりは、幾つもの伏線を敷いてるだけに多少歩みが遅 くて焦らされても段階踏んで丁寧に描いてくれた方が間違い無いかなと。ガンヒルダも新 武器カドゥケウスの調整もままならず、まりあも精神的に不安定、おまけに攻撃的なフェ ニックス闘専のメンバーや『霧の亡霊』まで相手にしなければならない。進みが早くなる 要素なんてこれっぽっちもないので、一つ一つ確実に処理していって欲しいもの。  要所要所に「これは何だかよく分かんね〜」ってのがあったのは毎度の事で。その多く は『霧の亡霊』について。ただこっちは多分次巻で明らかになるだろうから、待てばいい だけの気持ちの軽さもあるかな。あとはキャロライン・レイステルと沙樹の関係。これも 徐々に解かれて行くとは思いますが、見えそうで見えないもどかしさが非常に歯痒い。  気になってたのは特にまりあの事。もう大丈夫かな? 早く元気な姿が見たいです。   既刊感想: 2003/11/03(月)ランブルフィッシュ5 凶天使襲来編
(刊行年月 H15.02)★★★☆ [著者:三雲岳斗/イラスト:久織ちまき/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  うあ〜また登場キャラ増やしてるよ……って事が当然ながらの第一印象。もっとも登場 キャラを増やし続けるだけが問題ではなくて、更に相関関係が表面で見えてるものだけで なく裏があったり底に沈んでたりと伏せているものも多々あるから、糸が絡まり過ぎで複 雑さが増してしまう。増えた分だけ何処からでも徐々に解かれてくれる事を毎回希望して るんだけれど、引っ張り続けて簡単には明かしてくれやしない。思わせ振りに描いて過去 を曖昧にしてる辺りとか、あとは深見将利の存在とかはそろっと垣間見せて欲しい所。  それから前巻感想でちょっと愚痴ってた冒頭のキャラクター紹介欄。まるで声が届いた かのように一新されていた上にあらすじ掲載まであったのは嬉しい限り。このシリーズの 場合、多数のキャラとストーリー展開に振り回され混乱してばかりなので、それらの把握 と復習が欠かせません。そう言った意味でこれだけ押さえてくれているなら充分満足。  最初から続いてた恵里谷闘専の中間試験『RF模擬トーナメント戦』も前巻で幕を閉じ、 今回は次のステップへの前哨戦のような位置付け。『実践形式競技SR』が校内模擬戦に 代わるRFと沙樹や瞳子達の新たな戦いの舞台で、これを恵里谷と海外留学生との(表向 きは)交流試合として描くまでが当面の主軸となりそう。実際そこまで行くのはもう少し 先になりそうですが、この巻の役割はフェニックス闘専の癖が強過ぎるメンバーとRFの 顔見せ、それと対比して恵里谷側RFの弱さ脆さを浮き彫りにさせる事でしょうか。  沙樹は“戦士の休息”状態。RF乗りとしては出番も見せ場もなし。まあ手酷くやられ たガンヒルダが修理中なのでどうしようもない。でも比較的穏やかで呑気な沙樹と瞳子の 日常生活風景なんかは、整備と模擬戦の繰り返しに明け暮れていた日々ではあまり見る事 の出来なかったものなので、たまにはこういう描写も良いもの(空腹金欠→ゲーセンの賭 けで負けてほぼ文無し、という泣くしかない殺伐とした日常ではありましたが)。  戦いに出れず見てるだけの沙樹のもどかしさってのは、おそらく復活までの溜めのよう なものなんだろうなぁと思う。酷く気になるのはまりあの様子と、事実のみを明かされた だけで結局真相が何なのかはサッパリ分からないラストのあれ。あんまり引っ張るとただ でさえ溜まり易い鬱憤が膨らむ一方なので、早目に発散してくれるような展開を望む。  既刊感想: 2003/11/01(土)キディ・グレイド3
(刊行年月 H15.09)★★★☆ [著者:志茂文彦/原作:gimik・GONZO/カバー原画:門之園恵美         /本文イラスト:きむらひでふみ/角川書店 角川スニーカー文庫]→【
bk1】  同名アニメの小説版最終巻。終了してから探し回ってみたアニメのあらすじとか各所の 感想、それから著者&後藤圭二氏のあとがきを眺めた感じ、やっぱり今回も最後までアニ メシナリオを忠実に追うような形で描かれていたようで。アニメ視聴してた1巻時点で小 説版は外伝エピソード入れて欲しい気持ちもありましたが、視聴してない2巻からは、巻 数多くなってもいいのでストーリー・キャラクター・各種設定などを丁寧に描いて見せて くれたらなという気持ちが強かったです。と言うのも、特にエクレール&リュミエールに 起こっている再生繰り返しの原理、それからエクリプスの能力辺りで「それは一体どうい うものか? 何でそうなっているのか?」と引っ掛かりがあって、なかなかすんなり把握 出来ない部分だったような気がするんですよね。まあ3巻完結なのは分かっていたので、 収める為に要約してまとめなきゃならない所は仕方ないかなとも思いますが。  表紙見た時点でこの2人誰だったっけ? とつい言ってしまうも(大体予想出来てもじ ゃあ何でそうなってるのかハッキリ分からなかったので)本編読んであ〜そういう事かと 納得。エクレールとリュミエールについては『不死と再生』が大きく戦局に関わっている せいか、傷付いて倒れても消滅してしまったかに見えてもどこか多分大丈夫だろうと思え てしまう。それが場合によって安心感に繋がったりご都合展開に繋がったりだったのは微 妙な所。この二人にかかわらず、死んだと見せ掛けて実は生きてたというのも嬉しい反面 ここで復活するのはあまりに都合がいいような……ってのが幾つかあったり。それでも主 要キャラの殆どが無事だったのも、数少ない逝ってしまった人達に救いを残してくれる見 せ方だったのも素直に良かったと思う。惜しいのは、エクレール&リュミエール以外のE Sメンバーも個性的な面々ながら、登場キャラが多いので活躍の場が分割されてしまって いた点。なので外伝という形でキャラ別のエピソードなんかも読んでみたかったかも。  既刊感想:


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