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01/31 『9S<ナインエス>II』 著者:葉山透/電撃文庫
01/30 『Missing10 続・座敷童の物語』 著者:甲田学人/電撃文庫
01/29 『道士さまといっしょ』 著者:三雲岳斗/電撃文庫
01/27 『しにがみのバラッド。3』 著者:ハセガワケイスケ/電撃文庫
01/25 『ゆらゆらと揺れる海の彼方』 著者:近藤信義/電撃文庫
01/24 『ガンズ・ハート 硝煙の誇り』 著者:鷹見一幸/電撃文庫
01/22 『銀河観光旅館 宙の湯へいらっしゃ〜い!6』 著者:あらいりゅうじ/電撃文庫
01/21 『Little Birds Fly』 著者:円山夢久/電撃文庫
2004/01/31(土)9S<ナインエス>II
(刊行年月 H16.01)★★★★
[著者:葉山透/イラスト:山本ヤマト/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
前巻での闘真と由宇の関係は別れ際が後腐れなくスッキリ綺麗に見えたので、その時点
では続編が出るのか出ないのか微妙だったし、それで終わるなら別に構わないとも思って
ました。そんな印象だったので、もしも自然な流れでの続編とはいかず“無理に前巻から
繋げてみました”な手応えだったら……という不安感も読む前は割と大きかったり。
で、読み終わった時点での感想から言ってしまえば、前巻よりも目を引く点は断然多く
全然無理な繋げ方でもなくて面白かったです。とりわけ麻耶の立ち位置を示すのに用いら
れていただけのように見えていた、真目家側の役割や複雑な事情などが大分明確に描かれ
ていたのは大きなポイント。闘真と麻耶の関係はそんな興味津々となる程ではなかったよ
うな気もしましたが(麻耶は兄以上の感情で慕っているのが見え見えでそこがイイ! と
も言えるけど、闘真の方は単に可愛い妹としか見てなさそうだったから)、真目家の麻耶
・勝司の確執に加えて更に波紋を呼びそうな不坐の動向が、今後のストーリーを盛り上げ
ててくれる楽しみな要素となりそう。当然由宇やADEMとも深く関わりそうだし。
それから他に上回っていて良かった点は戦闘描写。敵方があまりに見せ場なく弱過ぎた
せいで、由宇の完全無欠な強さと闘真の殺戮衝動ばかりが余計目立って詰まらなくなって
しまった前巻と比べたら、2人の実力に引けを取らないレプトネーターとの激突で引き込
まれるるシーンはずっと多かったです。暗躍してたミネルヴァのアルファベットを冠した
メンバーも、なかなか敵役らしいえげつなさが良い味付けになってたかなと(スパイを謎
としてミステリーっぽく仕立ててるのはあの頃の名残だろうかと思ってしまった……)。
由宇のあからさまに意識しまくった闘真に対する感情は普段と掛け離れたギャップが眺
めていて凄く微笑ましいものでしたが、惹かれ合う姿も恋愛感情に似ているけれどそれと
はちょっと異質。由宇の驚異的な戦闘能力と闘真の押さえ切れなくなりつつある殺戮衝動
とが、お互い強者との死闘に恋焦がれるような想いで惹かれ合っているような感じ……か
なぁ? 今の所あまり直接会う接点がなさそうな麻耶を交えて初心な恋愛やって欲しい気
もするけど、由宇と闘真にはぞくぞくさせられるような殺し合いを描いて欲しい気も。
既刊感想:I
2004/01/30(金)Missing10 続・座敷童の物語
(刊行年月 H16.01)★★★★
[著者:甲田学人/イラスト:翠川しん/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
またえらいとこで幕引きしてくれましたな〜というのがほぼ全てです今回。いきなり全
部すっ飛ばしてラストシーンから感想に入りたかったのは、それだけ心に焼きついて突き
刺さったから。このシリーズの恐怖感は総じて生半可なものはないけれど、それさえも越
えてしまう衝撃が走りました。だって武巳と稜子が……! なんて、描写的に“恐怖”で
はないし、沈黙と静寂が支配している部分だから騒ぎ立てて感情移入するのは非常に間違
っている気もするのだけれど。何と言うか、本来ならお互いにとって凄く嬉しい筈のもの
なのに、これ程までに辛く痛々しく感じてしまうのが非常に切ないです。
しかしまあそこで終わってしまってるので、実際に2人がどんな心境にあるかというの
は詳しく描かれてはいませんが、少なくとも普段通りで素直に受け入れられる程に心穏や
かでは無い……と思うんだけど。それとも稜子の場合だと逆に吹っ切れてしまっているか
どうか。それにしても武巳クンは男を見せたね。最近徐々にこう上向き加減だったので注
目してたけど、もう今や完全に俊也を凌駕してしまっている様子だし。ただ、武巳・稜子
と空目達との距離が微妙に離れつつある予感もあるのでどうなるだろうかと。
今回は(もし次で終わればの前提で)完結編への中継ぎの位置。木村圭子という登場人
物の後始末、と表現したら酷い言い方と取られそうだけど実際そんな展開。自室を離れら
れない時点で既にああこれはヤバいヤバいな状況だったから、圭子にとっては辿るべくし
て辿った結末。ひたひたと迫り来る恐怖感の表現は相変わらずなうまさを感じさせてくれ
るもので、読んでて思わず後ろを振り向いてしまいましたよ何も無いのに。現実でも容易
に想像出来てしまえる描写ばかりなのがまた嫌らしい所なのです(誉め言葉で)。
あと残ってるのは結局今回は冒頭しか出て来なかった詠子の動向と、隠れ蓑を脱ぎ去っ
て表に出始めた小崎摩津方の狙い。そして最も気になっているのは、これもまだ残された
ままの亜紀が未だ抱えている秘密。儀式が完了しているのは絶対怪異の恐怖に晒されてし
まうと決定付けられたようなものだから、次で亜紀がどうなるかと考えると嫌な方にばか
り想像が行ってしまいますが、どう決着を付けてくれるのか期待してます。
既刊感想:1、2、3、4、5、6、7、8、9
2004/01/29(木)道士さまといっしょ
(刊行年月 H16.01)★★★☆
[著者:三雲岳斗/イラスト:兎塚エイジ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
特定の作家さんに抱いている作風みたいなイメージを勢いつけて覆されたら適度な驚き
と新鮮味が返って来た……そういう作品でした。あんまり数に手を出してるわけでもない
けれど、綿密な設定の数々を下地に敷いて物語の地盤固めをしている点とか妙にミステリ
ー仕立てに凝っている点とか、元々私の頭の中にあった作風ってのはそんな感じで。
それが本作みたくここまで徹底して登場キャラクターを最前列に押し出したアクション
コメディな雰囲気となると、何となく「どうしたんだろう?」と変に余計なお世話な心配
をしてしまったり、でも一方では「ほほぉ〜」と興味深い驚きもあったり。タイムトラベ
ルを盛り込みながらストーリーを組み立てている辺りだけを眺めてると、割といつも通り
なSF設定に見えるのだけれど。コメディ盛り込みな作風に慣れてないせいかあとがきで
結構苦労の跡が窺えるこの『三雲作品の新境地を見よ』な具合がなかなか面白い感触。
しかしまあ新境地開拓な試みが面白かったかな=物語も凄く面白かったですよ、と単純
計算出来ないのがまた微妙な所で。キャラクター同士の掛け合い――特に子憎たらしい主
人公と可愛げのないヒロインの突っ込み合いは、さすがにそういう描写に比重を置いてい
るだけあって読みながら楽しく笑えるシーンが多くて良かったです。それは流哉と映希だ
けでなく他の主要キャラにしても同様で、会話のノリや個性の立て方などからキャラクタ
ーに惹かれ、更に物語に浸れるような流れを作っている辺りはうまいなと思いました。
ただ、その……う〜ん、と腕組みしてちょっと首を傾けたくなったのは、『普通に』面
白くはあったけれど『凄く』までは行かなかったってとこかなぁ? 普通に無難でそれ故
にキャラで押す以外の印象と手応えが弱く感じられたりしてたので。
流哉のキャラ設定だとそっち方面に持っていくのが苦しいような気もするけれど、これ
がコメディではなくラブコメであったなら……それでも変わってたかどうかは分からない
けど。これラブコメを描いてはいないですよね。辛うじてラブ1:コメディ9くらいの割
合で、笑いだけが相当に走ってたような気がする。とりあえずお得意の“伏線張りまくり
で次に持ち越し”という仕掛けは殆どなくそれなりにスッキリした終り方だったので、あ
まり続編希望の声は出ませんでしたが、比較的軽い気持ちで次があれば読みたい作品。
2004/01/27(火)しにがみのバラッド。3
(刊行年月 H16.01)★★★☆
[著者:ハセガワケイスケ/イラスト:七草/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
このシリーズにおけるモモの存在価値は? 存在意義は? これまでも素通りしたくて
なかなか目を逸らせずにいた要素、今回読みながらその辺をちょっと強気に問い掛けてみ
たくなってしまいました。たとえ傍観者的立場であっても、あるいは目立たない地味な役
割であっても、そこに無くてはならない存在――もし居なくなってしまったら物語が成立
しない絶対的なポジションに佇んでいるのがモモという白いしにがみの少女。
こんなのは極めて個人的で勝手な憶測による決め付けでしかないけれども、きっとモモ
の魅力を最大限に引き出す使い方ってそういうものなんだろうな、と何となく漠然と思っ
てました。しかし今回大いに不安感が募ったのは、ただでさえ淡い粉雪のような儚い感触
だったモモの存在感が更に消えてしまいそうな弱々しい感触だった点。
モモの印象が「彼女抜きにしてこの物語は成り立たないよな〜」が「もしかして彼女居
なくても問題ない?」となってしまうと、彼女が要の物語としてはやっぱり拙いような気
もするわけで。本編でも毎回描かれているモモの短編でも、今回はこれまでに輪を掛けて
手探りかつ曖昧な表現がやけに目に付いて微妙な感じだったし。かと言って前面に押し出
し際立たせてしまうのもモモらしくなくて違和感抱きそうだし……改めて考えると難儀な
位置付けなのかなこれは。本編では死に直面する本人か深い関係にある人物が主人公なの
で傍観者に徹しているだけでも充分なんだけど、モモが主役の短編に関しては雰囲気重視
の誌的な描写だけで誤魔化さずに描くなら描くできちっと深い部分まで見せて欲しい。
今回の本編エピソード2編はこれまでみたいな死に直面した者のエピソードではなく、
その人物と深い絆を持つ少年とその少年の事が大好きな少女との初恋物語という趣。明ら
かに話の方向性が違って見えましたが、内容に関しては非常に心惹かれました。思春期特
有の好きな相手に向けられる感情(特に女の子の方の感情)がなんかもうむず痒くて擽っ
たくって堪らない。全体的に淡白で軽い文章表現も、こういう所では余計な描写をとこと
ん省いてるのがよく効いているなぁと感心させられてしまう。個人的にはやえっぺの乙女
ゴコロ剥き出しな感情が最も響きました。ふたつを繋ぐ仕掛けも効果的で良かったです。
既刊感想:1、2
2004/01/25(日)ゆらゆらと揺れる海の彼方
(刊行年月 H16.01)★★★☆
[著者:近藤信義/イラスト:えびね/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
このレーベルでは割と珍しいジャンル選択で挑んでるんじゃないかなと感じさせられた
英雄戦記ファンタジーストーリー。最も惹かれたのは登場人物達――とりわけ本編の会戦
を経てローデウェイクの英雄と謳われる事になるジュラの存在感にぐいぐいと。
どうしても複雑な生い立ちで卑下されてしまい、遠慮を知らない暴力染みた傍若無人な
性格で嫌悪され、そんな立ち振る舞いだから野性とも言える天才的な戦闘能力に対して羨
望よりも恐れと妬みの眼差しで見られてしまう。しかしそんな周囲の囁きや視線なんかに
全く意に介さない、どこか子供っぽい無邪気さを垣間見せる自由奔放な彼の生き様が活き
活きと描かれているのが実に良いです。異性よりも同性が惚れてしまいそうな奴かも。
ジュラの脇に立つロイスダール、カスパール、イーフェンも彼に負けないくらい過去に
も現在の己の立場にも性格にも一癖二癖ある奴らばかりで、彼らの描写も物語の面白さを
引き立てる方向に作用しているので好感度高し。そしてそれはローデウェイク領主として
民衆の上に立ちながら、自らに出来る知略を巡らせた戦いを演じたジュラの兄・ラシード
も勿論の事。どんな劣勢でも耐えて弟との絆を信じ待ち続ける姿も良いなと思う。
冥海という特殊設定なフィールドで、海獣(ラグナ)という生物に騎乗しながらの近隣
領地との会戦。戦力も部隊のまとまりも立てられた戦略も自軍ローデウェイクの方が圧倒
的不利な状況から、とある切っ掛けにより劇的な逆転勝利を収めるという展開は、お約束
含みながらもやはり読んでいて熱く高揚感溢れるもの。ただ、この終盤の反撃に転ずる辺
りからほとんど敵側(レオナルト)視点で語られていたのは少々残念。これはこれでレオ
ナルトの化けの皮が剥がれてゆくのはいい気味でしたが、出来れば最後までラシードやジ
ュラなどこちら側の視点中心で描いてくれてたらなという気持ちが強かったので。
ついでにもう一つな部分を挙げてみると、“冥海で戦う特殊性”が戦いの中ではあまり
感じられなかった点。要は文章中では陸地で戦ってるのとそれ程違いが得られなくて、も
うちょい「これは!?」と驚かされるか興味を引かせてくれるような違いを見せて欲しか
ったかなと。それからノウラの謎がそのままそっくり残されてしまっている点。これは彼
女表紙飾ってるから重要な位置付けと思い込んでたのに、ここまで見せてくれないとは良
くない意味で意表を突かれました……。まあ一巻完結と思ってたけれどそうでなかったの
にも意表を突かれた所で、不満点は次巻以降で一挙解決を果たしてくれますようにと。
2004/01/24(土)ガンズ・ハート 硝煙の誇り
(刊行年月 H16.01)★★★☆
[著者:鷹見一幸/イラスト:青色古都/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
銃と言えば、馴染みも興味も深くないから形状や種類とか突っ込んだ所まで語られると
段々とそこに関してだけは後ろから付いていけなくなりそうな、そんな印象。もっとも、
銃と聞いてふとそんなのが頭に浮かんだだけで、この物語がそこまでマニアック剥き出し
という事ではなくて。よくありそうなリボルバーかオートマチックを連想してたら、主流
は単発弾込め詰め替え――つまり連射が利かないというのがイメージ外した点。弾丸ぶっ
放すより人も獣も銃身でぶっ叩いて戦う方が何となく面白そうで一杯見たかったかも。
そんな雰囲気で、銃が戦う手段の主戦力となっている世界の物語ながら、火薬の匂いが
濃密に煙っていそうで実はあまり煙っていなさそうな微妙な手応え。ケリンはどちらかと
言えば銃の扱いのセンスよりも、大好きな喧嘩っ早さの格闘術に対してセンスを感じてし
まい、それ故の上記の“銃身でぶっ叩く戦い”が見たいという気持ちに繋がっていたり。
今回はキャラクターにしてもストーリーにしても各種設定にしても、今後へ向けての下
地固めな印象が強い。所謂助走段階というやつで、もう少しここを重点的に見せて欲しか
ったとかあそこの描写が少々弱くて物足らないとか、そういうのが結構ありました。
特にどの要素がと絞るとキャラクターになるのかな? ストーリーに沿ったキャラクタ
ーの行動に伴う感情的な部分がもう一つ軽いと言うのか響かなくて。立場として結構劇的
な変化を遂げてたケリンや相棒のD.Dに対しても、あまり感情的な面では感じ入る事が
出来なかったかなと。それが性格と割り切ってしまえば引っ掛かりを覚える程のものでも
ないんだけれど……キャラが多いので1人1人が薄まってしまったような感じで。
ただ、硝煙の匂いが色濃く立ち込め銃撃戦が激化し、それに釣られてキャラクターのテ
ンションが上がる予感は次巻以降に持ち越されている展開なので、続きが楽しみな気持ち
は大きく膨らんでます(あんな所で“次巻へ続く”な幕引きがされている事だし)。
2004/01/22(木)銀河観光旅館 宙の湯へいらっしゃ〜い6
(刊行年月 H16.01)★★★
[著者:あらいりゅうじ/イラスト:みさくらなんこつ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
現実にはあんまり有り得なさそうな、高校3年の冬休みのクリスマスを含めた5日間の
修学旅行イベント。いくら修学旅行とは言え、そしていくら受験の息抜きを目的としても、
学校行事を冬休みのしかもクリスマスに入れるとはなかなか無茶な事を。物語の世界だか
ら一々指摘して突っ込むものでもないかなと思いつつ、この日程に対して生徒達から不満
や反対意見は出なかったんだろうかと余計な事を考えてしまう。とりあえず三助とルカ、
夕子にサエコに三助のクラスメートは不満も抱かずイベントを満喫していたようですが。
このままだら〜っと流れてゆくのか? そろそろ締めに入るのか? 前巻辺りからそろ
っと気になり始めてましたが、どうやら正解は後者だったようで次巻が最終巻。
しかしこの流れは急転直下を通り越してあまりに唐突。今回のエピローグに宙の湯の試
験営業期限が迫っている事実が三助とルカに突き付けられるなら、南国リゾートでの宝探
しエピソードにあまり意味があったようには感じられなくて。むしろ試験営業期限が近付
いているせいで抱える焦燥感や寂寥感みたいなものを、宙の湯で従業員たちとの営業の中
でこそ見せて欲しかったのに……。ただ、そういう展開での宙の湯関連のエピソードは最
終巻でやりそうな予感もあるので、まだ完全に切れてしまったわけではないけれど。
それにしても相変わらず三助・ルカ・夕子の三角関係が発展してくれない、と言うより
結局ここまで来てしまったらもう発展させる気は無いんだろうなと。恋愛感情より友情・
仲間・友達意識の方が先に立ち、ラブコメディが単なるコメディと化してしまっているの
でどうしようもない。たとえお約束でも、この相関関係で恋愛模様を展開させないのは勿
体無いないと思うんだけれど。だからもう宙の湯でのアットホームな雰囲気しか楽しむべ
き要素が見出せなくて。せめて最終巻だけでも、今回唯一良かった番外編の三助とルカの
ような雰囲気から物語に惹き込ませる……そんな見せ場を用意して唸らせて欲しい。
既刊感想:1、2、3、4、5
2004/01/21(水)Little Birds Fly
(刊行年月 H16.01)★★★☆
[著者:円山夢久/イラスト:小栗るみ/メディアワークス 電撃文庫]→【bk1】
高校時代は5段階成績でオール4、平均80点(そこそこ)な生き方の殻を破りたくて
専門学校へ進むもなかなか壁を越えられずに空を仰ぐばかり。ええと、それは凡人からし
たら凄く贅沢な悩みなのではないですか? オール4&平均80点ってそこそこじゃなく
て凄く出来るの言い間違いでは? とは主人公・和田修身の気持ちに触れて思った事。
しかし修身みたいな万能型は、他に誰にも負けないと自負するだけの突出した“何か”
を有する相手に対しその唯一点に掛けては決して太刀打ち出来ない。それをよく理解して
いる上で誰かに向けられる羨望の眼差しと、自分自身の中から解き放てない迷いや葛藤が
修身の感情としてしっかり表現されているから、平均80点でさえ満足出来ないと言い放
つ彼の姿勢にも嫌味なく好感を抱ける。性格としてはやや生真面目で固い所もあるけれど、
何に対しても一生懸命さと向上心が窺え、平均値の殻を破ろうと日々努力を積み重ねる姿
勢が実に良い感じで描かれているなと。そういう修身を眺めていると贔屓目で応援したく
なってしまう。彼が想いを寄せる睦月との関係が少しでも進展して欲しい、とか。
本編は死者の怨霊<ゴースト>を鎮める退魔師的存在<バード>の養成学校が主な舞台の現
代ストーリー。とにかく目を引いたのがバードの設定。歌<シンガー>と踊り<ダンサー>で
ゴーストを消滅(昇化)させるという所を、現代世界の中に放り込んでるのがなかなか興
味深くて面白いアイディアだと思いました。惜しいのはバード予備軍の少年少女達が中心
な為、歌と踊りでゴーストと本格的に対峙するアクション的な要素が無かった点。
もっとも本来はそれより凶悪なゴーストが人間に憑依した<パラサイト>と戦っていたわ
けで、どちらかと言えば肉体を駆使した動作よりも修身が心理的な面から必死でアプロー
チを掛けようとする描写は、なかなかに見応えあるもの。ネタバレになるのであまり抵触
出来ないけれど、そこには修身の想いが充分に乗せられていたからよく響いて来ました。
以下はもう一歩だった注文。修身のキャラクターは非常にうまく描けていたのと比べて、
更紗の方は存在感あっても何故が作中での印象が随分と弱かったので、もっと自己主張し
てくれてたらなと。立ち位置からライバル同士で2人が主人公と想像してたから余計に。
それからエピローグがあっさりしていた点。どこかスッキリしない。せめて事件が解決
した後に修身と更紗が向き合うとか、そこに睦月が加わって何かしらの会話シーンを加え
るとかの余韻を残せていたら、もっと読了時の満足感を得られていたと思いました。
これは続きが出るかは激しく微妙じゃないだろか? でも読みたいので希望です。
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