NOVEL REVIEW
<2005年11月[中盤]>
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11/20 『青春時計』 著者:森橋ビンゴ・川上亮・緋野莉月/富士見ミステリー文庫
11/19 『熾天使たちの5分後』 著者:木ノ歌詠/富士見ミステリー文庫
11/18 『空ノ鐘の響く惑星で8』 著者:渡瀬草一郎/電撃文庫
11/16 『ある日、爆弾がおちてきて』 著者:古橋秀之/電撃文庫
11/15 『彼女は帰星子女』 著者:上野遊/電撃文庫
11/13 『インサイド・ワールド』 著者:周防ツカサ/電撃文庫
11/11 『世界の中心、針山さん』 著者:成田良悟/電撃文庫
11/11 『アスラクライン2 夜とUMAとDカップ』 著者:三雲岳斗/電撃文庫


2005/11/20(日)青春時計

(刊行年月 H17.11)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:森橋ビンゴ・川上亮・緋野莉月/イラスト:櫛衣けい                   /富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】    もうまさにど真ん中ストレートで直球勝負の『青春!』って感じの物語。年上への憧 れ、初恋、淡い恋心、一目惚れ、親友同士で同じ人を好きになってしまった……あ〜も 〜これら全てのキーワードに心を打ち抜かれました。まあこういう内容なので、多分同 世代の読者の方が感じるものは大きい気はします。私の場合当然現在進行形なんかじゃ なくて懐古回想系なもんだから、頭に浮かぶのはその頃の懐かしさばかりでした。  それからこの物語の大きな見所で、聖司、駿介、慧の三人の同時間軸上の想いを三著 者が別々に担当する共著の形で描かれている、というものがあります。あの時、聖司視 点で見えなかった駿介は、そして慧は何を考え何を思っていたのか? それが駿介の時 は? また慧の時は? これを一人の著者ではなく三人でやっているのが面白い。  担当したキャラクターによる所もあるかも知れませんが、極端な差異ではないけれど やっぱりそれぞれで描き方が微妙に違うなと感じる部分はあります。また同時間軸で描 かれていながら全く同じ道を辿るのではなく、聖司パートで分からなかった所は駿介で、 更に駿介パートでも見えなかった所は慧パートで、と微妙に描くポイントをずらしてい るバランス配分が実に見事。だから同じ展開を辿る度に違う発見があるのですよね。  個人的には慧のエピソードが一番好き。物語の纏め役であり、分量も他の二人より多 いので、多少有利な面はあるのかな? でも、聖司と駿介が抱いていた慧のイメージと 彼女視点で描かれた事実のギャップが凄くて、そこが印象に残ったのは確かな事。 2005/11/19(土)熾天使たちの5分後
(刊行年月 H17.11)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:木ノ歌詠/イラスト:六羽田共/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【
bk1】    生活能力が壊滅レベルの姉と母を健気に養う、兼業主夫であり主人公でもある春幡知 路の日々の苦労を綴った涙ぐましい物語……というのほほんな側面もありますが。主軸 は過去に命を救われた少女型生体兵器《セラフィム》・佳撫との記憶と、容姿の瓜二つ な別人・御守通夜との出逢いと、この二つの事柄が知路の中で交錯してゆく辺り。  読んでいて色々と面白い要素はありましたが、とりわけ印象に残ったのは《セラフィ ム》の設定周りや終盤まで隠されていた通夜関連の種明かしなど。通夜の事で気になっ ていたのは知路の過去との関わりと、彼女が《セラフィム》であるか否か、この二点だ けでずーっと引っ張り続けて貰えていて、面白さも最後まで衰えず失速せずでした。瀬 菜との戦いの最中で通夜の謎が一気に明かされてゆくテンポも絶妙で良かったです。  ただちょっと惜しいと感じたのは、瀬菜が本格的に絡んで来るのが大分後だったせい か、終盤の収束が少々駆け足気味と思わされた事。前半部分を存分に使っての姉や母や 望奈美やクラスメートとのやり取りは楽しかったし、知路と通夜の触れ合いもきちっと 描かれていたのだけど、そこにもっと瀬菜も深く食い込ませて欲しかったなと。  しかしながら。タイトルにもある“5分後”の意味、“通夜”と付けられた名前の意 味、通夜が機能停止した時に起こっていた事、そして知路と過去に出逢った佳撫と通夜 との関係……これらを理解した時、些細な不満なんて全部吹っ飛んでしまいました。 2005/11/18(金)空ノ鐘の響く惑星で8
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:渡瀬草一郎/イラスト:岩崎美奈子/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】   「ウルクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」  はぁはぁ……毎度同じように叫びを入れたくなる内容だけど。既に読了してる人が多 そうですが一応ネタバレ反転で……今度は嬉しい悲鳴ってやつです。正直言うとウルク の回復は相当困難なものと感じていたので、もっと先まで引っ張るものと思い、またそ うして欲しいとも思っていました。まあ引けば引くだけ復帰が劇的なものになるかな〜、 なんて気持ちもあったので。でも、それより何より「これだけ苦しんだんだからもう解 放してあげてもいいじゃないか!」という思いの方がやっぱり強くて。ラストシーンの フェリオからの抱擁、そして自らの行為に苦しみ続けたシアの傷付いた心を解放すべく 優しく抱き寄せるウルク、これだけでもう些細な事など全て吹っ飛んでしまいました。  今回のメインは、これまでのフォルナム神殿の死闘とほぼ同時間軸で進行していたが 故に後回しにされていた、アルセイフ対タートムの国境攻防集団戦。ベルナルフォンを 中心としたアルセイフ軍、シズヤ達の思惑を知りつつ共闘に引き込んだカルバイを中心 としたタートム軍、双方共に内部事情の描き方は充分、偏りもなくバランスの取れた盛 り込み具合で良かったです。これだけ多数のキャラが登場していても、誰一人として無 駄を出さないキャラクター描写は相変わらず見事。特にこの国境戦で初登場の男達―― バロッサ、カルバイ、モーフィス等は本当に魅力的に描かれているなと思いました。  フォルナム神殿と国境でのタートム戦、どちらも一応の決着で次はアルセイフから遠 く離れたラトロアへと物語は動いてゆくのか? まだ実は各方面ともに何も事態が解決 していないので、この世界の混乱が何処へ向かい何をもたらすのか予測がつかない。  既刊感想: 2005/11/16(水)ある日、爆弾がおちてきて
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:古橋秀之/イラスト:緋賀ゆかり/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】    電撃hpで掲載されたものを纏めた短編集。普通の男の子と不思議な女の子のボーイ ・ミーツ・ガール、それから『時間』をテーマとした両者の対比、この辺りは全てのエ ピソードで同じように盛り込まれています。と、こんな風に大まかな設定は似たり寄っ たりなんだけど、よくこれだけ時間経過のアイディアとバリエーションの広がりを出せ るなぁと唸らされました。色々仕掛けが施せるのも短編ならではと言えるのかも知れな いけれど、どのエピソードにも強烈な個性があるから全てがしっかり印象に残る。  短編集の時によくやる“一番面白かったエピソード”の選択、この作品は良い意味で 選ぶのが物凄く困難。だって七編全部が当たりなんだもん。手応え充分で甲乙付け難い ってのは読んでいる側としては嬉しい事だなと噛み締めつつ、パッと頭に浮かんだのは 『トトカミじゃ』と『三時間目のまどか』。多分結末が好みだったからだろうな〜と思 うのですが、前者は“死して辿り着いた居場所”、後者は“変える事の出来た未来”な んて部分に惹かれました。まあ明確なハッピーエンドってのはやっぱり好きなので。 2005/11/15(火)彼女は帰星子女
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:上野遊/イラスト:あかざ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】    宇宙人と地球人のハーフな少女と出逢い頭で衝突したのが平穏の終わりで運の尽き、 偶然のお約束が二人を繋ぐ切っ掛けとなるボーイ・ミーツ・ガール+ちょっとだけ三角 関係もあるよ、なストーリー。むうう、これって最初からシリーズ展開を考慮しての構 成だったのか? 何か「面白い」と言葉が出る前に終わってしまったのだけど……。  望と絹の関係の描き方は触れ合い近付いてゆくものではなくて、擦れ違って離れて取 り返しが付かなくなる寸前までを重視しているから、まだ現時点で恋愛感情を意識する までには至っていないのですよね。そういうのを期待してた部分があったので、少々物 足りなく感じてしまったのかも知れない。三角関係の方も、あまりキャラクターの掘り 下げをしてない内に仕掛けているもんだから、主に穂高の敵意剥き出しな突っ走りぶり は少々唐突な印象だった。もう少し過去にどれだけ望と付き合いがあったのかとか、別 離と再会を経験したらしき経緯など、その辺りを盛り込んで欲しかったかなと。  慣れない異世界で気持ちを明かせる人が誰もおらず身近な望にも頼る事を拒む絹と、 理屈で固めて自分の保身優先に物事を考え絹を正面から見ようとしない望と。どっちも どっちで分かり合えない原因を抱えていて、より強固な結び付きを得る為の二人の衝突 や擦れ違いの様子などは、やっぱり重点的に描かれているだけあって結構良かった。  あとは今回ラストで辿り着いたスタートラインから色々発展させてくれたら……まあ 続刊待つしかないわけですが。続けられる内容だとは思うんだけど、どうだろう? 2005/11/13(日)インサイド・ワールド
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:周防ツカサ/イラスト:森倉円/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】    第5回電撃hp短編小説賞《大賞》受賞作。  受賞した第一話を引き伸ばして他のエピソードと関連付けて一冊の物語に纏めた、と いう印象でした。一話ずつ単体で見ると凄く雰囲気が綺麗で好みな物語だな〜と思った のですが、三つのエピソードでのキャラクター同士の重なり合いとすれ違いと、最後に 全ての関係を収束させる部分がもう一つな手応えだった。原因は何だろうか? と考え て、多分本当にすれ違う程度の薄さでしか各エピソードのキャラクター達の関連性が描 かれなかったから物足りないと感じたのかも。春名姉妹と椎崎兄弟が少々入り組んだ関 係なので、“僕”と陽子を含めての相関関係の複雑さを読んでみたかったかなと。  ただ、まあ好きなんです。世間で普通と呼ばれる道を外れた中高生のうじうじぐだぐ だ悩んだり焦ったり葛藤したりする話って。特に好きなの一つ選ぶとしたらやっぱり受 賞作の一話目。地球消滅の危機なんて重要そうな要素は結構どうでも良くて、自分の殻 に篭って周囲と関わろうとしない少年と少女の地味なやり取り――傍から見たら全然目 立たなくて、でも当の本人達だけはお互いを無視出来ない雰囲気がいいな〜と思う。  そしてこの第一話があって、より正確に言うと春名希優の存在があって初めて三話目 のエピソードが映える。これは途中でおかしいなと思ったけれど、結局バラされるまで 気付ずでちょっと悔しい……。でも希優がそうでないと知って何となくホッとした。 2005/11/11(金)世界の中心、針山さん
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:成田良悟/イラスト:ヤスダスズヒト&エナミカツミ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】    電撃hpで掲載された「針山真吉さん」が平凡な名脇役となって関わる全く異なる三 つの事件に、それらを文字通り“纏め上げた”書下ろしを含んだ短編連作。読了して気 になったのは、最初から書き下ろしで収束させる構想があったのだろうか? と。まあ 些細な思い付きなだけで、どっちにしても「上手いな〜面白いな〜楽しいな〜凄いな〜」 がくっ付いたでしょうけど。特に表と裏の異なる視点から構成の妙を紡ぎ出す上手さで 著者の成田氏の作品に惹かれた身としては、『としれじぇ』が一番面白かった。  キャラクターの印象の方ではやっぱり針山さん……が最も地味だった。いや、全ての 事件に関わっていた事を知っている読み手側から見れば常に目に付いていた、と言える のかも知れないけれど。彼が様々な事件の中心に立つ、事件が彼を軸に展開しているの か……一体針山さんって何者? 興味が湧いたらその心境は口絵の新聞記者と一緒では ないかと思う。たった三つの事件と一つの収束だけでは全く掴めなかったのが本音。  じゃあ針山さんと彼の家族を重点的に描いて欲しいかと問われたら、きっと「描いて 欲しくない」と答えます。だって、針山さんが目立ってしまったらそれは全く違う物語 になってしまうから。家族構成は明かされているので気になると言えば気になるんだけ どねぇ(奥さんや娘さん息子さんも地味に事件に関わったりするんだろうか?)  針山さん以外で個人的に好きなキャラはマヤと将馬の二人。異常なまでに異常に満ち た異常な世界で、たった一つの正常な絆を得る為に戦い続けた二人の存在感に凄く惹か れました。戦いは終わらず、でも抱き締め合う幸せは掴めた結末。良かったです。 2005/11/11(金)アスラクライン2 夜とUMAとDカップ
(刊行年月 2005.10)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:三雲岳斗/イラスト:和狸ナオ/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】    予想してたのと実際描かれていた内容との違い――前巻は学園ラブコメかと思ってた らシリアス調で謎含みでロボットアクション風味な展開、今回はシリアス展開の伏線張 りまくりの謎更にてんこ盛りのロボット対決で燃え燃え! とか勝手に想像してたら実 は学園ラブコメと言うオチでした〜。何か前巻で色々思わせ振りに語ったり隠したりし てたモンは一体何処へ? 結局予想と実際の方向が違ってたのは一緒なんだけどね。  智春に“機巧魔神”を託した兄の事は大して触れられなかったし、“二巡目の世界” についてなんて「それ何だっけ?」と既に再度説明求めなきゃならん程曖昧になってい る=今回殆どそれに関するものが描かれなかったという事。いや、本当にどんな意味だ ったっけ? 今回の内容が内容だっただけに余計頭の中から離れて行ってしまったぞ。  でも、まあ別にこのラブコメ展開が嫌いな訳でもないんだけど、落差が大きくて一体 どの方向に物語を持って行きたいのかよく分からん、ってのがあったりで(今回の主な 目的は“合宿で親睦を深めてキャラクターの掘り下げ”と捉えておけばいいのか)。  智春は異性への気持ちを悶々と自分の中に溜め込んでしまうタイプにしか見えないせ いか、妙に煮え切らなさが目立ってしょうがない。こう正面見ないでのらりくらりと避 けているような……。奏の気持ちも操緒の嫉妬の理由も多分気付いているように見える から、ただの鈍感野郎ではないと思うんだけど。佐伯妹も智春に気がありそうな雰囲気 ながら、この消極的な一人称では盛り上がれそうにないかなぁ。せめて巻き込まれっ放 しでよくわかんね〜ど〜でもいいや〜的なノリだけは脱却して奮起してくれ智春よ。  既刊感想:


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