NOVEL REVIEW
<2004年03月[後半]>
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03/31 『学校を出よう!4 Final Destination』 著者:谷川流/電撃文庫
03/30 『アリソンIII<上> ルトニを車窓から』 著者:時雨沢恵一/電撃文庫
03/26 『海辺のウサギ』 著者:鈴木鈴/電撃文庫
03/23 『撲殺天使ドクロちゃん3』 著者:おかゆまさき/電撃文庫
03/21 『ダーク・バイオレッツ7 神の書物』 著者:三上延/電撃文庫


2004/03/31(水)学校を出よう!4 Final Destination

(刊行年月 H16.03)★★★★ [著者:谷川流/イラスト:蒼魚真青/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  これまでの蓄積が微妙に噛み合いつつ、この物語の歯車が本当の意味で音を立てて回転 し始めたような感触。ただ、今回最低でも256以上の数字で提示された並行世界が存在 し得る設定、そして一定の距離で隣り合い普通なら絶対交わる事がない時間軸の違う並行 世界間の移動を限定的で実現させている事実などが、今後どんな風に影響して行くのかは まるで見当も付かない。それでもこれから進むべき展開に対する選択肢の幅は、予定範囲 内よりも予想範囲外の方向でかなり広がってしまったんじゃないでしょうか。  つまり何が起こる分からなくて何が起こっても不思議じゃなくて、そう自然と強く意識 して思わせるような今回のストーリーの導き方はなかなかお見事でした。まあ現時点で不 確定要素過多なもんで、それが良い方向に作用する場合もあれば却って仇となり良くない 方向へ作用する場合もありそう。次に何を持って来るか甚だ見通しの利かないシリーズと いうような感じだと、謎とされている部分に意味の通らない不安感を抱いてしまう事って 確かに多いんだけれど、それ以上に果たして次は誰の背中を押して何を仕掛けてくれるの だろうか? そういった所で楽しみと期待感を存分に抱けるのがこの物語の強味かなと。  私が今回の中身で一番嬉しかったと小躍りして喜んだのは、番外編としか言いようの無 かった2巻目の事を蔑ろにせずしっかり絡めてくれていた点。もっと正確に言えば、単純 に2巻の“彼女”がちょっとだけ再登場した事が嬉しかっただけと言い切ってしまう。  この並行世界間移動なる要素が明確にストーリーの中に投げ込まれた事で、現在の茉衣 子達が地に足つけてるこの世界に何かしらの変化が生じて来るのかも知れないし、あるい は全くどうでもいいように何事も起こらなくても不思議じゃない。考えてみるとこの結構 な曖昧さは厄介で難儀なシステムか。それもまた面白さへと容易に変換出来るんだけど。  内容に関しては、もう茉衣子と宮野のいちゃつきっぷり(とてもそうは見えないし実際 そんな関係としては描かれてないけれど)にご馳走様でしたと言う以外に言葉が見当たら ないですよ? 相変わらず宮野の違う世界の台詞の数々に頭痛くなりましたが、巻数を重 ねる度に2人の名コンビが強調され続けているのは非常に良い傾向なのではないでしょう か。そこを読んでるだけでも楽しいし、次以降も是非主戦力として活躍して欲しい。  終わる寸前で衝撃的を受けたラストの一行。ひょっとして別世界の“彼女”として再登 場の可能性もありですか? この不意打ち的な余韻がどう影響するのかも凄く気になる。  既刊感想: 2004/03/30(火)アリソンIII<上> ルトニを車窓から
(刊行年月 H16.03)★★★☆ [著者:時雨沢恵一/イラスト:黒星紅白/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  完結編のまずは上巻。かなりの割合で謎や気になるあれやそれやの部分が最終巻へ持ち 越しとなっているような手応えなので、上巻だけでのストーリーの乗り心地がやや微妙な のは仕方なしでしょうかね。痒い場所に手を伸ばそうとすると遠ざかってしまうというの か、結構色々と引っ掛かる描写の数々にもどかしい思いさせられてました。  その辺の多くは特に最も重要な鍵を握っていそうなストーク少佐の隠れた際の言動に対 してですが、確かに表面上はベネディクトへ向けて黒い感情を剥き出しにしていながらも、 果たしてそのままストレートな殺意に繋がっているのかどうか。アリソンとも何やら浅か らぬ因縁が見え隠れしているしようだし、まだまだ複雑な裏側がありそうな予感。  おしとやかで可愛らしいと表現出来る彼女の姿は凄く新鮮でイイ! と表紙では見違え たアリソンも、中身はやっぱり今までと変わらず凛々しく勇ましい姿でした。ただしヴィ ルへのアプローチはこれまでに輪を掛けて積極的。いや本当に微笑ましい以上に涙ぐまし いまでの彼女の行動力を称えるべきで、あとはもうここまでやって全く意識する素振りを 見せないヴィルの鈍感さを嘆くしかない。距離が近過ぎるのも嬉しいばかりじゃないのだ ろうけど、それでも気付かずマイペースなのはヴィルらしいと言えば実に彼らしい。  しかし、こんなんでよくプロローグ前の関係まで持って行けたなぁと感心する事しきり ですよ。なんかアリソンが強引にどーにかこーにかヴィルをその気にさせて、そこに漕ぎ 付けるまでの姿が容易に想像出来てしまう。次で是非とも詳細を知りたいとこですが、そ の冒頭で語られていたぶったまげなとある事実にしても、一体現行のストーリーとどんな 絡みがあるのか気になってしょうがない。要は後引くもどかしさが多量に存在しているか ら、今回が活きるか否かは全ては下巻の展開次第というわけで。願わくば気持ち良く終わ って欲しいしそうなると信じてはいるけれど、一応油断はしないで最終巻に期待。  既刊感想:II 2004/03/23(火)撲殺天使ドクロちゃん3
(刊行年月 H16.03)★★★★ [著者:おかゆまさき/イラスト:とりしも/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  これまでの経験を振り返りながら、どうしても「一体どこら辺がネタなんだ?」と気合 入れまくりで探さずにはいられない脳味噌破壊系ギャグコメディ3巻目。今回最もネタっ ぽく感じたのは最後の“★撲殺天使ドクロちゃん 完★”というやつ。このラストなら適 当に無かった事にして続けられそうだし(ドクロちゃんなら本当にやりかねない)、あと がきで全くそれらしい事に触れていない所からしていかにもクサいですが、しかし万が一 本気だとしても絶頂期の内に潔く幕引きするのもそれはそれでいいのかも知れない。  ただ、最近発売された電撃hpSPのドクロちゃん特集の短編はまだ文庫収録されてな いのと、前に妹の人が電撃hpに直筆で休載の謝罪とかやってたのとで、まだまだ続けて 書く気満々のような気もする。いや、まあ本音は凄く気軽にどっちでもいいんですけど、 もし『続・撲殺天使ドクロちゃん』とか『帰って来た撲殺天使ドクロちゃん』なんてタイ トルを引っ下げて戻って来たら爆笑と拍手喝采で受け入れたいですよ(何事も無かったか のように4巻目として刊行される可能性も有り得そうでもう予想つかない)。  いつもの如くノリと勢いだけで突っ走ってるので、あまり内容に関して触れるべき点も ないのですが、桜くんの色んな意味での痛々しさとか靜希ちゃんへの妄想癖などが2〜3 割程アップしていたかなぁと感じられた辺りには結構笑わされてました。ドクロちゃんに 撲殺される以外で、一人交換日記とか一人ペンフレンドとか……イタ過ぎるよ桜くん。  一番衝撃が走ったのはとにかく最終話。そのキレっぷりに読んでいて頭おかしくなりそ うでしたが、お行儀の良いドクロちゃんが実に新鮮だったり、文章媒体らしい“字体間違 い”のテクニックを使ってまたもや「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」の擬音を弄ったネタで 笑いを誘ってくれたりとかで、思ってたより印象に残るシーンが多くて楽しかった。  文章は決してうまいとは言えないんだけれど、イコール詰まらないとはならない。普通 に進んでいると油断させておきながら、不意打ち喰らわすように読み手をコケさせるタイ ミングを計るのがなかなかうまいですよね。この独特の世界が本当に今回限りで終わって しまうのか? それとも続いてしまうのか? もしくは意表を突いて新シリーズ『びんか んサラリーマン』でも始まるのか? ちょっと楽しみにしながら次回作を待ってみたい。  既刊感想: 2004/03/21(日)ダーク・バイオレッツ7 神の書物
(刊行年月 H16.03)★★★★☆ [著者:三上延/イラスト:GASHIN/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  この世ならざる存在『常世の怪物』を退ける力を持つ『紫の者』の末裔達と、彼らが住 む神岡町を常世の闇で覆い尽くそうとする影取との死闘の結末。劣勢からほとんど絶望的 な状況へと追い込まれ、本当に最後の最後まで幸福な未来は描けないんじゃないだろうか と思わされ続けていました。特にこの最終巻、どこを開いても常に誰もが全く余裕を抱け ない程崖っぷちに立たされているので、もう何時何処で糸が切れて破綻してしまってもお かしくなくて、きっと最後は苦難を越えて幸福を掴めるだろうと願っていても少し進む度 に挫けそうになったり……。ただ、そんな展開だからこそか恐々ながら先を知りたい欲求 は強く、ここへ来てぐいぐい惹き込んでくれる盛り上がりは素晴らしかったです。  重要部分に触れようとすると、どうしても前巻に引き続いての大きなネタバレに抵触し てしまうので以下反転。どの部分を指しているかと言えば、柊美が意識不明に陥ってしま った事。何せその柊美を救う手段を求め、明良と千紗が奔走する所が前半〜中盤のメイン として描かれているので。この辺りは山内栄一との邂逅や拉致された柊美の救出や影取を 討つ為の準備段階みたいなものなので、盛り上がりとしてもまだ点火前の状態。  私が本当にラストまで止まらない一気の加速と高揚感を得られたのは、おそらく『赤い 本』を使用して柊美を救いながらも影取を討ち損ねてしまった辺りから。後はもう止まら なかったですね。皆が自分に出来る事を精一杯の勇気と行動で示し、次々と闇に取り込ま れながらも、最後は満身創痍で文字通り一丸となってたったひとつの大きな目的を成し遂 げる彼らの姿がもう堪らなく良くて、魅入られっ放しで言葉を失ってしまいました。  終盤での明良と柊美がベッドの中で抱き合いながら言葉を交わすシーンとかは「あ〜も 〜いいなぁちくしょう!」なんて身悶えしながら眺めてました。この時は不思議と前巻み たいな悲愴感漂うものではなくて、勿論最後の戦いに赴く前の決意と覚悟はありましたが、 しれよりも優しさに包まれた穏やかな安心感の方がずっと大きかったです。  岬や岡内など消えゆく人達の描写は大抵“死”ではなく“消失”だったので、事がうま く運べば元に戻るという予感はありましたが、改めてホッとしたのはエピローグを迎えた 時。柊美については決して手放しで喜べるような結末ではなかったけれど、考えうる限り 最も自然で無理のない未来への希望を持たせた最高のエンディング。夢の中で道蔵が明良 の背中を押してくれたように、きっといずれ柊美の背中も菊乃が押してくれる筈……。  シリーズを追い掛けて来て、全てを読了した最後に本当に心の底から良かったと思わせ てくれた物語。ありがとうございました。既に執筆が進んでいる次回作も期待してます。  既刊感想:


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