NOVEL REVIEW
<2004年11月[中盤]>
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11/20 『ルナティック・ムーンIV』 著者:藤原祐/電撃文庫
11/19 『ヒトクイ』 著者:御堂彰彦/電撃文庫
11/17 『先輩とぼく3』 著者:沖田雅/電撃文庫
11/15 『Hyper Hybrid Organization00−02 襲撃者』 著者:高畑京一郎/電撃文庫
11/15 『ルーン・ブレイダー!2』 著者:神野淳一/電撃文庫
11/12 『殿様気分でHAPPY!3』 著者:杉原智則/電撃文庫


2004/11/20(土)ルナティック・ムーンIV

(刊行年月 2004.11)★★★☆ [著者:藤原祐/イラスト:椋本夏夜/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  次巻完結へ向けてのラストスパート。これまで謎が数多く残されていたのに、今回は急 転直下で怒涛の如く謎という謎の殆どを明かしまくり。もうちょっと緩やかにいこうよ〜 って返したくなるくらい、頭で整理付かないまま次から次へと情報の波が押し寄せて来る ような展開でした。しかしながらこれはこれでなかなか良好な手応えの読書感覚。  個人的には毎回大なり小なり一巻分の物語の構成に難色を示していた部分があったから、 それと比較して今回は多少強引でも一気に謎を紐解く事でストーリーをぐいぐい押しまく る牽引力が充分に感じられたので、ずっと良くなっていたと思う。所々にこっち側おいて けぼりで何となく著者自身が悦に入ってるような浸ってるような酔っているような表現が あったり無かったり……ま、こういうのにも割とよく引っ掛かりを覚えたりしてるので結 構慣れましたが。分量的には確かな手応えだったのだけれど、やっぱりちょっと詰め込み 気味と感じたので、重要な部分は一つ一つじっくり描いて欲しかったような気もする。  核心に触れる部分が妙に難解な描写で理解して叩き込むのに少々頭が痛かったりしまし たが、分からなくてもやもやしていたのは大分スッキリして視界も開けた。世界を崩壊に 導いた『混乱』の真相と、『混乱』以後の稀存種・変異種・純血種・ケモノの成り立ちの 真実と、エデンの真の目的と、エデンを裏切ったロイドの目的と、ルナとシオンが進むべ き道と。これだけのものが一冊に凝縮されているので、前述のように詰め込みな所もある し、逆に勢いを付けて読み手を引っ張る所もあるし、ここら辺は微妙な感触ですね。  あと把握し切れていないもので残されているのは、未だに読み難いフィオナとカロマイ ンの思考が果たして何処を向いているのか、それからイユの扱いなど。きちっと終わらせ てくれる気概はしっかりと伝わっているので、期待しつつ最終巻を待ちたいです。  既刊感想:IIIII 2004/11/19(金)ヒトクイ
(刊行年月 2004.11)★★★☆ [著者:御堂彰彦/イラスト:もりそばん/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  人間を喰う”という本能を内包しつつ、しかしながら人間と共存する為、『組織』に 管理され人間を喰う事を固く戒められている『ヒトクイ』達の物語。発端は過去に起こっ たとある事故で極限状態の飢餓に陥ったヒトクイの主人公・倖一が、同じく事故に巻き込 まれた恋人を喰ってしまった事。意図的に避け続け逃げ続けていても、結局は拭い切れな い“恋人を喰った”という倖一の中にある事実と、それによって未だに苦悩と葛藤と激痛 を吐き続ける心と。良かったと思えたのはこの倖一の心理描写で、瞳と出逢った事を切っ 掛けに更に痛みを伴う過去を思い返さなければならない事態に追い込まれてゆく――そん なぐちゃぐちゃに乱れながらそれでも答えを求めてゆく彼の感情が実に印象的でした。  ただ、手放しで喜べそうな良さってのは倖一の感情面の描き方が殆どで、全体的に眺め てみると少々手応えが物足りないなというのがあったかなと。まず物語の組み立てについ て、追われて追って、逃げ延びたつもりが発見されてまた追われて追って……極端に言う とそれだけの繰り返しのみで描かれている。その間に大抵アクションシーンが盛り込まれ ていたりするのですが、やや単調かなぁと感じられたのが素直に楽しめなかった理由。  倖一の心理状態や敵の出方を考えたら、とても腰を落ち着けていられるような状況じゃ なかったかも知れない。それでも冒頭の瞳とのファミレスでの会話の様に、途中途中で瞳 と充分に触れ合えるようなシーンが欲しかった。キャラクター同士の繋がりとしてプラス になっていたと思うし、物語のテンポの妨げにはならなかったんじゃないかな? むしろ 非日常の中の非日常を描くのみで急ぎ過ぎる傾向にあったので、もうちょい非日常の中の 日常風景を入れる事で、寄り道するように足を止めてくれても良かったような気がする。  あと『組織』も今回敵であったヒトクイの集団『朱風』も、あまり掘り下げが為されな いまま終わってしまったのが惜しい。特に『朱風』の方、キャラクター個々の描写もそれ ぞれの事情も関係もそうだし、結成の理由などもあまり語られないまま駆け足で物語が進 んでいたので、印象に残り難かったんですよね。『組織』の方も、結局残ったのは双葉と 堂島というキャラクターが所属している事実のみで、『組織』の内部事情や双葉と堂島の 個人事情までは大して手が加えられていないし。続きがあるかどうかは微妙そうですが、 もしあるならば主に今回掴めなかった『組織』と双葉、堂島の詳細を描いて欲しい。 2004/11/17(水)先輩とぼく3
(刊行年月 2004.10)★★★☆ [著者:沖田雅/イラスト:日柳こより/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  物語のテンションも組み立ても、良い所もイマイチな所も前巻と大体一緒。なので下降 はしてないけれど上昇もしておらず、平行線を辿った内容という印象に落ち着きました。  個人的にはつばさの常に楽しい状況でありたい”が為の知略の数々や、それに対する はじめ君の数え切れないツッコミの数々など、こういうノリは大好きです。ただ、アホな 騒動ばっかり巻き起こしている中で、まともなストーリー展開になるとなかなかうまい事 絡んでくれないのがこのシリーズの難点。前回の嵐も今回の桜にしてもそうだけど、本来 はメインテーマでやろうとしているものが、途中の変人さん達の騒動にことごとく埋没し てしまいちっとも映えない。予知夢を絡めた仕掛けには「頑張ってるな〜」という思いも 抱いたのですが、こう地味で無難な流れでは到底つばさの策略には太刀打ち出来ない。  嵐の設定がこういうものだったとド忘れしてたのがいけなかったのか、何かあるなと終 始思わせ振りな態度の彼女と桜との関係が明かされた時はぶったまげでした。でも、どう にかこうにか納得出来はしましたが。多分ここが感動的に盛り上がれば万事丸く収まるよ うな気もするのだけど、とりあえずホロリともジーンとも音を響かせてくれないこの雰囲 気じゃ無理。結局はシリアスムードがあんまり合わないと言えるのかなぁ……?   途中の変人度数がもう少し下降してくれたらまた印象も違ってくるんでしょうけど、そ れだと今度は良いと感じている作風の持ち味を損なってしまうかも知れないし。まともじ ゃないテンションで最後まで突っ走ってくれた方が楽しそうだけど、それだと今度は逆に ストーリーの見所が皆無になってしまいそうだし。この辺のバランス調整は難しい所か。  しかし今回はプラスポイントがあって、それははじめ君のツッコミのキレが冴え渡って いた部分。いや、これは電車で読んでたらヤバかったレベルで思わず幾度も吹き出してま したよ。中盤の魔法少女と仮装親睦会のお馬鹿さ加減は最高でした。脇役陣がちと地味な のは相変わらずだけど、このノリが続いてくれる限りは楽しませてもらえそうです。  既刊感想: 2004/11/15(月)Hyper Hybrid Organization00−02 襲撃者
(刊行年月 2004.10)★★★★ [著者:高畑京一郎/イラスト:相川有/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  何にしても特にこの著者の方の刊行ペースが早いのは嬉しい事。連載分のストックに余 裕があっただけと言ってしまうと身も蓋もないですけど。長編書き下ろしで描かれている 同時進行の本編『01』に対して、過去に遡り犯罪組織ユニコーン結成までの経緯を描いて いるのがこの外伝『00』。一体何故、どういう流れを経て、やくざの抗争から統制の取れ た悪の秘密結社が生まれる事となったのか? それが大分明確な形となって見えて来た。  内容的には宮内の格好良さに惚れ直した前半部分と、予想以上の佐々木の食わせ物ぶり が印象的だった後半部分と。まず前者は復帰に期待しながら待つしかない。玲奈もそうだ けど、実際の所『ハイブリッド』と呼ばれる技術を使用した事で、どういう変化が起こる のかはまだ分からないので。今の所確実な描写がないと言い換えるべきか、入院中の恵美 を含めてハイブリッド手術を受けたこの三人、今後の経過が非常に気になる。一番は“変 身してしまう可能性を秘めてるかどうか”って事なのですが、宮内は能力を欲してたよう だからまだいいけど、恵美と玲奈は……あんまり考えたくないような。もしかしたら藤岡 は、一般人が望まずに異形に変身してしまう可能性を飲み込めないから、一連の計画に反 論を抱いているとか? この辺はまだ明かされていない彼の過去が関係していそう。  一方後者の佐々木。よもや奴がこんな行動を示すとは思いもせず、一也や速水同様まさ に意表を突かれて驚きでした。速水の思惑通り進み、このまま技術提供による武力を蓄え て阿部一派を殲滅してゆくようなラインを想像していたので、終盤のあの会談は様々な意 味で非常に読み応えありで面白かった。結局は佐々木一人の掌に踊らされているような構 図ながら、しかし速水にとっても収穫がゼロだったわけではなく。これから三つ巴のよう な奇妙な協力態勢で、一体どんな風に物語が展開してゆくのか? そして既に袂を別つの が未来で確定している藤岡はどんな感情を見せどんな決断を下すのか? 宮内と玲奈の容 体や藤岡と佐々木の過去なども気になる所だし、外伝優先でも構わないので早く続きを!  既刊感想:01−0101−0201−03       00-01 2004/11/15(月)ルーン・ブレイダー!2
(刊行年月 2004.11)★★★ [著者:神野淳一/イラスト:小川恵佑/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  続編に手を出すのは慎重になった方がいいとかなんとか。そんな事を感想に書きたくな るくらい拙い内容の前巻でしたが、結局読んでいて受け入れられなかった箇所は今回も改 善されておらず殆ど一緒。僅かに読み易くなっていたかと感じられたのも、単に前巻でや やこしい武装関係の設定に触れていたので多少マシに把握出来ていただけの事。  文章が説明で覆い尽くされている、感情描写が上辺だけ、キャラクター同士のコミュニ ケーションが成り立っていない……など。グローブとアンが想い合っている状況は説明で あっても、実際に互いの心が触れ合う感情的な描写がない。前巻でアン・シャスとメイ・ フィスの同化で再生したアン・シャスが、喜怒哀楽を深く感じ入る事の出来ない自らの心 に戸惑っているという説明はあっても、実際アン・シャスが戸惑ったり迷ったり葛藤した りの内面が伝わって来ない。前巻でキャラクターとして唯一持ち味が出てるなと感じたク ロムウェルの登場は殆ど無いので、むしろ今回の方が余計拙い部分が目立っていたかも。  地の文でも会話文でも、とにかく読んでいて疲労ばかりが溜まってしまう説明調で押し 続けて語り倒すこの文章表現は何とかして欲しい所。こういうのは説明文は舞台背景やキ ャラクターの容姿など、必要に応じて適度に挿入すればいいと思うのだけど、一箇所でず らずらずらっとびっしり書き連ねるのを繰り返してるもんだから、却って物語のテンポも 損ねてしまう。そのくせ物語自体は大して進展してないし、そもそも何処に向かって進ん でるのかも掴み辛い内容だし。……うう、いいとこが全然見つけられなくて愚痴ばっかり 延々零しそうなのでこれくらいにしときます(開き直って次も追う気でいますけど)。  既刊感想: 2004/11/12(金)殿様気分でHAPPY!3
(刊行年月 2004.10)★★★☆ [著者:杉原智則/イラスト:玲衣/メディアワークス 電撃文庫]→【
bk1】  物語の方向性がちっとも定まらないのは、そもそも一馬本人が何をしたいのかよく分か らんって所に原因があるような気もするのですが……どうだろう。もっとも、そういうの が物語としてダメなわけではなくて。別に能力者の家系だとか次期当主候補の事だとかを あんまり意識しなくても、一馬がどんなに疎まれようが蔑まれようが、女の子達と楽しく 可笑しく戯れている状況だけを楽しむ事も充分に出来る(まさに一馬の行動力の原点がそ こにあるもんだから余計に)。これも読み手によっては結構好き嫌いがハッキリ表れそう な要素ですが、どちらかと言えば今はまだ持続してる軽いノリで行ってくれた方が楽しみ 易いかも知れない。現在一馬の置かれている形だけでも重要な地位の事を考えると、ずっ と三人のヒロイン達とコメディをやってるわけにも行かなさそうですが……。  前巻までは割と学園コメディみたいな内容だったけど、今回は少なくとも学園が舞台で はないので少々異なる雰囲気。これまでよりも多少は能力者の家系に深く踏み入るような 展開で、これまでやや押され気味だった壬琴が堂々と主役を張っています。ヒロインじゃ なくて主役。一馬は主役どころか犬畜生だから。このみづきに対する役得シーンが最も印 象に残ってるのもホントどうかと思うんですが、いや挿絵は素晴らしいものでした。  壬琴家の騒動とみづき家の騒動が密接に関係しながら交互に描かれており、見方によっ ては一冊で二度美味しくもあるのですが、個人的にはどっちか片方を重点的に取り上げて 欲しかったというのが本音。壬琴の方は概ね満足、でもみづき側は壬琴と分割して薄める には惜しい内容だったかなと。一馬のみづきとの絡みも勿論、他になつきの事についても 一冊丸ごと使うくらいじっくり組み立てて欲しかったと思う程の魅力を感じてたので。  あとは今後へ向けての伏線張り。現段階では誰が何を言ってるのかサッパリ掴めません でしたが、追えば解ける仕組みになっているのでしょう多分。方向性はきちっと定めたそ うなので(どう定まったかも手探りなんだけど)勝負を掛けるのは次巻になるのかな。    既刊感想:


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