NOVEL REVIEW
<2006年11月[前半]>
] [戻る] [
11/15 『エクスプローラー4 仇敵撃破』 著者:北山大詩/富士見ミステリー文庫
11/13 『鋼殻のレギオス4 コンフィデンシャル・コール』 著者:雨木シュウスケ/富士見ファンタジア文庫
11/12 『伝説の勇者の伝説11 君子豹変の王様』 著者:鏡貴也/富士見ファンタジア文庫
11/11 『殺×愛5 ―きるらぶ FIVE―』 著者:風見周/富士見ファンタジア文庫
11/10 『紅牙のルビーウルフ4 晧白の反旗』 著者:淡路帆希/富士見ファンタジア文庫
11/09 『ロケットガール1 女子高生、リフトオフ!』 著者:野尻抱介/富士見ファンタジア文庫
11/08 『煉獄のエスクードARCHIVES だけど綺麗なものは天国には行けない』 著者:貴子潤一郎/富士見ファンタジア文庫
11/06 『まぶらほ 〜ストレンジ・フェノメノン〜』 著者:築地俊彦/富士見ファンタジア文庫
11/05 『輝石の花』 著者:河屋一/富士見ファンタジア文庫
11/03 『死神とチョコレート・パフェ』 著者:花凰神也/富士見ファンタジア文庫
11/02 『戦鬼 ―イクサオニ―』 著者:川口士/富士見ファンタジア文庫
11/01 『BLACK BLOOD BROTHERS6 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 九牙集結―』 著者:あざの耕平/富士見ファンタジア文庫


2006/11/15(水)エクスプローラー4 仇敵撃破

(刊行年月 H18.11)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:北山大詩/イラスト:石田あきら/富士見書房 富士見ミステリー文庫]→【bk1】  第1部完。そして第2部は開幕しないんだろう……。続きがありそうな期待感を半端 に持たせられるから、『第1部完』って締め方はあまり好きじゃないんだよ。いや、こ の物語の場合、こういう結末なら普通に『完結』でいいんじゃない? 続く見通しがあ るなら勿論楽しみに待っていたいけど、どうもそういう雰囲気じゃなさそうだし。  と、初っ端から『第1部完』に対して文句垂れたのは、好きなシリーズ作品だからこ そ続きありそうな気配を中途半端に醸し出して期待させないでよ! と思った訳で。も っとも、この結末に関しては想定していた着地点に綺麗に降り立つ事が出来たんじゃな いだろうか。ただ、エクサーとしての能力の原点である過去に古和泉村で起こったウイ ルス感染についてもっと詳しく知りたかったし、透達の側だけでなく里美と霧生の視点 でもっと物事を追ってみたかった。彼女たちの胸の内ってのが結局最終局面でしか明確 に掴ませて貰えなかったから、もう少し前の段階から色々覗かせてくれてたらなと。  しかし最初の頃は微妙に感じてたキャラクター同士の絡みが、読んでいてこんなに面 白くなるとはねぇ。実は三角関係な展開も全然期待してなかったのだけど、最後もちょ っと切なくなる程の描写で締めてくれたし。せめて短編集だけでも出て欲しいなぁ。  既刊感想: 2006/11/13(月)鋼殻のレギオス4 コンフィデンシャル・コール
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:雨木シュウスケ/イラスト:深遊/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  ん〜、思ってた以上にまだまだ隠し玉を抱えている様子。前回取り上げられた『自律 型移動都市(レギオス)』に住まう電子精霊の事は一旦身を潜めてしまったけれど、今 回は荒廃した都市に残されていた電子精霊の暴走が絡んでいた。この辺りから『電子精 霊』という存在は物語の中で重要な位置を占めているのは分かるのだけど、その割に謎 だらけだから「もっと詳しく描いてよ〜」ってもどかしさが滲み出て来てしまう。  加えてグレンダンがサリンバン教導傭兵団をツェルニへ送り込み、暴走する精霊(廃 貴族)を捕獲して持ち帰ろうとする目的も理由も分からない。多くの謎を孕んでいるだ けに、争奪戦で派手な立ち回りがあってもイマイチ気持ちを同調させて付いて行く事が 出来なかったかなぁ? これからの展開にどう絡むかも想像し難く(だから次を待つ楽 しみが得られるのだけど)、要はもうちょい明確な手応えが欲しい訳で。ただ、そもそ もツェルニとグレンダンは遠く離れているのだから、双方の事情が明確になるまで時間 が掛かるのも仕方ない事かも知れない。もう暫くは色々な謎が開示される時を待つ態勢 が続きそう(一番気になってるのは勿論「リーリンどうするかな〜?」って事)。  あとは最初から引っ張っている武芸大会について。これってもしかして物語の最終イ ベント的要素なのか? どうもそこに至るまでの足固めをずっと続けている感じ。どれ くらいの進行段階で、どのような相手と対峙するのか。現時点では未だ見えない。  既刊感想: 2006/11/12(日)伝説の勇者の伝説11 君子豹変の王様
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:鏡貴也/イラスト:とよた瑣織/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第1部完。予告はあったのだけど、精々が「大きな転換点を迎えるのかな?」程度に しか考えてなかったのが、実は「これまでがプロローグだったんです」って言われちゃ ったので「壮大過ぎるにも程があるだろ!?」と返す事にしてみた。とは言えこのシリー ズの場合、これまでの1冊あたりの進展が緩い事この上なかったので、文字数をぎゅう ぎゅうに詰めると感覚的には5、6冊程度で収まってしまうんではないかなと。でもま あさくさく読める軽快テンポが良い持ち味だと思っているので、その辺りのノリは今後 も同様に崩さずやって貰えたらなと(突然文字数ぎゅうぎゅうにされても困るし)。  で、これまではプロローグに過ぎないと言われている通り、結局気になっている事は 何にも解決しちゃいない。それどころか更に伏線ぺたぺた張ってくれたお陰で余計に気 になる部分が増えちゃったじゃないか。要はライナとシオンに決意表明させるのが主な 目的だったのかなぁ? 初期の頃に重要視されていた(気がする)勇者の遺物なんかも、 ここに着地する為の足掛かりに過ぎなかったり。もっとも、シオンの中に何らかの勇者 の遺物が絡んでそうな辺り、もしかしたら新章では重要な位置につくのかも。  ともあれ。派手に広げた大風呂敷を畳めるかどうかの心配はあるけど、あとがき眺め てる限りで「細工は流々、仕上げを御ろうじろ」な勢いを感じたので、多分合間に刊行 されそうな『とり伝』を読んでローランド編の途中の穴埋めをしながら続きを待つ。  既刊感想:伝勇伝 10       とり伝  2006/11/11(土)殺×愛5 ―きるらぶ FIVE―
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:風見周/イラスト:G・むにょ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  そうか。1年365日きっかり使い切って結末を迎える、とは誰も一言も言ってなか ったっけな? ただ単に密が“1年後にあの人が自分を殺しに来てくれる”と交わした 口約束を片時も疑わずに信じ切っていたから、「それじゃあ卒業するまでは続くんだろ うな」とこちらも信じ込んでしまっただけで。密にとって“あの人”との約束があまり に重く大切なものだという事……これを今までの彼の言動によって散々見せつけられて きたから、たとえ途中で何があっても誰を犠牲にしてでも目的を果たすだろう、と。  しかしながら今回の急転直下な展開で、“卒業までは猶予がある”という考え方が一 気に覆ってしまった。ある日突然幕を下ろしてしまう可能性だって大いに有り得る。む しろそっちの方が可能性高いんじゃないだろうか? 仮に密が死ねずに最後まで生き残 ったとしても、自分以外の大切に思っている人達を失ってしまったら何も意味がない。  折角高天原先輩が新解釈を押し付けて、何時までも下手な嘘をついて傷付く事を止め ようとしないヘタレな密を立ち直らせたってのに、こんな鬼畜な展開が待ち構えていた とは……。サクヤとの事も来夏との事も、正直かなり意外だった。来夏の想いに報いよ うと密が決めた事については嬉しいのだけれど、こんな状況じゃ素直に喜べない。しか も更に鬼畜な攻めで密達を追い込むらしく。いよいよ先を追うのが怖くなって来た。  既刊感想: 2006/11/10(金)紅牙のルビーウルフ4 晧白の反旗
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:淡路帆希/イラスト:椎名優/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  元々辿りそうな道は絞られていて、ルビーウルフが王としてグラディウス王国を復興 させてゆく部分を描くか? それとも『神具』と『全知の書』に掛かっている謎を追う 部分を描くか? どっち付かず……と言うよりはどれにも付かないで迷っているような 感触だったのが、しっかり後者に定まってくれたので何かホッとした(この大事件が解 決した後に王国復興の方を描いてくれたら、勿論それはそれで嬉しい事なのだけど)。  毎度の事ながらルビーウルフの感情の機微の描き方は本当に巧いなと思う。己に対し 揺るぎない自信と力強さに満ち溢れていた初期の頃と比べると、確実に脆さや弱さとい った感情が表に出ていて、そういう頼りなさを見せられる度に可愛く魅力的に映る。ま たそんな弱音をジェイドにだけ吐くもんだからねぇ。ルビーの癇癪を優しく抱き留める シーンとかもう堪らなかったよ。これで更に随分距離が縮まったんじゃないだろか?  ストーリー展開は緊迫したムードが続く。あの人の反旗には想像が及ばなかった分だ け驚かされたけど、おそらく単純な裏切り行為ではない筈。アウローラと敵対関係にあ るクレプスムルクについても謎に包まれている部分が多く、続きが待ち遠しい。    既刊感想: 2006/11/09(木)ロケットガール1 女子高生、リフトオフ!
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:野尻抱介/イラスト:むっちりむうにい/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  アニメ化決定! に合わせての文庫新装版3ヶ月連続刊行の1巻目。ちなみに以前刊 行されたのは未読。だから読んでみたくなった訳で。タイトルは以前から知っていたし 興味あったし、SFと知ると途端に苦手意識が湧き上がり敬遠策を取りたくなってしま うこの弱腰に蹴りを入れつつ、実際触れてみて拒否反応は全くと言って良いくらい出な かったのでホッとした。確かに専門的用語(例えば発射前の機器のチェック時とか)が 並ぶと頭で想像し難くなるんだけど、全体的な読み易さがカバーしてくれている。  本編の女子高生。明るく前向きで行動力もあり諦めが悪くおまけに図太い。それに容 姿の可愛さが乗ったら話題性抜群の人気者になるのも頷ける。まあ当の女子高生・ゆか りの意向は無視される事が結構あったようだけど。普通は女子高生でなくとも超過酷な 初期訓練の段階で逃げ出してるぞ……と突っ込み入れながらも、元々単身あてもない親 父探しで日本飛び出して来ちゃった時点で既に普通じゃないんだろうなと妙に納得。  すんなりとは飛べない。あっさり成功して悠々と地球を眺め「綺麗……」などと溜息 漏らす事なんて出来ない。最初から余裕なんかこれっぽっちもなくて“奇跡的”という 言葉を恥ずかしげもなく使ってしまえるくらいギリギリで限界一杯な状況。なのに、終 わってみればロケットで空に上がった時の感動だけはしっかり残っていた。ラストのオ チでゆかりの進路も滞りなく決まった事だし、次なる打ち上げも楽しみに待つ。 2006/11/08(水)煉獄のエスクードARCHIVES だけど綺麗なものは天国には行けない
(刊行年月 H18.10)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:貴子潤一郎/イラスト:ともぞ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  雑誌掲載+書き下ろしの短編集。本編で足りてなかったレイニー分大幅補給。あとち ょっとだけ真澄分補給。最初の三話はドラゴンマガジン掲載用に短編で仕上げたら多分 こうなろだろうな……という想像通りで手堅く纏められた内容。任務を受けて各地を巡 って魔族退治、その中で薫と敵対者を中心に幾つかのエピソードが展開される、と。  ただ、任務遂行の過程で薫とレイニーの関わりが結構密に描かれている点は、短編な らではと言えるのかも知れない。少なくとも長編であんなサービスやこんなサービスは 無かったし、今後望めるかどうかを考えると短編の方に比重が傾きそうだし。まあ長編 での他の主要キャラがあまり絡まないのもあるんだろうけど。特に短編では薫とレイニ ーの二人に絞られているからこそ、師弟関係でしっかりと繋がり結ばれているのがよく 映る。たとえ普段のレイニーの言動からは全然そう見えないとしても、肝心な所では深 い絆があるんじゃないかなぁ。そう思い込んでた方が幸せな気分に浸れそうだ。  後半二編は書き下ろし。『クラウディア一門』エピソードは“#1”となってるので 続きあるのか? これは緊張感溢れる内容が多い中での息抜き的存在。或いは真澄補給 分(この中での彼は文句言いつつ妙に活き活きしてた)。『本日快晴』はレイニーの魅 力補強、或いは強調の為のエピソード(いや、ここでの真の主役はハリー・エンゼルだ けどね)。各所の評判通りの素晴らしい一品。彼の生き様に惚れ、魅了させられた。  既刊感想: 2006/11/06(月)まぶらほ 〜ストレンジ・フェノメノン〜
(刊行年月 H18.10)★★★★★★☆☆☆☆(6/10) [著者:築地俊彦/イラスト:駒都え〜じ/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  長編外伝シリーズ完結編。うあーこりゃいかん。めちゃくちゃ消化不良な上に結末の 後味が悪過ぎる。そもそも『彼』の存在が不明瞭かつ曖昧なままでこういう結末持って こられても、面白かった楽しかったと喜べない。結局逃げ口上染みた“ご想像にお任せ します”なのだけど、お任せされたって困る。こんな風にされると「素直に黒幕ぶち倒 してハッピーエンドで締めりゃいいじゃんか」なんて文句垂れたくなってしまう。  まあ結末に関しては、個人的に「嫌な終わり方だなぁ」と強く思ったのが感情的に出 てしまっただけで、これも一つの結末としては有りかな? とは思う。ただ、やっぱり 『彼』が何者なのか明確な解答が得られなかった点がどうしても引っ掛かる。もしかし たら極力素性明かしを抑える事によって、“どちらか分からないけれど、どちらともと れる”結末を演出してみせたのかも知れない。それでも何故和樹と大きく関係していた のかはサッパリ分からない訳で、描写不足は否めず納得出来ない部分が多かった。  『彼』の謎を引っ張り過ぎたのと、長編の刊行ペースの遅さがネックだったか。連載 本編にあるようなラブコメ要素を殆ど廃して、アクション&サスペンス&バイオレンス な雰囲気に徹した内容は結構好きだっただけに、最後に不満が残ったのは残念……。  既刊感想:〜ノー・ガール・ノー・クライ〜       〜アージ・オーヴァーキル〜       〜デソレイション・エンジェルス〜 2006/11/05(日)輝石の花
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★☆☆☆(7/10) [著者:河屋一/イラスト:山基海苔/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第18回ファンタジア長編小説大賞『努力賞』受賞作。  もしかして、ベルネージュは『輝石使い』ではなく『歌い手』である方が良かったん じゃないだろうか……と身も蓋もない事を口走ってみる。とは言え全く考え無しに述べ てみた訳ではなくて。もし『歌い手』であった場合、『黙』を消滅させる力を持ちなが ら同時に『黙』に侵されたカッサをも苦しめてしまう……つまり自分が能力を振るう事 で大切な人を護ると同時に滅ぼしてしまいかねない、という苦悩や葛藤をベルネージュ の感情に大きく乗せる事が出来たんじゃないかと(無いもの強請りしてごめんよ……)。  まあそもそもベルネージュが『輝石使い』でなけりゃ、最後に雪月花の奇跡は絶対に 起こせなかったし、本来の『歌使い』であるリアーレリの存在意義もあまりなかっただ ろうし。ただ、ベルネージュが『黙』に侵され続けるカッサを「何とかしたい! 助け たい!」という想い、逆にカッサが何があってもベルネージュを「護りたい!」という 想い、両方共に感情描写が物足りなかったので、前述のように“泣かされそうな”仮の 話を持ち出してみたのでした。巻末では“泣かせ”を意識しているような解説もあった のだけど、結局泣かされず、感情面で心を強く揺さ振られる事もなくて少々残念。  ベルネージュがアジスを止める為に戦いを挑んだ時、結構派手な動きで『輝石使い』 としての能力が描かれていたのだけれど、正直そういう外見的派手さよりも、それぞれ の内面を濃く見せる事で関わりを持たせて欲しかった。この二人に限らず、勿論カッサ とベルネージュもそうだし、リアーレリやクレオンとも。一番感情面が良く出ていたの はセジュールミント。彼女だけは誰と関わっていても気持ちが素直に響いて来た。 2006/11/03(金)死神とチョコレート・パフェ
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:花凰神也/イラスト:夜野みるら/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第18回ファンタジア長編小説大賞『準入選』受賞作。  新人さんの技量の良し悪しとは関係なしに、単純に好きなんだよこういう雰囲気の物 語って。まあ既に読む前から、嗅覚が「これはきっと好きそうな匂いだ」と告げてたの だけどね。もう評点甘くたっていいよ。読んで楽しかったのを素直に乗せる事にする。  お約束過ぎるボケとツッコミ、教科書通りなコメディ展開。こんなノリの中で“殺る か殺られるか”なんて要素を放り込むのかよ……と、それこそこの状況にツッコミ入れ たくなったりもしたけれど。しかしながら最後まで神名とナギのお馬鹿な掛け合いが絶 えないコメディに徹するのかと思いきや、終盤はむしろシリアスムード強調の内容。  この変化はちょっと頭に思い浮かび難かったというのか……基本的に神也とナギは殺 す殺されるのせめぎ合いをやっていても片隅で笑いを忘れない奴らだから、ナギの『神 也を殺す』任務も曖昧なまま神也と和解した挙句立ち消えちゃうんじゃないか? など と心配してたのだけど。その辺はきちっと解決してくれていて流石受賞作と言った所。  ナギと死んだ千夏姉さんと、多分ある場所で深い繋がりにピンと来る筈。想像働かせ て正答に辿り着くのはそれ程難しい事じゃない。ただ、予想通りでも胸を揺さぶられる 良さがある。ここがコメディ一辺倒ではないからこそ出せた味ではないかなと。  続きはあるのかな? 一応解決はしたのでこれ以上続けてもマンネリに陥りそうで恐 い気もするけれど、キャラ同士の絡みはどれも楽しいのであと数冊は出て欲しい。 2006/11/02(木)戦鬼 ―イクサオニ―
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★☆☆(8/10) [著者:川口士/イラスト:一之瀬綾子/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  第18回ファンタジア長編小説大賞『大賞』受賞作。  日本神話と御伽噺の『桃太郎』。総合力で勝るモノこそが大賞を得る、と言った具合 か。特に構成力の高さがずば抜けていて新人離れしているなという感触。しかし一方で、 この物語はスケールの大きさから正直一冊で収めるには勿体無い、とも思わされた。  細部を充分に肉付けすれば、例えば鬼と人間との共存から憎悪し合う敵対関係に変貌 するまでの過程や、桃生に滅ぼされるまでの鬼の一族の平穏な生活風景、そして敵方で ある桃生についての詳細(実はここの描写が不足しているなと感じられたのが最も残念 だった)など、もっともっと面白くなる要素が際立っていたんじゃないかな……と。  ただ、一冊で物語を収めなければならない制約下にあって、それでも非常に面白く上 手く纏め上げているからこそ、構成力に優れている作品と唸らされた訳で。考えてみれ ば、応募規定に枚数制限が無いんだったら、そりゃ著者の方だって上で挙げているよう にもっと色々足りないものを注ぎ込みたかっただろうさ。それでも所々で物足りない手 応えだった、とあえて感想で書きたいと思ったのは、枚数制約で見れない部分があった のが悔しかったから。上手さが際立っていたのだから尚更。別の切り口で続きは描ける かもしれない。でも、私は別の新作でのシリーズ作品というものを是非読んでみたい。 2006/11/01(水)BLACK BLOOD BROTHERS6 ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 九牙集結―
(刊行年月 H18.09)★★★★★★★★★☆(9/10) [著者:あざの耕平/イラスト:草河遊也/富士見書房 富士見ファンタジア文庫]→【bk1】  まったく、酷い幕引きもあったもんだ。これじゃあ読了した直後に「続きカモォーン」 と渇望したくなっちゃうじゃないか。ま、このシリーズは割と毎巻続きを待ち遠しくさ せてくれる終わり方なのだけど。要はこんな風に待たされるのはもう慣れた。でも待ち 遠しくて堪らない気持ちは巻が進む度に上昇している気がする。それだけ物語に魅了さ れているという事。次は短編集らしいので、長編はあとどれだけ待たされるのか身悶え しつつ、短編集で今回飛んだ空白の半年間を埋める楽しみに浸る事となるのかな。  で、今回の内容。遂に『九龍の血統』が特区襲来で盛り上がりも最高潮! てな所に 注目すべきなんだろうけど、それ以上に今回どうしても外せないのが「どさくさ紛れに 告っちゃいましたよミミコさん!」なシーン。まあ口絵で既に半ばバレはあったのだけ ど、気持ちをコントロール出来なくてやけくそな彼女のその勇気に拍手を送りたい。  ただ、報われない想い……と断定するのはまだ早いのかも知れないけれど、ジローが 辿るべき運命をジロー自身が最初から認めているから、コタロウが完全覚醒してしまっ たらもうどうにも止めようが無い。一縷の希望は、ジローがミミコと別れるのは寂しい し辛い事だと思い始めている点。この気持ちが強くなれば或いは……今の所覆りそうも ないのが辛いな。それでも、限りなく幸せな方向へ覆るのを望まずにはいられない。  既刊感想:       (s)


戻る